| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

“死なない”では無く“死ねない”男

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

話数その2 殺せない

(何で……何で何で何でよ!? 何で……こいつ殺しても死なないのよ!?)


 もう数百回は首を切っただろう、腹に穴をあけただろう、身体を吹き飛ばしただろう。……なのに目の前の男は死なない。しかも中途半端に再生している為、見た目が不気味なことこの上ない。と、男は何処からともなく剣を取り出し、ぐるぐる回し始める。


「あ~……俺の『神器』(セイクリッド・ギア)って便利だろ? 物の出し入れにしか使えないけどな」


 男は聞かれてもいないのに話しだした後、人間とは思えない力で剣を投擲してきた。
 その剣は少女の肩に思いっきり刺さり、その後爆発して少女の腕を吹き飛ばした。


「あ……が!?」
「爆弾仕込みの剣だ、凄いだろ? これ、自作で自前だぜ?」
「あ―――ああっ!!」


 少女は狼狽しながらも光の槍を投擲し、男の肩に突き刺さらせる。直後に、光の爆発という奇怪な現象が起こり、男の腕も吹き飛ばされる。……が、グニュグニュと気持ち悪く断面が蠢いたかと思うと、多少不完全な所がある腕が生えてきた。その不完全な腕も、時間と共に普通の腕へと変化していく。


「おーいてて……腕吹っ飛んだよコレ……如何なってたんだ?」
「あんたこそ――――あんたこそ如何なってんのよっ!?」
「……さぁ?」


 答える気がないというよりは、本気で知らんと言った雰囲気のまま答える男に、少女は本来抱く筈の怒りを抱けず、代わりに恐怖が増していった。


「……んでよ」
「あ?」
「死んでよ!? 死んでよ! 早く死になさいよ!? 死ねよあんたぁ!」
「そういわれてもなぁ……っとお」
「がふっ!?」


 男は何処からともなく取り出したメイスを槍のように放り投げ、そのメイスは少女の腹に当たり、少女は苦悶の声を上げる。

 腹を押さえながら男を怯えた目で見やる少女に、男は呆れた様な視線を向け、呆れた声を投げかける。



「おいおい……たかが“348回殺して死ななかった”ぐらいでそれは無いだろ……。俺から見れば、あんたの光の槍とか空飛ぶ翼とか丈夫な体の方が、怖がるべきもんだと思うけどなぁ……」



 348回……こんな回数殺しても死ななければ、幾ら殺しに慣れていても気が狂うだろう。しかも、頭が取れても銃を撃つ、大穴があいても武器を振るう、体半分が削れても欠伸をする……気が狂うどころの騒ぎでは無い。


「いい加減死んでよ――――死ねよ死ねよ死ねよ死ねよ死ねよ死ねよぉ!!?」
「あ~……うるせぇ……」


 鬱陶しそうに耳をふさいだ男は、ふと少女が居る方向とは別の方向を見やり、大きく溜息をついた。



「喜べ、俺はここから居なくなる……つーか去る」
「は?」
「あんたもどっか行けよ? ……何か変なの来るぜ? 多分」



 それだけ言い残すと、スタコラサッサと男は何処かへ行ってしまった。その様子を呆然と眺めていた少女だったが、状況を理解すると心底安堵した表情をする。


「もう……もう二度と会いたくない」


 向こうは殺しても死なない癖に、此方にはダメージが積み重なっていずれ殺される……事実、少女はもうボロボロで、男が何処かへ行かなければ殺されていただろう。


「さっさとこの場を去りましょう……グレモリーも気付いたようだしね。―――かなり遅いけど」


 そして少女は地面に魔法陣のような物を出現させ、そのまま消えた。



 ―――後に残ったのは、忘れられていた少年の死体のみであった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧