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八条学園怪異譚

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第四十九話 柳の歌その三

「ほんの悪戯だよ」
「その悪戯は遠慮するから」
「カビとか勘弁して欲しいから」
「ううん、昔はよく海軍の人にご馳走したけれど」
 帝国海軍である、その精強さを求める熱意と財政感覚のなさは特筆すべきであろう。
「あの人達は特に動じなかったよ」
「そりゃあれだからだよ」
 その豆腐小僧に河童が言って来る、彼の傍に腰を下ろしてそのうえで爪楊枝を使って水羊羹を食べながらの言葉だ。
「あの人達はもう全身にカビがあったからね」
「ああ、インキンにタムシだね」
「そう、だからね」
 それでだと言う河童だった。
「あの人達は平気なんだよ」
「全身インキンにタムシがあるとそりゃ平気かあ」
「というかあんたのお豆腐食べたら結果としてそうなるよね」
「うん、なるよ」
 実際にそうだというのだ。
「インキンとかタムシはカビだからね」
「そうだよね、一見すると軽い悪戯だけれど」
 これが実は、というのだ。
「インキンとかって一回なったら大変だからね」
「三年の苦しみというからね」
 今度は一反木綿がひらひらと舞いながら言って来る、一反木綿の手にもちゃんと水羊羹があって食べている。
「インキンはね」
「地獄らしいからね」
「うん、海軍の人達はその地獄の中にいたんだよ」
 数多くの海軍軍人が持っていた病だ、それは今の海上自衛隊にしても同じであろうか。
「君はそんな酷い悪戯をしているんだよ」
「ううん、そう言われると僕って悪い奴なんだね」
「その悪戯はね」
 実際にかなり悪質だと言う一反木綿だった。
「まあおいどんもそうした悪戯するけれどね」
「君は夜道を行く人の顔を塞ぐからね」
「それで転んで怪我する人もいるから」
「それって結構以上にね」
「そうよね」
 横から話を聞いていた愛実と聖花が眉を顰めさせて言う。
「悪質よ」
「無視出来ないけれど」
「けれど人を殺したり食べたりはしないから」
「そんなことはしないからね」
 妖怪達はその二人にこのことは釈明する、
「だからね」
「その辺りは大目に見てね」
「ううん、どうかしら」
「ちょっと難しいと思うけれど」
「厳しいねえ」
「いや、厳しいとかじゃなくて」
「今だとね」
 怪我もだというのだ、二十一世紀になると。
「それ位の悪戯だと普通に問題になるわよ」
「女の子に道を尋ねただけで通報されたりするのよ」
 流石にこれは極端な話であり問題視されているがこうしたことが実際に起こってしまう世の中が二十一世紀の日本であることは確かであろう。
「だからカビだらけになったり怪我をする悪戯になると」
「充分問題視されるわよ」
「そうか、残念だね」
 一反木綿はひらひらと漂いつつ述べた。
「それは」
「まあそういう時代だから」
「あんた達も気をつけてね」
 二人はまだ話す、そしてだった。
 彼等との話からだ、また博士に尋ねたのだった。
「あの、それでなんですけれど」
「その柳にいる幽霊さんは」
「普通の人じゃよ」
 至ってだというのだ。
「生前も今もな」
「じゃあ青木先輩みたいな方じゃないんですね」
「小林先輩みたいな方でも」
「ああした個性的な人ではない」
 博士はあえてこう表現した、オブラートに包んだのである。 
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