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久遠の神話

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第五十九話 三人の戦いその八

「そこは」
『その通りです』
「秘密主義か。まあ俺も誰にも言わないことがあるしな」
『あのことですね』
「ああ、同じだな」
 自分のことも考えて少しシニカルにも言った。
「隠すからには隠したい理由がある」
『お察しして頂くのですか」
「人のそうしたことを聞いて知る趣味はないさ」
 中田の性格がここで出た、そうしての言葉だった。
「じゃあいいさ」
『お気遣い有り難うございます』
「お礼もいいさ。ただな」
『ただ、ですか』
「ここで一気に数を減らすんだな」
 中田は声に今度はこのことを問うた。
「そうだよな」
『そうなれば何よりです』
「そうか、それじゃあな」
『参加されますね』
「おいおい、受けなかったら強制離脱だろ」 
 声の意志確認にはヘルメットの奥で苦笑いになって返した。
「それじゃあ答えは一つしかないさ」
『参加して頂けますね』
「ああ」
 その一つしかない返答を今声に告げた。
「そうさせてもらうな」
『では』
「それで場所は何処なんだ?」
『八条学園の総合グラウンドです』
 そこだというのだ。
『そこに日曜の夜の十二時に集まってもらいます』
「そして最後の一人まで戦えっていうんだな」
『そうして頂きます』
「わかったさ。じゃあな」
『ではお願いしますね』
「上城君達とは戦いたくないんだがな」
 本音をぽろりと漏らした。
「それはな」
『ですがそれでもです』
「ああ、損得勘定になって嫌になるけれどな」
 だが、だった。今の中田はそうしたことを言っていられる状況ではない。このことを自分でもよ認識してだった。
 日曜の夜十二時に八条学園の総合グラウンドに行くことにした、そして。
 バイクを運転したまま声にこう言った。
「まだ話すことはあるかい?」
『今ですね』
「ああ、あるかい?」
『特に』
 ないというのだ。
『ありませんので』
「そうか、じゃあまたな」
『またお会いしましょう』
 声は中田に告げた。
『その時に』
「ああ、まあやらせてもらうか」
 中田は思うところがありながらもこう声に返してだった。
 今は声と別れてバイクでひたすら走った。そして砂浜のところに行き爽やかな青い海を見ながらこう呟いた。
「因果なものだよな、全く」
 いつもと違う苦い顔で呟いた言葉だった。多くは語らなかったが海を見たままこう呟いて海を見たのである。
 戦いのことは上城も聞いた、それでだった。
 樹里に校舎の屋上でこのことを話した、その時彼は青空を見上げていた。
 青い空は何処までも澄んでいる、だがだった。
 その青い空を見てそして言ったのである。
「戦うことを拒んだらね」
「強制離脱よね」
「うん、そう言われたよ」
 あの声にだというのだ。
「戦いから降りることになるってね」
「そうなのね」
「だから。僕もね」
 難しい顔で青空を見上げながら言った。 
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