魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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Ep14聖夜に降り立つ夜天の王~Hayate~
†††Sideなのは†††
“夜天の書”さんの動きが突然ぎこちないものになったと思っていたら、予想だにしていなかったことが起きた。
『えっと、外に居る管理局の方、でええんかな? わ、わたしは、八神はやてって言いますっ。その、そこに居る子の保護者とゆうか――あっ、夜天の書のマスターですっ。あの、わたしの話を聞いてもらえませんかっ!』
信じられないことに“夜天の書”さんから、念話を通してはやてちゃんの声が聞こえた。私もシャルちゃんも驚きながらも「はやて!?」「はやてちゃん!?」の名前を2人して呼ぶ。
『うえっ? なのはちゃんとシャルちゃんなんっ?』
「本当本当! まぁ正式な局員じゃなくて候補生って感じで、分からず屋な夜天の書と戦ってる!」
シャルちゃんがすごく嬉しそうな笑顔を浮かべる。今の私もそう。良かった。本当に良かったよ。はやてちゃん、逃げずにちゃんと立ち向かう道を選んでくれたんだ。嬉し過ぎて泣いちゃうほどだけど、今はそんな場合じゃない。
「はやてちゃん、大丈夫?」
『おおきにな、なのはちゃん。わたしはもう大丈夫や。なのはちゃん、シャルちゃん。ホンマにごめんなんやけど、ウチの子を止めてくれるか? えっとな――』
はやてちゃんが言うには、えっと・・・私とシャルちゃんがいま戦ってるのは自動で動く防御プログラム。その防衛プログラムを“夜天の書”の本体から切り離したんだけど、防御プログラムが動いている限り、“夜天の書”を完全にコントロール出来ないからどうすることも出来ない・・・と。あう~、難しい話だから少し頭が混乱してきたかも。
「シャルちゃん、どうすればいいのかな・・・?」
「よく聞いて、なのは。どんな方法でもいいから、夜天の書を魔力ダメージでぶっ飛ばすの。もちろん一切の手加減をせずに、全力全開で。そうすれば・・・」
「はやてちゃんを助けることが出来る!」
「もちろんフェイトだって救出できる! 私の魔法タイプからして向いていないから、なのはがやることになる。私はサポートに回ることになるけど・・・」
「大丈夫。サポートお願いね、シャルちゃん」
「任せて!っと、大体これで合ってるよね、ユーノ?」
『えっ? あ、うん、それで合ってるよ。はやてちゃんとフェイトの為に、手加減なしでやっちゃって!』
「ん、任せて! これで迷いなく全開で行けるよ!」
やることはさっきまでと変わらないけど、やるべきこととその結果がハッキリしたことでやる気が出てきた。“レイジングハート”をギュッと握りしめて、「私とレイジングハートに掛かってる。力を貸してね」そう言うと、“レイジングハート”は、もちろんです、って言ってくれた。
「よし! そうと決まれば・・・っと、触手が邪魔か。なのは。私が触手を抑えるから、判ってるよね!」
“夜天の書”さんを守るように海上から伸びた触手が数本。シャルちゃんは私の返事を聞かずにそれに向かって行って、全て斬り捨てた。
「了解だよ、シャルちゃん! エクセリオンバスター、バレル展開! 中距離砲撃モード!」
≪All right. Barrel shot≫
“レイジングハート”から桜色の翼が現れる。まずは“夜天の書”さんを押さえて、照準と弾道を安定させるためのバレルショットを放つ。“夜天の書”さんから離れたシャルちゃんの横を通過して、バレルショットが直撃する。衝撃波が命中したことで、目には見えないけどちゃんとそこにあるバインドが“夜天の書”さんをガッチリと拘束した。
「しつこい!」
――風牙真空刃――
「これ以上は!」
――ストラグルバインド――
「好きにさせないよ!」
――チェーンバインド――
それでもなお“夜天の書”さんを守るように現れる触手を、シャルちゃんや合流したユーノ君とアルフさんが分担して対処してくれている。そのおかげで私は何の心配もなく砲撃に専念できる。
「エクセリオンバスター、フォースバースト! ブレイク・・・シューーーーット!」
†††Sideなのは⇒はやて†††
なのはちゃん達に外に出ている子を任せたから大丈夫なはず。なら今わたしに出来ることをせぇへんとな。
「夜天の主の名において、汝に新たな名を贈る。強く支えるもの、幸運の追い風、祝福のエール、“リインフォース”」
ずっと悲しい時を過ごしてきた目の前に居る彼女に新しい名前を与える。もう“闇の書”とか呪われた魔導書なんて呼ばせへん。これで少しは主らしいことが出来たかな?
(そやったら嬉しいな)
目の前に広がる何も見えへんかった闇の世界が、光に満ち溢れた世界へと変わった。なのはちゃん達が防御プログラムの子をどうにかしてくれたみたいや。
「新名称・リインフォースを認識しました。これより管理者権限の使用が可能になります。ですが、切り離された防御プログラムの暴走を止めることが出来ませんでした。切り離されことにより管理という楔から放たれた莫大な力はやはり・・・」
「う~ん、暴走する、か。まぁそれはわたしらがなんとかせなアカンよな」
わたしの前に新たな名前を得た魔導書“リインフォース”が現れる。
「行こか、リインフォース。終わらせるよ、かなしい旅路を」
「はい、我が主。あなたと共に」
“リインフォース”を抱えて、わたしは現実へと戻る。“闇の書”の永きに亘る辛く悲しい旅路を終わらせて、“夜天の書リインフォース”の新しい旅路を始めるために。
†††Sideはやて⇒フェイト†††
アリシアと別れた私は、“時の庭園”の塔内にある玉座の間まで来た。そこにはルシルが1人、私を待っていたかのように玉座の間の中央で佇んでた。
「・・・ルシル、私は――」
「帰るのだろう?」
「・・・うん」
私はゆっくりとルシルの元へと歩きだす。ルシル以外はもう誰も居ないみたいだ。母さんも、リニスも、アルフも、もうどこにも居ない。ルシルが「今の心境はどうだ?」って聞いてきた。なんだろ。夢の中なのに、まるで現実のルシルみたいな感じだ。深く考えててもしょうがないから、思ったことをそのまま答えてみる。
「悪くない、かな。夢だけど、確かにアリシアに逢えて話をすることが出来た。それとえっとね、ルシルとも家族になれたから」
言ってて恥ずかしくなって顔が熱くなる。さっきまでアリシアとの別れで泣いていたというのに。
「だから現実でも、ルシルと家族になりたいな、って思ってたり」
「まぁそれは現実の俺に言ってくれ。ここで俺に告白しても意味はないからな」
それはそうなんだけど・・・って、ルシルはやっぱり夢の、都合のいい人格じゃない。あ、でもアリシアもそうだったし、おかしなことじゃないのかな・・・。疑問に思いつつ、「うん、そうする」って頷き返す。
「さぁ目覚めのときだ。この捕獲空間を破壊することくらい、君なら簡単だろう」
ルシルが壁際の方へ移動。私はそんなルシルを「もちろん!」見送ったあと、“バルディッシュ”を起動させる。
「さぁ帰ろう、バルディッシュ、みんなのところに。ザンバーフォーム、いける?」
≪Yes, Sir≫
バリアジャケットに変身して、この捕獲空間を破壊するため一撃を放つ準備を始める。
≪Zamber form≫
“バルディッシュ”が、性能の大半を攻撃に特化されたフルドライブモード、大剣型の“ザンバーフォーム”に変形する。エイミィの説明によれば、無詠唱の結界魔法破壊、高威力の斬撃・砲撃が出来るようになっていて、魔力刃の長さも伸縮自在だから広範囲直接斬撃も出来る、応用性の高いモードだって。このザンバーフォームに出来ることになって、いくつか新しい魔法が組めた。今から使うのも、そのひとつだ。
「疾風迅雷!」
“バルディッシュ”の魔力刃を床に沿うように払うと、電気エネルギーが床に帯電した。直後、玉座の間には強大な電撃が満ちた。準備完了。というところで、「現実で待っているぞ」ってルシルがそう一言呟いて消え始めた。
私はそれに頷いて応える。ルシルは、私の頷きを見て微笑みながら消えていった。うん、待ってて、ルシル。すぐに帰るから。ルシルの元へ、アルフ、なのはとシャルとユーノ、みんなの元に、ちゃんと帰るから。
「スプライト・・・・ザンバァァァーーーーッ!」
構えていた“バルディッシュ”を何もない場所に一閃。その瞬間、ガラスが割れたみたいに空間にヒビが入って、そして砕け散った。一瞬の暗転。気が付くと、私は現実へと戻っていた。
†††Sideフェイト⇒シャルロッテ†††
「エクセリオンバスター、フォースバースト! ブレイク・・・シューーーーット!」
“レイジングハート”より放たれたのは、凄まじい4発同時の多弾砲撃。それらは一直線に不可視のバインドに捕らわれた“夜天の書”へと向かって、全弾直撃した。周囲を照らし出す桜色の閃光。それだけじゃなく、爆発した閃光の中に居る、姿の見えない“夜天の書”から空へと一条の雷撃も放たれた。色は黄金。フェイトの魔力光だ。本当に上手く行ったみたい。
「フェイトちゃんっ!」「フェイト!」
なのはとアルフの嬉しそうな声が私の耳に届く。私はユーノとハイタッチ。フェイトも無事に脱出できたようだし、ひとまず本当に良かった。これであとは、ルシルが来てくれればみんなが揃う。
(まだ異界英雄と戦ってるのかなぁ・・・?)
ルシルの状況を聞くためにエイミィに通信を繋げようとしたその矢先、空間が振動し始めた。まだ終わってはいない、ううん、ようやく終わるために始まった、ということだ。そこにエイミィから切羽詰まった通信。“夜天の書”の反応はいまだ健在、だって。うん、見れば判る。
眼前に現れたのは巨大な黒い澱み。その前方には白く輝く球体がある。おそらくあの中にはやてが居る。狙い通りフェイトと一緒に脱出できたみたい。
『遅くなってすまない、クロノだ。君たちの目の前に現れた黒い澱みが、闇の書の暴走の起点となる。言われなくても解かっているだろうが、無暗に近付かないように』
言われなくてもあんなものには近付きたくはない。周辺には何か気色の悪いのが居るし。なにアレ? ミミズ? ヘビ? どっちにしてもキショい。
「さすがに好き好んであれには近付きたくないな」
クロノが来るまで待機している私たちの後ろから聞こえたのは、紛れもないルシルの声。一斉に声がした方向へと振り向く。そこにはちゃんとルシル(結構ボロボロだけど)が居た。
「「ルシル!」」
私とフェイトの声が重なり合った。なのは達は少し遅れてから「ルシル君!」って呼んだ。ゆっくり近付いてきたルシル。だけどその表情には明らかな疲労がある。あのフラウロスとかいう緑髪の少女によほど手古摺らされたみたい。
「間に合って良かった。帰ってきたらことがすでに終わってました、なんてことは避けたかったからな」
その言い回しに心当たりがある私は驚愕した。なのは達はルシルの魔術の全てを知らないから気にも留めてない。それほどの力を使わなければ、あのフラウロスって女の子に勝てなかったってことなんだろうな。
『創世結界に行ってたの? 体もそうだけど、魔力炉大丈夫なわけ?』
リンクを通してルシルの心配をする。ルシルの精神世界に常時展開されている4つの創世結界。創世結界を現実に展開するより、対象を取り込む方が確かに負担が少ないだろうけど、それでもかなり負担が掛かってるはずだ。
『問題ない。君の方も疲労が見えるけど大丈夫なのか?』
そりゃあもう苦労したよ。“夜天の書”ってすんごい防御力を誇ってたもん。攻撃は全く通らないわ、同キャラ対戦を再現されるわ、ルシルの複製技は馬鹿威力だわ、それ以前に人の話を全然聞こうとしない超絶駄々っ子だわ。
『まぁまぁ大丈夫。ルシルよりかは絶対マシ』
そんな弱音を吐いてる場合じゃない。2人して笑みを浮かべているものだから、なのは達は不思議がっていた。
†††Sideシャルロッテ⇒ルシリオン†††
クロノが合流するのを、暴走開始の起点という黒き澱みを見守りながら待機していると、黒い澱みの近くにあった光の球体が一際輝いた。みんながその閃光から目を覆う中、俺はしっかりと見た。守護騎士たちがあの球体を護るかのように現れたのを。
「ヴィータちゃん!」
「「シグナム!」」
光が収まり、シャル達も守護騎士たちの姿を確認したようだ。嬉しそうな声を上げている。
「我ら、夜天の主の下に集いし騎士」
「主在る限り、我らの魂尽きることなし」
「この身に命ある限り、我らは御身の下に在り」
「我らが主、夜天の王、八神はやての名の下に」
四柱の騎士がそう告げた。己の存在は、自らが敬い慕う主はやての為だけに、と。光の球体が砕け、十字杖を手にしたはやてが現れる。
「夜天の光よ、我が手に集え! 祝福の風・リインフォース、セーットアップ!」
彼女は十字杖を掲げて告げる。その身に騎士甲冑を纏った彼女の姿は、立派な騎士の1人だった。俺は少し離れていたために聞き取れないが、彼女と騎士たちは少し話をしていて、ヴィータがはやてへと勢いよく抱きついた。
今のヴィータは外見相応に泣いて、何度もはやての名前を呼んでいるのが微かに聞こえる。その家族の再会を見ていたシャルとフェイトとなのはが、彼女たちの足下に展開されている魔法陣へと降り立った。俺はそうせず、少し近付いただけにしておく。はやてとは初対面だからな。水を差したくない。
「なのはちゃん、フェイトちゃん、シャルちゃん、今さらやけどホンマにごめんな。家の子たちがいろいろ迷惑かけてもうて。わたしに免じて許してもらえるとええんやけど・・・」
はやての謝罪に対し、それぞれ気にしないように言うシャルとフェイトとなのは。3人の返事を聞いたはやては、ゆっくりと俺へと視線を移す。その目は何か言いたそうなものだったので、俺も魔法陣へと降り立つ。
「はじめましてやね、ルシリオン君。ルシリオン君にも謝っておかなアカンと思ってたんや。ごめんな」
初対面である俺に、はやてが何に対して謝っているのかはすぐに解かった。俺も“夜天の書”に蒐集された1人だ。それに対する謝罪がさっきの言葉なのだろう。
「シャル達も言ったとおり、もう気にしていない。少し苦労はしたが、それも君が帰ってくるのに必要なものだと思えば何でもない」
さっきまでの苦労も、はやてと守護騎士たちのことを思えばどうってことはない。それだけの価値がある。はやてと騎士たちの笑顔には。
「ありがとうな、ルシリオン君」
「感動の再会を邪魔をしたくはないんだが、事態は急を要する。僕はクロノ・ハラオウン、時空管理局執務官だ」
そう言って降下してきたクロノが俺たちの前に姿を現し、クロノのことを知らないはやて達に自己紹介。そしてクロノから告げられる。今もなお俺たちにその存在を誇示している黒い澱み――”夜天の書”の防衛プログラムの暴走まで時間がない、と。
次元干渉レベルの暴走だと聞いているが“界律”から何も指示がないということは、“界律の守護神テスタメント”の干渉能力がなくとも、このメンバーだけで解決できると判断されているんだろう。
「解決方法は2つ。1つは、極めて強力な氷結魔法で完全凍結させ停止させるというもの。もう1つは、この世界の軌道上に待機している、艦船アースラに搭載した魔導砲アルカンシェルによる蒸発」
クロノはその暴走を停止させる案を2つ提示。完全凍結による封印。俺とクロノとユーノがいくつか仮定した方法だ。そして魔導砲“アルカンシェル”による蒸発。これはこれまでの“闇の書”事件で行われてきた解決――いや、先延ばしの時間稼ぎだ。
その2つだけということは、グレアム提督たちが考えていた解決法は、俺たちの没案と一緒だったわけだ。詰まる所クロノの手にしているカードも、提督たちが用意した物なのだろう。さっきのクロノの言葉から、それが強力な氷結魔法のためのデバイスらしいことは判る。
「いま提示できる解決法はこの2つ。しかし両方ともある問題を抱えている。だから極力これ以外の方法を取りたいのが僕や上司の思いだ。だから聞きたい。闇の、いや夜天の書の主・八神はやて、そしてその守護騎士に。これ以上の良い手は無いか?」
「え~と、たぶん最初の凍結封印は難しいと思います。主を失った防衛プログラムは魔力の塊みたいなものですから、どんなに強力な氷結でも完全に凍結するのは不可能かと・・・」
「それに凍結させても、コアが無事である続ける以上は再生機能は止まらん」
「アルカンシェルも絶対ダメ! こんなところであんなん使ったら、はやての家まで一緒にぶっ飛んじゃうじゃんか!」
クロノの問いに答えた守護騎士たち。どれも解決に至らないものばかり。“アルカンシェル”のデータは以前見せてもらったが、確かにここでの使用はまずい。
(俺の対界真技、アポカリプティック・ジェネシスよりかは遥かにマシだが・・・)
それでも被害がとてつもなく大きいのは確か。使う必要が無いなら、それに越したことはない。そんなヴィータの猛反対を見たなのはが、「そんなにすごいの?」とユーノへと説明を求め、ユーノはなのは達に解かりやすいように考えての説明。
“アルカンシェル“。それは発動地点を中心に百数km範囲の空間を歪曲させつつ反応消滅を引き起こす、という魔法ではなく科学の領域の一撃だ。ユーノもそんな感じで説明したんだが、案の定なのはは頭の上に?マークを浮かべていた。
「早い話、この街がまとめて吹っ飛ぶ、というわけだよ、なのは」
俺の簡単にし過ぎた説明で、なのはとフェイトの顔色が青くなった。2人はこの街が消し飛ぶ様を想像してしまったのだろう。俺だってこの街に少しくらいの愛着が湧いている。だからこそ“アルカンシェル”なんてものを撃たすわけにいかない。
「私もアルカンシェルを使うの反対です!」
「同じく絶対反対! お家が無くなっちゃうのダメです!」
「さっきも言ったように、この2つのプランのどちらも使いたくないのが本音だよ。でも闇の書の暴走が本格的に始まったら、街1つが消えるなんて言うのがどうとでも思えるほどに被害が出るんだ」
資料を見る限り、“夜天の書”の暴走は本当にシャレにならない。以前の契約先で遭遇した“腐食の月光”という破滅と同じように、触れていくものを侵食し、無限に拡大していく。
『暴走臨界まで残り15分切っちゃったよっ。結論は早めにお願いっ!』
そこに切羽詰まったエイミィからの通信が。クロノが最後に守護騎士たちに向き直り「・・・何かないか?」とはやて達に改めて尋ねた。
「う~ん、ごめんなさい。リインフォースも判らんて・・・」
「すまない。我らも役に立てそうにない。暴走に立ち会う経験は多くないのだ」
しかし返ってきたのは無慈悲な答えだった。空気がさらに重くなる。フェイト達は唸りながら良い案がないかを考えているようで、しかし出なかったのか沈んだ表情を見せる。
「・・・ルシル、シャル。君たち魔術師には何か・・・何かないか?」
藁にも縋りたい気持ちなのだろうな。クロノは今まで見せたことない沈痛な面持ちで聞いてきた。
「あっ、そうか。ルシルとシャルは魔術師だから、もしかしたら・・・!」
「シャルちゃん、ルシル君、何か良い方法ないっ?」
フェイトとなのはに詰め寄られた俺とシャルはたじろぎながらも顔を見合わせた。守護騎士たちが「魔術師?」と首を傾げているが、説明している時間はない。
「う~ん・・・あ、ルシルの真技なら1発で終わるんじゃない?」
必死に考えを巡らせた上で、シャルがとんでもない案を出した。みんなに期待を持たせるわけにはいかないから「ダメだ。というか俺を殺す気か」と一言。ただでさえ上級術式を制限されているんだ。そんな中で秘奥たる真技なんぞ使ったら、ペナルティで絶対死ぬ。ほら、見ろ。みんなの残念そうな顔を。とりあえずシャルの頭を叩いて、万が一に備えて考えていた、ある解決方法を提案してみよう。
†††Sideルシリオン⇒クロノ†††
「俺の真技はダメだが。シャル、君のキルシュブリューテと真技を使えば何とかなるんじゃないか?」
ルシルのその一言を聞いたとき、足に力が入らなくなって座り込みそうになった。
「痛い~・・・って、え? 私の真技って・・・あっ、飛刃?」
「馬鹿を言え。結界内とはいえ地形が変わって大事になる。違う、牢刃の方だ」
「あるのか!? 方法が!」
ここまで期待させるような発言をしたんだ。今はその手段に縋りたい。
「でもちょっと待って! 確かに当てられたら何とか出来るかもしれないけど! あれは近接対人真技なんだよ!?」
「ちょっと待ってくれシャル! 一応詳しい話を聞かせてくれ!」
シャルの、当たれば何とか出来るかも、というその言葉が僕の期待をさらに膨らませた。だからこそ詳しい話を聞いておきたい。ルシルのその提案と、シャルのロウジンという真技に縋ってみたい。
「えっと、あの防衛プログラムの本体、コアっていうのがあるんだよね? それに直接当てられればなんとか。でもそれにはキルシュブリューテの能力開放、しかも瞬間解放じゃなくて数秒間の限定解放が必要になってくる。私にはそんな魔力は残っていないし、そもそも初めから足りていない」
「魔力が足りない、のか・・・。どうしても出来ないのか? シャル」
僕はシャルに問う。シャルが黙って頷こうとしたとき、ルシルが静かに告げた。
「待ってくれ。コアが露出してくれれば、あとは俺とシャルが何とかする。コアさえ外に出ていれば、おそらく問題はないはずだ」
「っ! 本当なんだな、ルシル!」
「ああ。任せてくれ、クロノ。必ず成功させてみせる」
ルシルは少し間を置いた後に、確かにしっかりと頷いた。これで決まりだ。どういう方法なのかは判らないが、“アルカンシェル”を撃たなくていいというだけで助かる。
そして詳細な作戦を練る。練りはしたが、実に個人の能力頼りでギャンブル性の高いプランだった。だが、それを成功させればシャル、そしてサポートするルシルが何とかしてくれる。
それにしても。シャルとルシルの話が本当なら、シャルは正しく最強の存在となる。軽い戦慄。だけど、恐れるようなことじゃない。何せシャルとルシルは、僕らの友達なのだから。
†††Sideクロノ⇒シャルロッテ†††
まさか、私がこの戦いの幕を下ろす役割を担うことになるなんて思いもしなかった。
「防衛プログラムのバリアは、魔力と物理の複合4層になっとる。それを破ることが、わたしらの最初の仕事や」
「うん。バリアを破壊したら、私たちは本体へ一斉に砲撃。コアを露出させる」
「そしたらシャルちゃんの魔術でコアを完全破壊」
作戦の最終確認をする私たちだけど、本当に出来るか不安が募る。まったくもう、ルシルは本当に余計なことを言ってくれたものだ。
「ルシル、あなたの真技は無理だとしても、ほら、あなたの最強の氷雪系魔術は・・・無理か。複製武装や術式じゃ何とかならないの?」
あんなデタラメな防衛プログラムを完全に停止させるだけの固有術式は使えないだろうけど、制限の緩い複製関連ならどうにか出来るんじゃないかって思って聞いてみる。でもルシルは深い溜息を吐きながら首を横に振った。あぁダメなんだね・・・。
「アレを消すほどのランクの高いものは今も使えない。なら君の真技と神器に頼るしかないだろう? あの魔力の塊とも言える防衛プログラム。キルシュブリューテの有する能力には持ってこいの相手じゃないか。だからそう嫌がらずに、みんなに君の雄姿を見せてやってくれ」
ルシルってこの世界にどれだけ嫌われてるわけ? 私以上の制限をこれでもかってくらいに掛けられてるじゃない。
「はぁ、もう判った。それに嫌なわけじゃないもん。ただ・・・『本当はこの世界や時代に居ないはずの私が、そんな大役をしていいのかな?って』」
『・・・そうか』
私とルシルはこの世界と関わりの無い存在だから、本来この事件に関わっていないはず。だから私がやらなくても別の方法があったはずなんだ。それを邪魔したことで、後々の未来に何かしらの問題が起きるかもしれない。
ああ、そうか。だからルシルは、なのは達から距離を取ろうとしたのかも。出来るだけ本来の歴史を狂わせないように。そしてなのは達の成長を妨害しないことも含めて。でも、それでも・・・私がこのままみんなと一緒に過ごしていきたい。
「(ううん、今はとにかく目の前の事態をどうにかしないと)それで、足りない魔力はどうするの? ルシル」
いろいろ悩むのを後回しにして、ルシルに足りない魔力を確保する術を聞く。神器・“断刀キルシュブリューテ”の数秒間の解放には、おそらくSSSランクは要る。私が現状使える魔力は最大Sランク。まぁ“魔力炉破綻”させればSSSくらいは捻り出せる。だけど今の状況じゃさすがにリスクが高すぎる。それはルシルも解かっているはずだけど。
「・・・ん? ああ、契約・・・は駄目だろうか?」
「へ? メンタルリンク?・・・あぁ、なるほど。確かにそれなら・・・」
ルシルのちょっと遠慮がちな提案は、魔術師同士で行われる“メンタルリンク”をする、というものだった。確かにそれを行えば、魔力を確保することくらい解決できるかもしれな。“メンタルリンク”を交わすと、契約者同士の“魔力炉”をリンクさせて、お互いの保有する魔力を扱うことが可能になる。
(それに魔力炉破綻のような魔力炉に対するダメージも分担できるから、結構無茶も出来る)
生前参加していた大戦の時も、この“メンタルリンク”をしている魔術師が多かったし、そう言う私も、ヴィーグリーズ決戦の時に同僚の第七騎士・“紙徒ミストラル”と、第九騎士・“花の姫君チェルシー”とやっちゃった。結局ルシルと、彼の恋人シェフィリスの前に負けたけどね。いやぁ、強かったねぇシェフィリス。
「一応、マスター権限は君持ちということになるな。もちろんこの決戦時のみの契約となる」
「んんー、うん、判った。それと別にこれからもずっとマスターでいいけど?」
「すまん断る」
「即答かよ」
私の冗談半分の申し出にノータイムで答えたルシル。ま、これで“キルシュブリューテ”も扱えると思う。んじゃ、ほんの一時だけ私がルシルの御主人様になってあげますか。みんなに少し時間をもらえるように頼んで、私とルシルは“メンタルリンク”の儀式を始める。
「「ここに今誓いを立てる」」
私とルシルは両手の親指の肉を切り、お互いの手の平を重ねるようにして傷口を合わせる。私たちの血と魔力が交じり合って1つとなる。足元に広がるのはルシルの固有魔術における魔法陣、“アースガルド魔法陣”。ほとんど展開する必要のないモノだけど、儀式関連のときは展開されてるモノだ。その光景を見ている全員が固唾を呑んでる。
「我、シャルロッテ・フライハイト」
「我、ルシリオン・セインテスト・アースガルド」
「「我ら、ここに誓いを築き、主従の理を宣言す」」
私とルシルの“魔力炉”が徐々に繋がっていくのが判る。お互いに流れ込む魔力を制御し、最後の段階へと持っていく。
「「契約」」
術式名をルシルと一緒に宣告。最後に私とルシルは口づけを交わす。少し恥ずかしいけど、この儀式の時はカウントに入れないようにしているから何とか平気。でも気付く。そういえばここに居る全員の前で“契約”を交わしたんだ。一気に顔や全身が熱くなるけど、ルシルは何事もなかったかのように平然としてる。そして全員の反応は様々だった。なのはとユーノは顔を真っ赤にしてそわそわ。
「き、君たち、何もこんな人前でやることは・・・その、ないんじゃないか?」
クロノが赤い顔を背けながらそう言った。だからそんなやらしいものじゃないから。
「時と場所を考えてほしいものだな。フライハイト、セインテスト」
そんな真剣な顔でシグナムが言った。だから“契約”って口にしてたよね私たち。
「はやてちゃん、見ちゃダメです」
「シャマル、さっきからわたしの目を隠してるから見えんかったって」
シャマルははやての両目を自分の両手で覆い隠していた。判ってて言っているな騎士連中は。
「あぅあぅ」
私とルシルの口づけを見たフェイトが困惑している。そういえばフェイトってルシルに特別な感情を抱いているんだった。“契約”に必要だったとはいえ可哀想なことをしたかもしれない。
「大丈夫。私とルシルはそんなんじゃないから」
フェイトだけに聞こえるようにして呟き、そっとフェイトの頭を撫でた。
†††Sideシャルロッテ⇒はやて†††
シャルちゃんとルシリオン君の突然の行動から立ち直ったわたし達。防衛プログラムの暴走までの時間が迫る中・・・
「なのはちゃん達、怪我が結構ひどい。そのままやと辛いかもしれへんなぁ」
結構ボロボロななのはちゃん達を治さなアカンよな。わたしはシャマルに振り向いて、「お願い出来るか? シャマル」って、傷ついてるなのはちゃん、フェイトちゃん、シャルちゃん、ルシリオン君に治癒魔法を掛けてもらうようにお願いする。
「みなさんの治療ですね。任せください、はやてちゃん。クラールヴィント、私とあなたの力の見せ所よ♪」
≪Ja≫
「静かなる風よ、癒しの恵みを運んで」
シャマルの魔法・“静かなる癒し”。それは怪我の治療から体力と魔力の回復、バリアジャケットや騎士甲冑の修復までこなすものや。それの恩恵を受けたなのはちゃん達は、みんなして驚いとる。
(どうや? 守護騎士ヴォルケンリッターの参謀、湖の騎士シャマルと風のリング・クラールヴィントの力は?)
まるで自分のことのように自慢できる。それが家族や。なのはちゃん達からお礼を言われたシャマルは照れくさそうに微笑んだ。わたしも釣られて笑顔を作ってまう。最後にわたしもシャマルに「ありがとうな、さすがシャマル。自慢の家族や♪」ってお礼。
「ユーノ、悪いんだけど、私とルシルに足場を作ってくれる? 飛翔術式に回している魔力も攻撃に使うから」
「え? あ、うん、その辺りでいい?」
「うん、大丈夫。ありがとう」
シャルちゃんとルシリオン君が、ユーノ君に作ってもらった魔法陣の上に立つ。ルシリオン君の背中には、4枚の蒼い剣の翼だけが残った。
「来るぞ・・・!」
澱みを囲むように、黒い柱が海面から突き出してきた。暴走が始まる合図や。澱みから現れたんは形容し難い異形の存在。アレが、“夜天の魔導書”を呪われた魔導書って呼ばれるようにした、闇の書の“闇”とも言えるプログラム。まるで歌のような声を上げる女性の上半身が、その“闇”の頭部にあった。
(最後の大一番、なんとしても成功させる。最後の夜天の主・八神はやて、いきますっ!)
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