とある星の力を使いし者
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第131話
九月三〇日。
九月末日であるこの日は、学園都市の全学校が午前中授業となる。
理由は単純で、明日から衣替えだからだ。
東京西部を再開発し、都の三分の一もの面積を誇るようになった学園都市は、一八〇万人前後の学生を抱えている。
となれば衣替え一つを取り上げても服飾業界は大忙しだ。
実質的な採寸や注文は大覇星祭前後に済ませているので、今日行うのは新調した冬服の受け渡しだけとなる。
しかし、そうであっても大混雑が起こる辺りにスケールの特殊性が見出せるだろう。
また、新しい服を「慣らす」意味も含めて、この日から冬服を身にまとうのも風習の一つとなっている。
だが、それも衣替えに縁のない学生にとってはただの午前中授業である。
麻生恭介も縁のない学生に入る。
実際、彼は冬服を着ているが、麻生は事前に冬服を買ったわけではない。
なのになぜ持っているのかと言うと、愛穂や桔梗が麻生の為に用意したのだ。
ちなみに麻生は自分の服のサイズを二人に教えた事はない。
それなのに、二人から受け取った冬服はサイズはピッタリだった。
その理由を聞いた麻生に、愛穂はこう答えた。
「冬服を買う時はもの凄く混むから、事前に用意した方が楽じゃん。」
と、答えているようで全く答えていない答えを言われ、結局聞く事はできなかった。
その時、桔梗は笑いを堪えているのを見て麻生は首を傾げた。
それに気がつき、桔梗がこっそりと麻生に言った。
「愛穂はああ言ってるけど、わざわざ君の健康診断の資料を取り出して、服のサイズを考えて買ったのよ。」
「何でそんな面倒な事をしたんだ?
俺に聞けばいいだろ。」
「私もそう思って聞いたら何て言ったと思う?
『ウチの方が年上なのだから、お姉さんぽく行動しないと駄目じゃん。』って言ったのよ。
どうも、君が愛穂の世話をしているのが納得いかないみたいね。」
小さく笑いながら桔梗は答えた。
そんなこんながあり、麻生は今は冬服を着ている。
今は三時間目と四時間目の間にある、一〇分程度の休み時間である。
いつもの麻生なら、授業が始まるまで窓の外の風景をぼぅ~、と眺めているのだが、今回は珍しく大きな欠伸をして、眠そうな表情を浮かべて、教室内の風景を見つめていた。
「珍しいわね。」
と、前の席に座っている生徒、吹寄制理が麻生に話しかける。
つい先日まで大覇星祭実行委員を務めていた責任感の強そうな少女で、黒い髪を耳に引っ掛けるように分けた髪型に、学生にしては大きめな胸を持っている。
規則にうるさそうな雰囲気を醸し出していて、今も休み時間なのに早くも次の時間の教科書やノート類などを机の上に出している。
服装は長袖のセーラー服で、スカートが若干短い事を除けばスカーフから上履きまでも何もかも定規で測ったように規格統一されていた。
「何がだ。」
眠そうな顔をしながら制理に返事を返す。
「いつもなら外の風景を呆然と見つめているのに、今まで見た事もないような眠そうな顔をして、さらに教室内を見つめている。
だから、珍しいって言ったのよ。」
「お前、よく俺の事を見ているな。」
「なっ!?
き、貴様が問題児だから、何か問題を起こさないか観察していただけよ!!」
「そうか・・・・ふぁ~~~・・・・眠い。」
「本当に眠そうな顔をしているわね。
昨日、何かしていたの?」
「まぁな、ちょっと面倒な事を手伝わされていてな。」
「ふぅ~ん。
それで何をやってたのよ?」
いつもなら答えない麻生だが、頭が半分寝ているのか素直に答えた。
「ある女性に家に来い、って言われたから行って、それで色々していたら朝になってな。」
「はっ!?」
麻生の発言に制理だけではなく、その麻生の言葉が聞こえた生徒全員が同じ声をあげた。
それもそうだ。
麻生も思春期の男子生徒だ。
そんな彼の口から、誤解しか生まない発言を聞いたら誰だって声をあげる。
それが麻生恭介なのなら、衝撃が普通の男子生徒とは比較にならないだろう。
周りの生徒は麻生について、小声で話し合う。
(おい、あの麻生が朝帰りだと!)
(しかも、女の人の家に行ったと言っていた!)
(つまり、あいつは我々よりも早く大人の階段を上ったのか!?)
(あの麻生君が・・・・)
(絶対にフリーだと思って私、狙っていたのに。)
(でも、あの麻生君だから何かとんでもないオチがあるかもしれないわよ。)
(た、確かに。)
(それを今、確かめる事ができるのは・・・・)
周りの生徒の視線が制理に集中する。
その視線に気がつかないほど、制理も制理でテンパっていた。
あの麻生からまさかの発言を聞いた制理は顔を真っ赤にしている。
普段の麻生なら周りの小声などは気がつくのだが、睡魔にやられており、全く気がつかない。
「そ、それで、その・・・色々って何をしたのよ。」
(吹寄、GJ!!)
まさに周りの生徒の一番聞きたかった事を制理は麻生に聞いた。
周りの生徒は麻生の言葉を、一言一句逃さないように、集中する。
「ああ、それは」
と、麻生が答えようとした時だった。
突然、教室の扉が勢いよく開かれる音が聞こえた。
麻生を除いた全員がその音の方に視線を向ける。
「吹寄はいるかーっ!?」
その声を聞いた制理はわずかに身を退かせた。
相手は上条、青髪、土御門というクラスの三バカ(デルタフォース)である。
その三人を見た制理も一気に冷静さを取り戻す。
これまで数々のトラブルを起こしてきたこの三人だ。
真っ赤な顔は数秒で元に戻る。
(正直、変な空気だったから助かったかも。)
周りの空気も麻生から、そのクラスの三バカ(デルタフォース)に視線が向いている。
制理は珍しくこのクラスの三バカ(デルタフォース)に感謝しかけたときだった。
上条の開口一番の声を聞いて、一瞬でその感謝の気持ちがぶち壊される。
「一生のお願いだから揉ませて吹寄!!」
ビキリ、と一発で巨乳少女の頭の中から変な音が聞こえた。
飛び掛かってきた土御門元春と青髪ピアスを正拳で迎撃し、その二人の薙ぎ倒されっぷりを見て顔を引きつらせる上条当麻に硬いおでこを叩きつけて吹き飛ばす。
ゴロンゴロンと転がっていく悪党達を見下ろして勝者吹寄が両手の掌をパンパン叩いて埃を落していると、そこへ身長一三五センチの女教師、月詠小萌が教室へ入ってきた。
「さーて皆さん、本日最後の授業は先生のバケガクなのですよー・・・・って。
ぎゃあああ!?ほのぼのクラスが一転してルール無用の不良バトル空間っぽくなっていますーッ!?」
いきなりの惨事にうろたえる小萌先生に、さっきまでの雰囲気はどこに行ったのか吹寄は極めてクールな顔で言う。
「平和のためです。」
「一体何があったのですか!?
吹寄ちゃんが平和維持部隊みたいになってるのです!!」
小萌先生の泣く寸前の声が届いたのか、うう、と上条が呻き声をあげる。
上条は床に倒れたまま言った。
「せ、先生・・・別に誰が悪かったという訳では・・・・」
「じゃあなんでこんな事にーっ!?」
嘆く小萌先生に、上条は吹寄制理の顔から少し下あたりをふらふらと指差すと。
「ただ、吹寄さんはすごく気持ちよさそうなのを持っているのにちっとも揉ませてくれないんですッ!!」
その一言で小萌先生は顔を真っ赤にするとバタンと真後ろに倒れ、それを確認するまでもなく吹寄制理が追撃の拳を握り締めてゆらりと迫ってきた。
そんな殺伐とした光景の中、麻生は大きな欠伸をして呟く。
「眠い。」
それがきっかけなのか、クラスの三バカ(デルタフォース)の叫び声が聞こえる中、麻生は全く気にすることなく机に突っ伏して寝るのだった。
後書き
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