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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第114話

窓もドアも階段もなくエレベーターも通路もない、建物として全く機能する筈もないビルは大能力者(レベル4)空間移動(テレポート)がなければ出入する事も出来ない最高の要塞の中、直径四メートル、全長一〇メートルを超す強化ガラスでできた円筒の器に赤い液体で満たされた中で逆さまになって浮かんでいる、男にも女にも見えて大人にも子供にも見えて、聖人にも囚人にも見える人間、学園都市の最大権力者であり、学園都市総括理事長、アレイスター・クロウリーは一つの画面を見つめていた。
その画面に映っているのは、人工衛星がとらえた太平洋のど真ん中で巨大な台風が突然発生した映像が映されていた。
学園都市の気象部がこの映像を見て、上層部に異変の調査をするように申請したのだ。
なぜ、異変だと思ったのか。
そもそも、台風は上昇気流に伴って空気中の水蒸気は凝結し、(潜熱)を放出する。
軽くなった空気は上昇する。
すると地上付近では周囲から湿った空気が中心に向かい上昇し、さらに熱を放出しエネルギーを与える。
このような条件を満たすときに台風は発達する。
つまりは、気候や温度などの条件が重ならないと発生しないのだ。
それなのに、つい先程まで台風などが発生する筈がない気候で突然の台風の発生。
これを見て異常と捉えない方がおかしい。
しかも、大きさは数十キロメートルと巨大なもの。
これが日本・・・いや、どこの国でもこれほどの巨大な台風が上陸すれば、確実にその国は修復不可能な被害をこうむるだろう。
その報告を聞いた上層部は、アレイスターにこの一件の判断を聞きに映像を送ったのだ。
リアルタイムで映る映像を見て、アレイスターは小さく笑みを浮かべる。

「ほう、これほどの台風を発生させるとはさすがは、星の守護者というべきか。」

人工衛星の映像は台風の中までは見えていない。
つまり、アレイスターには麻生恭介が台風を発生させている事は分からない。
なのに、アレイスターは当然のように麻生が原因である事を呟いた。

「ダゴン機密教団。
 彼らが警戒するのも無理はない。」

その時、台風の中心から発生している台風すら消し飛ぶ暴風が発生した。
アレイスターはその一瞬を見た。
かつて、天と地が一つだった原初の星の姿。
それを天と地二つに分けた瞬間をアレイスターは見た。
そんな神話をアレイスターは実際に見た訳ではない。
記憶にはないが、遺伝子に刻まれているのだ。
その神話の光景を見たアレイスターはさらに笑みを浮かべた。

「なるほど、土御門が言った通りだな。
 扱い方を間違えば、私自身の首を絞める事になるな。」

それを分かっていても笑みを崩す事はなかった。

「いや、だからこそ人生は面白い。
 こうでなくては、張り合いがないというものだ。」

どうやら、その一撃の影響で台風もどこかへ消え去り、海も徐々に落ち着きを取り戻しつつあった。
それでも、アレイスターはその映像を見続けるのだった。






「魔力指数上昇中!!」

場所は変わり、イギリス。
ここはイギリス清教の魔力観測を主にする部署。
この部署は異常に発生した魔力を観測や、主要人物を中心にサーチ術式をするなどを主にしている。
その観測部隊が、異常な魔力指数を感じ取ったのだ。
場所は信じられないが、太平洋のど真ん中。
魔力の影響か巨大な台風が発生している。
報告を受けた、イギリス清教最大主教(アークビショップ)である、ローラ=スチュアートと魔術師ステイル=マグヌスが来ていた。

「これほどの魔力指数。
 ただの人間が出せると思うであろうか?
 貴方はどう思う?」

隣に立っているステイルに話しかける。
ステイルは煙草を上下に揺らしながら、答えた。

「おそらく、現存する魔術師では不可能ですね。
 伝説的な魔術霊装を使えば、あるいは。
 ですが、私は一人だけこれほどの魔力を発生させる人物を知っています。」

「ほう・・・それは誰であるか?」

「麻生恭介です。
 彼なら、これほどの魔力を発生させた原因と言われれば納得します。」

「現場には天草式がいたはず。
 彼らには後で報告をしてもらわないといけないわね。」

依然と魔力指数が上がっている。
ローラとステイルは黙ってその報告を聞くのだった。







場所はまた変わり、『女王艦隊』の甲板。
上条達は麻生が発生させた、台風を見て呆然と見つめていた。
上条達と麻生との距離はかなり離れている。
それにも関わらず、台風が発生させた波はこちらまで伝わり、インデックス達には莫大な魔力を感じていた。

「あれって、恭介が・・・・」

「それしか考えられないよな。
 それにしても、この魔力。
 普通の人間じゃあ考えられない量だ。
 一体、何がどうなって・・・・」

建宮がそう言った瞬間だった。
突然、台風が発生している所から、それを消し飛ばすほどの暴風が発生した。
その瞬間、その場にいた全員がある光景を目にした。
天と地を分けた神話を。
それらを見た彼らは一瞬だけ、言い様の無い恐怖が身体中を駆け巡った。
上条はその光景を見て何も分からなかった。
ただ、恐怖だけ感じていた。
魔術側の人間は違った。
特にインデックスは蒼白な顔をして、小刻みに震えていた。

「もしかして、あれはメソポタミア神話の創世叙事詩(エヌマ・エリシュ)
 そんなのありえない。」

すると、上条達が乗っていた艦隊が音を立てて崩れ始めた。
他の艦隊も同様に崩れ始めている。

「もしかして、五分経っちまったのか!?」

「あの化け物が居ないのなら大丈夫よな!
 お前ら、上下艦の準備をするよな!
 シスター達を全員助けるぞ!」

天草式のメンバーは持っている紙束を海に向かって投げ捨てる。
紙は上下艦に変換すると、海に投げ出されたシスター達を回収していく。
もちろん、上条達も海に投げ出されたが、すぐに回収された。
全員回収し終ると、上下艦は海面に飛び出す。
海面に出た時には、台風は跡形もなく消し飛んでいた。
おそらく、あの台風のある所に麻生はいた筈だ。
上条達はそこで麻生が戻ってくるのを待っていたが、一向に帰ってくる気配がしなかった。







麻生は海の中でゆっくりと沈んでいた。
能力使用時間はとっくに無くなっている。
天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)を撃った時点で、残り時間は数秒しか残されていなかった。
何とか海底から脱出する事はできた。
しかし、麻生の身体は莫大な魔力を集めた事による、負荷と乖離剣を使った影響で身体はボロボロだった。
故に泳ぐ力も、浮く力もなくただゆっくりと沈んでいた。
あの『剣』に名前はない。
とある英雄王はこの『剣』にエアという名前を付けた。
または乖離剣とも呼ばれている。
天と地を分けた一撃を放つ『剣』にこれほどピッタリの名前はないだろう。
乖離剣(エア)は人の望みによって作られながら、人の意思に影響されず生まれる「神造兵装」の一つ。
つまり、人の手には余りある兵器なのだ。
いくら麻生が星の力を使えるとしても、所詮は人間。
人間が「神造兵装」を扱える訳がない、使えてもその力を発揮する前に、身体に負荷がかかり死んでしまう。
麻生が扱えたのは星の加護によるもの。
しかし、身体にかかる負荷までも消し去る事はできない。
本来なら、治癒と並行して扱うのが一番なのだが、クラーケンの進行を防ぐには天の鎖を最大限強化しなければならかった。
治癒にかまけている暇がなかった為に、今はこうして海の奥底に沈んでいる。
だが、麻生はこうなる事を予想していた。

(やっぱり、こうなったか。)

そう思ったが、後悔はなかった。
あのクラーケンを倒す事ができて、麻生の胸には少し達成感が湧いていた。

(これで終わりか。
 まぁ、俺らしい最後かもな。)

ゆっくりと目を閉じる。
もう息はほとんどない。
このまま溺死するだろう。
後悔はなかったかが、少しだけ心残りがあった。

(あいつらを最後まで見守る事ができなかったな。)

そう思いつつ、麻生の意識は途切れるのだった。








目が覚めると、そこは一面黒の世界だった。
これは死後の世界か?と麻生が考えた時、突然、目の前に女性が立っていた。
年齢はおそらく二〇代前半。
髪は黒色で、腰まで伸びていて、一つに束ねてある。
蒼いコートを羽織り、独特の紋章が二つ書かれてある。
茶色のジーンズを履いており、紋章を除けばどこにでも居そうな女性である。
本当に突然だった。
眼を放したのではなく、突然現れたのだ。
麻生はそれを見て驚きの表情を隠せないでいた。

「誰だお前は。」

すぐに表情を元も戻し、誰かを聞く。
その言葉を聞いた女性が、今度は女性の方が驚いた顔をする。

「私の顔を見ても、誰だが分からないか。
 なるほど、これは私が思っているより重症みたいね。」

ぶつぶつと何かを呟きながら、一人で納得する。
それを見た麻生は少しだけ苛立ったような声で聞く。

「おい、一人で納得するな。
 お前といい、あの猫といい何かを悟ったような顔をして。」

「猫?・・・・ああ、彼のこと。
 あれに会っても何も分からないのね。
 これは相当重症だわ。」

「だから、何の事だ!」

「貴方が力をほとんど使えないのも納得したわ。
 となると、彼らに動いてもらうのが少し早くなりそうね。」

一人で何かを呟いている。
完全に麻生の事は蚊帳の外だ。
女性は麻生がじっと見つめている事にようやく気がつくとこう言った。

「貴方が疑問に思っている事を教えてあげる。
 まず、貴方は死んでいない。」

「何を言っている。
 俺は確かに海の中で溺死したはずだ。」

「あのままならね。
 死ぬ所を私が助けたの。
 本来なら星が助ける所なんだけど、今は全く機能していないからね。」

また麻生の疑問が増えた。
それを気にするの事なく女性は話を続ける。

「まぁそういうこと。
 もうじき貴方は目を覚ます筈よ。
 今の貴方は精神だけの存在だからね。
 もうじき、肉体の方が目を覚ます筈よ。」

すると、麻生の足元に光り始める。
足元から徐々に光の粒子となって消えていく。
麻生の身体が完全に消える前に女性はこう言った。

「そう遠くない未来、もう一度私と出会う筈だから。
 その時までに、その力の扱いをもう少し扱えるようになっておきなさい。」

右目をウィンクさせて女性は言う。
その言葉を最後に麻生の身体は完全に消えていった。 
 

 
後書き
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