黄砂に吹かれて ~Another version~
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第二章
「それがなくなったのよ」
「思い入れ?」
「ええ、そうなのよ」
「仕事に思い入れがない?」
「こだわりかしらね、ここはこうしないと駄目とか」
「つまり意地がなくなったのね」
「そう思ってくれるならそれでいいわ」
相手がどう思おうとも、私はそのことも関係なく思えるようになっていた。このことについても無関心になっていた。
「それでね」
「そうなの、とにかくね」
「今の私はなの」
「仕事完璧よ」
そこまで出来ているというのだ。
「何もかもがね」
「ならいいことなのね」
「悪い筈ないでしょ、仕事が出来て」
同僚は笑顔で話す。
「それならね」
「そういえば皆今は私を頼りにしてくれているわね」
「嬉しいでしょ、そのことが」
「そうね」
やはり相手を見ないで作り笑顔だった、けれど相手は気付いていない。
「それはね」
「頼りにしてるわよ、私も」
同僚は明るい笑顔で私に話してくれる。
「これからもね」
「ええ、じゃあね」
「頑張ってね」
私にこうも声をかけてくれた、けれど。
その頑張るということも私には届かなくなっていた、何もかもが動かず空虚なままだった。都会にいてもそれでもだった。
何も感じない、本当に。
何をしても何処にいても感じない、どんなドラマを観ても音楽を聴いても。
砂漠にいる様だった、家ではいつも一人だった。部屋はいつも綺麗にしていても。
ただ綺麗なだけで何の味もない、砂しかない様に感じた。
誰を観てもだった、合コンに誘われてどんな人と出会っても。
「いい人だと思うわ」
いつもこう思うだけだった。
「けれどね」
「えっ、付き合わないの?」
「そうなの」
「遠慮するわ」
その合コンの後でだ、友人達に言った。冷めた口調で。
「私はね」
「けれどあんないい人いないわよ」
「収入だけじゃないじゃない」
「性格もいいし」
「外見だって」
「ええ、そうね。けれどね」
彼とは違う、この言葉は私の心だけで呟いた。
そしてだった、私は。
誰とも一緒にならず誰も見ても何も思わないままだった。飲んでも酔わなかった。もっと言えば酔えなくなった。
それでも飲む時は飲んだ、バーのカウンターで一人で飲む時が多くなっていた。そこで二人だけの時を思い出すばかりだった。
そしてここでもだった、自嘲を込めて呟いた。
「終わったことなのにね」
こう言うだけだった、終わった恋終わるしかない恋だとわかっていても。
それでも忘れられない、私はカクテルを飲みつつ自嘲の笑みを浮かべるだけだった。
その私にだった、カウンターの中にいるバーテンダーが声をかけてきた。
「お客さん、晴れないというかね」
「違うというのかしら」
「砂みたいだね」
こう私に言って来た、手慣れた動きでカクテルを作りながら。
「どうにも」
「砂ね」
「空虚だね、見たところ」
「そうね、何を飲んでもね」
「味がしないんだね」
「美味しいと思うわ」
この店のバーテンダーの腕は確かだ、彼と付き合う前からよく通っている。けれど今はそのカクテルを飲んでもだった。
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