とある星の力を使いし者
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第130話
日付が変わる前、深夜と呼べる時間帯。
ロンドンのランベスにある一角には、イギリス清教徒のための寮のようなものがあった。
そこを積極的に利用するのはお金がない者・・・・ではなく、不意の襲撃に民間人を巻き込みたくないと思っている人間だ。
周りの全てがプロの人間なら、戦闘が入っても被害は最小限で済む。
「そうですか、ご苦労様です。」
そんな寮の一室で告げたのは、神裂火織だ。
東洋人の顔つきで、黒い髪はポニーテールにしても腰まで届くほど長い。
服装は脇で絞った半袖のTシャツに、片足を根元の所でぶった斬ったジーンズである。
本当はさらに二メートル近い大刀「七天七刀」を腰に携えているのだが、今は壁に立てかけてある。
彼女が向かっているのは人ではなく電話機だ。
古風なダイヤル式のもので、赤い陶器に金箔で縁取りされた、完璧にアンティークな一品だった。
ちなみに電話の相手は土御門元春である。
「にゃー。
っつか、結果報告なら同じ天草式に尋ねろっつーの。
情報探るこっちだって割と危ないのよ?
そこんとこ分かってんのかにゃー?」
「いっ、今の私はもう天草式の人間ではありません。
馴れ馴れしきも語り合うなど、考えるだけで傲慢というべきものです。」
神裂は受話器のコードを人指し指でいじりながら言う。
「大体、どの道あなたはヴェネト州近辺の情報を収集していたでしょう。
タイミングが良すぎるんです、天草式の面子が引っ越しの手伝いでキオッジアへやってきた事も、そしてあの少年達が禁書目録と一緒にイタリアへ入ってきた事も。」
「まぁ、キョウやんに関しては天草式の連中が、お詫びにと思って誘ったらしいから、偶然と言えば偶然だぜい。
それにしても、ねーちん。」
「な、何ですか。」
神裂は妙な間延びした土御門の声に、逆に警戒心を高める。
そしてその予測は間違っていなかった。
「・・・・ねーちん、今回もキョウやんに大迷惑をかけちまったにゃー?」
「ぶっ!?」
ただし、ダメージは神裂火織の許容量を振り切ったが。
「もーどうすんのよー?
ねーちん、こりゃすでにメイド服を着て一日御奉仕程度じゃあ収まりつかねーぜい。
あっ、それならこれでどうだにゃー。
オレが持っている頭の輪っかと白い翼の女天使セットを貸す!
メイド服+aだ、勝負に出ろよねーちん!!
う、うおおっ!何が天使セットだちくしょう、こんな可愛げな堕天使が玄関にいたらキョウやんはどうなっちまうんんだ!?」
おそらくドン引きするだろう。
「どっ、どこまでも馬鹿げた事を・・・ッ!!
大体どうしてあなたはそんなものを所持しているんですか!?」
「あーいや、本当は舞夏のために買ったんだけどにゃー。
あの義妹、「メイドはコスプレじゃねんダヨ」の一言と共に拳でオレの頬骨を打ちやがって・・・。
いや、女の子の仕草として軍隊仕込みっぽい本気拳ってどうですにゃー?」
「妹君は年頃なのですから、もう少し配慮があってもよろしいのでは?」
思い切り脱力しかけた神裂だったが、そこでハッとした。
本題はそこではない。
「ちょっと待ってください。
今回の件はあの子達が偶然、麻生恭介を誘った事が原因でしょう。
そこにどうして私が関わるのですか!?」
「ああーん?
じゃあねーちん、キョウやんに対して何も感謝してない訳?」
「ううっ!?」
「せっかくキョウやんは天草式の皆さんを謎の巨大生物から守ったというのに、それに対して感謝ゼロどころか私は関係ありません宣言ってか。
堕ちたねー神裂火織。
キョウやんがこれ聞いたら落胆するぜい。
最近のアイツは妙に優しくなっているから、「気にするな。」って言う筈だぜい。」
「ううううっ!?」
土御門の言葉に神裂は壮絶な選択を迫られているのか、凄く困ったような顔をしている。
それが電話越しでも分かるのか、土御門は必死に笑いを堪えた声が聞こえる。
それを聞いた神裂は一気に落ち着きを取り戻し、言う。
「土御門、あなたは私をからかっているでしょう?」
「い、いや、そんな事はないぜい。」
神裂の殺気の籠った声に土御門はどもりながらも言う。
「まっ、この話は一旦置いといて。
オレが連絡したかったのは、今回の一件で出てきたクラーケンの事だ。」
だが、次に聞こえてきた土御門の声は魔術師のものだった。
神裂はそれを聞くと、表情を引き締める。
「確か、アドリア海に突如現れたらしいですね。」
「ああ、クラーケンって言えば神話に出てきてもおかしくない生物だ。
それがどうして今になって現れたのかという事だ。
しかも、報告によればそのクラーケンの姿は文献に出てくるクラーケンとは少し違うらしい。」
「どういう事ですか?」
「これはオレの予測だが、あれは誰かが創ったクラーケンなのかもしれない。」
「何を馬鹿な事を。
もしそれが本当なら、魔術界にその名が知られている筈です。」
「それと思う一つ。
そのクラーケンはキョウやんを狙っていたらしい。」
土御門の言葉に神裂はピクリ、と反応する。
「何が狙いでキョウやんを狙ったのかは、分からない。
もしかすると、キョウやんはオレ達が想像している以上の何かに追われている可能性がある。
それもキョウやんも知らない何かに。
上の方も、今回の一件で少しばかり調査をするらしい。」
「それと私に何の関係があるのですか?」
神裂は凛とした声で聞き返す。
「まぁ、つまりオレが言いたいのは、早い事堕天使メイド服で御奉仕しないと、するタイミングが逃してしまうぜい。」
「ぶっ!?」
突然の不意打ちに神裂は慌てた声で抗議する。
「あ、あなたと言う人は!!」
「にゃははは、堕天使メイド服が欲しかったらいつでも連絡してくれてもいいぜい。
すぐに届けに行くからにゃー。」
「誰が借りるか!!」
と、全力で受話器をフックに置いた。
バチカン、聖ピエトロ大聖堂。
ローマ正教の総本山たる世界最大の聖堂に、その静謐な空気を荒々しく引き裂くような足音が響く。
闇に包まれ聖堂を歩くのは二人の男女だ。
ステンドグラスから差し込む月明かりはあまりに弱く、二人の細部は分からない。
浮かぶのはシルエット。
一人は老人らしき、腰の曲がった男のもの。
そしてもう一人は若い女性らしき、メリハリのある人影だった。
その女性は男に向かって一枚の用紙を突き出す。
「これに目を通してサインしなさい。」
男はその用紙を黙って受け取り、その内容を確かめ、男は女性に視線を向ける。
「これは・・・・」
「内容が分かったのなら、陽が昇る前にやりなさいよ。
アンタのサインには力があるんだから。
自分の名前を書くコトぐらいすぐに終わるでしょ。」
「それがローマ正教に対する口のきき方か。」
教皇と呼ばれた老人は再び、用紙に視線を落とす。
「しかし、この内容。
お前達だけでいけるのか?
報告によれば、かなりの能力を有していると聞いたが。」
「それに関してはご安心ください。」
声はその女性の後ろから聞こえた。
老人は後ろに視線を向けると、全身赤いローブを身に纏った人物が立っていた。
この聖ピエトロ大聖堂には何重もの結界などの魔術が施されている。
おそらく、それは世界の教会の中でもトップに入るだろう。
それをこの人物は一つも引っ掛かる事なく、此処にやってきたのだ。
老人は、その人物に疑いの視線を向ける。
「その者は?」
「協力者よ。
例の人物を殺すのを手伝ってくれるらしいの。
少し手合わせしたけど、中々見込みあるわよ。」
「『神の右席』からそのようなお言葉を貰えるとは、恐縮です。」
「そういう事で、準備は万端。
後はあんたのサインだけよ。」
老人は少しだけ間を開け、小さく頷いた。
「よろしい♪」
告げると、女性のシルエットとその人物は闇に消えた。
老人は本能が警報を鳴らしていた。
あの人物は危険だと。
だが、それが分かっていても止める事はできない。
(もしかして、私は悪魔の所業に手を貸してしまうのかもしれないな。)
そう思いながら、自分の居室に戻る事にする。
書類には簡単に訳すと、こう書いてあった。
『上条当麻、麻生恭介を速やかに調査し、主の敵と認められし場合は確実に殺害せよ。』
後書き
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