もしもこんなチート能力を手に入れたら・・・多分後悔するんじゃね?
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第13次封神計画
前書き
みんな鬱は嫌いだよね。
こんなふざけたタイトルで途中までギャグやってたのに何で今更、って思ってる人もいるんじゃないかな。
実際感想でもちょっとツッコまれたよ。でも、最後にはちゃんとスッキリ終わるようにいろいろ考えてるから。
だから皆さん、もう少し付き合って下さい。
昔、おじいちゃんの葬式をした。悲しくて悲しくて、それから数日涙が止まらなかった。
昨日まで元気だったと思った矢先の、永眠。棺桶から顔を見せるおじいちゃんの鼻や口に詰め物がしてあるのを直に見て、温もりの無くなった顔を触り、それで初めて「ああ、死んだ人は生き返らないな」という事実を確認した。
身体が小さかったのでお墓の中に骨壺を入れる役目を任されたときは、おじいちゃんがあの狭い空間に永遠に閉じ込められるような気がして、でも誰かがやらないといけないから納骨してあげた。
お墓に線香をあげて最後の別れを告げ、再び泣いた。
数年後、おばあちゃんが死んだ。その頃にはもう何度か葬式に参加していたため、おじいちゃんの時ほど涙は出なかった。人の死に慣れちゃったんだ、と思い、何となく泣けない自分が嫌になった。
その頃には納骨は業者がやってくれるようになっており、私はおじいちゃんと同じお墓に入っていくおばあちゃんの骨壺を黙って眺めた。
お墓に線香をあげたが、やはり涙はそれほど出てこなかった。おばあちゃんだっておじいちゃんと同じくらい好きだったはずなのに。
次に泣くのはいつだろう?まだちゃんと、涙が出ると良いな。
「ねぇ、ぽんず?」
「ぅなーお」
それはある日の休日の、独身OLが飼い猫と交わした思い出の一つ。
今では決して帰ることの出来ない、過ぎ去りし日。
もしもこんな世界に来たことでぽんずを喪ってしまったというのなら・・・多分、私は後悔するだろう。
もしもこんなチート能力を手に入れたせいでこんな結果を招いたっていうんなら・・・私は後悔している。
~ 第13次封神計画 ~
微かに漂ってきた鉄臭く生臭いその臭気は、明らかに海のものではなく血潮の臭い。
もしや、我々の様に未来を殺された者の中から一般人を無差別に襲うものが出たのか?という疑問を抱いたのはディアーチェだった。
彼女たち自身は現在の自分たちの状況に関しては楽観も悲観もしていない。単に我の強かった自分たちが、意識集合体などという曖昧な形になるのを拒絶した結果この世界に形を得たというだけの話である、というそれだけの認識だった。ただ、無為に消えるのが気に食わないから最後まで自分らしくありたい、と考えたディアーチェは取り敢えず家族とも家臣とも言えるシュテル、レヴィ、ユーリの3人と事の顛末を見物しようと考えていた。
刹那的な生き方というか諦めているというかそんな風に受け取れるもしれないが、彼女たちは自分がこの世界に存在しないという事実を既に認識しているのでさほど気にしていなかった。というかぶっちゃけ思念体になって漂っていたときに”正の思念の流れ”っぽいものを発見していたためここでの体が無くなったらそちらに遊びに行ってみようかなどと呑気なことを考えていた。
(本人たちは気付いていないが、それは正思念集合奔流にして現世の事象の糸に触れる”無限力”のことである。考えなしに近づいたら対消滅の可能性もあったのだが、彼女たちは割とグレーな存在なので大丈夫だったりする)
が、蓋を開けてみれば何故かユーリだけが別の場所に顕現してしまったようで大慌て。とはいえ直ぐにユーリが少しずつこちらに近づいているのを感知し皆で迎えに行くこととなったのだが、その最中に冒頭の血の匂いに話が戻る。
もしも無辜の民が犠牲になっているのならばあまりいい気はしない。が、臭いはそれほど強くないから人のものではない、若しくは事故による出血なのかもしれない。それを気付いておいて放っておくのも気が引ける。
よってディアーチェは血の臭いの大元を見極め、必要あらば処置を施す役をシュテルに命じたのだった。なお、シュテルが選ばれた理由は王が直接赴く程ではないが、レヴィに行かせたら色々不安だという妥当なんだか違うんだかよく分からない事情からである。
前置きが長くなってしまったが、とにかくシュテルは件の血の発生源にあっさり辿り着いた。
そこには砂浜に座り込んだ血まみれの少女と絶命した一匹の大きな猫が、時が止まってしまったかのように動かず鎮座していた。
少女の側頭部には治り掛けの大きな傷があった。彼女の体に付着する血液の半分ほどはそこから出たものだろう。並の人間ならば意識を失い最悪死亡するであろう傷が自然治癒している所を見るに”まとも”な人間ではないようだ。
彼女の身体に付着する残り半分の血液は、彼女の横で凄惨な断面を晒している猫が死亡した際の返り血であろう。この2つの出血こそが血の臭いの大本だろうとシュテルは断定した。
「この猫は?」
「・・・・・・・・・」
「・・・大切な猫だったのですね」
「・・・」
こくり、と首肯した少女はしかし、言葉を一言も発しなかった。
シュテルは彼女の顔を覗き込み、少しばかり驚く。
虚脱。喪失。亡失。そのどれともはっきりつかない、存在としてまだ幼いシュテルには判別の付けられない、鬱屈のようなものが積み重なって動けなくなってしまったような眼であった。ふと彼女の手を見ると、爪が皮膚に食いこんで血が滲んでいる。それは彼女の心の何かを抑圧した結果なのだろう、とシュテルは推測する。
何か言葉をかけるべきなのだろうか。しかし、何と声をかければいいのか分からない。ひどくもどかしいが、何も言わずにその場を去ることはしたくなかった。これは、自分の感情だろうか?それとも自分の素体となった”あの世界の”高町なのはの感情だろうか?彼女の今の姿を「痛々しい」と感じたシュテルは、その自分とそれほど外見年齢の変わらない少女の傍を離れなかった。
「・・・ねぇ」
「何でしょうか」
少女が口を開く。その声は生気や活力が感じられず、そして少し上擦っている。少女はゆらりと首を動かし、近くにしゃがみ込んでいたシュテルの方を自分の意思で見た。
「動物を生き返らせる魔法って、ある?」
「・・・」
少し、言葉に詰まったような気がした。真実を言えば彼女はどんな顔をするのか。ヒステリックに怒るだろうか。堰を切る様に泣きわめくだろうか。はたまたその顔のまま再び掌に爪を食いこませるのか。その感情が頭をよぎったからこそ詰まったのかもしれない。
しかし、結局シュテルはそれらの事を深く考える前に、事務的に自分の知る限りの知識で返答した。
「生きとし生けるものには魂魄が存在し、生命活動の停止と共にそれは徐々に霧散し完全に消滅します。消滅した魂魄を再構成する魔法は私の知る限り存在しません」
「・・・そっか」
「一番近いのは”使い魔の呪法”と呼ばれる魔法ですが、使い魔はその空っぽの肉体にプログラムで構成された人造魂魄を押し込むことで動かす仮初の命に過ぎません」
「・・・・・・」
「なお、人造魂魄は霧散する魂魄を一部吸収することによって初めて機能するため生前の魂魄の情報が僅かに残ることはありますが、形式・実質共に元の動物と同一存在とは言えないでしょう。それと、死後数分以上経った生物は使い魔の呪法を行っても人造魂魄による魂魄吸収が出来ないため肉体に定着しません」
「もう、いいよ」
微かな諦念と大部分の諦観を以て言葉を遮られる。彼女の聞きたかった情報はこれで十分に伝わったようだ。
分かっていた、とでも言う風に掌を開き、目を覆うように顔に当て、憎々し気に吐き捨てた。
「バッカみたい。自分で言ったのに。『思ってるほど便利な力じゃない』って、自分でなのはちゃんに言ったじゃん・・・でも」
それでも、諦めきれない。そう続けたかったのではないかのシュテルは推測した。
何となく既視感のようなものを感じる・・・そう、確かリニスという名の闇の欠片が現れた時もこれに少し似たやり取りがあったと聞いたような気がする。
自分はどうだろう?
主であるディアーチェが非業の消滅を遂げたら?盟友レヴィが躯を晒したら、砕け得ぬはずのユーリが砕けたら。
・・・成程、この背筋を走る恐怖と嫌悪、そして激しい忌避感。これが大切なものを失う恐怖なのか。余りにも脆く、今にも弾けてしまいそうな不安が弾けたら、シュテルは自分がどうなるのか想像もつかなかった。目の前の名も知らぬ少女はきっとその先の答えの一つに辿り着いたのだろう。
「最後の最後まで、使えない力だったなぁ・・・ねぇ、ぽんず。私、駄目な子だよ。何にも分かってなかったのに、何でも分かってるふりしてさ。それで死んじゃったんだから、ぽんずは私の事恨んでるよね・・・・・・何言ってるんだろ。心の中ぐちゃぐちゃで何言えば、いいか・・・分かんなくなって、きたよ・・・はは・・・」
不規則に肩が震え、その喉からは途切れ途切れの言葉と嗚咽だけが漏れた。
やがて眼を押さえていた手も降ろした彼女は声を漏らさないように必死に喉を絞りながら涙を流した。こんなに悲しいのだから我慢などする必要が無いだろうに、どうして耐えるのだろう。その疑問がそのまま口をついて出た。
「何故、我慢するのですか?泣きたいのならば我慢しない方がいい」
「う、うっさ、い・・・ぃぐっ・・・知った、ような・・・っ!・・・言わな゛い、でっ・・・!!ぽんずぅ・・・っ!」
何かを決定的に失った経験など欠片もしたことのない自分が、これ以上下手に口を挟むべきではないのかもしれない、とシュテルは一度口を噤んだ。もしもここにディアーチェやオリジナル達が居れば、ユーリを助けた時のように何かしら気の利いた事を言えたのかもしれない。でも、残念ながらいくら記憶と経験を漁っても、彼女を見守る以外の最良と言える選択肢は思いつかなかった。
―――「理のマテリアル」が聞いてあきれる。私の理全てを以てしても、一人の女の子にかけるべき言葉一つ見つけることが出来ないのだから・・・
それでも、彼女を放っておく気は起きなかった。シュテルは簡潔な報告をディアーチェに念話で送り、もう少し時間がかかることを付け加えた。それから彼女の下に歩み寄り、せめてこれくらいはとバリアジャケットの一部を切り離してハンカチ代わりに彼女の顔の血を拭った。
それが、今のシュテルが思いつく彼女に出来る唯一の行動だった。
今度は、拒否されることは無かった。
= = =
どれほど時間が経ったのだろうか。流れ落ちる涙が一応の納まりを見せるまでにそれなりの時間がかかったのは確かだろう。私はどうにか普通に会話を交わせる程度には回復した。そしてそこで初めて私の傍をずっと離れなかった少女の名前を知ることになる。そして・・・
「・・・余計なことかもしれませんが一つ。使い魔の呪法を用いて、損傷の激しい遺体を形だけでも元通りにする事くらいなら可能です」
そうシュテルちゃんに言われて私は少し驚いた。私たちの尺度で言う「納棺師」のような仕事をしている人の知識だろう。何所となくなのはちゃんに似ているシュテルは相当物知りなようだ。
少しの間思案し、私はぽんずの遺体を形だけ修復してもらうことにした。
「・・・うん、流石にこの姿のままじゃ可哀想すぎるよね。ぽんずは女の子だもん、この姿のままは・・・嫌だよね」
じわり、と涙が再び溢れ出るのを感じる。いつまでも彼女に心配されててはいけないと強がって見せたが、体は正直なようだ。御見通しだと言わんばかりによく分からない材質のハンカチを差し出され、なんだか情けない気分になった。
ぽんずを喪ったせいなのか血を流したせいなのか、私の足取りは少々おぼつかなくなっている。ふらふらしている時はいつもぽんずが支えるように隣を歩いてくれたのだが、と無意識にまたぽんずを頼ろうとしてしまう。
―――家族を喪って平気な人なんていない、か。
そんなのは当たり前の事だろうに。今だってほんの少し気を抜いたらまた崩れ落ちて泣いてしまいそうな気分なのに。自然治癒した掌に、不甲斐無い自分やあの闇の書を名乗る女への怒りを爪に乗せて突き立てそうになるのに。
闇の書を感情に任せて殺すことは出来た・・・と思う。四宝剣は私の感情の爆発に相応しい力であの女を塵芥に帰すことが出来ただろう。それでもそうできなかったのは、自分が望んだことを彼女が実行したに過ぎない事と、ツヴァイに続いて今度は直接手を下そうとする自分が狂ってしまわないように精神が歯止めをかけたからだ。
最低の更に下、餓鬼道か畜生道に堕ちるのを怖がって、これ以上の”責任”を負いたくないと無意識に保身に走った私に、彼女へ怒りを向ける資格など無い。
シュテルちゃんがメカメカしい杖のようなものを掲げると同時に砂浜に桜色の光が収束する。力の循環を現す円とそれに法則性を持たせる図形と見たことのない文字が立体映像のように浮かび上がり、強い光が奔った。
光が晴れた先には、シュテルちゃんが言った通り両断されていた身体がきれいに結合されたぽんずがいた。
本能的に、目を逸らす。
それ以上ぽんずの亡骸を見つめては、綺麗な体に戻ったぽんずが実は生き返ったのではないかという錯覚を覚えてしまいそうだったから。ありもしない希望に縋ると、現実を思い知らされた時が余計に悲しい。
「ナエ、でしたね。貴方は・・・強いです」
「そんな事、絶対ない・・・臆病なだけ、逃げてるだけ」
「臆病であることと弱い事は、イコールではありません。嫌なことから逃げて周りに当たり散らすよりも、そうやって事実を理解しようとする姿勢を取る方が難しいですよ」
「そう、なのかな」
「私はそう思います」
そう言ってシュテルちゃんはほんの微かに微笑む。私はそんな彼女に思わず動揺してしまった。私は事実を目の当たりにしてこれ以上自分が傷つかないように保身しているに過ぎない。だがシュテルちゃんが言いたいのは「自分の心にある傷や嫌な感情を自覚することが難しい」という事だろうか。
どうにもむず痒い。彼女からは腫れ物に触るような同情が感じられないが、確かな思いやりや気遣いが感じられた。勝手なイメージだがお世辞ばかり言う人間も見えない。そんな風じゃないのに、とも思うが、少しだけ―――ほんの少しだけだが、気が楽になったような気がした。
自分の中を渦巻く感情の渦は収まる気配を見せない。今はほんの少し見えにくくなっているだけで、また何かの拍子に感情が溢れ出すだろう。それでも、そんな壊れかけの私にそっと手を添えてくれる人がいるなら―――彼女の言う強さを当てに、今度こそ逃げずに生きていけるのかもしれない。ぽんずの死を受け入れる小さな切っ掛けぐらいには。
―――ありがとね、シュテルちゃん。
ここで何で声に出して言えないかな、と情けなさに被りを振り、改めてシュテルの方を見た。すると、シュテルは先ほどまでの無表情から一転、険しい顔で顎に手を当てていた。
「・・・シュテル?」
「・・・すみません、ナエ。貴方はここで待っていてください。決して町に近づいてはいけませんよ」
「へ?ちょっと、急にどうし―――はぶっ!?」
咄嗟に彼女を呼び止めようとして、顔が桜色の半透明な壁にぶつかった。これは―――結界だ。リインフォースに知識だけ習ったミッドチルダ式の半円結界。一般人を閉じ込めるには十分過ぎるほどの強度があるようだ。シュテルは一瞬申し訳なさそうな顔をすると、さようなら、と一言残して空を飛んで行ってしまった。
その直後、苗ははやてからの念話でシュテルの態度の理由を理解すると同時に、収まっていた感情を再び爆発させることになる。
後書き
エアコン新調してもらったのでネガティブ展開はそろそろ終わりにしたい。
何で速く書こうと思えば思うほど文字数増えるんだろうか・・・
何とか平静を取り戻したと思った?残念、これから本番です。
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