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八条学園怪異譚

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第四十七話 洋館ではその十六

 一人だけだ、こう言うのだった。
「身体がないからな」
「ああ、コーヒーもですね」
「飲む必要がないんですね」
「そうだ、ない」
 こう二人に答える。
「欲求も起こらないからな」
「興味もなくなるんですね」
「だから私達が飲んでいても」
「それは他の御仁達も同じじゃな」
 幽霊ならばだというのだ。
「そうじゃな」
「日下部さんもそうですし」
「他の学園の中の幽霊さん達も」
「そうなのじゃよ、日下部君とはよく話すがな」
「ああ、日下部さんとお知り合いなんですか」
「そうなんですね」
「学園の中にいる幽霊は皆知り合いじゃぞ」
 ジョシュワと日下部だけではないというのだ。
「だからじゃ」
「日下部さんもご存知なんですね」
「そういうことですか」
「そうじゃ、ではな」
「コーヒー頂きますね」
「今から」
「うん、何杯でも飲んでね」
 ビクトルも白いコーヒーカップを手に取る、そしてだった。
 七人で飲む、そうして聖花は一口飲んでから言った。
「ううん、お砂糖が」
「多いかな」
「角砂糖二つですね」
「よくわかったね、それ位入れたよ」
 ビクトルは笑顔でもその通りだと答えてくる。
「君には多かったかな」
「そうですね、いつもは入れないです」
「ふうん、そうなんだ」
「私は二つです」
 愛実は丁度だった。
「入れています」
「ああ、君はそうなんだ」
「ただ。入れない時もあります」
「コーヒーにお砂糖を入れないのはね」
 ここでビクトルは言う、それはどういうことかというと。
「僕的には少し寂しいね」
「寂しいんですか」
「この言葉、知ってるかな」
 ビクトルは左手の人差し指を立たせてこの言葉を出した。
「絶望の様に黒く、地獄の様に熱く」
「絶望と地獄ですか」
「かなり怖い感じですけれど」
「天使の様に純粋で恋の様に甘い」
 今度は全く逆の言葉が出て来た、そして最後の言葉は。
「それがコーヒーだってね」
「だからですか」
「コーヒーにはお砂糖を入れるんですね」
「そうだよ、僕はね」
「尚この言葉を言ったのはタレーランだが」
 ジョシュワも言ってきた。
「希代の悪人じゃった」
「希代ってそんなにですか」
「物凄く悪い人だったんですか」
「賄賂を取り陰謀家でしかも人妻に手を出して不倫が大好きだった」
 しかもそれで子供を何人も作っている、そうした人物だった。
「そんな奴だった」
「街にいたら絶対にお付き合いしたくないタイプですね」
「関わり合いになりたくないですね」
 二人は女の子の立場からそのタレーランをこう評した。
「というか最悪なんじゃ、その人」
「極悪人ですか?」
「だから希代の悪人じゃった」
 この言葉は嘘ではないというのだ。
「もう一人フーシェというのがおってこちらは賄賂や不倫とは無縁じゃったがやはり陰謀家だった」
「しかも一人じゃないんですか」
「そんな悪人が」
「確かに悪人じゃったが二人でフランスを救いもした」
「悪人が祖国を救ったんですか」
「何か複雑なお話ですね」
「悪人じゃったが政治力もあり売国奴ではなかったのじゃよ」
 ジョシュワは二人にこうも話した。
「だからフランスを救えたのじゃよ」
「まあ日本じゃ政治力も何もない売国奴が総理大臣になったからね」
 ビクトルは日本人の顔で無念そうに述べた。
「しかも二人もね」
「タレーランやフーシェはフランスを救ったらその連中は日本を貶めた」
 ジョシュワは今度はこうも言った。
「世の中こうした話もあるのう」
「ううん、何か意味深いお話ですね」
「悪人が国を救うこともあるんですね」
「そしてどうしようもない奴もおる、人格も能力も品性もない奴がだな」
「そのこと、覚えておきます」
「何か忘れたらいけないことですよね」
「そうじゃ、覚えておくことじゃ」
 実際にそうするべきだと告げるジョシュワだった、そうして。 
 今は七人とジョシュワを入れてインスタントコーヒーを楽しんだ、それはインスタントだがはっきりとした美味しさがあった。


第四十七話   完


                2013・8・15 
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