ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
百三十五話:ルラフェンの町の名物たち
初めてモモと二人きりの夜を過ごした、翌朝。
抱き枕のようにモモに抱き付いた状態で、目を覚まします。
まだ眠っているモモを起こさないように気を付けて、そっと腕を離すと。
途端にピクリと耳を動かしてモモも目を覚まし、早速喉を鳴らし始めます。
『あ、ドーラちゃんがもう起きてる!おはよう、ドーラちゃん!』
離そうとしていた手を戻してモモを撫でながら、答えます。
「おはよう、モモ。ごめんね、起こしちゃったね」
『ううん!あたしが起きたかったの!起きて一番にドーラちゃんの顔を見られて、嬉しい!』
「そっか。なら良かった。みんなももう起きてるだろうし、私たちも起きようか」
『うん!ピエールさん!いるー?』
「は、ここに。おはようございます、モモ殿。ドーラ様も、お目覚めにござりますか?」
モモの呼びかけに応じて、扉の向こうからピエールの声が聞こえます。
……そう言えば、ヘンリーがそんなこと言ってた気もするが。
別の部屋なのに、わざわざ外で見張りなんかしなくていいのに。
片田舎の町の宿で、そこまでしなければならないどんな危険があるって言うんだ。
考え込む私に構わず、さも当たり前のようにモモが会話を続けます。
『うん!今から、ドーラちゃん着替えるからね!もう少し待っててね!』
「は。どの道、ヘンリー殿らが戻られるまでこの場にて見張りを続ける所存にござりますれば。どうぞ、ごゆっくり」
『わかった!さ、ドーラちゃん!みんなが戻る前に、早く着替えちゃお!』
「……うん」
そうか、部屋が違うと、着替えた後に入ってきてもらう理由が無いのか。
理由なんか無くても入ってきてもらっていいんだけど、ピエールは理由が無ければ女性の部屋には入って来なさそうだ。
見張りをやめて自分たちの部屋に戻るという選択肢は無さそうだし、悪いことしただろうか。
でもなあ、四人部屋に六人で入るっていうのは、ベッドの数的には問題無くてもさすがに手狭だしなあ。
部屋が空いてないならともかく、空きがあるならわざわざやりたくない。
……うん、仕方なかった。
と、ピエールの対応と部屋割りについて内心で折り合いを付けながら、着替えを済ませて。
「ピエール、着替えたよ。……中、入らない?」
「いえ。主たる女人の部屋に、臣下であり男である拙者が、特段の理由も無く上がり込む訳には。このまま、この場にて見張りを続けたく」
「……もう、私たちも起きてるし。見張りとか、別に要らないかなって」
「拙者も、十分に休み申してござる。有事に備える立場上、最も対応がし易く気の休まる場所を選んだ結果にござりますれば。ドーラ様には、お気遣い無きよう」
「……わかった」
うん、わかってた。
一応、人として聞いておいただけで。
そうだろうなって、もうわかってた。
そうこうしているうちに、ヘンリーたち朝練組が戻り。
ひとまず部屋に招き入れて、キレイキレイします。
またヘンリーに腰を抱かれて寄り添い、食堂に向かって朝食を取りながら、今日の予定を話します。
「今日は、どうするんだ?ひとまず、町で話でも聞くか?」
私の中では、ベネットじいさんに会いに行ってひとまずゲーム通りのイベントをこなすことに決まってるんですが。
まだ町を回ってない現在、じいさんの存在すら本来は知らないはずなので。
「うん。そのつもり。それと、モモが持っててくれた剣を入れる鞘が欲しいから、武器屋には行きたいな」
パパンの剣はモモが毛皮のマントを巻いて保護してくれてたけど、鞘は無くて抜き身の状態なので。
持ち歩くにも装備するにも不便なので、早々にそれはゲットしておく必要がありますね!
「そうか。宿は、一旦引き払うよな?」
ゲーム通りのイベントを済ませた後も、ベネットじいさんには用があるのでしばらくこの町に滞在するつもりではありますが。
イベントのために一晩は外で夜を過ごさないといけないし、そうでなくてもそんな予定は明かせないので。
何も知らない前提で動くとしても、当然そういうことになりますね!
「うん。なにかあれば、改めて宿を取るかもしれないけど。一旦は、引き払う」
「そうか。わかった」
朝食を済ませて荷物をまとめ、部屋を引き払って宿を出ます。
馬車は適当なところに停めておいて、町を歩き始めますが。
「……すごく。入り組んでるね」
「……そうだな」
ゲームでもそれなりにややこしい構造の町でしたが、現実で見るとさらに……。
どう見ても、ゲームのマップよりも入り組んでいる。
他の町でもそうだったというか、ゲームのマップそのままで町や村の機能が成り立つわけないので、当たり前だが。
「おいら一人なら、適当に飛んでけるけど。……それでも、迷子になりそーだなー。はぐれたら、ちょっと合流できなそー」
「そうだね。どうしようもなくなったら、少し上から見てもらうかもしれないけど。基本的には離れないでね、コドランも」
「おっけー」
「既に通った道を記憶することは、問題無く出来ましょうが。知らぬ道を思うように歩くのは、難儀しそうにござりますな」
「一通り歩けば、もう大丈夫だろうけど。把握するのに時間はかかりそうだよね。よく覚えておいてね、ピエールも」
「はっ」
『あたしはぐるぐる回っても、方角は間違えないからね!わかんなくなったらあたしに聞いてね、ドーラちゃん!』
「うん。頼りにしてるね、モモ」
「……ピキー?」
「大丈夫、スラリンは、そのままで。いてくれるだけで、癒されるから。そのままのスラリンでいて欲しい」
「ピキー!」
「……ドーラ。一人で行くなよ。ちょっと確認とか言って、離れて歩くな」
「……わかった」
相変わらずヘンリーにしっかりと腰を捕まえられた状態で町をぐるぐると歩き回り、途中で会った町の人に話を聞いて回ります。
「魔法の研究をしてる、じーさんかー。このケムリは、そのせいだってさー」
「古代の魔法を復活させるんだって!面白そうだね!旅の役に立ちそうだし、会いに行きたいな!」
『……あたしはこのケムリ、ちょっと苦手だけど。でもドーラちゃんが行くなら、あたしも行く!』
「……また、じいさんか。気を付けろよ、ドーラ。迂闊に近付くな」
「大丈夫だよ!きっとポートセルミのモンスターじいさんみたいな、研究熱心な人だって!」
未来の『私』も、特に何も言って無かったし。
そんな心配するようなセクハラじいさんでは、きっと無いって!
途中にあった武器屋で、鞘もしっかり手に入れて。
ひたすら道に迷ってる、ベネットじいさんに次ぐこの町の名物的な戦士さんともすれ違います。
「参った!道に迷ってしまったようだ!どうもこの町は複雑で、困ったものだよ!」
気さくに声をかけてきてくれたので、答えようとしますが。
「ど」
「どこか、行きたい場所でもあるのか?と言っても俺たちもこの町は初めてだから、案内は出来ないが」
また、ヘンリーに遮られました。
ナンパっぽくも無く普通に声かけてくれる男性とか貴重なんだから、たまには話すくらいしたいんだが。
こんなにガッチリ男に腰抱かれてる女をわざわざナンパする人も、あんまりいないだろうけれども。
あからさまに私との接触を妨害された形になったのに特に気を悪くした様子も無く、戦士さんがヘンリーに答えます。
「いや、そういう訳でも無いのだが。少し腰を落ち着けて、この辺りで経験を積もうと思っていてな。しばらくいる町だから慣れておこうと思って歩き回ったら、このザマだ」
「そうか。……方角くらいなら、教えられるが」
なんだ、その気の進まない感じの申し出は。
いい人っぽいからあんまり冷たくもできないが、できればさっさと別れたいみたいな。
ちょっと、失礼じゃないか。
そんな失礼なヘンリーの対応にもやはり気を悪くするでも無く、また戦士さんが答えます。
「いや、それには及ばない。迷いながらでも歩き続ければ、そのうちどこかには着くだろう。邪魔したな、では私はこれで」
「そうか。じゃあな」
迷ってるという割に颯爽とした足取りで、戦士さんが去っていきます。
そっちは行き止まりだったと思うが、まあいいや。
自分で見て、確認したほうがいいだろう。
戦士さんと別れて私たちもまた歩き回って、町の構造を概ね把握して。
いよいよ、目的のベネットじいさんの家にたどり着きます。
「ここが、魔法の研究をしてるベネットじいさんの家だね!ケムリが出てるし、間違いないね!」
「そうだな。……俺から離れるなよ」
「大丈夫だけど、わかった!じゃあ行くよ!ごめんくださーい!」
「だから先に行くなって!わかってないだろ、お前!」
ちゃんとヘンリーを引っ張って、離れてないのに。
何がいけなかったと言うんだ。
先に進もうとしてヘンリーに引き戻され、結局ヘンリーの後ろに庇われて着いていく形で、ベネットじいさんの家に入ります。
ケムリの立ち込める室内で、煮え立つツボの中を睨みながらブツブツ言っていたじいさんが、こちらの気配に気付いて振り返ります。
「……なんじゃ?お前さん方も、煙いとか文句を言いに来たのか?」
眉を顰めて、大変に気難しそうな雰囲気です。
ゲームみたいに試しに『はい』とか答えたら、大変なことになりそうですね!
当然そんなことをする気は無いので、前に進み出て正しい答えを返します。
「おい、ドーラ!前に」
「とんでもない!古代の魔法を研究なさっている方と聞いて、お話を伺いに来たんです!魔法の研究には、私もとても興味がありますので!」
「何?」
ヘンリーが腕を掴んで引き留めようとしてきますが、無視です!
大恩人と直接話す最初の機会を、失礼な態度で台無しにされるわけにはいきません!
顰めていた眉をピクリと片方持ち上げて、ベネットじいさんが私に注目します。
そのまましばし、見定めるように私を眺めて。
「……ふむ。なかなか、見所があるようじゃの。わしは丁度、研究の助手を探しておるのじゃが。もしも、その気があるならば」
「是非!!お手伝いさせてください!!」
さらに前に進み出て、チラつかされた餌にガッツリ食い付きます。
近くに迫り過ぎて若干じいさんが引いた気配がありますが、まあいい。
ここは、熱意をアピールするほうが大事と見ました!
「う、うむ。今、研究しておるのは、古代の呪文の一つでな。それが復活すれば、知った場所であれば瞬く間に移動出来るようになるのじゃが」
「なんて素晴らしい!私たちのような旅する人間には、夢のような呪文ですね!それで、私は何をすればいいのですか?」
じいさんの手を取ってしっかりと握り、感動と熱意をさらにアピールします。
じいさんの腰が引けていますが、話は続けてくれるようなので問題無い。
「う、うむ。ちょっと、こちらに来てくれ」
「はい!」
「……手を、離してくれんかの」
「何故ですか?ご迷惑でしたか?」
「……そういう訳では無いが。お前さんの連れが、恐ろしいでの」
「え?」
なんと!
私がせっかく大恩人に向けて熱意をアピールしているところなのに、その大恩人を威圧するとは!
後ろを振り返り、私の大恩人ベネットじいさんに向けて殺気を発している失礼な男を、睨み付けます。
「……ヘンリー。邪魔するなら、出てって」
「……ドーラ!!……ダメだ、離れて何かあったら」
「何も無いから。先生に失礼だから、そういう態度のままなら、出てって」
「せ!?先生、とな!?」
ヘンリーが衝撃に立ち尽くし、ベネットじいさんが何か動揺しています。
「…………ドーラ…………わかった、もうしない」
「わかったなら、いいけど。次は無いからね」
「…………わかった」
「そうか!先生か!わしが、先生か!!」
ヘンリーががっくりと肩を落として殺気を消し、ベネットじいさんが何か浮かれています。
連れに失礼な態度を取らせてしまって申し訳なかったが、なんか喜んでくれたみたいで良かった。
浮かれていたベネットじいさん改め先生がキリッと表情を引き締め、私に向き直ります。
「よし、我が助手よ!今から、そなたに指示を与える!着いてくるのじゃ!」
「はい!先生!」
颯爽と誘導してくれる先生に続いて、二階に上がります。
すっかり大人しくなったヘンリーをはじめ、他の仲間たちも着いてきます。
一ヶ所に印の付いた地図を前にして先生が振り返り、朗々とした声で宣言します。
「我が助手よ!そなたの仕事は、一つ!この地図の示す場所に向かい、ルラムーン草を手に入れて戻るのじゃ!」
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