万華鏡
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第四十七話 運動会が終わってその十
「ねえ、お父さん前あやめ池のことを聞いてたわよね」
「あの遊園地のことか」
「そう、あの遊園地のお化け屋敷ってね」
「どんな場所だったか、か」
「凄く怖かったって言ってたけれど」
「かなりな」
実際にそうだったとだ、父は娘に答える。今二人は同じテーブルに座って話している。夕食はもう尾張二人でビールを飲んでいる、そうしながらの話だ。
父はビールを自分のカップに注ぎ込みながら娘に話す。つまみは枝豆だ。
「あそこは凄かった」
「具体的にどんなのだった?」
「線路状のカートで中を巡るんだがな」
「うん」
「壁に雪女がいたり右手に見える部屋ごとに血に濡れた障子とか包丁を持った猫女がいたり怪しい坊さんみたいなのがいてな」
そうした場所だったとだ、父は自分と同じ様にビールを飲みながら話を聞く娘に対して話していくのだった。
「短い場所だったけれどな」
「怖かったのね」
「内装が凝っててな」
それの怖さだったというのだ。
「あんな怖いお化け屋敷はそうなかったな」
「出て来る妖怪とかは普通だったのね」
「リアルだったんだよ」
血なり妖怪なりの造詣がだ。
「本当にな」
「そうだったのね」
「いや、本当にな」
父もビールを飲みつつ話す。
「母さんと一緒に行ったが怖かった」
「デートで行ったの」
「そうだったんだよ」
こう娘に話す父だった。
「奈良までな」
「遠くまで行ったのね、随分」
「その頃はお化け屋敷に凝っていたからな」
「お父さんが?」
「いや、母さんがな」
今この場にはいない母がだったというのだ。
「そういうのが好きだったからな」
「そうだったの」
「それで凄いって噂を聞いてな」
「奈良まで行ったのね」
「八条鉄道で奈良駅まで行ってな」
八条鉄道奈良駅だ、八条鉄道は全国区の私鉄なので兵庫県から奈良県までも同じ鉄道会社で行けるのだ、とはいっても乗り換えは大阪であるが。
「奈良ドリームランドはそのまま行ってな」
「あやめ池は近鉄で、なのね」
「ああ、行ったんだ」
そしてそこでだったというのだ。
「中々面白かったよ」
「怖かったのね」
「そうだった、本当にな」
「どっちが怖かったの?」
あやめ池のものか、ドリームランドのものがというのだ。
「それで」
「そうだな、あやめ池か」
「そっちなの」
「お父さん的にはな」
そちらの方が怖かったというのだ。
「そうだったな」
「ふうん、そうなの」
「造詣がよかった」
怖かったのはそのせいだというのだ。
「出て来る妖怪は普通だったがな」
「雪女とかろくろ首とか」
「ああ、それ自体は普通だったんだよ」
「それでも造詣がよかったからなの」
「ああ、怖かったよ」
その妻と二人で観てきたものを瞼に思い浮かべて懐かしみながらだ、父は琴乃にその話をしていくのだった。
「やっぱりお化け屋敷も造詣だな」
「そうなのね」
「ああ、どう演出するかもな」
それも大事だというのだ、だが。
「基本は造詣だ」
「リアルでどう怖くするか」
「それだよ」
こう娘に話す父だった、そして。
その中でだ、琴乃は父にクラスでのことを話した。その話は。
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