戦国異伝
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第百四十六話 闇の仕掛けその二
「やはり織田家に何かしますのは」
「よくありませぬ」
「この御所も右大臣殿が建てて下さいました」
「二条城もです」
まさに全て信長の助けによるものだ、だからだった。
「ですからここは顕如殿の仰る様に」
「何もしないべきです」
「右大臣殿も全て公方様、幕府のことを思ってです」
「何かと仰るのですから」
「ええい、黙れ黙るのじゃ」
義昭はその癇癪を幕臣達にも向ける。見れば幕臣達は皆青い服に冠だ。
その彼等にだ、義昭はこう言うのだ。
「そもそも御主達もじゃ」
「!?我等ですか」
「我等が何と申されますか」
「どうせ顕如と同じであろう」
立ち上がり甲高い声での言葉だ。
「余を愚弄しそして右大臣が正しいというのであろう」
「いえ、それは」
「滅相もありませぬ」
幕臣達はその癇癪にやはり呆れながらも応える。
「我等は幕臣です」
「ですからそれは」
「ふん、どうであろうな」
その青い服の者達にさらに言う。
「御主達は皆織田家の服ではないか」
「・・・・・・・・・」
そのことを言われると彼等もおし黙った、織田家の色が青であることは天下の誰もが知っていることだ。その服を着ているからにはだ。
「それで幕臣も何もないわ」
「ですがこれは」
「我等も禄は」
織田家から貰っている、それで青い服と冠なのだ。
それでもだ、こう言ったのである。
「右大臣殿からのご恩ですので」
「それを表していますので」
「言いおったな」
義昭は彼等の言葉にいよいよ顔を歪めさせた、それでだった。
これまで以上に怒り狂いだ、皆に叫んだ。
「ええい、下がれ!皆下がれ!」
「あの、公方様」
「本当にここは」
「言うでないわ!とっとと下がれ!」
皆下がらせた、そしてであった。
幕臣達は去った、皆慌ただしく去る。その中には明智達もいた。
明智は義昭の前から退出しながらだ、こう細川に言った。
「顕如殿が正しいと思いますが」
「はい、それがしもです」
細川も確かな顔で明智に答える。
「他の家に文を送り織田家を攻めさせるなぞ」
「あってはなりませんね」
「そう思います、天下に余計な乱を起こすだけです」
「全くです、しかし公方様は」
「今でどの方もおわかりになられましたな」
ここでこう言った細川だった。
「公方様はああした方です」
「ですな、確かに」
「あれではどうしようもありませぬ」
細川は嘆息しつつ述べた。
「最早」
「確かに。残念ですが」
明智も眉を曇らせて応える。
「あの方は最早」
「誰の言葉も聞かれませぬ」
「我等の言葉は」
「そして無闇に騒がれるだけです」
己の立場も弁えずそうしているだけだというのだ、それが義昭だというのだ。
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