フェアリーテイルの終わり方
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四幕 〈妖精〉
4幕
前書き
青年 と 妖精
水を打ったように空気が静まり返った。
そんな空気の中にあって、レイアが一番に、はた、と声を上げた。
「え。じゃあフェイがルドガーに懐いてるのってマズイんじゃないの?」
「断界殻解放までは、だ。現在は〈妖精〉に関する超法規的措置は許されていない。もっとも、〈妖精〉の存在を知る有力者が、〈妖精〉を独占しようと目論むことは止められんが」
ビズリーは意味深にフェイに視線をやった。フェイは俯いた。
「みんなフェイがスキだから欲しいんじゃないもん」
ビズリーはそれ以上を語らず、ただ不敵に笑むばかりだった。
「戸籍上の彼女はフェイ・メア・オベローンという一般市民だ。日常生活で彼女にどんな害があろうが、君に罰はない。自由に連れ歩きたまえ」
透かし見えた。ビズリーたちはルドガーがフェイを、〈妖精〉を手に入れた事実を歓迎し、〈妖精〉の力を利用しようと目論んでいると。
「――そうさせてもらいます」
ならばルドガーはその思惑を超えてやろうと密かに決意した。
フェイをただのフェイ・メア・オベローンとして扱い、彼女を普通の女の子にしてやる。
それだけがビズリーへの、そして社会への意趣返しだ。
自動ドアの開閉音でルドガーは目を覚ました。
ルドガーの部屋のベッドはエルが使っている。現在はリビングのソファーがルドガーの就寝スペースだ。よって、リビングにある玄関ドアの開閉は、寝ていてもすぐに気がつくのだ。
懐中時計を開ける。短針は2を差していた。
ルドガーは眠い体を無理やり起こし、そっと自分の部屋を覗いた。ベッドで夢の中なのはエルだけで、フェイがいなかった。
(フェイが泊まりに来てこんな夜中に帰ったことはない。ってことは、近くにいるはず)
リビングに戻って窓から外を見下ろすと、団地の公園に、月明かりを帯びて仄かに光る白い髪。闇に浮かぶ白いブレザー。間違いない、フェイだ。
ルドガーは部屋着の上にいつものワイシャツを着て、部屋を出た。
階段を使って静かに一階まで下り、マンションを出る。マンションの目と鼻の先の公園にフェイはいた。
「フェイ」
声をかけると、ひどく驚いた風情で彼女はふり返った。
「脅かしてごめんな。眠れないのか?」
「うん。ちょっと……思い出してた。昔のことと、今日のこと」
フェイはブランコのチェーンを掴むと、そのブランコにゆっくり腰かけた。
「あのおじさん、わたしがルドガーのモノになったの喜んでた。おじさん、ルドガーの色んなこと、変えちゃった。わたしがいたから。やっぱりわたし、ずっと〈温室〉にいたほうがよかったのかな――独りで、ずっと」
ルドガーはフェイの頭に手を置いた。フェイは不思議そうにルドガーを見上げた。
「俺はお前のこと全部知ってるわけじゃないし、今も、どこからがお前にとっての〈外〉で〈中〉なのかも分からない。けど、ずっと独りぼっちでいたほうがいいことなんて、人間には一つだってないとは思うよ」
例えば今。行きずりとはいえルドガーにはエルがいる。ジュードがいる。仲間と呼べる人たちがいる。理不尽な借金にも、兄の濡れ衣による陰口も、だから耐え忍べる。
エルやジュードたちがいてこそのルドガーなのだ。その理屈は、この少女にも適用されるはずだ。
「……わたしといたら、ヒドイ目に遭うかもしれないよ。フェイのこと、スキじゃなくても、欲しがる人、いっぱいいるから」
「いいよ。返り討ちにする。今までで大抵の理不尽には慣れた」
背負った負債は元より大きいのだ。フェイ一人増えても変わらない――と感じる程度には、ルドガーの常識も麻痺していた。麻痺しなければやってこられなかった。
「ね、パパ」
「パパはよせって。――何だ?」
「フェイのこと、お話ししてもいい? 面白くないし、つまんないけど。何だか今話しておきたい気がした」
「……いいよ。フェイがそうしたいなら」
ルドガーも隣のブランコに腰かけた。フェイは安堵した笑みを浮かべた。
後書き
「好きだから欲しいわけじゃない」。今後オリ主の中で大きな指針になる言葉です。
エルよりちょっと先にブランコイベントです。指切りはしませんが親密です。
次回からはオリ設定無双第2弾! あー、楽しみですねー。
……さあヴィクトルファンの皆様から石を投げられた時用のガードシールドでも作りますかね(-_-;)
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