とある星の力を使いし者
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第127話
ナタリアが塵になって消滅するのを最後まで見届けた麻生は、後ろで俯いている上条に近づく。
「アレが今の俺の限界だ。
この「ガマリエル」で魂を浄化して、救うという方法しか思いつかなかった。」
「それでも、あの二人は最後まで笑っていただろう。
それでよかったと思う。
俺の右手じゃあ、あんなに安らかな笑みを浮かべて救う事なんてできない。」
「とうま・・・・」
上条は強く右手を握り締めている。
おそらく、自分が何の役にも立たなかったことが凄く悔しいのだろう。
「さて、そろそろ出てきたらどうだ?
お前がそこにいる事は、前から気がついているんだぞ。」
突然、麻生が誰かに言う訳でもなく、後ろを振り向いて言う。
上条とインデックスが首を傾げた時、大きな黒い穴が突然出現する。
その黒い穴からボロボロのフードコートを着た人が現れる。
上条とインデックスはその人物の突然の登場に、驚きを隠せないでいた。
「まさか気がついていたとはな。
そう言えば、この結界は索敵も含んでいたんだな。」
フードを被っていて顔が見えないが、声を聞いた限り男の様だ。
身長は一七七センチ程度だ。
それ以外はコートを被っていて何も分からない。
「で、お前は一体何者だ?
さっきから俺の戦いを盗み見て、何が目的だ?」
「目的と聞かれたら、一つしかないな。
星の守護者が現状、どれ程のモノか見たかったんでな。」
男の星の守護者という言葉に麻生は、ピクリと反応する。
「星の守護者?
恭介、一体何の事なんだ?」
「簡単に説明すれば、俺はこの星を守護する存在らしい。」
「え?・・・・それってどういう・・・」
「詳しい説明を聞きたいのなら俺じゃなくて、そこの奴に聞いてくれ。
俺自身、その星の守護者とはどんなものか理解してないから、詳しく説明する事もできない。」
上条は一瞬、麻生は面倒くさいから適当に説明しているのかと、思ったが麻生の顔を見て、その考えを止める。
何故なら、麻生の顔は今まで見た事もないような真剣な顔をしているからだ。
「あの親子を吸血鬼にしてお前がどれ程のモノか見せて貰ったが、期待外れだったな。」
その男の発言を二人は聞き逃す事ができなかった。
「今、何て言った。」
上条は肩を震わせながら言う。
「だから、俺があの親子を吸血鬼にしたんだよ。
お前の実力を知るためにな。」
「そんな事の為に、あの二人を吸血鬼にしたって言うのかよ!
お前のせいで、あの二人がどんなに悲しんだか、分かっているのかよ!!」
「そんな事に俺は興味はない。」
「てめぇ!!」
男の言葉を聞いて完全にキレたのか、男に向かって走り出そうとするが、後ろから麻生に肩を掴まれ、止められる。
「離せ、恭介!」
「駄目だ、不用意に近づけば死ぬぞ。」
「なっ!?」
麻生は感じ取っていた。
あの男から流れ出る異様な雰囲気を。
身体に纏わりつき、本能が警報を鳴らしている。
あれは自分とは別の存在だ。
でなければ、これほど悪寒を感じる事はない。
この感じは初めてではない。
前に出会ったスーツの男と刀を持った男と同じ感じだ。
だからこそ、麻生はあの男の発言を聞いても、不用意に攻撃を仕掛ける事はできなかったのだ。
「当麻、お前は下がってろ。
今のお前じゃあ相手にならない。」
無理矢理上条を後ろに下げると、麻生は歩いて男に近づいていく。
左手に持っている「ガマリエル」を調整しつつ、五メートルくらい距離を開ける。
「俺の存在を肌で感じ取っていても、戦おうとするか。
案外、命知らずだな。」
「普通なら面倒くさいから尻尾を巻いて逃げるんだが。」
「ガマリエル」のアンカーを男に向けて、麻生は言った。
「お前があの二人を吸血鬼に変えたって言うのなら、話は別だ。
お前をぶん殴らないと気が済まないんだ。」
表情はさほど変わっていないが、親しい者なら分かった筈だ。
麻生が今までにないほどに怒っている事に。
「実力ってのは実際に肌で体験してないと分からない。
いいぜ、相手になってやる。」
麻生は五メートルの距離を一気に詰め、「ガマリエル」のアンカーを男に向かって突き出す。
男はそれを紙一重でかわす。
だが、それを分かっていたのか右手で男の腹を殴りにかかる。
能力の加護もあり、吸血鬼を吹き飛ばした拳だ。
普通の人間が喰らったらひとたまりもない。
(こいつは普通の人間とは違う。
遠慮なくいかせてもらう。)
麻生の拳が男の腹に入りそうになるが、当たる直前で麻生の拳が何かに遮られ、止められてしまう。
何がどうなっているのか分からない麻生は、拳の先に視線を送る。
拳の先には風が集まっており、それが盾になって麻生の拳を防いでいたのだ。
その一瞬の間に、男は人差し指を麻生の眉間に軽く突く。
軽く突いた瞬間、そこから暴風が吹き荒れ、麻生の身体は後ろに吹き飛ばされてしまう。
建物の壁にぶつかるが、その建物を貫き、その先の通りまで吹き飛びようやく止まる。
「くっ!・・・」
歯を食いしばり、能力で身体の傷を治していく。
しかし、眉間に受けた暴風の傷は治療する事ができない。
(この風の感じ。
あのラファルとかいう男の風の魔術と一緒だ。
威力は段違いだが。)
さっきの風で額に傷ができ、血がドンドン流れていく。
しかし、麻生は気にすることなく、「ガマリエル」を構える。
自分が開けた穴の先から男がゆっくりと歩いてきた。
「ほう、あれを受けてその程度の傷で済んだのか。
普通なら頭が吹き飛んでいるぞ。
となると、無意識に防御したのか?」
男はぶつぶつ、と独り言を呟く。
それを見ても麻生は一瞬の油断も出来ないでいた。
(こいつ、強い。
あの刀野郎くらいの強さを持っているぞ。)
「ガマリエル」を強く握りしめる麻生。
「来ないのなら、こっちから行くぞ。」
その言葉と同時に風が吹き荒れる。
(鎌鼬!?)
「ガマリエル」の盾の部分を前に出し、防御する。
その直後、風の刃が麻生に襲い掛かる。
「ガマリエル」のおかげで致命傷はないが、所々に傷を負う。
もちろん、治癒はできない。
加えて、男はその場を一歩も動いていない。
(時間をかけるだけこちらが不利。
なら・・・)
「ガマリエル」を前に構え、男に向かって走り出す。
男の周りに風が吹き荒れると、風の刃が麻生に襲い掛かる。
「リスト・ピッツィカート!」
そう告げると、「ガマリエル」はそれに応える。
盾が光を纏い、幾つもの風の刃を防いでいく。
男に近づけば、近づくほど、刃の勢いと数は増えていく。
それに比例して、麻生の傷もどんどん増えていく。
しかし、確実に麻生は男に近づいていた。
そして、距離が一メートルを切った所で麻生は防御を捨て、「ガマリエル」を構える。
風の刃が麻生の身体をどんどん斬り裂いていくが、それに耐え、麻生は叫ぶ。
「コード・イクトス!!」
「ガマリエル」全体が光に包まれ、それを男に向かって突き出す。
風の盾を突き破り、男に完璧な一撃が入る。
それを受けた男はそのまま後ろに吹き飛び、地面に転がる。
「はぁ・・はぁ・・・」
全身から血を流しながら、麻生は片膝をつく。
男がまだ油断している隙に勝負を決めるつもりだったのだ。
だから、あのような捨て身の攻撃を繰り出した。
(手加減はしたが、軽傷では済まないな。
とりあえず、傷を治療して拘束・・・)
今後どうするかを考えながら、倒れている男に視線を向けた時だった。
男は立っていた。
それも傷も、血の跡も何もない。
その光景に麻生は絶句する。
「もしかして、あれが全力な訳ないよな?」
その言葉が麻生にとって絶望に等しい言葉だった。
後書き
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