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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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Ep15永き悲劇の結末へ~Curtain fall~

†††Sideシャルロッテ†††

澱みの中から現れたのは合成獣(キメラ)のような怪物だった。ああいうのを大戦時や今までの契約先世界で見慣れているとは言え、やっぱり少し引いてしまう。

「チェーンバインド!」

「ストラグルバインド!」

ユーノとアルフのバインドが蛇の胴体のようなバリケードを捕らえて、一気に縛りあげて断ち切る。

「縛れ、鋼の軛!」

ザフィーラもそれに負けじとバリケードを一瞬で薙ぎ払った。これで邪魔をするものはなくなった。さぁガンガン行っちゃえ、みんなっ。

「ちゃんと合わせねぇと承知しねぇかんなっ、高町なのは!」

「ヴィータちゃんこそ、ちゃんと合わせてくれないと許さないからね!」

第1層と第2層を破壊する役割のなのはとヴィータが攻撃態勢に入った。

「鉄槌の騎士ヴィータと鉄の伯爵グラーフアイゼン!」

≪Gigant form≫

「轟天爆砕! ギガント・シュラァァァーーーク!!」

ヴィータのデバイス・“グラーフアイゼン”が巨大なハンマーへと変形。その巨大な鉄槌の一撃を受けて、1層目の対魔力障壁が砕け散った。

「俺さ、アレより少し小さいモノで叩き落とされたことがあるんだが、今思うとよく生きてるなって、そうしみじみ感じるよ」 

なるほどね。アレの一撃を受けたから蒐集されちゃったわけか。さすがに今のルシルじゃ、あんなの受けたとなったらそりゃ負けるわ。

「高町なのはとレイジングハート・エクセリオン。いきます!」

“レイジングハート”がカートリッジを4発とロードして、翼を展開させた。おそらくさっき放った砲撃と同じものなんだろうね。

「エクセリオン・・・バスタァァァーーーッ!」

≪Barrel shot≫

本命の先駆けとして衝撃波が放たれて、襲い掛かってきた触手に不可視のバインドが掛けられる。続けて本命の一撃が放たれた。それは容易く2層目の対物障壁を砕く。未だ9歳であれって、将来どんな大物になるか判ったものじゃない。

「シグナムとテスタロッサちゃん、お願い!」

シャマルの指示が飛ぶ。それに応えるようにシグナムが“レヴァンティン”を構えた。

「剣の騎士シグナムが魂、炎の魔剣レヴァンティン・・・いざ参る!」

≪Bogen form≫

シグナムが“レヴァンティン”の柄頭と鞘を連結させると、弓へと変形した。“レヴァンティン”に張られた魔力弦に番えられているのは、槍のような長い矢。()に入っているシグナムの足元から炎が吹き上がる。

「翔けよ、隼!!」

≪Sturm falken≫

“レヴァンティン”より放たれた一閃は、3層目の対魔力障壁を粉砕した。

「フェイト・テスタロッサ。バルディッシュ・ザンバー。いきます!」

振るわれた大剣形態の“バルディッシュ”から、たぶんだけど物理破壊効果を持つ衝撃波が放たれて、触手バリケードを容易く薙ぎ払っていった。

「撃ち貫け、雷神!!」

≪Jet Zamber≫

“バルディッシュ”の刀身がグッと伸びて最後の対物障壁と、“闇”の本体を斬り裂いた。

「あれも受けたくないな」

「激しく同感」

ユーノの展開してくれた魔法陣の上で観戦中の私とルシル。手伝いたいけど、今は少しでも魔力の流出を抑えたい。ルシルは2対の蒼翼だけを残して、付近に充満する魔力を取り込んでたんだけど、「ごふっげほっ」咽るようにして、少し吐血した。

「無理しないでよ」

「使えるものは使う、それが俺たちだ」

そういう返事を聞きたいんじゃないんだけど、そう言うならもう何も言うまい。視線を戻せば、“闇”の周辺から現れた蛇の尾のようなモノから砲撃が放たれようとしていた。だけど、それを黙って見てるザフィーラじゃない。

「盾の守護獣ザフィーラ。我が守りの一撃、受けてみよっ!」

「えっと、ユーノ・スクライア、です」

「フェイト・テスタロッサが使い魔、アルフ! 行くよっ!」

――鋼の軛――

――ストラグルバインド――

ザフィーラが発動した複数の拘束杭が海面から突き出て、尾を全て貫いて砲撃が放たれるのを防いだ。ユーノとアルフもさらに突き出してきた尾を縛って、砲撃を撃ち合わせて同士討ちさせた。

「はやてちゃん! お願いします!」

シャマルが上空で待機していたはやてに指示を出した。大きく頷いたはやては“夜天の書”を左手に持ち替えてページを開いた。

「彼方より来たれ、ヤドリギの枝。銀月の槍となりて、撃ち貫け。石化の槍、ミストリティン!!」

詠唱を終えたはやての背後から7つの砲撃が放たれる。それを受けた“闇”は、着弾したところから石化していって脆く崩れていく。

「シグナムのレヴァンティンもそうだけど、今のミストリティン、だっけ? アンスールが持ってた神器と名前が似てるよね」

“アンスール”が1人、炎帝セシリスの保有した神器・“煉星剣レヴァンテイン”。そして冥祭司レンセレリウスの保有していた神器・“葬槍ミスティルテイン”。私は直接戦ったことないけど、その強さは有名だった。

「・・・似たようなモノはどこの世界にでもあった。それにこの世界は俺たちの時代の遥か未来、名前が残っていてもおかしくないさ」

寂しそうで、でも懐かしそうにルシルがそう呟く。まずい、配慮が足りないことを言ってしまった。

「気にするな。もう俺は大丈夫だから。それよりアレは酷いな。崩れたところから再生している」

「うん? うえ、何かすごいことになってる」

“闇”が滅茶苦茶に再生しているから、かなりグロテスクなモノへとなっていた。でもクロノはエイミィに「プランの変更はなし」だって言ってる。それなら私たちもそろそろ準備をしておこうか。

「デュランダル、一気に決めに行くぞ」

≪OK, Boss≫

クロノが“デュランダル”を構えて詠唱へと入った。

「悠久なる凍土。凍てつく棺のうちにて、永遠の眠りを与えよ・・・」

海面が凍結されていって、海上に在る“闇”も一緒に凍っていく。

「凍てつけ!!」

≪Eternal Coffin≫

最後の仕上げと言わんばかりに“デュランダル”を振るったクロノ。“デュランダル”が術名を告げたと同時に“闇”は海と共に完全に氷漬けになった。それでもなお再生しようとする“闇”。凍結封印っていう手段はやっぱりダメみたい。

「フェイトちゃん! はやてちゃん! 全力全開で行くよ!」

「「うんっ!」」

最後はなのは、フェイト、はやてによる同時砲撃、トリプルブレイカーによるコアの露出。そのあとは私とルシル、2人の魔力を持つ一撃で、この戦いを幕とする。なのはの号令の下、3人が己の最強の一撃の準備に入った。私はそれを見ながら“キルシュブリューテ”を取り出し、“真技”の術式を組む。

(何百年振りかの真技だよ、頑張ろうね)

鞘に収められた“剣神の愛刀(キルシュブリューテ)”を見詰める。私もみんなに負けないように全力全開で行かないとね。恥ずかしいマネは出来ず、見せることも出来ないもん。

「期待に応えないといけないよね」

「いくらでも魔力を持っていって構わない。剣神の名の由来、見せてやれシャル」

「よぉっし!」

私とルシルは、なのは達へと視線を戻す。

「全力全開! スターライト・・・!」

「雷光一閃! プラズマザンバーーーッ!」

「響け、終焉の笛。ラグナロク!」

はやての術式名を聞いた私とルシルは「っ!」一瞬身構えた。まさかこんなところで“ラグナロク”なんて聞くとは思ってもみなかったからだ。残ってほしくない名前はさっさと消えてくれればいいんだけどね。

「「「ブレイカァァァァーーーーーーッ!!」」」

――トリプルブレイカー――

3人より放たれた膨大な魔力を持った砲撃。それを受けた“闇”は見事に粉々に吹っ飛んだ。

「フライハイトちゃん! セインテスト君! 今!!」

シャマルから声が掛かった。“闇”の残骸の中心で黒く輝くコアを確認。

「シュテルン・リッターが剣神シャルロッテ・フライハイト・・・参ります。目醒めよ。断刀・・・キルシュブリューテ!!」

体内の“魔力炉(システム)”が暴れだし、魔力が荒れ狂う。だけど“魔力炉(システム)”のダメージは、ルシルと分担してるから割と少ない。ルシルから引き出した魔力のおかげで“キルシュブリューテ”の限定解放に成功した。ならあとは魔法陣から跳び出し、コアを抹消することだけだ。身体強化を最低限かけて、私は跳んだ。

「閃け、全てを斬断する剣閃・・・真技!!」

†††Sideシャルロッテ⇒なのは†††

シャルちゃんから尋常じゃないくらいの膨大な魔力を感じた。シャルちゃんは立っていた魔法陣から跳び出して、そのままコアに向かって落下。ふと、ルシル君を見ると、ルシル君は口から血を流しながら、魔法陣に膝をついていた。それを見たフェイトちゃんがルシル君の元に飛ぶ。

「牢刃・弧舞八閃!!」

ルシル君のことが気になりながらも、私はシャルちゃんに視線を戻して・・・見た。鞘から抜き放たれた“キルシュブリューテ”から桜色の光を放たれて、8つの斬撃を同時にコアに与えたのを。私は今起こったことが全てスロー再生のように見えていた。そんなスローの世界が普通の時間へと戻る。

「シャルちゃん!」

シャルちゃんが力なく海へと落ちた。私は急いでシャルちゃんを助けるために飛ぶ。大きく息を吸って、息を止めると同時に海面に突っ込んで、沈んでいくシャルちゃんを抱き締める。

「ぷはっ。シャルちゃん!? シャルちゃん!」

助け出したシャルちゃんの名前を何度も呼んだ。シャルちゃんはすぐに目を開けてくれて「なの、は・・・。あはは、大丈夫。だけど、やっぱり冬の海は冷たいや」って微笑んだ。

†††Sideなのは⇒フェイト†††

シャルの後ろに立っていたルシルが口から血を吐いて、力なく膝をつくその瞬間を見てしまった。私はすぐに「ルシル!」の元へと飛んで、魔法陣へと降り立って駆け寄る。

「大丈夫ルシル!? ルシル!!」

「あ、ああ・・・だ、大丈夫だよ・・フェイト。心配性・・・だな」

「心配するのは当たり前だよ・・・!」

膝をつくルシルの青白い顔を覗き込むと、ルシルは私の頭を撫でたあと、魔法陣の上で仰向けになって倒れた。ルシルは「思ったより軽い代償だな」口に付いている血を手の甲で拭って、2、3度深呼吸をした。そんなルシルに「大丈夫か!?」って心配の声を掛けるクロノを初めとして、みんなが私とルシルの居る魔法陣に来た。ルシルは左手を上げて「大丈夫だ」って手を振った。

「そうか。・・・ユーノ、治癒魔法を掛けてあげてくれ」

「うんっ」

ユーノがルシルに治癒魔法を掛けている中・・・

「くあー、寒い寒い寒い寒い・・・」

「何か温かいものがあればいいんだけど・・・」

なのはとシャルも魔法陣に降り立った。シャルは寒さに震えながらもちゃんと立っているから、ルシルよりかは調子は良いみたい。

「シャマル、シャルちゃんにも治癒魔法お願いや。シグナム、出来ればなんやけど・・・」

「はい!」

「はい、仕方ありませんね」

シャルの方も一応、シャマルから治癒魔法を掛けてもらった。そしてシグナムは“レヴァンティン”に炎を纏わせて、シャルを温めるための暖とした。そんなところに『コアの完全消滅を確認!! みんなお疲れ様でした!』ってエイミィから通信。防衛プログラムの残骸の回収や街の修復の仕事があるけど、それは管理局に任せて、私たちはアースラで休んで、っていうものだった。それでようやくみんなの顔から緊張が消えた。

「やったな、シャル、ルシル」

「当然じゃない♪」

「まぁこんなものだろ。お疲れ様だ、クロノ」

クロノはシャルとハイタッチをした後、体を起こしたルシルともハイタッチしていた。ルシルの大丈夫そうな顔を見て安堵した私たちもハイタッチを交わした。長い長い夜の終わりだ。

「あっ、アリサとすずかはどうなったのっ?」

「そうだ! アリサちゃん達は!?」

『大丈夫、安心して。被害の少ないところの結界はもう解除してるから、アリサちゃんとすずかちゃんにはすでに元いた場所に戻ってもらったよ』

私となのはの疑問にエイミィが答えてくれた。2人の無事を知れて、私たちは本当に終わったって肩から力を抜いた。

「ふぅ、これで一件落ちゃ――」

「はやて!?」

「「・・っ!?」」

シャルの声を掻き消したのはヴィータの叫び声。私たちがヴィータの方へと向くと、シグナムに抱えられていたはやては苦しそうにしていた。

「はやて!? はやて!? はやて!」

「ぅく、クロノ! 彼女を早くアースラへ!」

「ああ! エイミィ、今すぐアースラへ転送を!!」

ルシルの一声にクロノが答えて、私たちは急いでアースラに向かった。

†††Sideフェイト⇒ヴィータ†††

あたしら守護騎士は、アースラとかいう管理局の艦の一室を借りて集まってる。ベッドの上で眠るはやてを見守るように、はやてから新しい名前を貰った夜天の魔導書・“リインフォース”から話を聴いていた。あたしらの今後のことで、だ。ほとんどが予想してたことだった。ああ、解かってたんだ、全部。

「――夜天の魔導書のシステムの大半が破損している。もはや致命的だ。最も厄介だった防御プログラムは停止できたが、あくまで停止。歪められた基礎は変わらずだ」

「ということは、夜天の書は新しく防御プログラムを組み直しちゃうってことよね・・・」

「じゃあまたソイツが暴走しちまうんだな・・・」

「・・・そういうことになる。いずれ防御プログラムは復活し、再び猛威を揮うだろう」

「リインフォース。正常に機能している今のお前なら修復は出来るのではないのか?」

「残念だがそれは無理だ。管制プログラム(わたし)の中から、本来の姿が消されてしまっている。いくら管制プログラムの私でも、夜天の魔導書本来の姿が判らなければ修復のしようがないのだ」 

修復できれば何とかなるって、シグナムと同じことをあたしも思った。だけどリインフォースはそれは不可能なことだって言って首を横に振った。何でこうも上手くいかないことばかりなんだろう。まるであたしらは世界に嫌われているみたいだ。

「リインフォース。・・・主はやては大丈夫なのか?」

「それについては安心してくれ。主はやてはもう大丈夫だ。私からの侵食が完全に治まったことで、リンカーコアも正常に稼働できている。主はやての不自由な足も、しばらくの時を置けば自然に治癒するだろう」

それを聞いたあたしらは安堵でいっぱいになる。はやてはこれでもう大丈夫。だけど・・・。シャマルが「それだけで十分よね」って、はやての前髪を撫でて薄く笑った。シグナムも「ああ。主はやての未来が確約されたのなら、心残りは無い」って頷いた。そう、だよな。はやてがこれからも生きて、足も治って過ごせていけるなら・・・。

「防衛プログラムを失っているのであれば、現状の夜天の書の完全破壊は容易いだろう」

「今の内に破壊すれば、暴走することも2度とないし、はやてを苦しめることも本当の意味で無くなる。その代わりにあたしらも一緒に消滅しちまうけど」

そう、そこにあたしらはいない。折角はやてを助けられて、リインフォースも一緒に揃うことが出来たのに、はやてとあたしらの、あの時間はもう2度とやってこない。

「すまないな、ヴィータ」

「謝んなよ。あたしらはみんな覚悟してただろ。こうなる可能性があったことくらい・・・」

そうさ。覚悟はしていたんだ。でもさ、実際そうなるとすごく辛い。もっとはやてと話して、はやての美味しいご飯食べて、これからもずっと一緒に・・・。ずっと一緒に同じ時間を過ごして生きたかった。それがあたしの本音で、そう思わずにはいられない。

(くそっ、本当にどうしようもねぇのかよ。なにかハッピーエンドで終わる方法はねぇのかよ。あんまりじゃねぇか。なんで、なんであたしらの道にはこんな、救いのねぇ壁ばっかあんだよ)

心が折れそうになってた時、「いいや、違う」ってリインフォースが一言。

「逝くのは・・・私だけだ。お前たちはこれからも主はやての下で・・・生きるんだ」

†††Sideヴィータ⇒シャルロッテ†††

私とルシルはアースラの医務室に2人っきりで居る。一応、シャマルに治癒を掛けてもらったけど、念のためにってことで。私の方は完治してる。だけどルシルは外傷を治してもらっても“魔力炉(システム)”はまだダメージを負ったままだ。だからベッドの上で寝かせて、今は“魔力炉(システム)”の完治に魔力を注いでもらってる。

「シャルちゃん、ルシル君!」

そんな時、なのはが大声を上げながら医務室に入ってきた。遅れてフェイトが「なのは、気持ちは解かるけど静かに!」って入ってきた。

「ど、どうしたの2人とも。そんなの慌てて・・・!?」

静かな医務室だったから、いきなりの2人の来訪にビクッとなっちゃった。ルシルも驚いて、でも「何かあったのか?」ってすぐに落ち着きはらった声で尋ねた。

「ルシル君。ルシル君の魔術で、リインフォースさんを助けてあげること出来ない?」

「「はい?」」

一体何の話?って思っていると、フェイトが「実は、夜天の書を破壊するって話が出てるんだ」って教えてくれた。

「夜天の書の破壊? だって暴走していた部分である防衛プログラムが消えたんだから、もう解決したんじゃないの?」

小首を傾げていると、「それは管理局の方針か?」ってルシルが確認を取った。

「ううん、違う。それ・・・リインフォースさんからのお願いなの。せっかくはやてちゃんから名前を貰って、出逢えて、これから一緒に過ごして行けるって言うのに、こんなのってないよ・・・」

なのはは零れる涙を袖で拭って、そんななのはをフェイトが支えていた。私はフェイトに「詳しい話を聞かせて」とお願いする。

「・・・うん。夜天の書を狂わせてた防衛プログラムは無事に破壊できたんだけど、でもすぐに夜天の書の本体が防衛プログラムを再構築するんだって。だから・・・」

「なるほど。再びあの厄介な力が戻るわけか。確かにそれはまずいな。はやてがまた侵食されたら、今度こそ彼女の命の保障がない。それを危惧しての破壊の申し出、というわけなんだな・・・」

「うん。そういうことみたいだよ」

「だからリインフォースさんは、その防衛プログラムが消えているうちに自分を破壊するように言ってきたの・・・」

そんなのってない。やっとはやてと逢えたというのにあんまりじゃない。今まで苦しんできた“夜天の魔導書”を破壊するなんて・・・って。ちょっと待って。

「ねぇ、シグナム達は? 守護騎士の大元の夜天の書を破壊したら、シグナム達も一緒に消えるんじゃないの?」

「あ、ううん。シグナム達が言うには、防衛プログラムと一緒に守護騎士プログラムも本体から切り離したんだって。だからシグナム達は消えずに残ることが出来るって・・・」

「そっか・・・。それはなんて言うか、良かった。・・・って、手放しで喜べないよね」

シグナム達が残っても、そこにリインフォースが居ないのはあまりに酷い結末だ。

「はやては、まだ眠っているのか?」

「うん。だから・・・この事についてはリインフォースの独断なの」

これはちょっと嫌な予感がするね。今のリインフォースの考えていることが解かる。たぶんだけど、あの子・・・。

「それでね、ルシル君。ルシル君っていろんな魔術とか能力を持ってるよね。だからリインフォースさんを壊さずに済む方法が、その中にあるんじゃないかって、そう思って・・・」

なのはの縋るような目がルシルに向けられた。フェイトも似たようなものだ。私もルシルを見る。女の子3人の視線を受けたルシル。廊下の方からも何人かの気配を感じる。これはきっと・・・クロノとユーノとアルフ、か。シグナム達は居ないみたい。

「・・・すまない、なのは。俺にもどうすることも出来ない・・・」

ルシルは散々溜めた後、なのは達の最後の希望を打ち砕いた。なのはとフェイトの顔が歪む。でもルシルに感情的になって突っかからない。だけどなのはは「本当にダメなの?」って、もう1度確認するように聞いた。

「夜天の書は、俺やシャルの魔術のような感覚的な曖昧なものじゃなく、プログラムという確固とした存在なんだ。正常稼働している夜天の書の本体――管制プログラムであるリインフォースですらどうすることも出来ないと判断したんだろ。なら俺にもどうすることも出来ない。リインフォースは・・・諦めてくれ」

「っ!・・・そ・・・っか。ごめんね、ルシル君。無理、言っちゃった」

なのはは涙を袖で拭って、無理にでもルシルを気落ちさせないように笑おうとしてる。でも上手く行かなくて泣き笑いのようなモノになっちゃう。見てるこっちが辛い。

「ごめんね、ルシル。シャル。お邪魔しました」

フェイトがなのはを支えて医務室を出て行った。2人が出て行ってすぐユーノとクロノが入ってきた。アルフはなのはとフェイトに付いて行ったみたい。

「ルシル。なのはと同じ質問で悪いが、本当に夜天の書を救う方法は無いのか?」

「聴いていたんだろ。無理だ。何せリインフォースが断念したくらいだ。夜天の書の基礎構造を知らない俺では直しようもない。が、なぁクロノ。リインフォースは元の状態には修復が出来ないと言ったんだよな・・・?」

「ん? あぁそうだが。何か良い手が浮かんだのか?」

「いや、おそらくこれもダメかもしれない。出来るのなら既にやっているだろうし」

「まずは聞かせてよ」

「・・・元の姿に戻せないなら、プログラムを上から書き換えてしまえばいい。暴走する防衛プログラムが2度と再構築されないように別のプログラムへと。俺には電子戦用のステガノグラフィアという術式がある。それを使えば可能だろう」

「でもそれ・・・かなり危険なんじゃ・・・?」

「リインフォースは残ったとしても、リインフォースとして残るかは判らないな」

ユーノの疑問にルシルはそう答えた。かなり綱渡りな手段だ。プログラムを一から書き換えることで、リインフォースの人格面とか大事なものが失われるかもしれない。そうなったらリインフォースだけどリインフォースじゃない“夜天の書”が残ることになる。たぶんそれはリインフォースも、はやても、シグナム達も望まない結果だと思う。

「管制プログラム・リインフォースが正常に稼働していて、そして操作できる主はやてが居る。おそらく時間は掛かるだろうが出来ないことはないだろう。はやてから操作権を借りられれば、俺が全力を尽くして書き換えよう」

ルシルがそう言い切った時、「すまないが遠慮しよう」って声が医務室に響いた。一斉にドアの方に目を向けると、そこにはルシルと同じ銀髪の綺麗な女性、リインフォースが居た。リインフォースがルシルの居るベッドに歩み寄ってきて、私とユーノとクロノは道を開ける。

「お前を蒐集した時、私はお前の持つ技術を垣間見た。無限の知識、無限の力。確かに主はやてがお前に管理者権限を預け、私を書き換えようと思えば出来るだろう。しかし、シミュレーションした結果、高確率で私の人格プログラムが失われる。管制システムは言わば夜天の書そのもの。書き換えを行えば当然の答えだ。私は私としてあり続けたい。だから、お前の提案は受け入れられない」

リインフォースはハッキリと断った。そりゃそうよね。リインフォースは残っても、自分の自我が残っていないんだから。ルシルはリインフォースがそう言うことを判っていたようで、「救ってやれなくてすまない」って頭を下げた。

「いや、気にしないでくれ。これが1番の優れたやり方なのだ」

寂しそうに薄笑いするリインフォース。ここで私は気になっていたことをクロノ達に聞いてみることにした。それは、どうやってリインフォースを破壊するのか、だ。返ってきたのは、想像していた(リインフォースを集団でコテンパンにするような)ものじゃなくて、儀式魔法による機能停止だった。

「――で、リインフォース。あなた、そのことをはやてにどう伝えるつもり?」

リインフォースが息を呑む。あぁやっぱり。はやてに何も伝えずに逝くつもりだったんだ。それだけ判れば良い。ここで説得することも出来るだろうけど、どれだけ掛かるか判らないし。だから今は「そう」とだけ答える。それでもう話は終わりだ。クロノ達は医務室を後にして、また私とルシルの2人きりになる。

「・・・ねぇ、ルシル。もう1つ解決策、あるよね」

異界英雄(エインヘリヤル)、か。確かにリインフォースの魔法は複製してあるから、リインフォースのエインヘリヤルも在る。が、それは結局偽物で、いつまででも顕現できるものじゃない。俺とシャルが本契約を終えてこの次元世界より去る時、はやてはリインフォースのエインヘリヤルとまた別れなければならない。それなら、いっそこのまま・・・」

「そうだよね・・・。あ~あ、なにが魔術師、なにが界律の守護神テスタメント。役立たずにも程がある」

結局、世界が進ませようとしている流れに逆らえないってことか。

「じゃあこれで最後。ルシル、ちょっと付き合って」

リインフォース。あなたの思いは理解できる。だけど、はやてのためにそれを邪魔させてもらうから。 
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