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フロンティア

作者:フィオ
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一部【スサノオ】
  十一章【ティティ】

「クラウリー!そっち行ったぞッ!!」

草原に響くジャックの声。
それに反応し、振り返ったクラウリーの目前には数十匹は居ようかというフロッグの群れ。
円上の頭部にパックリと開かれた大きな口。
そんな生き物が蛙のように跳ね押し寄せていては、さすがのクラウリーも気持ち悪さに絶叫する。

「ぎゃぁぁぁッ!?ちょっと!?毎回毎回、気持ち悪いのをこっちに回すのやめてくださるッ!?」

叫びながらも、槍を振り回し次々とフロッグを蹴散らしていく。
しかし、感情まかせに乱暴ながらもコアを狙うその戦いぶりはクラウリーの成長がみてとれた。

「ははは、やっぱクラウリーにああいうネイティブ押し付けるの面白いな!」

「ジャックさん、ちょっと性格悪いですよ」

そう言いながらも笑いを隠しきれない零。

そこへ、そんな二人へと不意に繰り出される大型ネイティブの一撃。

「おっと!」

「危なっ!…ジャックさんよそ見してないでくださいよっ!」

「零もだろうが!」

二人の目の前にたたずむのはフロンティア1でも屈指の力を持つネイティブである『バッファロー』だった。
零とジャックの優に2倍はあろうかという巨大な体に、荒々しく生える屈強な角。

バッファローは再び猛り出すと、その角を繰り出す。

「おぉうっ」

余裕を持ちながらその一撃を避けるとジャックはバッファローへと銃口を向ける。

「エクステンド、ラット!」

銃口から放たれた麻痺弾はバッファローの左前足へと当たる。
が、何事もないかのように猛り続けるバッファロー。

「ダメか…」

「いやいや…ダメか、じゃないですよ。あんな巨体にそんなでイケるとおもってたんですか!?」

「ちょっとな!」

ダメだこの人、と呆れる零。
そんな2人へとお構い無しにバッファローは突進してくる。

「うおっ!?やべえっ!」

「うわっ!!」

左右へ飛びそれを避ける二人。

「何やってますのあの2人は…」

2人のコントのようなやり取りにゲンナリとするクラウリー。

「真面目にやりましょ!?ねっ!?」

「そうだな、これ以上は命にかかわるわ…」

そういって2人は改めて武器を構える。

「俺が右やるから零が左な」

「はいっ」

と、バッファローの右目へと銃口を向けると、すかさずジャックはその引き金を引く。

轟音と共に放たれた弾丸は一直線にバッファローの右目を貫く。
その痛みに悶えるバッファローを見て、零は一気に間を積めた。

「エクステンド、フロッグ!」

エクステンドした零の跳躍は高く、バッファローの左目を射程に捉える。

ザンッ、という重い斬撃音と共に断末魔をあげるバッファロー。

「零、そのままいけっ!!」

言われなくても、とバッファローの体毛を掴み、一気にコアのあるその背中へと登り詰める。

剣を振り上げ、勢いのままにコアへと剣を突き立てる零。

「あっ、バカッッ!」

「え?…あっっっ!」

ジャックの叫びも虚しく断末魔をあげながらズンッ、と地響きを鳴らし倒れるバッファロー。

「採取する前に倒してどうするんだよ…」

と、ガックリと肩を落とすジャック。

「いてて…ごめんなさい…」

離脱に失敗し地面に叩きつけられた零は、立ち上がり申し訳なさそうにジャックへと歩み寄る。

「まぁ、また今度でもいいけどな…」

はぁ、とジャックがため息を漏らすと同時に起動する腕輪。

《依頼完了確認…》

《報酬金をメンバーへ等分いたしました…》

「…報酬金も入ったことだしな」

と、腕輪を操作し電子パネルを出現させ、振り込まれた報酬金を確認する。

「ちょっと!私のこと忘れてません!?」

「「あっ…」」

目を見やると、そこには捌ききれずフロッグに追いかけ回されるクラウリーの姿。

「忘れてたな…」

「…ですね」

そう顔を見合せ苦笑いすると、クラウリーの援護へとむかう。

スサノオとの遭遇のあと、自らその落とし前をつけようと心に決めた3人は手当たり次第に依頼を受け、その成果かもはやフロンティア1程度のネイティブでは物足りないほどの実力を身に付けていた。

フロッグの一掃も終え、その場に座り込む3人。

「…辛いクエストでしたわ…精神的に」

と、クラウリーはうなだれながも二人を睨む。

「なんかよ、そろそろこの辺りのネイティブじゃ特訓にもならないな」

クラウリーの鋭い視線をあえて無視をするジャック。

「じゃぁ、フロンティア2に拠点うつします?」

「そうだ……」

「ダメですわ」

ジャックの言葉を待たずして間へとクラウリーが割って入る。

「ダメって…なんでだよ?」

「決まってるじゃありませんの!まだこのエリア…フロンティア1の最強の敵を倒していませんわ!」

と、爛々と目を輝かせながら電子パネルを出現させ零とジャックへと画像を見せる。
そこには、ライオンにも見え狼にも似た、黒い毛並みの猛々しいネイティブの姿が映っていた。

「フロンティア1の最強ネイティブと名高い『マスティフ』ですわ!」

「マスティフて…そりゃ無理だろ」

「何がですの?」

フロンティア1において食物連鎖の頂点に君臨すると言っても過言ではないマスティフ。
その力は初心者殺しとも名高く、フロンティア3のネイティブにも匹敵する実力とも称される危険なネイティブだった。
しかし、ジャックが危惧するのはそこではなく…。

「いいか?マスティフの厄介なとこは強さなんかじゃなくて、生息地も出現場所も分からないとこなんだよ。わかるか?」

「だからなんですの?」

「あぁぁ…わかんねぇかなぁ!時間の無駄なんだって。下手すりゃフロンティア3にいくほうが早いレベルなんだよ。またいつあの化け物が現れるのかも分からない状況でそんな暇ないって…」

「だからこそですわよ?マスティフのエクステンドを手に入れておけば心強い武器になるんじゃなくって?」

苛立ちで頭をグシャグシャ掻き回すジャックと依然譲る気配もないクラウリー。
その険悪なムードにオドオドしながらも零は口をひらく。

「あの、じゃぁ取り敢えず聞き込みして無理そうならフロンティア2に進むっていうのは…」

「はぁ…零もクラウリー派か?」

「いや、そういうわけじゃ…」

ジャックは頭を抱え項垂れると…

「わかった。その代わり2日だ!2日以内に片付けるぞ!」

それがジャックの最大の譲歩だった。
いや、むしろ今の状態を考えるならば、スサノオの情報収集や戦いに向けての準備を進めなければならない現状ではジャックにとって2日という期間は痛いものであり、破格の条件だった。

「十分ですわっ!」

「だろうな…」

ウキウキしながら帰路につくクラウリーを見ながらため息を一つ。

「ジャックさんって優しいですよね」

「はぁ!?」

にやけるながら言ってきた零の言葉にジャックの声が裏返る。

「本当ならこんなことに付き合ってられないのに…わざわざ付き合ってくれるなんて」

「……零みたいなメンタル弱者とクラウリーみたいな馬鹿のお嬢様かぶれなんて危なくて頬っておけないからな」

照れを隠すように顔を背けると、ジャックもまた歩き出す。

「メンタル弱者、か…」

ジャックの言葉を噛み締めながらも、零は2人の後を追った。







フロンティア1『中央広場』。
そこはフロンティア1で最もユーザーの集まる場所だった。

『ギルド』というユーザー同士のコミュニティーへの勧誘を行う者や零たちのように情報収集に勤しむ者など、そのユーザーの幅はフロンティア1から4に至るまで多種多様。
マスティフの情報を集めるのにはまさにうってつけの場所だった。

「さ、手分けして情報を集めますわよ?」

「はいはい…」

「うわぁ…俺そういうの苦手なんですよね」

ノリノリのクラウリーとはうってかわりテンションの低い2人。
それはそうだろう。実際わざわざマスティフと闘いたがっているのはクラウリーだけなのだから。

「さて…どうするかな……」

1人人混みの中立ち尽くす零。
情報収集と言われても、リアルな人付き合いを避けてきた零にとってこの状況は苦痛以外のなにものでもなかった。

「お…」

そこへ目に飛び込んできた1人オドオドしている少女。
明らかに初心者だが、誰にも何も聞かないというわけにもいかず、情報収集をしたという既成事実を作るためにも零は少女へと歩み寄る。

「あの、ちょっといいですか?」

「えっ…あ……はい」

突然の零の出現に驚き若干後ずさる少女。
その姿に親近感を覚え少し気持ちが楽になる。

黒い流れるような綺麗な長髪に、首もとに羽飾りのついたワンピースのその少女。
顔立ちも少しタイプだったこともあり零の頬が若干赤くなる。

「マスティフっていうネイティブについて情報集めてるんですけど…何か知らない……ですよね?」

知っているはずがない。
そう思いながらも聞いた零だったが、返ってきたのは意外な返答だった。

「えと…多分草原から西にある湖畔に……よく水を飲みにくる…みたい」

「え?」

「でも…結構『照れ屋な子』だから…会えない……かも?」

恥ずかしいのか、零を直視出来ないながらも少女は一生懸命に話を続ける。

「でも…夜ならちょっとだけ会える可能性がある……かな?」

「あ、あぁ夜ですね…」

知っていたことよりも、モジモジするその少女に心を奪われ零の頭には言葉が入ってこない。

「うん…あの……あなたも何処かのギルドにはいっ……はってるの…かな?」

なんだ、ギルドの勧誘で緊張してたのか…。

それどころじゃないと分かっていても…それにしても、モジモジし言葉を噛みながら一生懸命な少女に零はさらに心を奪われて行く。

「いや、ギルドには入ってないんですけど仲間が居て…」

「そっ…そっか……よかったら…私達のギルド入って……ほしいな…なんて」

可愛さに地団駄を踏みたくなる。
だが、それを我慢しながらも零はなるべく冷静に見えるように…

「あぁ、じゃぁ、ちょっと仲間にも聞いておきますね」

「ありがとう…じゃぁ私のコンタクト番号…渡しておくね」

「えっ…あっ…は、はいっ」

思わぬ収穫に声が裏返る。
フロンティア内で離れた場所にいるユーザーて話す為に必要なコンタクト番号。
それはいわゆる携帯番号と同じで、零が初めて女性から番号を教えてもらった瞬間だった。

「じゃぁ…私勧誘頑張らなきゃだから…」

「あ、はい!勧誘頑張ってください!」

零のその様子にニコッと笑い返すと…

「私…ティティ……」

「あ、俺は零です!」

「零…さん……ありがとう…登録したよ」

そういって、控えめに手を降ると人混みの中へティティは消えていった。

ティティが完全に見えなくなると零は…

「よっしゃぁッ!!」

ティティのコンタクト番号とマスティフの有力情報という大収穫にガッツポーズをとる。

「零君、なにしてんのかな?」

「うえっ!?」

不意に後ろから聞こえた聞き覚えのある声に、恐る恐る振り返るとそこには腕をくみニヤけているジャックの姿。

「今のガッツポーズの経緯を教えてもらおうかな?…赤裸々にっ!」

ガッと零の首へ腕をかけジャックは楽しげに零の頭を手で掻き回す。

「ちょちょっ!居たんですかっ!?」

「居たわっ!むしろ冒頭から居たわっ!!」

「じゃぁ、経緯話すまでもないじゃないですかっ!」

そう零がいうと、ジャックはおもむろに首にかけていた腕を解き、今度は両肩に手をポンと置く。
その顔は真面目を装っているが笑いを隠しきれていない。

「零君、違うんだよ。全然違う大間違いだ」

「なにがですかっ!?」

「俺は君の口から赤裸々に…ぶふっ」

笑いをこらえきれず大爆笑するジャック。

「どんだけだよっ!おまっ…びっくりだわっ!」

「こっちのセリフですよっ!」

「心配になって着いてったらちゃっかりコンタクト番号までしっかり聞きやがって!」

「俺から聞いた訳じゃないですからね!?」

だが、爆笑中のジャックの耳にはそんな零の言い分も届かない。

「まぁまぁ、なにはともあれマスティフの情報は手に入れたわけだ!」

笑いすぎで出た涙をぬぐうジャック。

「善は急げってことで、今夜討伐いくかっ!」

「そうですね」

面白いものが見れた、と足取りの軽いジャックとは裏腹に疲れきった零の足取りは重かった。 
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