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ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?

作者:あさつき
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
  百二十三話:辛い記憶に上書き

 気のいいみなさんに見送られてカボチの村を出て、ついつい溜め息を吐いてしまったところで、なぜかヘンリーに抱き上げられてしまい、狼狽えつつも意図を確認してみます。

「……ヘンリー!?なにやってんの!?」
「大丈夫に見えないんだよ。モモ、スラリン、コドランも、悪いが」
「ガウ!ガウウ!ガルル!」
『うん、大丈夫!あたしだって結構強いんだから!ドーラちゃんを、お願いね!』
「ま、仕方ねーな。おいらじゃそっちは無理そーだし、外は任せろよ!」
「ピキー!」
『スラリン!だいじょぶ!』
「私だって大丈夫だから!降ろして、ヘンリー!」
「ダメだ」

 ピエールに続いて他の仲間たちも心得たようにヘンリーの言葉に同調して、問答無用で馬車に運び込まれて。


 馬車の中で降ろされたと思ったら、そのまま抱き締められます。

「……ヘンリー。……大丈夫だから。……離して」

 動いてれば余計なこと考えないし、別に大丈夫なのに。

「……無理するなよ。辛かったんだろ、色々、勝手なこと言われて」
「……大丈夫」
「嘘吐くな」
「……」

 大丈夫と思ってるのは、嘘では無いけど。
 辛くないと言ったら、嘘になる。

「……ちょっとは、辛かったけど。でも、大丈夫だよ。私にはみんながいるんだし、村にもわかってくれる人はいたし。あんな人たちに、どう思われたって」
「それでも。辛かっただろ」
「……」

 これでも、我慢して顔に出さないようにしてたつもりなのに。
 そんなに、顔に出てたのかな。

「我慢しなくていいから」
「……でも。みんな戦ってるのに、私たちだけ」
「大丈夫だから。みんなも強いし、回復だってピエールがいるし、薬草もある」
「……だけど」

 攻撃も回復も、私たちがいたほうが絶対に楽なのに。

「お前に無理されるほうが、俺もみんなも辛いから。だから、今は休め」

 他のことで、気を紛らわせてれば別に大丈夫だったけど。
 こんな風に甘やかされてしっかり考えてしまったら、確かにもう、辛いかもしれない。

「……わかった」

 諦めか言い訳なのかその両方か、とにかくこのまま甘えさせてもらうことにして、ヘンリーの背中に私も腕を回して抱き付くようにして、胸に頭を預けます。

「……ヘンリー。……ありがとう」
「……何が?」
「色々。私のために怒ってくれたこととか、カールさんに言ってくれたこととか。暴力は良くないと思うけど……嬉しかった、かも」

 私が諦めて言わずにいたことを、私の代わりみたいに言葉にしてくれて。
 私に関わったせいで傷付いた人が出たことを喜んだらいけないと思うけど、でもそれはたぶん、嬉しかった。

 ヘンリーが、私の頭をゆっくりと撫でます。

「そうか。なら、良かった。お前が止めてもあれは許せなかったが、少しでも、嬉しいと思ったんなら」

 ……暴力を喜んでるみたいで、断言できなかったけど。
 かもって言ったのは、少しだったからじゃないんだけど。

「……嬉しかったのは、少しじゃないけど。でもやっぱり、暴力は良くないよ」

 正当防衛ならともかく、今回は違うし。

「わかってるよ。だから、我慢しただろ。出来るところまでは」
「……」

 確かに、手を出す前の段階でかなりヤバそうだったけど。
 でも最終的に手を出すなら、同じなのでは。

「なんでも限度はあるだろ。見逃せる限界を超えてきたから、殴った。同じことがあれば、これからもそうする。お前には悪いが」
「……」

 確かに、あそこまで言われることもなかなか無いと思うけど。

 村長さんやカールさんは勿論、理不尽お兄さんだって自分が正しいつもりで、こちらを悪者だと決め付けてたからこそ、悪気も無くあそこまで言ってきたわけだから。
 狭い世界で生きる、視野の狭さゆえに。
 普通の視野の広さを持ってる人間なら、あそこまで言えば事を荒立てるってわかるから、その気が無ければ普通は言わない。
 だから普通なら起こらないはずのバイオレンスな展開にまで、至ってしまったわけで。

 ……うん、今回は仕方なかった。
 と、いうことにしよう。

「……わかった。同じことがあったら、私はやっぱり止めると思うけど。でも、わかった」
「無駄だから、止めようとしなくていいんだが。ピエールがなんとかしてくれるだろうから、俺もわかった」
「……止めないと、限界の基準が下がるでしょ?止めるよ、やっぱり」
「そうか。そうだな」

 認めるのかよ!

 ……まあいい、言っても仕方ないし、私のするべきことはわかったから、もうこの話はいいことにしよう!

「あ、あと。村の男の子にプロポーズされたときも。私が言うよりもいい結果になったみたいだし、あれも、ありがとう」
「……あれか……」

 思い出してまたお礼を言う私に、なぜか苦々しい声を出すヘンリー。

 あれ?
 大人の余裕的なものを醸し出して爽やかに対応してたのに、なんで?

 疑問に思って見上げると、ヘンリーが忌々しそうに呟いてます。

「……あの、マセガキが……胸に顔を埋めて、腰に抱き付いて、笑いかけられてその気になるとか……ガキじゃなかったら、あれも殺ってたのに……」

 またなんだか、不穏な空気が。

「……ヘンリー。……子供だよ?相手は」

 抱き締めるとか、子供じゃなければ私だってやってないけど。
 なのに子供じゃなかったら殺ってたとか、前提がおかしくないか。

「……わかってるよ。だから、ちゃんとしただろ。子供用に」
「……じゃあ、なんで怒ってるの?」
「……ガキでも男だから、あんな反応だったんだろ。ガキだから手は出さないが、だからって許せるか」

 心が広いんだか狭いんだか。
 余裕があるんだか無いんだか。

 ……しかし、これは保護者というよりも、なんだか嫉妬みたいな……。

 ……そう言えば、少年に恋人で結婚するのか聞かれた時に、肯定した上で私をヘンリーが貰うとか……。
 幸せにしてやってくれって言われて、任せろとか……。

 ポートセルミでバネッサさんを相手に茶番を演じた時も、本音しか言ってなかったとか……。


 …………あの時は、あの時だって!!
 さっきのが本音だって、そう言ったわけじゃ無いんだから!!

「……どうした?急に、赤くなって」
「……なんでもない!」

 赤くなった顔を隠すように、ヘンリーの胸に押し付けます。

「なんでもないってこと無いだろ。お前が赤くなるような話だったか?今の」
「なんでもないから!いいから、聞かないで!」

 ますます赤くなった顔をさらに隠すように、ヘンリーにしがみつくようにしながらさらに顔を押し付けます。

「いいからって、気になるだろ。そんな反応されたら」
「……」

 黙秘。
 黙秘します!

 聞くなという意思表示はしたので、別に問題無いでしょう!

 下手に白状してあれも本音だったとか言われたら、もうどう反応していいのか……!
 はっきり申し込まれたわけでもないのに、先回りして断るのもおかしいし……!

「……わかったよ、もう聞かない」
「……」

 ……そんなこと言われても、まだ油断はしません!
 ここで気を抜いたら、また不意討ちで殺られる気がする……!

「理由がどうでも、可愛いのは変わらないからな」
「……!」

 ……やはり!
 油断して下手に口を開いていようものなら、また変な声を出してしまうところだった!

「……また、赤くなったな」
「……」

 なんなの?
 なんで、いちいち言うの?
 言葉攻めですか!?

 なんで攻められてるの、私!?

 抱き付く腕に力を込めすぎて締め付けるようになってきてるのにも動じず、ヘンリーもさらに強く私を抱き締め、耳元に顔を寄せてきます。

「……ドーラ。……可愛い」
「……!!」

 ……だから!!
 耳元で甘く囁くのはやめろ!!

 演技中でもないのになんなの、遊んでないか私で!?
 確か辛そうにしてる私を休ませるとかそんな話だったはずだが、なんでこんなことになってるの!?

 ダメだ、文句を言いたいが口を開いたらおかしなことになりそうだ。

 黙秘!
 黙殺!
 聞き流してればそのうち町に着くんだから、そうしたら終わるんだから!



 黙り通すことを決めた私に、その後もヘンリーは口説いてるんだかそうでないんだか微妙な線の甘い言葉を、甘い声で囁き続け。
 抱き締めながら頭や背中を優しく撫でたり、髪に指を差し込んで梳いてみたり。

 甘やかすと言えばそうかもしれないが、甘やかし方の種類が変わってきてませんかね!?
 と、激しく動揺しながらあくまで沈黙を貫く私は、動揺し過ぎて段々ぐったりしてきて。


 辛かったとかそんなことも本気でどうでも良くなってきた頃に、ポートセルミの町に到着しました。


「……ヘンリー。……町に、着いたし。……もう、いいでしょ……。……離して……」

 ぐったりとヘンリーに凭れかかりながら、長い沈黙の後に久しぶりに発した声は、自分でもびっくりするほど弱々しいものでしたが。

「離したら、もう倒れそうだろ。このまま運んでやる」
「…………誰のせいで…………」
「俺のせいか?」
「……」

 違うとでも言うのか。

「でも、楽になっただろ?辛かったのは」
「……」

 ……そうだけど!
 代わりに違う部分が、消耗し過ぎたんですけど!!

「着いたな。行くぞ」
「……」

 宿に着いたところでまた抱き上げられて、もはや抵抗する気力も無く身を委ねる私。
 私がこれだけ動揺したのに、涼しい顔をしてやがるのが憎ったらしい。


 ヘンリーに抱かれてぐったりしてる私を見て、仲間たちが心配そうな顔をしましたが。
 私の顔を覗き込んだら、なぜか安心したようです。

 そうですか、そんなに顔に出ますか。
 ぐったりし過ぎて赤面する気力も残ってなかったので、赤くはなかったから良かった。


 ……十年ぶりのモモとのお泊まりだから、お風呂でよく洗ってあげたいんだけど。
 ベホイミでもすれば、なんとかなるかな……。

 なんてことをぼんやり考えながら、周りの目を気にする余力も無く、ただ運ばれて行く私でした。 
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