“死なない”では無く“死ねない”男
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話数その1 終わらない
時刻は夕方。
とある公園に高校生の男女が居た。何処かロマンチックな雰囲気を醸し出すその夕日に照らされ、これから告白、またはキスでもするのだろう。そう思われるかもしれないが、少年の方もそう思っていたが……少女の口から出たのは予想もしない言葉だった
「死んで……くれないかな?」
「へ?」
余りに突拍子もないその発言に、少年は目を白黒させている。
「ご、ごめん……耳が遠いみたいだ。もっかい言って?」
「死んでくれないかな?」
やはり聞き間違えでなかったと、とたんにうろたえ始める少年。今ならまだ逃げられるかと下がる素振りを見せたその瞬間、少女の背中から黒い翼が生え、少女は空へと舞い上がった。
「あなたとの今日のデート、稚拙な内容だったけれど、その分初心に帰れたみたいでほんの少し楽しかったわよ。……けど死んでね」
「な、何で!?」
そう言いながら、少女は手に光の槍を作り出し、一切の躊躇なく少年に向かって投げつけた。
「ゴブッ……」
「恨むなら……あなたの身に宿っている『神器』を恨みなさいな」
それだけ言うと、少女は少年を見もせずその場から立ち去ろうとする。しかし―――
「……んだよ……めんどくせぇモノ見ちまったなぁ……」
木陰から小さく聞こえた声に少女は反応し、声をかけた。
「誰かしら? そこに居るのは」
「……声出さなきゃよかった、めんどくせぇ……」
その呟きと共に、頭をぼりぼり掻きながら一人の男が木陰から出てきた。制服を着ていることから学生だという事は分かるが、高身長ためかちぐはぐな印象も受ける。
「運のない人間ね。声さえ出さなかったら生きて居られたでしょうに」
「…今それを痛感しております……っと」
その様子を見た少女は、訝しむような表情で男を見る。それもその筈、男の制服は今殺された少年と同じ学校の物、そうでなくとも人殺しの現場を目撃している。なのに、男は面倒くさそうに欠伸をして、頭をかくのみ。普通なら悲鳴を上げる筈なのに……だ。
「まぁ、いいわ。見られたからには死んでもらうから」
「……ふ~ん」
「馬鹿にしてるの? あなた」
「……さぁ?」
馬鹿にしているというよりは、反応するのが面倒くさいと言った感じの彼であるが、少女はそれで頭に少し血が上ったのか、罵声を浴びせ始めた。
「汚らわしい人間如きが、堕天使であるこの私を馬鹿にするなんて……畜生如きに許さる事だと分かっているの?」
「……」
遂に、面倒くさすぎて答える事すら放棄し、死んでいる少年の元に歩み寄り始めた男に、少女は激昂し光の槍を投げつける。
「死ね!! 下等生物!!」
「……?」
自分の胸から出ている光の槍を見た男は、そのまま立ち止まりバタリと倒れる。しかし、殺すだけでは飽き足らなかったのか、少女は地面に降り立つと男の頭を踏みつけ始めた。
「この、この、この! 人間の分際で!!」
怒りが占めていた筈の彼女の表情は、しだいに愉悦へと変わり、踏みつける力も次第に強くなっていく。
「あははっ、どうよ人間! ……あ、ごめん。もう死んでるんだったけ?」
踏みつけ続ける死体からは、当然のように声は無い。当たり前だ、死んだものが声を発するなど―――
「……そうだ、だからどっか行ってくれ」
「―――え?」
「あ」
出来る筈はない、なのに聞こえてきた。少女のの足元から、しまったと言った感じの声が。
「……この癖どうにかしないとなぁ……損ばっかりだ」
「な……な……!?」
少女は驚愕する。当たり前だ、殺した筈の者が、確実に致命傷となる位置を貫かれた者が、のっそりと起き上がって溜息をつくなど……有り得ない筈なのに。
「さてと……あんた、堕天使だったっけ?」
「に、人間如き―――」
「覚悟しとけよ」
少女の罵声を遮り、男はダルそうに呟く。
「こっから先は……醜い醜い泥仕合になるぜ」
その呟きと共に、男は銃と剣を取り出した。
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