戦国異伝
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第百四十六話 闇の仕掛けその三
「そうした方であることがわかりました」
「それがしもです」
明智は再び細川の言葉に頷いた、今の顔は無念そうな顔であった。
「これでは」
「これからどうされますか」
細川は真剣な面持ちで明智に問うてきた。
「一体」
「これからのことですか」
「はい、そうです」
問うたのはこのことだった。
「どうされますか」
「それがし、実は」
一呼吸置いてからだ、明智は細川に答えた。
「右大臣殿こそがです」
「天下人に相応しいですな」
「そう考えています」
こう話すのだった。
「今は」
「確かに、そのことは」
細川も明智に応えて言う。
「それがしも思っています」
「細川殿もでしたか」
「少なくとも最早幕府には」
「そうですな、とても」
「あまりにもです」
力がなくなっている、それにだった。
「徳もまた」
「そうですな」
「義輝様の死は弑逆にとどまりませんでした」
幕府そのものが死んだというのだ。
「まさにそれだけのものでした」
「確かに」
「天下は治められなければなりません」
それに足る者にだ、明智が言うのはこのことなのだ。
「そしてそれはです」
「右大臣殿しかおられませんね」
「そうですな、それでは」
「この青い服をです」
織田の青、まさにそれである。
「これからも着ていきたいものです」
「それがしもです」
細川もだ、ここでこう言った。
「では今から」
「はい」
明智は細川のその言葉に応えそしてであった。
二人は信長の名代である信行の下に向かった、それは二人だけでなく幕臣達のほぼ全てであった。残ったのは。
天海と崇伝だけだった、二人だけは義昭の下に控えていた、そのうえで。
彼は二人でだ、こう義昭に言ったのだ。
「何、本願寺のことはです」
「何もお気に召されることはありませぬ」
確かな言葉でだ、彼に囁く様に言うのだ。
「ですからご立腹なされずに」
「落ち着かれて下さい」
「何故じゃ、それは」
義昭はまだ本気で怒っている、それでも二人に言われてだった。
何とか落ち着きを取り戻しそのうえであらためて二人に問うた。
「顕如めは余に楯突いてきたのじゃぞ」
「ははは、顕如殿がそう仰いましても」
「憂いはむ様です」
「あの方が仰ってもです」
「動くものは動くのです」
「そうなのか」
「はい、そうです」
この言葉は二人が同時に言った、まるで闇の中から二人の声が聞こえて来たかの様である、義昭は気付いていないが。
その片割れの天海がだ、こう言うのだ。
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