戦国異伝
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第百四十五話 安土築城その十三
「ではその席でお会いすればどうでしょうか」
「法主が望まれるなら」
「そうじゃな」
顕如も側近達の言葉に頷いた。
「ではその時はな」
「茶の席で、ですな」
「右大臣殿と」
「茶は人の心も見せる」
このことも知っての言葉である。
「ならばな」
「茶ですな」
「右大臣殿とお会いする場は」
「そうしたい。とにかく織田家とは戦はせぬ」
こちらからは仕掛けないというのだ。
「公方様には逆に拙僧から文を書く」
「どういった文でしょうか、それは」
「諫言になるな」
そうした文だというのだ。
「幕府も織田家に持たれておる、大事にされているとな」
「そのことを書かれますか」
「うむ、公方様にそのことを忘れてくれぬ様にとな」
文の内容についても言うのだった。
「そう書きたい」
「では」
「その文を」
「うむ、書く」
そうするというのだ。
「今からな」
「では筆を持って来ます」
「硯と墨も」
当然紙も用意される、そうしたものを手にしてだった。
顕如は早速文を書いた、そして人を呼びその文をその者に手渡してからこう彼に告げた。
「これを公方様に」
「今からですか」
「そうじゃ、すぐに行ってくれ」
こう穏やかな声で告げたのである。
「そうしてくれるか」
「わかりました、それでは」
「公方様にお渡ししたら拙僧に教えて欲しいことがある」
「それは一体」
「文を読まれた時の公方様のお顔をな」
それを見て自分に教えて欲しいというのだ。
「伝えてくれ」
「はい、それでは」
「頼んだぞ」
こう告げたのだった、そして。
文を送らせた。それからであった。
顕如はあらためてだ、側近達に述べた。
「ではな」
「はい、本願寺としては」
「戦はせぬということで」
「檀家も受けますか」
「天下に従いますか」
「そう考えておる。だが」
これまでの穏やかな様子を隠してだ、顕如は顔を変えた。それは一転して厳しい顔であった。
その顔でだ、こう言ったのである。
「織田家が、右大臣殿が政ではなく武を以て我等に対し」
「そして、ですな」
「そのうえで門徒を脅かせば」
「動く」
そうするというのだ。
「雑賀衆にも伝えよ、その時は」
「織田家と戦うと」
「そう伝えるのですな」
「そして全ての門徒達に伝えよ」
雑賀衆だけではないというのだ、その時動かすのは。
「すぐに灰色の服を着て旗を掲げよとな」
「我等の旗をですな」
「それを」
「そうじゃ、灰色こそは我等の色」
本願寺、彼等のだというのだ。
「悪人の色じゃ」
「この世において悪を為さねばならぬ、ですな」
「悪人ですな」
「そうじゃ、親鸞上人が定められた色じゃ」
悪人は真っ黒ではないというのだ、これは心の底から汚れているどうにもならないものだ、これは本願寺では闇とする。
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