魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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Ep5白と黒の密会~Secret~
†††Sideシャルロッテ†††
「待たせたか? おはよう、シャル」
太腿辺りにまで伸びる長い銀髪を潮風に靡かせ、サファイアブルーとルビーレッドと言う左右で色の違う瞳を持つ“彼”、ルシリオン・セインテスト・フォン・シュゼルヴァロードが呑気に片手を上げて挨拶をしてきた。
「遅いっ! 遅すぎるわっ!」
「待て、シャル! 痛い! 頭が、顔が変形する! 早朝と言ったのは君だぞ! キッチリとした時間と公園のどこかを設定しなかった君が悪い!」
私は努めて微笑を作り、彼がすぐ側まで来たその瞬間に全力のアイアンクローを繰り出した。さすがにいきなり攻撃を加えられると思いもしなかったのか、顔面を鷲掴みにされたルシルが叫ぶ。まったくもう。この程度の痛みで喚かないでほしいわ。早朝(午前5時すこし過ぎ)、昨日の約束どおり海鳴公園でゼフィことルシルと話(今は遅刻の制裁)をしている。
昨日、ルシル達が去る際に“界律の守護神テスタメント”専用の通信能力である“リンク”で、ここで会う約束を取り付けていた。
――ルシル、話があるわ。明朝、海鳴公園という場所で待ってる。必ず来てちょうだい――
――了解した。では明朝、また会おう――
確かに時間や正確な場所を決めなかったのは悪いけれど、それでもやはり女性を待たせたのはダメだと思うのよ。だからこれは必要なお仕置きなわけ。
「――で、どうしてあなたがこの世界にいるのルシル?」
「いたた。・・・答えは簡単だ。この世界の界律に召喚された、それだけだよ」
ルシルは肩で息をしながらそう答えてくれた。だけどもそれは・・・。
「同じ世界に複数の界律の守護神が召喚されるなんて・・・」
「ああ。この場合、契約内容には絶対殲滅対象関係がほぼ間違いなく含まれる。実際、私は何度かあったしな。君も何度かあるだろう? だが今回は肉体が構成され、子供にされ、戸籍まで用意された・・・」
2人して神妙な面持ちで頷き合う。“絶対殲滅対象アポリュオン”というのは、私たち“テスタメント”と対をなす連中のこと。私たちは無暗に人類を殺したりはしない。それが必要なら契約に従って殲滅するけど。でも“アポリュオン”はそうじゃないわ。問答無用で人類を殺しにかかる連中なのよね。だから守る私たちと、殺すあの連中は当然敵対関係にある。
「それに加えて契約内容の詳細提示はなし、と来ているのよね。能力値はかなり制限されているし、こんなこと今までなかったわ。本当に解らないことだらけなのよ。あなたもそうでしょう、ルシル?」
ルシルも初めての状況に戸惑っていると思ったからそう聞いてみたのだけど、彼はさほど困っていないように見えるのよね。
「ん? あー、そうか。君はこういうのは初めてか。そうだよな、私のように不完全な存在ではない、完全な存在として君は確立されているからな」
「え?」
どうやらルシルは今までの契約内容の中にこういった状況があったらしい。本当に大変なようね、不完全な“テスタメント”というのは・・・。
「あれはいつだったか、戦後間もない世界で亡国の姫のボディガードをしたり、世界を滅ぼす毒と呼ばれた王女を守ったり、吸血鬼と戦ったり従者となったり、性別を変えられて女学校に通わされたり、ウサギにされて魔法少女のマスコットキャラにされたり、高校生となって友人と共に宗教団体と戦ったり、また別の世界では人に憑依させられ殺されたり、と色々だ」
「・・・バカみたい」
「・・・そうだな、私もそう思う。けど、ほっとけ」
ルシルが遠い目で虚空を見つめる。私がそんなのになったら・・・自殺ものだわ。もうこのような不毛で気が滅入る話は切り上げ、本題に移ろうと話題を変えることにする。
「ルシル、ジュエルシードのことだけど・・・」
“ジュエルシード”。おそらく私たちが喚ばれた理由と何かしら関係があると思われるモノ。それについての情報交換をしたいため、早速その話題を振ってみる。
「・・・初めてアレと遭遇したとき、これが召喚された理由だと思った・・・。しかしだ、界律から何も干渉してこないところをみると、まだ別の理由があるのだろう」
ルシルの考えを聞き、彼もまた詳細を知らないということに軽くショックを受ける。契約内容が秘匿されている。前途多難。私たちは不安の中でこれから過ごさないといけないわけなのね。ま、なのは達と出逢えたことには感謝しているのだけどね。僅かな時間で私は“人間性”を取り戻すことが出来たもの。不安もあるけど、私はこの状況を楽しんでいたりもする。
「もう1つ、あのフェイトとアルフというのは?」
私が聞いておきたい最大の疑問、あの子たちが“ジュエルシード”を集める理由。ルシルはあの子たちとかなり親密なようなのよね。ユーノのように理由があって、ルシルもそれを知って手伝っているはずだわ。
「さあ? 私はジュエルシードが危険なものとして判断した。あの子たちがそれを集めているというのを聞いて、協力しているだけに過ぎない。ゆえに理由に関しては不明。いつかは話してくれると思うが、それまでは見守るつもりだ」
だと思ったら、あの子たちが“ジュエルシード”を集めている理由を知らないときた。あなたは馬鹿ですか? ルシルのその身勝手な発言に、私は嫌な予感がした。
「あれは元々ユーノの所有物よ。そちらの行為は強盗紛いの犯罪行為だわ。解かるわよね?」
確かな理由も無く、そのような行為に走っているなんて言うのは許せるものではないわ。
「私はフェイトとアルフに協力すると誓った。それを今更変更しようとは思わない」
私とルシルはお互い殺気立って、共に瞳の奥を見つめる。一切の揺らぎがない、それを絶対として決意している瞳だった。でもルシルの理由はそれだけではないはずなのよね。だってフェイトって子はまるで・・・。
「私ね、ルシル。フェイトという子を見て、ある女性を思い出したのよ。あなたの恋人だった、大戦末期当時において氷雪系最強の魔術師だったアンスールが1人、蒼雪姫シェフィリスを」
「・・・っ!」
ルシルの顔色が変わった。間違いないわ。ルシルはあの子、フェイトにシェフィリス・クレスケンス・ニヴルヘイムを重ねているのだ。でも、それだけはダメよ。あの子に対してそれは途轍もなく失礼な感情だもの。
「・・・な、何を・・・?」
図星を刺され動揺したのかどもった。普段のルシルならばあり得ない。
「シェフィリスとフェイトは違うのよ。髪の色がじゃないわ、瞳の色がじゃないわ。その存在が、魂が違うのよルシル! あなたが抱いている感情は間違っているわ!」
私は間違いを正すために、ルシルの間違いを指摘、糾弾する。彼は俯いていた顔を上げ、私の顔をしっかりと見る。
「それくらい理解しているさ、そんなことぐらいはな。確かに彼女をシェフィと重ねるときがあった。だが今はもう違う。私はあの子を、フェイトとして守ろうとしている。それだけは間違いない」
ルシルは真剣な顔で私を見続ける。そう・・・判った。
「なら、引くつもりはない、ということでいいのね?」
最終確認をする。返答は決まっているだろうけど念のためによ。
「愚問、だな」
「・・・ならば・・・」
「「今から私たちは敵だ」」
完全なる決別。もう後戻りは出来ないわ。でも絶対に負けない、負けたくない。例え相手が最強であったとしても絶対に。
そして、いつの間にかなのはと魔法の練習を始める時間となっていたようで、遠くの方から私の名前を呼ぶなのはの声が聞こえてくる。一瞬だけなのはの声のした方へ視線を向ける。次に視線を戻した時、私の前にはすでにもうルシルの姿はなかった。
「バカよ。本当に・・・」
†††Sideシャルロッテ⇒ルシリオン†††
シャルと完全に決別した。大戦の折、“ヨツンヘイム連合”に組する複数世界ミッドガルド、その1つである騎士世界レーベンヴェルトの有する騎士団にて、最強の剣騎士であったシャルロッテ。私は騎士としてのシャルロッテの、その愚直で誇り高い在り方に魅かれていた。
そんな彼女と真っ向から対峙した回数はわずか2度。1度目は私が敗れた(彼女は引き分けと言い張っているが)。2度目はそう、時間的猶予が無かったために形振り構わず戦って勝った(今でも勝った気はしない)。そんな彼女が敵になると、近接戦において私たちに勝利はないだろう。
「・・・私は大馬鹿者・・・だな」
静かなる街に独り言が響き渡った。これは後悔? 違うに決まっている。私はフェイトとアルフの仲間となったことに一切の後悔はない。そう自分に言い聞かせるように、未だ眠っているであろうフェイトとアルフのいるマンションへと戻る。
「そういえば、あの子たちと出会った時間も今くらいだったか?」
帰路の途中、私は数日前のことを思い出す。
・―・―・時間を少し戻そうか・―・―・
第四の力の座に就いてすでに6千年以上。またどこかの世界の“界律”が再び私を――私の力を求めている。視線は神意の玉座の向かい側に向け、第二の力・ティネウルヌスと第五の力・マリア、そして第三の力・シャルと何やら話しているのを視界に入れる。
「シャルロッテも召喚要請を受けているみたいだな」
「そうみたいだね、最近の彼女は契約回数が増え始めているみたいだよ~。たいへんだね~ホント、僕は最近減少していて暇なんだよね~☆」
私の座する玉座の隣から、私の独り言に反応して乗っかってきた声。第七の力に座する真紅を担いし“上位なる神の抹殺者”、7thテスタメント・ルフィスエル。
その彼女が、聞いてて呆れるほどの甘ったるい声で話しかけてきた。見た目がとても綺麗な少女なのだが、性格があまりにも陽気すぎる。これでも私に続く実力者ということに少々頭痛を覚える。正直な話、私はルフィスエルが苦手だ。
「ソウナノカ、ソレハタイヘンダ。マァ、ガンバッテクレ」
ゆえに聞き流すために軽い返事をしようとしたが、カタコトになってしまった。それがさらに彼女を刺激する。
「何でカタコトなの~?」
「ルフィスエル。ルシリオンを困らせるものじゃないよ。さぁ、ルシリオン。この娘は俺に任せて行っておいで」
「ありがとう、優斗。それでは行って来る」
蒼穹を担う第九の力、“果て無き幻想を追う者”である9thテスタメントの優斗に感謝の言葉を告げ、召喚へと応じるために分身体と意識の欠片を、私を求める世界へと送った。
「ん? これは・・・!」
契約先世界へと向かう中、私の存在に変化をもたらす奔流が発生した。これまでにも幾度か経験したものだ。以前は性別転換、幼児化、動物化などがあった。さぁ、今回は一体どのような姿に変換されるのか。すでに億劫で溜息が止まらない。
「・・・召喚は無事に済んだか・・・」
分身体としての私が意識を覚醒させてすぐに視界に収めたのは、自然が多く残っている海の近い街。佇んでいる場所は、すぐ目の前に海が広がる臨海公園のような場所だ。海から流れ来る潮の香りを含んだ潮風が、私の長い銀髪を靡かせる。
「ここが、契約を執行する世界・・・か。それにしては平和なものだが・・・」
時間はおそらく早朝、周辺2km圏内に人の気配がないことを確認。続いて“界律”との精神接続を開始して、契約内容を確認する。
――契約内容の提示なし、肉体を構成、身体年齢を9歳に設定。この世界における戸籍を設定、使用可能能力値を10%に制限。AAAランク以上の魔術の使用を制限。“神々の宝庫ブレイザブリク”及び“英知の書庫アルヴィト”における複製武装、複製術式のSランク以上の使用を制限――
「ずいぶんと高めな制限だな。こんなに制限を加えて一体何を――っと、なんだ?」
目の前に突如として現れたゴーレム?によって、独り言は全て呟くけることなく終了。ソレは土泥で構成されたものであろう怪物。かつての戦友、“地帝カーネル”のゴーレムを彷彿とさせる。
召喚後、いきなりの戦闘に嘆息しつつ、意識だけを戦闘モードへと移行する。さてと、これなら1~2%で十分だろう。
「我が手に携えしは確かなる幻想」
私の魔術の大半が制限対象に入っているため、仕方なくこれまでの数千年の間にこなしてきた契約先の世界で複製した術式を“アルヴィト”から引き出し、現実へと発現させる。
ゴーレムは自身を構成する泥を弾丸のように放ってきた。私は焦ることなくステップで回避、そして術式名を宣告する。
「氷楼・蒼凍花・・・!」
ゴーレムの足元から、アレを閉じ込めるように複数の氷柱を出現させる。氷柱はゴーレムを瞬く間に凍らせるのだが、これだけでは駄目だったようだ。氷漬けにされようとも動いている。ならば、もう1発受けてみろ。今度は“ブレイザブリク”より、複製した武装・“ローレライの鍵”を引き出して具現させる。
「響け、集え、全てを滅する刃と化せ!」
――ロスト・フォン・ドライブ――
数発の斬撃を打ちこみ、ほぼゼロ距離からの閃光砲撃を放つ。圧倒的な閃光の前にゴーレムは塵一つ残さず消滅した――かに見えたが、ゴーレムを構成していた土泥の山の上。そこには蒼く光る宝石が1つ落ちていた。近付いて拾い上げてみる。触れてみて、「これは・・・」魔力の結晶体だと判った。
「それを渡してください」
「ん?・・・な!? そ、そんな、シェフィ・・・!?」
背後からそう声を掛けてきた主へと振り向き、底に立っていた少女のその姿を見て・・・我が目を疑った。現れた少女は、“テスタメント”になる以前、人間だった頃に心から愛した、私の最愛の恋人だった女性、シェフィリスの幼少時代とそっくりだったのだ。思考がすべてカットされる。現れたその少女に対し何も言えなくなり、その姿をジッと見つめてしまう。
「シェフィ・・・? そんなことより、その石を渡してください」
その黒衣の少女の目的は、この魔力を内包している青い石のようだ。体を支配する動揺を無理やり抑え込み、小さく深呼吸。
「あ、いや・・・。断ると言ったら・・・」
何を馬鹿なことを考えているんだ私は。彼女は私の目の前で殺されたのだ。生きている訳がない。それに、目の前の彼女の髪は金髪だ。瞳も綺麗な真紅。顔の造形は瓜二つと言えど、しかしシェフィとは別人なのだ。
「ゴチャゴチャ言ってないでさっさと渡しな!」
今度は彼女の隣に居た大型の狼から言葉が発せられる。おそらく使い魔の類だと思われる。人気がないとはいえ、公共の場で喋るのは駄目だと思うんだけどな。黒衣の少女も「ダメだよ、喋っちゃ」と小声で叱咤した。
「悪いがこれほどの危険な代物を、どこの誰かも判らない君たちには渡せないな」
自分のことを棚にあげてそう口にする。それにこの宝石が“界律”との契約に何らかの関係があると思われた。それなら、この石の正体を調査するべきだ。ゆえに渡すことは出来ない。
「チッ、フェイト、仕方ないよ! こいつをぶちのめしてでも頂こうよ!」
「・・・本当は戦いたくないけど仕方ありません。力ずくで貰っていきます」
狼の方が物騒なことを平気で並べていく。しつけに難あり、だな。しかしフェイトと呼ばれた少女。戦いを望まないのも丁寧な言葉使いもシェフィにそっくりだ。フェイトの姿にシェフィの幼少期の姿を重ねてしまう。
(馬鹿が。そんなことをして何になる?)
いま私が行っている幻視は、フェイトという少女一個人の存在を侮辱していることだ。
「ならば、こちらも仕方ないな」
萎える気持ちを無理矢理奮い立たせる。では見せてもらおうか、この世界の魔術師の力を・・・。
†††Sideルシリオン⇒フェイト†††
“ジュエルシード”の発動を感じてからここまで来るのに1分と少し。遠目から見えたのは砲撃魔法と思われる閃光だった。結界も張らずに何をやってるんだろう?と小首を傾げる。
その場に着いてみれば、居たのは銀髪を膝の辺りまで伸ばして、うなじの辺りで縛っている男の子?女の子?どっちか判らないけど、すごく綺麗な子だった。
「それを渡してください」
あの子が持っている“ジュエルシード”に気付き、私は渡すように言う。そしたら、その子は私を見てとても驚いていた。それに“シェフィ”という言葉。名前だろうか? でも私の名前ではないことは確かだ。もう1度渡すように言うと断るって言ってきた。それを聞いたアルフは倒して奪おうと提案してきた。
「・・・本当は戦いたくないけど仕方ありません。力ずくで貰っていきます」
仕方ないけど母さんのため、私は・・・戦ってでも“ジュエルシード”が欲しかった。ソレは母さんが、私に求めているものだから。
「・・・バルディッシュ」
≪Scythe form,Setup≫
――ブリッツアクション――
「なかなかのスピードだな」
「・・・っ!?」
戦斧型のデバイス・“バルディッシュ”を鎌形態のサイズフォームにして、私の最高速で銀髪の子へと斬りかかる。でも、あっさりと避けられてしまった。少し、ううん、かなりショックだ。私が得意とする初撃による一撃必倒が、何の苦もなく自然な動作で避けられたんだから。
「フェイト、動き続けな! どうせまぐれなんだからさ!」
「うん・・・!」
そうだ。初撃を外したからと言って、ショックを受けて行動を止めるなんて愚の骨頂だ。だから「せぇぇぇい!」“バルディッシュ”を振るって、攻撃の手数を減らさないように攻撃を続ける。
(当たらない・・・!)
まったくと言っていいほど当たる気がしなくなってくる。これはダメだ。このまま続けていても埒が明かないし、何より私の方に疲労が溜まってしまう。仕方ない。1度距離を取って、中遠距離で一気に決める。そう決断したその時・・・
「あ・・・!?」
最後の一振りとして私が繰り出した斬撃を躱したあの子は、私が体重を乗せた右足に足払いを掛けてきた。ガクッと体勢を崩してしまう。前向きに転びそうになる。慌てて左足で踏ん張ろうとしても、「っ!?」その左足すらも足払いを掛けられてしまっては、「あぅ・・・!」うつ伏せに倒れ込んでしまう。
「(早く立ち上がらないと追撃が・・・!)・・・って、え・・・?」
慌てて立ち上がる中でも、あの子からの攻撃は来なかった。“バルディッシュ”の柄を両手で握り締めて、余裕の佇まいで私を見ているあの子に呆けてしまう。
「ボサッとしている暇はないぞ。我が手に携えしは確かなる幻想」
一体何のつもりですか?って聞こうとしたその時、その子が何かを呟いた。
「くっ・・・!」
いつの間にかその子の手には、黄金色に光り輝くすごく長い槍があって、その槍を私に向けて薙いできた。直撃を受ける直前で“バルディッシュ”の柄で受け止めたものの「うぐ・・・!」その力がかなり強く、大きく吹き飛ばされてしまった。体勢を整える前に私を抱き止めてくれたアルフが「大丈夫かい、フェイト!?」心配してくれた。
「大丈夫だよ、アルフ。・・・あの子かなり強い。手伝ってくれるかな?」
「もちろんだよフェイト!」
「戦闘中に長話は自殺行為、これは警告だ・・・」
――風裂球――
「あ・・・!?」
銀髪の子が指を鳴らした。その直後、間近で空気が破裂したような衝撃を受ける。だけど、全然ダメージがない。
(攻撃じゃなかった・・・?)
警告。まるで私に何かを教えているかのような感じだ。
(・・なめられてる・・・?)
「こんのぉぉッ!」
アルフが怒って、真正面から突っ込んだ。銀髪の子は苦笑。ダメ、アルフ。真正面からじゃ簡単にカウンターを受けちゃう。そう思って声に出そうとしたけど、それよりも早く・・・。
「君はもう少し攻撃のタイミングを図ること。でないと・・・ほら」
――ヴォルカニックヴァイパー――
銀髪の子はさっきまであった槍を捨てて、炎を纏って突進。
「が・・・っ!?」
「アっ、アルフ!?」
あの子はアルフをそのまま空へと殴り上げた。炎熱変換資質を持ってる魔導師だ。しかもかなり強力な。ドサッと地面に落ちたアルフは、そのまま動かなくなった。その光景に「アルフ・・・?」思考が停止する。
「だから、ボサッとするなと言ったろう」
全ての動きを止めてしまった私。それが最大の隙になってしまった。一瞬で間合いを詰められてしまった。
「我が手に携えしは確かなる幻想」
銀髪の子はまた何かを呟いた。たぶん、詠唱だ。直感が働く。
「バルディッシュ!」
≪Defenser≫
私は“バルディッシュ”に半球状のバリアを展開させる。あの子が少し驚いたように目を見開いたけど、すぐに戻った。そして両手に水の渦巻きを纏わせた。
「水牙流麗 海帝 双瀑掌!」
渦巻きを纏った両手による掌底攻撃に、私のバリアがまるで紙のような脆さで砕け散る。私はそれを見た時点から何も覚えていない。
†††Sideフェイト⇒ルシリオン†††
「あ・・・あ~あ」
それにしても参った。やりすぎてしまったのだ。2人とも今は完全に伸びてしまっている。起きるまで待つしかないだろう、こんな所に放って置くと何が起きるか判らない。
そう思ってから30分ほど。ようやく目を覚ましてくれた彼女たちから事情を聞きだした。
どうしても青い宝石、“ジュエルシード”を探し出して手に入れないと駄目ということだ。ソレが母親の願いで、それを娘として叶えたいと。私としてもあんな物騒なモノがそこら辺に野放しにされるのはまずいと思う。
「・・・事情は解かった。それなら私も手伝おう」
だからそう提案する。
「「え!?」」
「何を驚いているんだ? さっきまでは事情が解らなかったから、あのようなことになった。しかし今は話をちゃんと聞いた。一応納得もした。だから手伝うよ。ジュエルシード。アレは結構危険だから、それなりの戦力があった方がいいと思うが」
もし“ジュエルシード”をこの子たちが悪用するなら(話をした限りでは、するとは思えないが)、横から奪い去って私が処分すればいいだけのこと。確実に嫌われる行為だが、どうせすぐに別れ、2度と会うことのない関係に収まるんだ。それに恨まれるのも憎まれるのも慣れている。今さらなんだ。裏切り行為なんて。
「あ、あの、それはそうですが・・・いいんですか? えっと、えっと・・・」
「本当に何も企んでいないんだね? もしフェイトを傷つけたり裏切ったりしたら、あたしはあんたを許さないよ?」
この狼の主に対しての忠誠心はすごいものだ。ああ、このような子は嫌いじゃない、むしろ好感を持てる。全く、あのバカ狼娘の“アイツ”にも見習ってほしいものだな。
「それに関しては信じてもらっていい。だから、これからよろしく頼む」
「は、はい! えっと、私はフェイト・テスタロッサです。それでこの子が使い魔のアルフです」
「よろしく」
「私はルシリオン・セインテスト・フォン・シュゼルヴァロード。よろしくフェイト、アルフ。気軽にルシルとでも呼んでくれ」
・―・―・さぁ戻ろうか・―・―・
閉じていた目を開け、回想から現実へ意識を戻す。確かあの後、私の作った朝食を食べた2人が驚いたり、私が男と知って落ち込んだり、魔術に関して3時間くらい説明したりと大変だったな。
ようやく辿り着いた私たちのアジトであるマンションの一室の扉を開き、「フェイト、アルフ、ただいま!」そう挨拶をする。
「おかえりなさい!」「おかえり!」
返ってくる2人の声。このやり取りは、本当にいいものだ。人としての生活をすることがたびたび契約の中にあったが、こう言葉を交わせる日常というのは本当に大切だ。
シャル。おそらく君もこんな生活を送っているんだろう? だから強く思うはずだ、守りたいと。それは私も同じ。今はただ彼女たちの笑顔を守りたい。ゆえに君と敵対することになろうとも・・・。
(私はこの道を貫かせてもらおう。いつか必ず訪れる別れのその日までは・・・)
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