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鈴を鳴らす水賊頭

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水賊の頭、デスゲームへ

 俺はある人物が大好きだ。

 兄貴と呼んで慕う程……その言葉じゃ足り無いくらい好きだ。

 初期の頃の武器である甲刀も、今現在の武器である鎖分銅も、扱いが豪快で好きだった。



 その人物の名は――――甘寧興覇。甘寧兄貴だ。



 思えば、始めて兄貴を知ったその日から、言動とか真似するようになったっけ。筋トレをする習慣もその時付いた筈だ。

 俺は兄貴みたいになりたかった。それが叶わぬ夢である事は知っていたが、それでもあこがれからそう思わずにはいられなかった。


 そんな毎日の中、ある日《真・三国無双7猛将伝》を勝って帰るその途中、眩しい光を見た瞬間、いきなり目の前が真っ暗になり、何も分からなくなった。


 これが“死”なのか、と悟った俺は、もっと兄貴に近づきたかったと、その後悔の念を抱いたまま―――――
















 あれ? 何処だここは? 死んだんじゃなかったのか?



“死んだのですよ、貴方は”


 ……だっ、誰だ、誰だよ!?


“本来ならばこのまま送るのですが……貴方は運がいい……特別に願いくらいは叶えましょう”


 ね、願い……?


“貴方の願いは何ですか? 可能ならば、複数叶えられましょう”



 願い……俺の願いは―――――


「甘寧兄貴の姿と力……無双シリーズの甲刀と鎖分銅……それをくれ」


“良いのですか? それも確かに強い力でしょうが……最強になれる力でもいいのですよ?”


「いい……俺は、これがいいんだ、これでいいんだ」


“……分かりました……その願いを叶えましょう……


 もしこれが夢だったとしたら……神様、俺はあんたを憎むぜ



“第二の、良き生を”

















 ――――んあ? ここは……俺の家がある、見慣れたレンガ造りの街並み…って何だよ、結局夢だったのかよ!!


 考えてみりゃそうじゃねぇか。変な声が聞こえて、願い叶えますってうさんクせぇじゃねぇか、夢だって気付けよ……つーか、そもそも車の影も無かったのに、跳ねられて死ぬなんておかしすぎるだろ、そこで夢だってきづけっての!


 ちきしょう……少しは期待したってのに!!



「あ~…クソがッ!!」



 ―――あ? 何だ今の声……甘寧兄貴そっくりの声だったが……誰だ? まさか声優さんがいるのか!?


「マジかよ……あ?」


 ちょっと待てよ、この声俺の声じゃねぇか……? いや、幾ら憧れているからって声真似までする事は無かったぞ……?


“特別に……願いくらいは叶えましょう”


 まさか――――鏡!! 鏡何処だ……あった!


「うおぉ……おおお!!」



 マジで!? マジで甘寧兄貴になってんじゃねぇか!! あの声が言ってる事は本当だったんだな!!

 しかも、この姿は俺の大好きな“無双7”での姿じゃねぇか、テンションあがるぜぇ!!


「おおおおおぉぉぉっ!!! よっしゃあ!!」






「何あいつ……何であんなに嬉しそうなんだ?」
「大方レアドロップでも出たんじゃねぇの? ダンジョンへの道すぐ近くだし」


 ………周りの視線が痛ぇ……はしゃぎ過ぎた……。そこに座って一旦落ち着くか……。



 にしても、えらく美男美女が多いなここ。って言うか、まだ夢の中じゃあるまいな? だが、この芝生の感触は偽もんじゃねぇし……、


「いでっ」


 つねっても覚めねぇし……俺今は何処にいるんだ? 何かあいつ等の頭の上に、昔立ちがやってたゲームのキャラクターみてぇにカーソルがあんだが。緑の奴が。

 それじゃゲームの中か此処? いやいや、今の日本にゃそんな技術は無いじゃねぇかよ。……じゃ一体何なん――――あ、そうだそういや、ダチが言ってたな……



“二次創作って知ってるか? 俺は最近ソレ書き始めたんだよ! 良かったら見て感想をくれ、批評でもOKだぜ! ちなみにジャンルは転生モノでな、一度死んだ人間が別世界にわたっちまうんだ! 強力な力と共にな!!”


「って事は、俺は一度死んで……別世界に転生したってのか? だったら何でゲームの中なんだよ」


“リンゴーン……リンゴーン……”


 お、鐘が鳴ってんな……時間は、四時か。


「うわっ!? なんだ!」
「強制転移か!?」


 なんだぁ? アイツ等光って……って消えたぁ!? 待て、俺の体も光って―――


「俺もかよっ!? うおおぉっ!? 」
















 ん……何だここは? 広場か? めっちゃ人が集まってるが。



「うわ、凄い格好……」
「まるで盗賊か水賊じゃねぇか、アイツ」
「アァ!?」
「「ひぃっ!?」」


 しまった、思わず……ってか俺自信が睨んでから戸惑ってるようじゃ、まだまだ兄貴にゃ遠いなぁ……。
 もっとこう堂々と―――


 うおっ、なんじゃありゃ!? ローブだけ浮いてんぞ、如何なってんだ!?

『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』


 世界? イカレてんのかあいつ ?


『プレイヤー諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、〈ソードアート・オンライン〉本来の仕様である。諸君は今後この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることはできない』


 プレイヤー諸君、メインメニュー、ログアウト……やっぱゲームの中なのか、此処は。


『……また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除も有り得ない。もしそれが試みられた場合―――─ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』


 あ? 今なんつったあいつ……? ナーヴギアがどうこう言うのは分からねぇ……けど生命活動停止って死ぬって事じゃねぇか!? 何でゲームなのにそんな話になってんだ!?



『より具体的には、十分間の外部電源切断、二時間のネットワーク回線切断、ナーヴギア本体のロック解除または分解または破壊の試み──以上のいずれかの条件によって脳破壊シークエンスが実行される。この条件は、すでに外部世界では当局及びマスコミを通して告知されている。ちなみに現時点で、プレイヤーの家族友人等が警告を無視してナーヴギアの強制除装を試みた例が少なからずあり、その結果──


残念ながら、既に二百十三名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界からも永久退場している』


 何言ってんだよあの野郎……訳わかんねぇ、何なんだよ!?


『諸君が、向こう側に置いてきた肉体の心配をする必要は無い。現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアはこの状況を、多数の死者が出ている事も含め、繰り返し報道している。諸君のナーヴギアが強引に除装される危険は既に低くなっていると言ってよかろう。今後、諸君の現実の身体は、ナーヴギアを装着したまま二時間の回線切断猶予時間のうちに病院その他の施設へと搬送され、厳重な介護態勢のもとに置かれるはずだ。諸君には、安心して……ゲーム攻略に励んでほしい』


 畜生、何言ってんのかさっぱり分からねぇよ……人が死んだ事って事しか分からねぇ……



『しかし、充分に留意してもらいたい。諸君にとって〈ソードアート・オンライン〉は、既にただのゲームではない。もう一つの現実と言うべき存在だ……今後、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』



 これは流石に分かったぞ俺でも……! つまりHPが無くなったら現実でも死ぬ、“デスゲーム”って奴か……!



『諸君がゲームから解放される条件は、たった一つ。先に述べたとおり、アインクラッドの最上部、第百層まで辿り着き、そこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすればよい。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員が安全にログアウトされることを保証しよう』


 コレ、甘寧兄貴だったらキレてるな……単語が分かりゃあだが。


『それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれ給え』


 アイテムストレージ? えっと……周りの奴らみてぇに指をそろえて振って……んでアイテム欄に――――何もねぇぞ、オイ?

 うごっ! また眩しっ……いい加減あきてきたぞ、この光の押収みたいな――――
 

「だ、誰だよお前?」
「君こそ……誰だい?」
「うわ! おっさん!?」
「あれ? あんたは変わらねぇな……」


 ふぁ、ファンタジーな美男美女の集まりがどっかのコスプレ野郎共の集まりに変ってやがる!? ホントこの世界どうなってんだぁ!?


『諸君は今、なぜ、と思っているだろう。何故私は──SAO及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのか?これは大規模なテロなのか?あるいは身代金目的の誘拐事件なのか?と……私の目的は、そのどちらでもない。それどころか、今の私は、既に一切の目的も、理由も持たない。なぜなら……この状況こそが、私にとっての最終的な目標だからだ。この世界を作り出し、観賞するためにのみ私はナーヴギアを、SAOを造った。そして今、全ては達成せしめられた』


 オイ……つまりあの野郎、茅場は――――


 神の真似事とやらをする為だけに、一万人もこんなクソったれな場所に閉じ込めた……だと?



『……以上で〈ソードアート・オンライン〉正式サービスのチュートリアルを終わる――――プレイヤー諸君の健闘を祈る』


 ふざけんじゃねぇぞ……!! 俺はどうかしらねぇが、少なくともこいつらには元の生活があんだろ……? それを自分のやりたい事の為だけに、デスゲームに閉じ込めやがっただと!?


「嘘だろ……なんだよこれ、嘘だろ!?」
「ふざけるなよ! 出せ! ここから出せよ!」
「こんなの困る! このあと約束があるのよ!」
「嫌ああ!? 帰して! 帰してよおお!」


 上等だ……転生したばっかで何やりゃいいか皆目見当がつかなかったが……今ついた、今決まったぜ。


「てめぇの首、獲ってやらぁ……!!」



 そうと決まったらこんな場所にゃいられねぇな。サッサと街を出るか。


 ……甘寧兄貴だって、飛び出して行っただろうしな。

 
 

 
後書き

甘寧ファンの皆さん、気に入らなかったらすみません……。 
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