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久遠の神話

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第六十二話 十二時の決戦その六

「だから彼は戦っている」
「そうでしょうね、やっぱり」
「彼は明らかに本来は戦いを望んではいない」
 工藤はそう見ていた、中田はそうした人間だと。
 しかしそれでもだというのだ、彼はその止むに止まれない理由によってだというのだ。
 こうした話をしてそのうえでだった。
 四人もまた総合グラウンドに入った、四人が入ると共に。
 他の剣士達も来た、十二人全員がグラウンドの中央で円になり向かい合った。
 当然その中には権藤もいる、彼は夜の、観客席には誰もいない静かなグラウンドの中でこう他の剣士達に言ったのである。
「まだ時間がある」
「うん、十二時まではね」
 王が流暢な日本語で応える。
「もう少しあるね」
「その間に去りたい者は去ればいい」
 こう他の十一人に言うのである。
「私にしても好都合だ」
「私もだよ、その方が戦う相手は少なくて済むからね」
「その通りだな」
「大金持ちになりたいからね」
 だからだというのだ。
「是非共ね」
「それが君の戦う理由か」
「うん、そうだよ」
 王はにこりと笑って言う。
「素直な理由だよね」
「確かにな。しかし資産家になりたいのなら」
「ああ、料理人としてだと限度があるんだよ」
 大金持ちになるには、というのだ。
「それはね」
「そうなのか」
「案外ね、大金持ちになるのは難しいんだよ」
「どれだけ欲しい」
「百億だね」
 それだけだというのだ。
「豪邸にいい車にね。家具も揃えてね」
「それが百億か」
「それ位だよ」
 ざっと数えてそれでだというのだ。
「欲しいね」
「そうか」
「そうだよ、降りてくれるのならいいけれど」
「犯罪に手を染める方が効率がいいと思うが」
「冷や飯は食うなってね」
 中国の言葉だ、中国では冷えた御飯は食べない。この辺りは日本とは全く違う、冷や飯は中国では犯罪者が食べるものとされている。
 それで彼も今こう言うのだ。
「食べないよ」
「罪は犯さないか」
「プライドってやつだよ」
 それがあるからだというのだ。
「僕は罪は犯さないよ」
「決してか」
「そう、人を騙すことも殺すこともしないよ」
 こう言うのだ、円の中で向かい側に立っている権藤に対して。
「何があってもね」
「だが剣士は違うか」
「好きじゃないけれど犯罪にはならないね」
 このことが重要だった、王にとっては。
「だったらいいよ」
「それでか」
「じゃあ十二時になったら」
 まさにその時だった。
「はじめようか」
「お互いにな」
 それぞれの剣士達が睨み合う、グラウンドの時計は十二時に刻一刻と近付いてきている、その中において。 
 遂に十二時になった、それと共に。
 全員同時に剣を出した、そしてだった。 
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