“死なない”では無く“死ねない”男
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話数その22 違えない
事の発端は数十分前、晋がレストランに入ったばかりまで遡る。
晋は、身を隠す事と腹を満たす事が同時に出来るレストランに入り、ミートパイを頼んだ―――のだが、一息ついたその直後、騒がしい声と共に見知っている、且つ今一番見たくない顔がゾロゾロと入ってきて、自分の隣のボックス席に座ったのだ。
(……何でよりにもよって、俺の隣の席に座んだよ……!)
もう注文してしまった以上席を離れられない晋は、こうなったら一刻も早く料理を平らげてこのレストランを出ようと画策した。
しかし、こういう時に限って中々料理が来ない。それもその筈、今は昼時でしかも曜日は日曜日。家族連れや遊びのついでの昼食にと、立ち寄る者達で店内は溢れ返っており、店員はてんてこ舞い状態。コレではいつ来るかも分からない。
幸い晋はフードを既にかぶっており、少なくとも人相でバレる事はないだろう。
「すいません、えーと……ハンバーグセットを―――」
「Give me all the things of this page!」
「……このページにある者は全てくれ、だそうです」
「After, all desserts also!」
「後デザート類も全部」
(……どんだけ食う気だ、てめぇら……?)
そもそも高校生である彼等に、ページ全部の物を頼んで払う金はあるのだろうか?
だが、たとえ払えなくて捕まっても晋の知る所では無いので、彼は大人しく本でも読んで待つ事にしたようだ。
そして、数分後。
やっと晋の頼んだ料理が来た。
「おまたせしました、ミートパイセットでございます」
(……単品頼みゃよかった……)
ミートパイとスープ、そしてサラダのセットは、どれもこれも少し大きめで多めだった。ふと気が付いて店外の幟を見ると、“今日は1.5倍デー! 一部商品を除いて量が何時もの1.5倍!”と書いてある。
(……何で今日に限って……つーか、ミートパイを一部商品に入れろよ……)
しょうがないから即行で平らげようと、晋はミートパイを素手で掴もうとして――――隣から物凄い気迫を感じた。
(……うおっ…!?)
見ると、そこには涎をたらし、ボックス席から飛び出さんばかりの態勢で此方を向いた、青い髪の少女とツインテールの少女がいた。
(……大方、あのガキでも描かんような絵を買った所為で金欠になったんだろうが……自業自得だろうがよ……)
晋は無視してミートパイにガブリとかぶり付き、その勢いでスープをすする。隣からボタボタと涎の垂れる音が聞こえ、より一層強くなった気迫が感じられた。
(……こっち見んじゃねぇ…! 食い辛ぇよ……!)
次にトマトが中心のサラダを口にかきこむと、ゴクリッとつばを飲み込む音が、有り得ない程大きく店内に響く。兵藤達が謝る様に此方に頭を下げ、少女達を諌めているのを横目で見た晋は、食べるスピードを更に早めた。
「お待たせしました、ハンバーグセット各種でございま―――」
「Give me!」
「Can not stand!」
「きゃあっ!?」
「You guys What I'm doing! ……本当にすみません」
「い、いえ…」
(……兵藤も英語喋れんのかよ……しかも、えらく流暢だなオイ……)
実はこの兵藤の英語には秘密があるのだが、晋はそんなこと知る由もない。
(……よし、ようやく食い終わった…っ!)
食べ終わった後の余韻に浸る間もなく、晋はレジへと直行する。しかし又もや、行く手を阻む出来事があった。
レジにめっちゃ人が並んでいたのだ。しかも最後尾が、店内の食事スペースまではみ出てしまっている。
(あ~……クソったれ…! なんで今日に限って……!)
何時なら晋は、この状況でもダルさを感じるのだが、今はダルさではなくイライラを感じていた。と言うかそこまでかかわりたくないのだろうか。まぁ、彼等といると晋の目的である、“静かに暮らす事”の妨げになる事しか今の所来ていないので、離れたくなるのも当然かもしれない。
「お客様、お待たせしました」
(……次だ、次で俺の番だ…)
これでやっと解放されるとホッとする晋、前の人がお金を出すのにもたついて時間が掛かっているのには多少イラついたが、それでも此処を出られればそれでいいと考えている。
(……よし、金のチェックは完璧で―――)
「あ!? お前、灰原じゃねぇか!!」
(……俺が一体何をした……)
人生は、そう甘くない。
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