フェアリーテイルの終わり方
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
四幕 〈妖精〉
1幕
前書き
妖精 は 何でも 知っている
アハルテケ号の一件から1旬(1週間)ほど経ったある日、ヴェルを通してクランスピア社から指令があった。
リーゼ・マクシアのイラート海停にいるエージェントから、データディスクを回収して社に持ち帰れ、というものだ。
実質、イバルと同じく雑用係に等しいルドガーに拒否権はなかった。
いつのまにか同伴するのが自然になったジュードたちと共に、ルドガーはリーゼ・マクシアに向かった。
輪の中にはアハルテケ号の件以来、ルドガー宅を訪ねるようになったフェイもいる。
「船に乗るの、初めてか?」
「うん……すぐ下が海、少し、コワイ。落ちちゃいそう」
ワイシャツに指先でしがみつくフェイは、まるで子供で、ルドガーは微笑ましかった。
イラート海停に着いた一行は、宿を訪ねた。
大人数だとかさばるので、ルドガー、ジュード、エル、フェイだけで、ある一室をノックした。
出てきたのは、手や頭に包帯を巻いたレディエージェント。
「何の用?」
「ヴェル…秘書官に頼まれて、データを回収に来た」
ちらと見えた部屋の奥では、ベッドでもっと重傷らしいエージェントが横たわっている。ここでお節介を発揮するのがジュードなわけで。
「診せてください。僕、医学者なんです」
「結構よ。――そんな話、本社からは聞いてないわ」
そう頑是なくされるとルドガーもむっとする。
ルドガーはGHSを出してヴェルに電話し、レディエージェントにGHSを渡した。レディエージェントはヴェルと2、3話し、ようやく納得したらしかった。
「失礼しました。これがデータです」
GHSを返され、CDを差し出される。ルドガーはそれらを受け取った。
すると、横からじーっと見ていたフェイが、おもむろにCDに指先で触れた。
「ブンシセカイ……ミチシルベの、解析データ。シツチョーが持ってた」
レディエージェントが、サングラスをかけていても分かるくらいに顔色を変えた。何故それを、とでも言いたそうな雰囲気だ。
「確かに。必ず本社に届けます」
ルドガーは内心慌てて言い添えた。
レディエージェントは困惑を残しつつも頭を下げた。
ロビーに戻ると、皆が銘々、座ったり、立って話したりしていた。
「お、ルドガー。どうだった?」
ルドガーは胸ポケットからCDを出して見せた。女子組は興味津々にCDを見つめた。エレンピオスではポピュラーなデータ記録媒体だが、リーゼ・マクシア人にはまだ珍しいらしい。
「何だっけ。ブンシセカイとミチシルベの解析データだってフェイが……フェイ?」
「――――っあ、ご、ごめんなさい、パパっ」
フェイの「パパ」呼びの癖は治っていない。最近はルドガーも、呼ばれてしまったものはしょうがない、程度に割り切れるようになってきた。
「フェイ、ダイジョウブだよ。ルドガー、怒ってないから。ね、ルドガー?」
「エルの言う通り。――何か気になることがあったか?」
なるべく優しく声をかける。
フェイはおずおずと、2階客室への階段を指差した。
「イタイ声、イッパイだったよ。……10人くらい。みんな、ユリウスって人にやられたって」
――フェイ・メア・オベローンは時に不思議なことを口にする。当人から聞かねば知りえないはずのこと、知らない土地での危険な場所など。まるで透視か千里眼だ。
そういうことがクエストで何度もあったので、ジュードたちも今はフェイの察知力について言及しなくなった。
ジュード曰く「不思議なことには慣れてる」。
「10対1でボコボコかよ。半端ねえな、おたくの兄貴」
「でも、死人はいない、ですよね?」
エリーゼがフェイを見上げる。フェイは一つ肯いた。
「じゃあわたし、その人たちの治療に行きます。みんなは先に行ってください」
若草色の目は決意で固まっていた。ティポの眉毛も気合にVの字型である。
「じゃあ俺も手伝うとすっか」
「エスコートならローエンがいいです」
「ご指名とあらば」
「……ちぇー。フラれちまった~」
そんなエリーゼたちのやりとりを聞いて、ルドガーの右隣にいたフェイは、揺らめくように笑んだ。
後書き
魔法の呪文「不思議なことには慣れてる」。これある意味最強ですよね。作者の中のジュードは大体のことはこれで受け入れちゃいそうなイメージがあります。
フェイがルドガーの「右」隣にいますのはですね、フェイスチャットをご覧になっていただければわかると思うのですが、ルドエルの立ち絵はルドガーから左にエルがいるポジションなんですね。つまり左はエルたんのモノ。ルドエルぷっしゅですからね~。
フェイにどうしてエージェントの現状が分かったかはまた次々回くらいをお待ちください<(_ _)>
ページ上へ戻る