戦国異伝
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第百四十五話 安土築城その十二
「民は太平に包まれようとしておる」
「年貢も税も軽いですし」
「道や堤も整えております」
「田畑も町も城も見違えんばかりです」
「ここまでよくなるとは思いませんでした」
「右大臣の政は己の為の政ではない」
また言う顕如だった。
「それは民の為にある」
「無闇な血は好まぬ御仁かと」
下間の一人が言って来た、代々本願寺に仕える一族の一つでありその中でも名家として知られている家である。
「戦になれば徹底して戦われる方ですが」
「苛烈ではあるな」
「はい、戦の時は」
「そして罪人に断を下す時もな」
信長は悪人は決して許さない、罪を犯した者は何処までも追い捕まえ処罰する、それにより織田家の領内では悪人も少ないのだ。
「一度決めたらな」
「動かれませぬ」
「悪人には厳しく善人は優しいな」
「そうしたことも考えますと」
「右大臣はよき御仁じゃな」
「天下の為にも」
「しかも朝廷にも気配りを欠かさぬ」
顕如からの言葉だ、この言葉も。
「そうじゃな」
「その様ですな」
「朝廷には何度もかなりの額の銭を贈られているとか」
また下間氏のところから声が上がった。
「帝や皇室、公卿の方々とも」
「上を敬うことも忘れぬ方か」
「そうかと」
「ふむ、悪いところはないのう」
政を行う者として、というのだ。
「それではな」
「でjはやはり」
「右大臣殿は」
「会ってみたい位じゃ」
こうも言う顕如だった。
「是非な」
「何と法主がそこまで仰るとは」
「そこまで興味がおありですか」
「右大臣殿に」
「天下の傑物であることは間違いない」
そこまで見ていた、それは信長の政を見てのことだ。
「しかも茶や相撲にも通じておるな」
「田楽等も好きな様で」
「そうした催しも」
「ふむ、左様か」
ここまで聞いて一旦瞑目した顕如だった、そのうえで再び目を開きこうも言った。
「趣味もあるか」
「酒は飲めぬとのことです」
「飲んでも一口程度とか」
「菓子等甘いものが好きとか」
「それで茶を好まれるとのことです」
「では乱れることも少ないな」
酒で乱れる者は多い、これは僧侶の中でもだ。殆どの僧侶が般若湯と称して飲むのが酒というものだからだ。
無論顕如の周りでもそれは同じだ、尚僧籍にあれば本来は妻帯もあってはならないが一向宗については違う。無論顕如も妻がいれば子もいる、だからこのことは問題がなかった。だが酒についてのことを聞きこう言ったのだ。
「それにより」
「そうかと」
「とかく酒には縁のない御仁です」
「成程のう」
「法主も茶はお好きですし」
「そこでお会い出来ますな」
茶は元々仏門から広まったものだ、顕如も当然親しんでいる。
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