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八条学園怪異譚

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第四十九話 柳の歌その十二

「外見がそのままスタルヒンさんなのよ、日本人だけれどね」
「じゃあ大きい人なんですね、ご主人は」
「一九〇あるわよ」
 今でもかなりの身長だ、戦前生まれなら余計に。
「元々力士さんでね」
「何か凄い人ですね」
「力士さんですか」
「そうなのよ、私の家は元々大きな農家で大学にも行けたのよ」
 戦前の大学にだ、確かにかなりの家でないと行けない。
「で、旦那は力士あがりで迎えてね」
「ううん、何か凄いですね」
「美奈子さんもご主人も」
「まあね。それでこの柳道はね」
 場所の話になる、今度は。
「戦前からずっとあっていつもここを通ってたのよ」
「それでここにおられるんですか」
「幽霊になられてからは」
「そうなの、いい場所よ」
 美奈子は上機嫌のまま二人に話していく。
「ここから色々回ってるわ。この学園はちょっと見ないとあちこちが変わっていくから面白いわ」
「戦前とは全く違うんですね」
「そうなんですね」
 二人もこのことはわかる、戦前と戦後では学園も全く違うのだ。校舎にしても木造から鉄筋コンクリートになっている。
 それでだ、二人も言うのだった。
「コンクリートの校舎なんて戦前はないですし」
「設備も」
「農業科なんか特にね」
 美奈子が生前通っていたそこはというのだ。
「最新の設備をどんどん入れていってるからね」
「農業は科学っていいますよね」
 愛実が言う、横で聖花も頷いている。
「確か」
「そうよ、常に最新の技術を導入していくものよ」
 美奈子もそうだと言う、農業は土に塗れるというイメージが強いがそれ以上に合理性と技術が要求されるのだ。
 だからだ、美奈子も苺農家だったことから話すのだ。
「そこ、厳しいから」
「みたいですね、何か」
「そうよ、まあとにかくね」
 ここでだ、美奈子はあらためて二人に話した。
「あんた達が泉を探しているのなら」
「はい、今から行って来ます」
「裏門に」
「私も行くわよ」
「美奈子さんもですか?」
「そうされるんですか」
「会ったのも縁だからね」
 その縁でだというのだ。
「裏門までね」
「そうですか、それじゃあ」
「お願いします」
「そういうことでね。けれど泉を知ってるってことは」
 このことからだ、美奈子はこう察した。
「あんた達日下部さん知ってる?」
「水産科の海軍将校の方ですよね」
「海上自衛隊にもおられた」
「そうそう、あの人よ」
 まさに彼だとだ、美奈子も応える。
「あの人はまた真面目でね」
「凄く真面目ですよね」
「軍人らしくて」
「そういう真面目らしさがね」
 それがだというのだ。
「私としてはね」
「嫌なんですか」
「苦手なんですね、日下部さんが」
「苦手と言えばそうね」
 まさにその通りだというのだ。 
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