悲しきアウトサイダー
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4部分:第四章
第四章
「それは本当のことだからな」
「それでいいの?」
「いいさ」
ビールを一杯飲んだが全然味がしなかった。ついでに言えば酔いもしなかった。全く酔うことがなかった。
「最初からわかってたんだよ」
「わかってたって?」
「俺は生まれも育ちもダウンタウンさ」
それは変わらない。俺はダウンタウンで生まれて生きてずっとこうしてきた。けれどこいつは全然違う。生まれも育ちも坂の上で。本当のお嬢様だ。俺とは全然違う。
「御前は坂の上。世界が違うんだよ」
「世界が違うって」
「夢だったんだよ」
今度俺の口から出たのは夢だった。
「けれどな、やっぱり夢は夢だったんだよ」
「夢なのね」
「あばよ」
言いたくなかった。けれど言うしかなかった。どうせ最初から無理だった。自分で自分に言い聞かせた言葉だったがそれが現実だった。
「お別れだ。あの兄貴のところに帰りな」
「私は、それは・・・・・・」
「俺は所詮ダウンタウンさ」
諦めの言葉だった。
「御前は坂の上。そうだろ?」
「だから駄目なのね」
「どうしようもねえんだよ」
殆ど俺に言い聞かせた言葉だった。
「結局な。だからよ」
「お別れなのね」
「そうさ、終わりなんだよ」
また言ってやった。
「これでな。あばよ」
「・・・・・・わかったわ」
俯いて答えてきた。
「それじゃあ」
俯いたまま席を立って帰っていった。俺は黙ってそれを見送った。それだけだった。後はもう飲むだけだった。またビールのジョッキを手に取った。そこに仲間達が来た。
「あれでいいんだな」
「納得してるんだな」
「・・・・・・納得させるさ」
俺は言ってやった。飲みながらやっぱり味がしない。
「俺にな」
「そうか、わかった」
「それならな」
「ああ、いいんだよ」
早速俺自身に納得させた。
「これでな。所詮俺達はアウトサイダーだ」
「それはな。アウトサイダーさ」
「七人だけで生きてるな」
「それでいいんだよ」
本音の言葉を出してやった。
「アウトサイダーでな。それでいいんだよ」
「そうか」
「ああ」
これだけ言ってまた飲みだした。とにかく何の味もしない酒だった。けれどまた飲みだした。憂さ晴らしに。所詮はアウトサイダー、俺達にお似合いの道がある。そう自分自身に言い聞かせて飲んで仲間と一緒に騒いで。それで終わらせてやった。悲しみなんて無理にでも忘れてやった。終わらせる為に。
哀しきアウトサイダー 完
2008・8・21
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