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気まぐれな吹雪

作者:パッセロ
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第一章 平凡な日常
  29、壊れた未来

オレが辿り着いたのは、1つの部屋。

それは、下・中級の神はもちろん、上級の神でさえ入ることを許されない場所。

それが惣右介様の部屋だ。

机の前には、惣右介様が座っていた。

「銀、君に見てもらいたいものがある」

「オレに……ですか?」

「そうだ。見てくれ」

そう言うと、惣右介様は卓上のパネルを操作した。

オレの目の前に、映像が映し出される。

それは戦場だった。

肉片が裂ける音が響き、断末魔が轟く。

地面はたっぷりと血を吸いとり、赤く紅く染まっていた。

「惣右介様……これは、一体……?」

込み上げる吐き気を抑えつけ、絞り出すように問う。

こんな世界、今までで見たことがない。

彼の答えは、信じがたいものだった。

「これは、未来だ」

「未来……?」

「そう遠くない、霜月要、彼女のいる世界の未来」

「なっ!?」

そんな馬鹿な。

どうして、どうしてこんな……。

こんなの、白蘭が巻き起こした(  3)の比じゃない!!

「これは、あってはならないことが起きたために起きてしまった産物だ。解るね」

わかっている。

同じ世界に異世界からの能力者が複数いてはならない。

何故なら、その世界に膨大な負担がかかり、歪んでしまうから。

だから、本当なら“あの時”に然るべき対処をしなければいけなかったんだ。

けれどオレは、それをすること無くただの応急処置しかしなかった。

そう遠くない、未来。

つまりそれはオレと漣志で行っている対処が効かなくなったとき、期間にして2、3年。

そのとき、世界はこの映像と化する。

「私は君を責めている訳じゃない。確かに、ことの原因は君の部下であるし、君は然るべき処置をしなかった。けれど、過ぎたことじゃないか」

充分に責めてますよ、あなたは。

だとしても、オレたちが悪かったにしても、過ぎたことだなんて言ってあいつ等を見殺しにしたくなんてない。

2、3年の間で、絶対に阻止する方法を見つけ出してみせる。

「ただし、これを阻止する方法がたった1つだけある」

「!?」

「それは、どちらかが力を失う、もしくは、この世界から消滅すること」

「しょ……!? しかし惣右介様、やちるは召喚の掟によって願いを叶えられたもの、要は神の掟によって伝統に則ったもの! そんな……オレたちが掟破り(そんなこと)をしたら、それこそ世界の破滅です!」

前にも言ったが、オレたち神の中にも“掟”が存在する。

漣志のように召喚で呼び出される神は、召喚者の願いを3つ必ず聞き届けなくてはいけない。

例外はない。

そして要のように、神のミスによって天寿を全うできなかった者には、オレが新たな人生を提供する伝統がある。

こちらも例外はない。

これは全て、惣右介様が創ったもの。

覆してはならないが、覆さなくてはならない。

しかしそれが起こればこの世界は破滅……いや、抹消される。

「確かに、私が定めたことを神が覆すような真似をしてはいけない。もちろん、私もだ。だが……
 それが人間ならばどうなる?」

「!! 別の理由をつけ、どちらかが……と言うことですか?」

「君は理解が早くて助かるよ」

やちるが要の力を消すか殺す、または、要がやちるの力を消すか殺す。

つまりはそういうことだ。

「いつ、どちらを消すのか。それは君に任せるよ。尤も、どちらにせよ早くしないと意味がない。
 期限は1年。わかったね」

疑問系じゃない辺り、嫌になるぜ。

「はい、わかりました。1年以内には必ず……」

思わず苦虫を噛み潰したような顔になってしまう。

そんなオレに、彼はただ微笑みかけるだけだった。

要のもとに戻ろうと、部屋を出ようとしたときだった。

ふと、惣右介様に呼び止められる。

「なんでしょうか」

「君が独断と偏見で転生させた彼女は、元気にしてるのかな?」

「やっぱりバレてましたか……。ええ、お陰さまで」

皮肉たっぷりに返して、今度こそオレは部屋を出ていった。



†‡†‡†‡†‡†‡



家に帰ると、要はまだ寝ていた。

いつ目を覚ましてくれるか分からない。

けど、いつかこの話をしなくちゃいけない……。

心のどこかに、いっそこのまま目を覚まさずにいれば、永遠に眠り続けてしまえばいいと思っているオレがいる。

要に会ったときから、オレは胸の中によくわからない(わだかま)りの うなものがある。

それはお前と会うたび、お前の笑顔を見るたびに大きくなっていく。

「要……お前は、オレの何なんだよ」 
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