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とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
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妹達
  Trick53_このメッセージ、遺言にも見える




治療から1時間後、信乃と美雪はタクシーに乗っていた。

格好は入院患者の服ではなく、病院に駆け込んできたときのそれぞれの服。
治療後に即日退院を言い渡された。

「「・・・・・・」」

無言。信乃が携帯電話を(氏神や宗像に連絡などで)使っていたのもあるが、長い重い沈黙が続いた。

信乃と美雪はテスタメントの治療直後は話をしていたが、それ以降はほとんど無言だ。

この入院中にいろいろとあった。
2人の関係は以前に比べれば近くなってはいたが、急に近くになり過ぎて
対応に困り沈黙が続いていた。

「えっと・・・・そろそろ、家に着くな」

「ん・・・」

タクシーから降りて学園都市で充てられてた信乃の部屋に行く。

その間も無言であったが、少し違ったのは美雪が信乃の服の裾を掴んでいたことだ。

1時間前までは時宮の呪いのような術に掛けられ恐怖体験をした後だ。
信乃も特に何も言わずにそれを受け入れる。

一瞬、服の裾よりも手を握った方が良いかと思ったが、恥ずかしくてやめた。

「さて、と」

鍵を開け、久しぶりに帰った部屋を見る。

元々片付けていたし、空けていたのは1週間程度。埃などで汚れてはいなかった。

「あ~、えっと・・・・お昼の時間帯は過ぎているけど、病院でご飯も食べなかったから
 ・・・・ご飯でもつくるか」

「そ、そだね・・・」

「座って待っててくれ、俺が作るから」

「わ、わたしも・・・手伝う」

「大丈夫だよ。

 1週間も点滴だけだったから消化しやすいのにするから。
 非常食用に置いていたレトルトお粥と、適当におかずを作るよ」

「・・・ん」

話している間に信乃の緊張は少し和らいだ。
しかし美雪の方はまだまだといったところだ。

美雪は言われた通りに座ったが、居間のソファーではなく
キッチンにある食事用のテーブル椅子に座った。

しかも信乃と距離が1m程しかないほど近くに座る。

「美雪、ソファーの方で座ってていいぞ。
 なんならご飯ができるまでソファーで横になっていていいし」

「えと・・ん、ここで大丈夫。
 ここがいい。迷惑・・・・かな」

「いや、別にいいけど」

正直に言えば近い気がする。
しかも信乃の方を真正面に向いて座っている。

(さっきまで黙っていたのって、恥ずかしいからじゃなかったのかな?)

恥ずかしいならば距離を話すと思ったのだが、美雪は逆に近くに寄ってきた。

不審に思いながらも料理を終え、食事を始める。
気まずい雰囲気を続けたくなかったため、信乃は当たり障りのない会話をした。

一応は自分についての内容はタブーだと考えて話題は避けておく。
自分の話、特に空白の4年間はついこの前に重大告白をしたばかりで美雪も嫌であろう。
さらには1週間前に襲われた時宮も、この4年間に関わっている。
下手に自分の話題で墓穴を掘り、美雪への精神的負担を減らそうとしていた。

そうなると話しやすいのが空白の4年間で起こった、美雪の出来事。美雪の周りの話だ。

話のメインは美雪が、美雪が1を言えば信乃が10を返すほど感想を言う。
出来る限り病み上がりの美雪に負担を掛けないようにしていた。

「それでね、最新のテスタメントはシノブちゃんが関わっているんだよ。
 すごいよね」

「なるほど、美雪と違って優秀なんだな」

「あ、ひどい♪」

その甲斐あって美雪は冗談に返事できるほどに回復していた。

「「ごちそうさまでした」」

「そんじゃ食器片付ける」

「あ、手伝うよ」

「別に大丈夫だよ、1人で」

「2人の方が早く終わるよ」

「・・・分かった。洗ったのを布巾で拭いてくれ」

「ん♪」

食器を信乃が洗って水で泡を流し、それを美雪が拭く。
2人は隣同士に立ち、広くないキッチンにいるため距離も近くなる。

だが、例え広いキッチンであっても美雪は信乃の近くに立っただろう。

「ん。これで最後のお皿だね」

「お疲れ様。
 テレビ付けるか? 俺はソファーに座ってパソコンのメールを確認するけど」

「・・・私のパソコンも1週間障って無かったし、何か連絡きてるかもしれないから」

「そっか」

キッチンからソファーのあるリビングに移動する信乃。
その後ろに付かず離れずの距離で追う美雪。

ソファーに座り、ノート型パソコンを起動させる信乃。
リビングに片付けてあった信乃とは別のノート型パソコンを取り出し、信乃の隣に座る美雪。

美雪が座った位置は、信乃から10cmも離れていない近い位置だった。

(あ~・・これは間違いない。美雪、俺から離れないようにしている)

料理をする時に美雪が近くに座った事には、疑問をもつ程度だった。
だが食器の片付け、リビングまでの移動、ソファーに座る位置を考えて確信に変わった。

美雪が物理的な意味で、信乃の近くにいるようにしている。
そして常に信乃へ強く意識を持っている。

視線をパソコンの画面に固定したまま、視界の隅にいる美雪を確認する。
美雪は体勢こそパソコン操作のそれだが、チラチラと信乃を見ていた。

割合で言えば『パソコンの画面を見る時間』と『信乃を見る時間』が3:7だ。

おそらく美雪がメールを確認すると言っていたのも、信乃の隣にいる後付け理由かもしれない。

(どうしよう・・・このままじゃ、今日寝るのも一緒の部屋になるのかな)

いつもは美雪は隣の寝室、信乃がこのリビングのソファーで寝ている。
その辺りは美雪も節度を持っていたが、今はどうだろうか。
おそらくは頬を染めて涙を浮かべた上目遣いでお願いされる未来が待っているだろう。

一旦、美雪の事は忘れて(現実逃避とも言う)メールの確認を優先する。

1週間の突然の入院に、風紀委員や御坂や小烏丸の面々には携帯電話のメールで連絡した。

パソコンのメールで届くのは、仕事関係の連絡や、国外の知り合いからの連絡が多い。
学園都市に入ってから休業している何でも屋だが、緊急ではない依頼が知り合いを
経由してメールに届いたりする。また、国外にいる知り合いとの個人的な連絡もパソコンを
利用している。

それらの重要度が高くないメールを確認しつつ、位置外からのメールを読み始める。

1週間前から小烏丸は合宿を開始している。
信乃を介さずに練習メニュー作成、アドバイスを行えるように
氏神クロムに渡したパソコンを渡しておいたので、位置外からのメールは合宿の定期連絡となる。

その内容に合わせ、佐天と黒妻の中級以上のATをどのようにするか信乃は考えていた。

「あれ?」

「どうした、美雪」

先程まで2人とも無言でいた中で、美雪が急に疑問符を呟いた。

「シノブちゃんから妙なメールが来ているの」

「妙? メールの内容、見てもいい」

「ん」

頷き、画面を信乃に向ける。

「えーと、
 『ちょっとしたクイズよ。他の人に頼らずに答えに辿りつきなさい。
  3日以内にわからなければ私の勝ちよ。
   ≪ZAB630NKJ989POI33e'≫
  PS:答えがわからなかったら、いつも話している彼氏に助けを求めるのはOKということにするわ』

 ふぇ!? かかかか彼氏って信乃とはそのまだそんな関係ではなくでも/////!?」

「このパスワードは・・・ッ」

PSの部分を音読して動揺する美雪をよそに、信乃はメールにあった文字に目を細めた。

「嫌という訳じゃないけどでも信乃の意見を無視してそんな////  えへへへ♪」

「おーい馬鹿、トリップしてないで戻ってこーい」

美雪の頭に軽くチョップを入れて正気に戻らせる。

「へう!? ごごごめん」

「で、このメールが送られたのはいつだ?」

「ちょっと待って・・・あ、3日前だ! クイズの期限は今日までだ!」

「クイズ、ね。

 確認したいんだけど、シノブさんとはこんなメールのやりとりを頻繁にする?」

「初めてだよ。シノブちゃんはこんなの送るなんて初めて。

 シノブちゃんはあまり冗談を言うタイプじゃないし、いつも連絡は携帯電話を使う。
 PCのメールは、基本的に学校の課題でデータの受渡しが必要な時にしか使わないよ」

「そっか。・・・ますます怪しいな。

 美雪、このクイズに答えるつもりあるか?」

「ん~~。出来れば答えたい。
 シノブちゃんがこんなことするのは、さっきも言ったけど初めてだし。
 何か理由があると思うから答えたい、かな。

 そういえば信乃はこのクイズの文字、パスワードって言っていたよね?
 この≪ZAB630NKJ989POI33e'≫って何かのパスワードなの?」

「・・・別にからかうつもりで言うんじゃないけど、PSに書かれていた俺に助けを
 求めるってことでいいのか?」

「/////あ~え~っと・・・まぁその、ん。そうだね、信乃に助けを求めます」

「一応注意しておく。

 この文字、学園都市のセキュリティランクA以上の重要情報に使われている
 パスワードと同じ種類のものだ。
 パスワードの種類は個人用ではあるが、友達同士が使うにしてはいささか厳重すぎる。

 正直言って俺は嫌な予感がする。精神衛生を考えると見て見ぬふりをするのが良いぞ」

「それを聞いて余計クイズに、シノブちゃんの答えに辿りつきたくなった。

 シノブちゃんは冗談を言う大部じゃない。
 このパスワードも信乃がいなかったら、パスワードだっていう事すらわからなかった。
 ううん、違う。シノブちゃんは信乃に答えを求めてもいいって書いている。
 信乃が面倒事に巻き込まれているってことを、もちろん詳細は伏せているけど
 シノブちゃんに何度も話した事がある。
 これは信乃だったら答えが分かるって伝えたかったんだと思う。
 シノブちゃん、素直じゃないところあるから。

 だから素直じゃないシノブちゃんの代わりに、私が素直になる。クイズの答えを知りたい」

「・・・・最後の注意、警告だ。見て見ぬふりの方が良いぞ」

「教えて、信乃」

信乃はため息を吐きだし、自分のパソコンの方を操作した。
数秒後、学園都市の重要情報のパスワード入力画面を表示させる。

「ログインするにも端末に専用ログインをインストールする必要がある。
 さらにはインストールする前に、申請書を学園都市に出す必要もある。
 おまえの予想通り、俺の助けがないと答えには辿りつけなかった。

 さっきのパスワード、ここに入力してくれ」

「・・ん」

美雪は予想よりも重要なパスワードに少し戸惑いがあったが、
一瞬でそれを引っ込めて覚悟を決めた。

「入力終わり。
 私宛てのメッセージ、なのかな?」

「俺も見ていいか?」

「いいよ。それにシノブちゃんも信乃が見る事を想定に入れているんじゃないかな」

「かもな。それじゃ、遠慮なく」

信乃も画面の内容を確認する。


  Dear 美雪

  このメッセージを見ていると言う事は、無事にパスワードを解けたようね。
  私の最後の言葉を聞いてもらえて嬉しいような、残念なような奇妙な気分よ。

  奇妙と言えば私達の関係もそう言えるわね。
  実は言うと、私があなたと初めて話した時は偶然じゃないのよ。

  覚えているかしら? 学校の食堂で、一人で昼食を食べているあなたに
  席は空いているか聞いて向かい側に座った時の事。
  あなたは相席を許していたけど、人見知りだったから食事をしながら
  論文を読んで≪話しかけてくるな≫ってオーラを出していたわね。
  人見知りというよりも他人嫌いって感じだったわ。

  でも私はあなたに近付く事が目的だったから、無理に話しかけたわ。
  運良く、あなたが呼んでいる論文は私が既に読んであるものだった。

  『その論文、最新のものじゃないわよ。2ヵ月前に新しく書き変わっている
  『え?』
  『内容が結構変わったの。equal、読むだけ時間の無駄になる』
  『え、あ、ありがとう・・・ございます、先輩』
  『別に構わないわ。そんなもの食べながらだと料理が冷める。
   研究中の間食に食べる簡易食品ならまだしも、
   食堂の料理は熱いうちに味わうべきよ。well、早く食べなさい』
  『は、はい』
  『最新の論文なら私が持っている。食べ終わったら渡すから、安心して
   ゆっくり食べなさい。急いで探す必要もないわ』

  私の研究の一部にあなたの薬剤師としての力が必要だった。
  あなたからクローン技術に使う薬を、細かい事を聞ければよかった。
  気付かれないように何気なく話を聞き出す程度の仲になれば十分だった。

  けど、予想外に仲良くなってしまったわ。
  楽しかった。自分が人道に反した研究をする為、
  あなたに話しているのを忘れてしまうほど楽しかった。

  あなたに会っている間はずっと研究は続いた。
  あなたとの会話から薬の情報を聞き出し続けた。

  それを続けていて、なぜか胸の中に違和感を感じていった。
  日を追うごとに違和感が大きくなって、それが罪悪感だと知ったのは
  あの子が初めて外に出た時の事だった。

  『様々な香りが鼻腔を刺激し胸を満たします。
   一様ではない風が髪をなぶり身体を吹き抜けていきます。
   太陽光線が肌に降り注ぎ頬が熱を持つのが感じられます。

   世界とは・・・こんなにもまぶしいものだったのですね』


  我ながら単純だと思うけど、あの時から私はあの子達を
  造り物とは思えなくなってしまった。
  世界が歪んだ醜いものにしか見えて無かった私よりも。

  あの子の方がずっと人間らしいと思ったから・・・・


  私は決めたわ。あの子達を救うために全てを掛けると。

  だから美雪。無事に帰ってこられたら、一緒に食事に行きましょう。
  楽しみにしているわ。

    さようなら


「「・・・・・」」

メッセージの内容に沈黙する2人。

しばらくして美雪がやっとのことで言葉を紡いだ。

「な、なにこれ?」

「・・・・美雪、心当たりは?」

「あ、あるわけないで・・・あ!」

「どうした?」

「考えすぎかもしれないけど、1週間前に最後に会った時に、思いつめている感じがした」

「このメッセージを書くきっかけになる、何かがその時にはもうあったってことか。

 美雪、この事は俺に任せ「私も行くよ」 美雪?」

「このメッセージ、遺言にも見える」

「・・・お前もそう感じたか」

「一応、医者だから。病状が末期の人が、何かに謝ったり意味の掴みにくい事を
 話すのを聞いた事がある。
 
 シノブちゃんも『私の最後の言葉』
 『無事に帰ってこられたら、一緒に食事に行きましょう』
 『さようなら』とか自分が無事で無い状況に立っているのを自覚している。
 
 そんな状況の親友を放っておけない!」

「そんな状況ってのは、命の危険があるってことだろ?
 戦闘力がないお前が行っても役に立たないだろ」

「戦闘力ならある。

 医者として病気や怪我と戦う戦闘力!
 これなら信乃よりも自信がある。

 それに薬剤学の分野だけで言えば、師匠のカエルさんと同じぐらいだって言われてる。
 緊急処置、応急処置が必要になるかもしれない。

 それになにより、シノブちゃんは私にメッセージを送ったの!
 信乃にだけ見せる集団なら他にもあったのに、それをしなかった。

 私の力が必要だってことだよ!」

「あ~、もういいや。こんなになったお前は、言う事聞かないってのは
 俺が一番よく分かっているよ。この頑固者。

 分かった。10分後に出発だ。すぐに準備しろ!」

「ん♪」

信乃はPCを操作した後、すぐに隣の部屋に向かう。

隣の部屋は信乃専用のラボ、A・Tの調整作成を行う場所だ。

「信乃、勝手に置いていかないってこと信じてるよ」

「わーってるよ。シノブさんがお前を必要としているってこと、俺も感じたから
 一応連れて行ってやる。足手まといになるな! 早く準備しろ!!
 あと服装は動きやすくて、身元の特定が出来づらいものにしろ。
 顔を隠すものは俺が用意するから!」

「う、うん!!」

信乃の真剣な返事に少し困惑した美雪だが、すぐに着替え等の準備をする。

美雪は動きやすい服装に着換えた後にリビングに戻る。
自分の学習机の隣に置いてある高さ60cm×底30c㎡でブラウンカラーの箱を取り出し、
箱にある100個の引き出しの中身を確認する。

「準備できたか?」

玄関から信乃が、美雪と同じ大きさの箱(色は黒く塗られている)を持って入ってくる。
その脚にはA・Tが装着されていた。

「ん。材料も1週間放っておいて劣化するものは無ないし、材料の不足もない」

「それじゃ、行くぞ!」

先程のPCを再び操作する信乃。

「そういえば信乃、行くってどこに行くの? 私が心当たりがあるのは
 シノブちゃんの研究所がある建物が3か所と、学校くらいだけど・・・」

「やっぱりシノブさんは、俺にメッセージを見られる事を前提として送ったみたいだな。
 学園都市の最高レベルのセキュリティを使ってメッセージを残すくらいだから
 そんな当たり前の場所にはいないと俺は思っている。

 っと、返信が来た。

 なになに・・・『ZXC741ASD852QWE96e'』か。さすがちっぃくん、早い速い」

信乃が部屋を出る前にPCを操作していたのは、知り合いの探査者(シーカー)
情報収集をお願いするメールを送ってからだ。

送信したメッセージの内容は以下の通り。
『布束砥信の居場所を調査して下さい。報酬は位置外水のプライベート写真5枚セット』

その変身が先程の文字列。同じく学園都市のセキュリティランクA以上の重要情報のパスワード。

信乃はそれをログイン画面から入力して、情報の詳細を調べる。

「!!!

 なんだよ、これ!?」

表示されたのは、『絶対能力者進化計画(レベル6シフトけいかく)』

さすがの信乃も驚きの声を上げた。


つづく 
 

 
後書き
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