“死なない”では無く“死ねない”男
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話数その8 捕まらない
教会へと一人になりに行き、堕天使達からの追い打ちを受けた夜……その翌日。
遅刻してきた(一時間目が嫌な授業でダルかった為)晋は、教室がいつもよりも騒がしい事に気付く。 会話の内容から察するに、どうやら兵藤一誠率いるエロ三人組がいるクラスへ、外国人の少女が転校してきたらしい。
その転校生の名前は、アーシア・アルジェントといい、金髪碧眼で大人しそうな美少女だと言う事だ。
本来ならば美少女の話題ならば、男は真っ先に食いついて行く筈……しかし、何処か枯れている晋は、如何でもいいと言わんばかりに頭を掻き、教室の隅にある自分の席に座って、コーヒー牛乳を一気飲みする。 他の男子が、見に行ってみようかだの、もし話しかけられたらどうするかだの話しているというのに、この男は寝足りなかったのか机に突っ伏して寝始めた。……本当にこいつは高校生なのだろうか? どれだけ地味な男子でも、耳ぐらいは傾けると思うが……。
そんな彼を、投下から見つめる目が四つ。一人は髪の色が薄い男子生徒で、一人は黒髪の女子生徒であり、腕に生徒会役員の証であるバッジが付いている。
実は彼等は支取の使いであり、彼女に晋を監視するよう言われ、こうして監視しているという訳だ。 彼女等から見て特に目立った行動をする事はしていない(彼等が見ていない所ではしているが)のだが、それでも警戒は怠らぬようにと、隙あらばこうして見張りを立てている。
……十字架を怖がったこと、そして生徒会のメンバーを見張りに使っている事、晋を怪しいと疑っていることなどからもう分かると思うが――――支取もまた、グレモリーと同じ“悪魔”なのだ。
だが晋は、自分が監視対象であるとも知らず、気持ち良さそうに寝ている。……時々、幾ら怖い人でも寝顔は可愛い、と言われる事があるが、晋は寝顔もかなり不気味に見える。ので、気持ち良さそうか如何かは分かりづらかった。
しかし、晋は大したものだと思う。支取に監視され、グレモリーに行方を追われ(正体は分かっていないが)、それでも見つかっていないのだから。これまでも、そしてこれからもずっと、彼はその正体を隠しながら、彼女達を引っかき回していく事だろう。
彼にっとっての“ダルい事”を時に受け、時にかわしながら。
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……前言撤回する。
『ウグルルッルゥゥウ!!! ガウウァアアア!!』
「……何だってーの……俺が何したっつーの……」
なぜならば……今、晋は犬のような化け物に追われており、そしてその後ろから―――――
「くそっ!! 早くしないと、一般人が食われる!!」
「っていうか、あの人間足速っ!?」
支取の下僕であろう二人の悪魔が、翼を広げて犬のような化け物と晋を追いかけているからだ。 追いつかれそうになっている所を見ると、バレるのは時間の問題のようだ。 ……というか、晋の性格からして、バレる事をダルいとは思っていても、隠すような事はしないだろう―――彼的にはそっちの方がダルいのだから。
『ガルルルゥゥゥゥウウウアアアァァア!!!』
「……うるせーなぁ……何でお前の眼の前横切っただけで追われにゃならんのだ……ちゃんと抜き足差し足忍び足……刺し脚だったか? 足の時違った……いや、言ってる場合じゃねぇっての」
化け物から逃走しながら、これだけふざけられる彼はもはや大物と言ってもいいのではないのだろうか? 普通、切羽詰まって声すら出ない筈なのに。
勿論、そうやってふざけていれば――――
『ガブゥ!』
「あ」
『グフ―――グルフフゥウゥフフフ』
「あ~……嬉しそうだな、お前……」
捕まるのは目に見えている。 ちなみに追いかけて居た理由は、目の前を横切ったからではなく腹が減っていたからのようだ。
(……ダルいから、退治は後ろからやってくる奴らに任せるか……あ~、ダリ~……)
そして、化け物は、晋の肉を楽しむべく咀嚼を開始した。
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「はぐれ悪魔は退治出来た……けど……っ!」
「うん……間に合わなかった」
「ちきしょう……ちきしょうっ!!」
支取の眷属たちは、はぐれ悪魔の死骸と共に横たわっている上と下に別れた人間の死体を見、ある者は俯き、ある者は歯を食い縛っている。
主である支取が警戒している男だから、きっとはぐれもなんとかできると思い……その結果がこうなってしまったからだ。
そんな様子の眷属たちを見渡した後、支取は申し訳なさそうな顔で、男の死体に頭を下げる。
「……すみませんでした、灰原晋君。……趣味で十字架を持つ人だっている事を、警戒し過ぎるあまり思いつかなかった……本当に、本当にすみません……」
「……そう思うなら、さっさと土に埋めるなりしてここから去って欲しんだけどな……」
「「「「「―――え?」」」」」
「……あ」
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