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“死なない”では無く“死ねない”男

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話数その16 嘘ではない

『ライザー様の“兵士”3名、戦闘不能』


 グラウンドに向かう途中、晋と兵藤はグレイフィアの通達を耳にする。兵藤はよしっ! と拳を握るが、晋は相も変わらず欠伸をしながら走っている。……何度もしつこい様だが、晋の運動能力は『格闘かよりは強い』ぐらいなので、兵藤とはもう大分離れてしまっている。


 そうこうしている間に、晋と兵藤は合流地点であるグラウンド傍の倉庫へとたどり着いた。


「イッセー君、灰原君」
「すまねぇ木場……小猫ちゃんがやられちまった」
「……うん、通達は聞いていたよ……彼女の分も頑張らないとね。小猫ちゃん、今日はいつも以上に気合を入れていたみたいだから」
「そうだったのか……そうだな、頑張らねぇと!」
(……眠ぇ……)


 気合いを入れなおす二人と、元から入っていない気合いを更に抜く晋。 と、そんな彼らの耳に、自分の居場所を高らかに主張する声が届いた。


「私はライザー様に仕える『騎士』カーラマイン! リアス・グレモリーの眷属達よ! 私は逃げも隠れもしない! 正々堂々の勝負を所望する!!」
(……馬鹿だ、馬鹿がいる…)


 陰から少しだけ顔を出して覗くと、騎士姿の女性が剣を地に刺し、仁王立ちしている姿と、木場が剣を持って歩み寄る姿が―――


「え? 木場?」
「ほう、乗る者はいないと思ったが……」
「……グレモリー眷属の『騎士』として、ああ言われたんじゃ出ない訳にもいかないからね」
「ふっ、そうか!」
(……馬鹿二号の登場だな……)


 しょうがない、と兵藤も隠れる事を止め、グラウンドに出る。……そこで座り込んでいた晋を引っ張って。しかし出たはいいものの、相手がいない為する事がない。

 このまま楽できるかと晋は考える……が、現実はそう旨くは行かない。


「全くカーラマインったら……頭の中が剣の事で埋め尽くされているのかしら。『犠牲』にも渋い顔をしてましたし、泥臭くてかないませんわ」


 声がした方を見るとそこには、いかにもお嬢様と言った感じの服装と髪型をした少女と、顔の半分を仮面で隠した女性がいた。


「さて、あっちが騎士同士始めたんだ。出てきた以上、今更逃げると言う選択肢は有るまい?」
「当たり前だ、やってやらぁ! ―――灰原、あの『僧侶』の子を頼む! ……第一弾はもう使うなよ!?」
「……へいへい…」


 適当に返事をしながら、晋はお嬢様然とした少女の方へ歩いて行く。しかし、その少女の口から出てきた言葉は予想外の物だった。


「私、あなたのお相手はしませんわよ」
「……あん…?」


 その一言は兵藤にも聞こえたらしく、晋の代わりに彼が疑問をぶつける。


「ど、どうして戦わないんだよ!?」
「確かに『僧侶』として参加しているが……ほとんど観戦しているだけだ」
「なんじゃそりゃあ!? じゃあ、何でこんな所に居るんだよ!」
「あの方はレイヴェル・フェニックス。眷属悪魔とされているが、ライザー様の実の妹君だ」
「妹おぉ!?」
「ライザー様曰く、『妹をハーレムに加えることは世間的にも意義がある。ほら、近親相姦っての? 憧れたりうらやましがる奴多いじゃん? ま、俺は妹萌えじゃないから形だけ眷属悪魔って事で』……だそうだ」
「つ、つまり、ライザーは―――」
「……救い様無しの真正の変態で馬鹿、と……」
「返す言葉も有りませんわ……」
「同じく」

 晋の尤もな言葉に、レイヴェルも仮面の女もかばう言動すらせず頷いた。
 明らかに敵同士のやり取りでは無い会話を交わしていた彼等に、突如として熱風が襲いかかる。


「我ら誇り高きフェニックス眷属は、炎と風と命を司る―――うけよ! 炎の旋風を!」


 出所は如何やらカーラマインの様で、彼女は気分が高まっている所為か、敵味方関係なしに熱風を叩きつけているようだ。その熱風は徐々に炎の渦へと変わっていく。


「カーラマインめ……味方が居るのを忘れているのか!?」
「……忘れてるんじゃねぇの? あの様子だと…」


 流石にこの熱風の中では戦えず、両陣営とも耐える事を優先していた。しかし、その中心近くに居る筈の木場は、慌てる様子もなく手を前に出す。


「僕たちを蒸し焼きにする気か。だけど―――止まれ」


 今度は木場の方から疾風が吹く―――否、どちらかと言えば木場の剣に吸い込まれていく様だ。それは相手の熱風も同じようで木場の元に熱風が集まっている。
 数秒もすると熱風も疾風も止んでいた。


「『風凪剣』……一度の戦闘に二本以上の魔剣を使ったのは久しぶりだよ」


 何時の間にか木場の手に握られていた剣は剣先に輪がついており、その中に風のような物が渦を巻いていた。


「神器は一人につき一つしか宿らない筈だ。ならお前は、他者から神器を奪い所有している後天的な所有者か?」
「違うよ、僕は複数の神器を所有しているわけじゃない―――一から創ったんだ、魔剣をね」
「創った……だと?」
『魔剣創造』(ソード・バース)。名前通り、僕が思う魔剣を作り出せる神器さ」


そういうと木場は地面に手を当てると、地面から剣が勢いよく飛び出てきた。それらは色も形もバラバラで、行動も合わせて木場の言う事を事実だと実感するには十分な要素だった。


「お、やってるみたいだにゃ」
「ほんとね、中々じゃない?」
「あれ? 人間がいるよ」


 と、別方向から複数の声が聞こえてくる。 どうやら、『女王』を除いた残り四人のフェニックス眷属達も集まってきたようだ。


「……どーすんのよ、あのエセお嬢様はほっとくとしても、2VS6じゃねぇか……」
「3VS6だろ!? 自分を勘定から外すな!」
「……あ? 俺とは限らんだろ…」
「じゃあ、誰なんだよ?」
「……俺だ」
「当たってんじゃねぇか!」
「漫才でもやってるのか、お前らは?」


 仮面の女は見たまんまを言い放つ。


「とにかく、木場が一人相手してんだから、俺達で残り五人を相手すんぞ!」
「……お前四で俺が一な…」
「ふざけてんのか!!?」
「……大真面目だ」
「なら、尚更たち悪いわ!!」


 しかも晋の様子におちょくりは見られず、明らかに本気で言っている事が分かる為、たちが悪いじゃ済まない。


「そこの『兵士』さんに人間さん、漫才していていいんですの? お兄様とリアス様が一騎打ちを始めるみたいですわよ」

 言いながらレイヴェルはある場所を指さしている。そのさしている場所は新校舎の屋根の上で、そこにはグレモリーとアルジェント、そしてライザーが居た。


「直接仕掛けるって言ったって早すぎじゃないか!」
「どうやら、こっちの手が読まれていたようだね」
(……そんな話してたか…?)


 首を傾げる晋だが、大方聞いていなかっただけであろう。 今だ見やる彼等に、レイヴェルは余裕たっぷりな表情で告げる。


「お兄様ったら、リアス様があまりに善戦するから高揚したのかしら? まぁ、普通に戦えば私たちの勝利ですし、情けを与えたのでしょう」


 明らかに此方を舐めているようすのレイヴェルに、兵藤は悔しさを隠さず、木場ですら睨んでいたが、晋は唯手首をブラブラさせているだけだった。


「それではこちらも始めましょうか。ニィ、リィ」
「にゃん!」
「にゃにゃ!」


 レイヴェルの指示を受けた獣耳の少女二人が、獣の様な動きで晋と兵藤に迫る。


「っ!!ブーステッドギア!」
『Boost!!』


 すぐさま兵藤は“ブーステッドギア”による倍化を開始するが、それに合わせて敵の攻撃も苛烈になっていく。よく見ると苛烈に攻撃されているのは兵藤のみであり、人間である晋は殆ど手加減の様な攻撃しかされていない。
 大方、人間だからこんな感じでも大丈夫と言った余裕からの物であろう。


「ニィ、リィ! “ブーステッドギア”は十秒ごとに力を2倍させる神器ですわ! イルとネルがやられたことを考えるとおそらく三回倍加されるとあなたたちでは手が付けられなくなります! 20秒でカタをつけなさい! その特性上、倍加が済むまで手は出してこないはずで―――ぶぁっ!?」


 突如として、兵藤の弱点を的確に突こうと指示を出していたレイヴェルの顔が、飛来した爆弾で爆撃された。


「―――え?」
「ぐぅ……何、ですか?」


 今の爆発は、悪魔が嫌いな“光”が混ざっていたらしく、レイヴェルは苦痛の表情で地面に横たわっている。
 いきなりの爆撃に一同は戸惑い、動きが止まる。と、そんな静寂を破る者がいた。



「……エセお嬢様よ……お前、“観戦してるだけ”…だった筈だよな……?」


 その声の主である晋は、何処からともなくいくつもの爆弾を取り出し、構えた。


「……指示出したって事は……参戦したって事でいいよな…? エセお嬢様よ……」

 
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