魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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Ep4天秤の狭間で揺れし者~4th Testament~
†††Sideシャルロッテ†††
ロストロギア、“ジュエルシード”を狙って現れた新たな黒の魔導師。機動力に特化したその少女は、なのはと同じくらいの幼さをだというのに、なかなかの戦闘能力を保有していた。私はなのはに実戦を感じてもらうために半ば無理やり手伝わせることにした。
その結果は私たちの勝利。当然の話よね。いくら能力が制限されていても、この身はかつて騎士だったのだ、敗北は決して許されない。それに戦闘の素人とはいえ、なのはとの2人掛りでの戦いだもの。これで負けたら私はもう騎士としては生きていけないわ。
(でも、胸を張りなさい、黒衣の少女。あなたは強いわ。将来が実に楽しみよ)
ユーノに捕縛魔法のチェーンバインドを使わせて、黒衣の少女を捕える。私は少女に話を聞くために近付こうとした。思えば、それは油断の何物でもない。相手が1人で現れたからといって、敵が単独とは限らないのだから。らしくないミスだったわ。少女と私の間に何かがズドン!と突き刺さり、その衝撃で吹き飛ばされてしまう。
「シャルちゃん!?」
「シャル!?」
なのはとユーノがそんな私を見て心配そうに私の名を叫ぶ。大丈夫よ、2人とも。私は焦ることなく着地したのだけど。嫌な汗が止まらない。信じたくない物を見た気がして、動悸がする。吹き飛ばされる刹那、この目に見えたのは、地面に突き刺さった・・・クリスタルのような穂を柄の上下に持つ槍。
「うそ・・・でしょ・・・!」
それは私が知っているものだった。なにせ生前、この槍の担い手と2度戦ったのだから。1度は引き分け、2度目は負けた相手の有する武装。そして“界律の守護神テスタメント”となってからは度々共闘したことがある同胞。
信じたくはなかった。けれど、それは見間違いではないはずだ。だってあれは“彼”の・・・“彼”だけの神器・・・。そう、“神槍グングニル”なのだ。今の私の顔は血の気が引いていて驚くほど青いのだろう。そんな気がしてならない。
「大丈夫かい、フェイト?」
土煙の向こうから年若い女の声が聞こえる。フェイト。それがあの少女の名前なんでしょうね。土煙が晴れていく。現れたのはオレンジの毛色を持ち、額に紅い宝石のような物を有している大きな狼。
そして黒のフード付き外套と神父服に身を包み、漆黒の仮面で顔を覆い隠している子供。私と同じように小さな子供になってしまっているけれど、“彼”の気配だけは永い時間、共に存在しているから嫌というほど解かる。
(其は漆黒を担いたる最強の第四の力、“天秤の狭間で揺れし者”。御名を4thテスタメント・ルシリオン・セインテスト・フォン・シュゼルヴァロード)
まさかこんな形で契約中のルシルと会うことになるなんて・・・。
(最悪としか言いようがないわ)
敵対しての邂逅は今回が初めてではないけど、今回の契約のように“力”が制限されている中での出遭いはまさしく最悪としか言いようがない。ただひたすら祈るしかない。ルシルもまた、私と同じ以上に制限されていることを。
†††Sideシャルロッテ⇒フェイト†††
「大丈夫かい、フェイト?」
アルフが私を背に乗せながら聞いてきたルシル。正直危なかったとしか言いようがない。白い子に関しては敵じゃないけど、水色の髪の子は桁違いに強い。私の攻撃が全てあの剣によって切り捨てられてしまった。
「なんとか」
しかも私を、白い子が放つ魔力弾の射程圏へと誘導するあの動き。おそらく私じゃ勝つことは不可能だと思う。バインドに縛られたところを、すごく良いタイミングで助けてくれたアルフと、新しく仲間になったルシルに助けられなかったら・・・。
(間違いなく撃墜されていた・・・!)
「頑張ったけど少し惜しかったね。戦場で焦って冷静な判断が出来なくなると、意図も容易く崩れ去る、忘れないように」
少し落ち込む私に何かいい言葉でも掛けてくれると僅かに抱いた期待を、ルシルはわざわざ変声の魔術(魔法じゃない)を使ってまで、労いとダメ出しの言葉を掛けてきた。あんまり自分という存在が明るみに出るのは良くないから、声と名前を変えることにしたとう事前に決めた話通り。
(でも今はダメ出しの方はあまり聞きたくないかも)
さらに落ち込みながらそんなことを思う。私の使い魔であるアルフにバインド引き千切ってもらい、ようやく解放される。
『ごめん、アルフ、ルシル。1人で大丈夫って言ったのに・・・』
『気にすることはないよ、フェイト。私は使い魔なんだから、そうだろ、ルシル?』
『ん? 当然だな。俺はフェイトとアルフを手伝うと決めているから、助け合うのは当たり前だよ、フェイト』
『うん、ありがとう』
2人の思いに心がすごく温かくなる。さて、アルフとルシルが来たからもう負けないよ。
「今度こそジュエルシード、いただいていきます」
何故かは知らないけど呆けてしまっている水色の子に再戦を申し込む。
†††Sideフェイト⇒シャルロッテ†††
まずい展開だわ。ルシルが敵に回ったとなると悠長に構えてはいられない。
「なのは! ユーノ! 悪いけど金髪と狼の2人は任せる! おそらく私は仮面の相手で手一杯になるはずだから!」
2人の返事を聞く前に、私はなのはと同じように変身する。全体的に白となったフレアードレス。白で統一されたインナースーツは、前立てのラインが蒼。上まで閉められたファスナーの飾りには桜の花弁が施されている。アウターは白いショートジャケット。そして白銀の籠手と脚甲。
現代の魔法で言うバリアジャケット、戦闘甲冑を具現化させた。戦闘甲冑というのは、生前に参加していた大戦における、魔術師としての戦闘用の衣服だ。
「シャルちゃん、ソレ・・・バリアジャケット・・・!?」
「魔術師にもそういうのがあったんだ」
なのはとユーノがこの姿にとても驚いているようだけど気にしていられない。そして間違っても“テスタメント”の外套と神父服――聖衣は具現化させない。
何せルシルが着ているのだし。今そんなことをしたら、ルシルと私が同じ側の存在だって気付かれるに違いないから。ルシルは変声魔術を使っていることから、自分の正体をこちらに明かすことを嫌っているようだし、私も彼の仲間と思われて、なのは達に嫌われるのはどうしても避けたい。全くもって面倒事ばかりが現れる。
(それにしても・・・どう戦おうかしらね?)
彼は大戦当時、あらゆる神器を複製し操ったことから“神器王”と謳われ、そのうえ彼個人の有する火力があまりにも絶大ゆえに“孤人戦争”とも恐れられた。そして今は“テスタメント”の11柱の内、最強とされる黒き第四の力の座にいる。
だけど私と同様に、おそらくルシルも世界から何らかの制限を受けているはずだわ。その証拠に私の目の前に突き刺さる“グングニル”からは微弱な魔力しか感じられない。形を似せているだけの、“神器”ですらない魔道具と言ったところかしらね。
(ルシルは反則の塊であるから尚更、幾重にも能力が封印されていると思いたいわね)
思考を巡らせる中、ルシルが私たちに向かって声を掛けてくる。
「残念だけど、君たちは私ひとりを相手に戦ってもらうね。フェイトとアルフはジュエルシードの封印を優先すること。いいね?」
きちんと女の子喋りだ。演技も徹底しているわね。それにルシルも私と同じ考えのようだわ。魔導師は魔導師同士で、魔術師は魔術師同士で。
「(やはりそう来るわけね。ならこちらも・・・)なのはとユーノも封印に向かって!」
「でも」
「いいから早く!」
「っ!・・・気を付けてね、シャルちゃん! 行こう、ユーノ君!」
「う、うん!」
なのはが何か言おうとしたけど、ピシャリと制する。なのはは、納得は出来ていないけど、という風に頷いて、黒の娘とオレンジ狼の元へと向かう。2人が行くのを見届けようとしたところで・・・
「我が手に携えしは確かなる幻想」
そんな言葉が耳に届き脳に浸透する。ルシルが今まで召喚されて、そしてその世界で気に入って複製してきた武装、もしくは術式を使用する際に発する呪文だ。駆け出していたなのは達の足元に大きな光の紋様が現れ、なのは達がそれに気付いて立ち止まる。
――ブリッツアクション――
けれど、いつの間に移動したのか、真後ろに立っているルシルには気付いていない。それはダメだ。防御なしでのルシルの技は極悪な威力を持つ。
――緋炎の揺曳――
私は全力でなのは達の盾となるべく疾走するけど間に合わない。なのは達を紋様上から逃がさないとでも言うように、その縁から細い光柱が波打つように噴き出して来た。ならば、と中心へと向かう光の波が少し邪魔だけど・・・。
「ごめん、なのは! ユーノ!」
――風牙烈風刃――
「「え・・・っ?」」
“キルシュブリューテ”を勢いよく振り上げることで発生させた風圧の壁。なのは達を紋様上から退かすために、風の壁をあの子たちにぶつける。未だになのは達を効果範囲内から退かしていないというのに、ルシルは複製したものであろう複製術式の術式名を告げる。
「聖なる鎖に抗って見せよ・・・シャイニング・バインド!」
目が眩むほどの光の柱と、それに合わせて舞う光の羽根が周辺を照らし出す。私の放った風の壁に吹き飛ばされたおかげで、なのは達はギリギリ吹き上がる閃光から回避できていた。なのはとユーノは地面を転がったこともあって痛そうにしているけど、あの程度の打撲なら光の攻撃を受けるよりははるかにマシだわ。
「・・・ま、間に合ったわね・・・」
安堵の思いで腰が抜けそうになる。だけど今はそれ以上に、ルシルの使用した高ランクと思われる複製術式に、さすがにカチンと来たわ。本格的に戦闘するために“キルシュブリューテ”を構える。
「ありがとうシャルちゃん、助かったよ」
「あれも・・・魔術・・・!?」
なのはは感謝の言葉を、ユーノはルシルが発動させた攻撃に驚愕している。けど、先ほどのアレは私たちが扱う魔術とは別物なのよね。ルシルはアレをどこの世界で複製してきたかは不明だけれど、説明している暇がない。
「そんな手で今のを回避するんだ」
「あんなものが直撃したら、なのはとユーノがどうなっていたか解るでしょ!?」
あれほどの高濃度の魔力流を、なのはのような素人に放つなんてどうかしているわ。明らかに今の一撃でなのはを再起不能にするつもりだったと思えてならないわ。怒りをぶつけているとルシルから・・・
『心配する必要はないぞ、シャル。魔法独自の非殺傷設定という術式をすでに取り込んでいる。それゆえに、身体的な傷は負わないようになっている』
『テスタメント間用のリンク!? どういうつもりなの、ルシル!?』
“テスタメント”間での専用通信手段である思念通信が来た。そんな突然のルシルの行動に驚きを隠せないわ。
「どういうことシャルちゃん? 私がどうなっていたって?」
「確か魔術って、僕たちが使う魔法のように非殺傷設定がないって話じゃ・・・? え? つまり今の魔術を受けていたら、僕となのはは・・・!」
「ごめん、今は話し込んでいる暇がないの。彼も私と同じ魔術師。しかも私よりたぶん強い。ユーノ、今回のジュエルシード、回収できないかもしれない」
「・・・シャルより強い・・・! うん、判った。今は無事にこの場を乗り切ることが大事ということだね」
さすが考古学を生業とする部族生まれのユーノね、理解力と決断力があるわ。なのはは今ひとつ理解していないようだけれど、“ジュエルシード”を諦めないといけないかもしれない、ということだけは解っているみたい。今はそれだけ解ってくれてさえいれば十分よ。
「さて、もう少し付き合ってもらいましょうか? 白いのと水色のとフェレット君」
「わ、私はなのは! 高町なのは! そしてユーノ君! フェレットじゃないよ!? そしてこの子は・・・!」
「シャルロッテ・フライハイトよ」
なのは、あなたって・・・。ルシルの威圧に呑まれていながらも、自己紹介をするなんてすごい子だわ。なのはは懸命に自分を奮い立たせ、「あなたは!? あなたのお名前は!?」ルシルへと名前を尋ねて見せた。
「・・・ゼフィ」
(ゼフィ? もしかしてルシルの実姉、“ゼフィランサス”王女から取っているのかしら?)
名前と声も変えるとは徹底した偽造っぷりね。
「ゼフィ、ちゃん」
「私の扱う魔術には、そちらの魔法と同じ非殺傷設定が組み込んであるんだ。だから、安心して・・・受けなさい!」
ルシルはそう言い、後ろにそびえ立つ樹へと飛び上がって張り付いた。まずいと直感的に理解した。
「行くよ・・・! 堕獄・・・必定・・・!」
――夜魔判決――
術式名らしいものを呟いたと同時に私へと突撃してきた。私はカウンターを撃つために紙一重で回避する。だけど、それがダメだったわ。ルシルが地面へ着地した瞬間、爆炎を伴った爆発を起こし、私はその爆風によって吹き飛ばされる。だからと言ってそれで私は終わるつもりはないわよ、ルシル。
「甘いっ!」
――風牙真空刃――
使用したのは風嵐系の攻性術式。先程なのはとユーノを助けるために放った風の壁を撃つ烈風刃とは違い、鋭利な真空の刃を放つ魔術だ。吹き飛ばされながらも真空刃を放ち、ルシルは身を捻ることで回避。さらにステップで後退することで追撃を用心。
『なのは! さっきと同じように誘導するから砲撃を撃って!!』
私は念話で、なのはにディバインバスターによる攻撃の準備させる。さぁ、ルシル。私の友人の一撃を受けてみなさい。
「どこまで耐えられるか見せてもらいましょうか、ゼフィ!」
――双牙炎雷刃――
ゼフィと名指しで挑発を言い放つ。炎熱系と雷撃系を使用した刃を同時に四閃放つ。ルシルは回避行動を取った後で「我が手に携えしは確かなる幻想」再度、大技を使うつもりか、また複製を使用するための呪文を詠唱した。そしてルシルの手に魔力が集まり、ソレは形を現す。
『なのは、準備はいい!?』
『うん! いつでもいけるよシャルちゃん!』
迎撃の準備は終わったわ。ねぇ、ルシル。今のあなたは昔と違って、力押しが目立つようになったのに気付いてるかしら。全く、強すぎる力を持つと自己の鍛錬を怠るのは誰も一緒ということみたいね。現に私も“テスタメント”となった後、召喚された世界では力押しだけで契約を執行してきた。それが一番効率的で、楽だったから。
『ユーノ! これから私は魔術の盾を出すから、あなたも私の盾に重ねてシールドを張ってちょうだい!』
見据える先に居るルシルは、左手に携える七色の光を放つ槍を投擲する準備に入った。こちらも迎撃のために行動に移る。まずはユーノ指示を出し、『わ、判った! やってみるよ!!』あの子はしっかりと応えてくれた。
『なのは! ゼフィの攻撃を私とユーノが防ぐから、攻撃が途切れたら彼に大きいの1発お見舞いしてあげなさい』
『うん、判った!!』
「邪竜一殺・・・・竜殺しの権能!」
ルシルが術名を宣告する。彼の者より放たれるは、竜を一撃の下に滅する神聖なる槍。竜と言う魔族・魔獣属・竜種に対して強大な効果を発揮する、最高クラスの一撃ね。もちろん竜に限らずどんな相手にも通用する。だけれども、やっぱり制限されているわね。威力が全然ない。生前に見たこの魔術の威力はこんなものじゃなかったわ。このランクくらいの一撃なら、おそらくだけど受けきることが可能だわ。
『ユーノ!』
『シャル!』
覚悟しなさいよ、ルシル。
「我が心は拒絶する!」
「ラウンドシールド!」
私は魔力のすべてを、現状で発動できる制限されていない防性術式、その1つである対魔力の盾に送り続ける。そしてユーノが私の盾に重ねるようにシールドを張る。魔術と魔法の混成シールドよ。一直線に飛来してきた虹色の閃光――ゲオルギウスの槍の一撃が2重の盾に着弾、停止する。
「ぅく・・・! でもやっぱり強い! でも・・・!(よしっ! 順調に耐えている。これなら防ぎきれるわ!)」
想定していたより少し威力のあった竜殺しの槍。だけど私とユーノの多重障壁の前に、徐々に威力が衰えていく。
「なのは!」
「うんっ。いくよ、レイジングハート! ディバイィィーーン・・・バスタァァーーーーッ!」
砲撃特化のシューティングモードへと変形した“レイジングハート”から放たれる桜色の砲撃。それが技後硬直で動くことの出来ないルシルへと一直線に突き進んでいく。ルシルはただ一言、「ハハ、すごいな・・・」そう呆れたかのように微笑を浮かべた。そしてなのはの放ったディバインバスターの直撃を受けた。
「どうだ!」
「ちょっとやり過ぎ感が・・・」
私たちはルシルに一撃を入れることに成功した。もうもうと立ち上る土煙へ向かって吼えるユーノ。けど、倒せてはいないのよね、きっと。そう、あのルシルがこのまま何もしないまま、終わるわけがなかった。
†††Sideシャルロッテ⇒フェイト†††
私とアルフが“ジュエルシード”を封印し終えて戻ってきた時に見たのは、ルシルが白い子の放った砲撃の直撃を受ける姿だった。
「ルシルのやつ、ちょっとヤバくないかい? あんな砲撃の直撃を受けたら、さすがにマズイよ」
白い子の砲撃を受けたルシルを見て、アルフが心配している。けど、私は初めてルシルと出会ってから起きたことを思い出し確信する。
「ううん、ルシルは大丈夫だよ。だってあんなに強かったんだから。さ、アルフ。ルシルを迎えに行こう」
「あいよ」
土煙が晴れていく。そこには少し疲れたような感じで立っているルシルの姿があった。ほら、やっぱり無事だった。私とアルフは顔を見合わせて頷き合い、ルシルの元へと歩いていく。
†††Sideフェイト⇒なのは†††
「その歳でこの威力はかなりすごいよ」
「・・・そ、そんな、馬鹿な・・・」
今の私が撃てる最高の一撃だったのに、ゼフィちゃんは無傷だった。その様子にユーノ君がとてつもなく驚いている。私もだけど、あまりに効いてなさすぎて声が出ない。正直、やり過ぎちゃったって思えるほどに魔力を籠めちゃってたから・・・。
「・・・シャルちゃん」
「・・・やっぱり今回は私たちの負けね。なのは、ユーノ・・・ごめん」
「そんな!? シャルちゃんの所為じゃないよ!」
シャルちゃんが謝るのは絶対に間違ってる。こればっかりは、きっとどうしようもなかったんだ。
「ゼフィ、ジュエルシードの封印が終わった。早く帰ろう」
いつの間にか側にまで戻って来ていた黒い女の子と狼さんがゼフィちゃんに向かって、“ジュエルシード”の封印完了の報告をした。ゼフィちゃんは「ん、判った。それではこれで失礼するよ」仮面の下からでも判るほどの視線を私たちから外すことなく頷き返した。
「待ちなさい!・・・今度は負けないからね、ゼフィ」
シャルちゃんはゼフィちゃんにそう強く誓った。そして「上等です」ゼフィちゃんもそれに答えた。
女の子と狼さん、唯一名前を教えてもらったゼフィちゃんが去っていく。私はただ、あの子たちを見ていることしか出来なかった。
「・・・ユーノ君、シャルちゃん」
「どうしたのなのは?」
「ん?」
「・・・私、強くなりたい。今度は、今度こそは負けないように。だから、手伝ってくれるかな?」
「「当たり前だよ」」
私は決意を新たに、未だに待たせているすずかちゃんとアリサちゃんの元へと戻っていった。
†††Sideなのは⇒フェイト†††
「改めてありがとう、ルシル。ルシルのおかげで、邪魔されずに2つ目のジュエルシードを封印できた」
いま私とアルフとルシルは、この世界でのアジトである高層マンションの一室で休んでいる。今回の“ジュエルシード”の回収、アルフだけじゃなくてルシルも居なかったらきっと取られてた。
「いいさ、気にしなくても。先ほども言ったとおり、わた・・・俺は好きで手伝っているんだ。だから、わざわざお礼なんて言わなくてもいいんだよ」
ルシルは未だに慣れない一人称・“俺”に苦戦しながらもそう言ってくれた。ルシルは最初、“私”という一人称だったんだけど、ルシルの女の子のような外見から、私、と言うといろいろと認識が甘くなってしまう。
男の子なのに女の子って思えてしまって、何かまずい問題が起きたり、とかはお互いにダメだと話し合って、男の子であるということを常に認識し続けられるように一人称を変えてもらった。
「そうだよフェイト。こいつは好きでやってんだからさ。とことん使ってやればいいよ」
「君は少し遠慮って言葉を学びなさい」
それから2人はお互いに文句を言いながら、ルシルが用意してくれた夕御飯を食べている。うん、今日もルシルの御飯は格別だ。気が付くとアルフとルシルが私を見て微笑んでいた。なんか恥ずかしいから、2人から顔を逸らして俯いてしまう。
「うんうん。フェイトの笑顔は最高だね~!」
なんてアルフが言ってきたから顔が熱くなる。そんなに見ないで2人とも~。
・―・―・ミニコーナー・―・―・
シャル
「あら? いらっしゃい。ここから先は、その回に使われた魔術を紹介するコーナーよ。
コーナー名はそうね・・・シャル先生の魔術講座、にしようかしら」
なのは
「あれ? どうしたのシャルちゃん? そんなスーツなんか着て」
ユーノ
「しかもメガネを掛けてるし。シャルって目が悪かったっけ?」
シャル
「形から入ってるの。それと、なのは。どうしたの?って、私が今し方説明したわよね?
このシャル先生の魔術講座は、魔術を紹介するコーナーだって」
なのは
「にゃはは。うん、聞いてた。でもユーノ君は嬉しいんじゃないかな? 魔術にすごく興味ありそうだし。私は難しくてあまり憶えられないけど」
ユーノ
「うん。なのはや僕、というよりは魔導師に魔術は扱えないものらしいけど、僕みたいに興味が無ければ憶える必要もないんじゃないかな?」
シャル
「そうね。無理に憶える必要はないと思うわ。さて、それでは早速始めようかしら。今回、使われた魔術は4つ。
――風牙真空刃――
――風牙烈風刃――
――双牙炎雷刃――
――我が心は拒絶する――
真空の刃を放って対象を切り裂く、風牙真空刃レーレ。
風圧の壁を対象に叩きつけ、吹き飛ばすことで強制移動させたり押し潰したりする、風牙烈風刃ヴィント・シュトゥース。
属性の違う斬撃を二連撃で直接斬ったり放ったりする術式の1つ、双牙炎雷刃フランメ・ウント・ブリッツ。
対魔力用の円形の盾を創り出す、我が心は拒絶するゼーリッシュ・ヴィーダー・シュタント。
上3つは、魔術的にすると攻性術式と言われ、下は防性術式と言われているわね」
なのは
「レーレ、とか、ヴィント・シュトゥース、ゼーリッシュなんとかって英語じゃないよね? えっと、もしかしてシャルちゃんの国であるドイツ語だったりする?」
シャル
「まあ、そんな感じね。レーレは独語で真空という意味よ。
で、ヴィント・シュトゥースは、突風という意味。受けてみて解っているでしょ?
フランメは炎、ブリッツは雷光で、ウントというのはミッド語でandのこと。
そしてゼーリッシュ・ヴィーダー・シュタントだけど、ゼーリッシュは心の、精神の、魂の、という意味よ。
ヴィーター・シュタントは抵抗、反抗の意味で、実は拒絶じゃないの。ちなみに拒絶はヴァイゲルングと言うのよ」
ユーノ
「うん、確かにすごい風圧で、訳も解らないまま押し出されるように吹き飛ばされたね。けどそのおかげで、ゼフィって子の魔術を受けることが無くて良かったんだけど」
なのは
「ゼフィちゃんの魔術もすごかったね。光がキラキラだし。でもすごく危ないんだよね? シャルちゃん、魔術を使ったゼフィちゃんにすごく怒ってたし」
シャル
「えっと、あの子の事に関してはまた追々ね。でも、そうね。あの時、ゼフィの攻撃に非殺傷設定があるなんて知らなかったし。大切な友達であるなのはとユーノが、私と同じ魔術師であるゼフィ(ルシル)に傷つけられると思ったらやっぱりね」
なのは
「シャルちゃん・・・ありがと」
シャル
「コホン(テレ隠し)。それじゃ、第1回のシャル先生の魔術講座はこれで終了よ。良かったらまた来なさい。今度は美味しいお茶(なんて淹れられないけど)を用意して待っているわ」
なのは&ユーノ
「ばいばーい♪」
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