気まぐれな吹雪
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第一章 平凡な日常
33、チーズケーキはお仕事の後で
3月14日。
怒濤のバレンタインから1ヶ月が過ぎた。
そんな今日は、説明する必要もないが、ホワイトデーである。
ところが我らが主人公・要は、相変わらず応接室にて絶賛仕事中であった。
朝からの雲雀からの電話で起こされ、ホワイトデーのチーズケーキを餌に引きずり出され、コスモに一言言ってやってきたのだ。
「それが終わったらあげるから」
なんて言われてラスト10枚。
夏以来の本気モード発揮。
「よっしゃ、終わった」
ここまでやってふと思う。
そう言えば生徒会って何やってるんだろう。
書類や学校行事云々がこの風紀委員に回ってくるなら、やちる率いる生徒会は一体どんなことをしているのか。
じと目の雲雀から受け取ったケーキを頬張りながら、要はそんなことを考えていた。
結論。
「よし、生徒会室に行ってみるか」
†‡†‡†‡†‡†‡
「あら、霜月さん。いらっしゃい」
「あー……やっぱりいるんだな」
早速行ってみると、やはりと言うか、やちるがいた。
その他の役員の姿はない。
「あなたがこんなところに来るとは意外です。どうしました?」
「いんや、別に。生徒会って何してんのかなってさ」
「なるほど、その事ですか」
するとやちるはコホン、と咳払いをすると眼鏡を押し上げた。
「何も、全ての仕事を風紀委員に奪われているわけではありません。私たちにもちゃんと仕事はあります。例えば、他校との交流の場があるとします。その承諾や段取りを任されているのは確かに風紀委員ですが、それを実行しているのは私たち生徒会です。その他にも、体育祭、学園祭、その他の学校行事などは風紀委員に書類や段取りを任せている分、生徒会が実行しているのです。つまり風紀委員と生徒会はどちらも欠けてはならない存在。風紀委員は裏で、生徒会は表でそれぞれの活躍を見せているのです。私は並中の顔としていることに誇りを持っているのです。ですからその分風紀委員も少しは大人しくなってくれると嬉しいのですが雲雀さんが分かってくれるとは思いませんのであえては言うことはありません。なので……」
「ストーップ!」
長すぎますよやちるさん。
聞いてた要の意識がもう明後日の方向に行きそうですよ。
てなわけでストップをかけた要である。
「悪ぃ、聞いたオレがアホだった」
そもそも何でオレはこいつと話なんかしてんだ。
ぶつぶつと呟き、頭をかきながらドアを開ける。
しかし、やちるの声がそれを遮った。
半不機嫌気味に振り返ると、やちるの手には、掌サイズの箱があった。
「バレンタインのお返しです。ちゃんとチョコ以外を作りましたのでご安心を」
「…………何でオレに?」
「今日はホワイトデーですから、くれた人にはお返ししませんと」
にこりと微笑むやちる。
渡された箱を開けてみると、中身はチーズケーキだった。
「ちっチーズケー……うぐぐ、感謝だけしてやる」
それだけ言うと、要は箱を抱えたまま走り去った。
残されたやちるの嬉しそうな顔と言ったらもう。
†‡†‡†‡†‡†‡
「なんだよコノヤロー」
ぶつぶつと文句を言いながらもチーズケーキを頬張る要in教室。
何だかんだで美味しいです、まる。
見事に完食し、席を立った時だった。
「要」
「んー?」
名前を呼ばれて振り返る。
そこにいたのは山本だった。
「応接室にいなかったから探したぜ」
「ん、何か用か?」
「バレンタインの時のお返しだぜ」
小さな紙袋を渡される。
中を開けてみると……
「Σ( ̄ロ ̄lll)」
ハー○ンダッツ、チョコチップ。
「前にアイスが好きだって言ってただろ? 季節外れな気もしたんだけどよ、チーズケーキだったら雲雀あたりが渡してるかなと思ってさ」
「い、いいのか? これ、高いやつだろ?」
「気にすんなって」
冬にアイス?
最高に決まってるだろ。
By要の心
「マジで嬉しいわ。ありがとな武!」
「ああ」
ニッと笑って教室を去ろうとする山本。
しかし、なにかを思い出したように立ち止まり、振り返った。
「今度ウチの寿司でも食いに来いよな」
「ああ、そのうち必ずな」
「待ってるぜ」
そして山本はアイスにテンションが上がる要を残して教室を去ったのだった。
コスモのことを思い出した要が慌てて教室を飛び出すのは、それから数分後のことである。
†‡†‡†‡†‡†‡
「あ、要。ちょうどよかった」
学校を出たとき、ばったり入江と会った。
その手には、皆と同じように小さい箱が握られていた。
「これ、バレンタインのお返しなんだけど、要の好きなものがなかなか思い付かなくて……」
そう言いつつ、入江は箱の中身を取り出した。
「ごめん、もっとちゃんとしたヤツならよかったんだけど」
それは、ミサンガだった。
黒、白、緑の三色で彩られたそれは、ところどころ解れたりしていた。
「もしかして、手作り?」
「下手くそでごめん!」
「いやいや! こんなの作れるってだけで上等だって!」
「ほ、本当……?」
「ああ!」
とたんに入江の顔が、ぱあっと明るくなった。
よほど自信がなかったのだろう。
要の言葉で一気に元気を取り戻した。
「良かった。喜んでもらえなかったらどうしようと思って心配でさ、昨日の朝からお腹痛くなっちゃってたんだ!」
「お前、ホントに繊細だな……」
笑顔で語る彼に、若干あきれた要であった。
そんなこんなでホワイトデーは幕を閉じた。
結局のところ、怒濤の1日であったことには、いつもの日常とかわりない1日であったことには間違いない。
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