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問題児たちが異世界から来るそうですよ?  ~無形物を統べるもの~

作者:biwanosin
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短編 あるお盆の物語 ⑧

では、第一部隊と行こう。

「・・・ん?この感じは・・・二人とも、あいつらを助けるか見捨てるか、真剣に考えろ。」

白夜は何かを感じ取り、二人にそう問いかける。

「なぜですか?とりあえず合流し、助けられそうなら助ける予定では?」
「そうだったが、まあ予想外の事態というやつだ。」
「その内容次第、早く教えてはくれないか、第一席?」
「あいつらのところに霊獣が出現した。」

白夜が淡々とそう言うと、二人が一瞬固まった。

「見えないか?あの白い衣をまとったやつだ。」

白夜が差す位置はかなり遠いが、呪力によって視力を強化してみている。

「それは見えますが・・・だとしたらまずいのでは?」
「うむ。早くせねばあの二人は命を落とすぞ。」

三人から視て、二人の人形遣いはかなり格下だ。
どう考えても、霊獣と戦って生き延びることはできないだろう。

「だが、同時にあいつらを助けるだけの余裕があるのか分からない。光也も言っていただろう、最終手段としてならよい、と。」
「あれは、絶対にするな、位でとるべきかと。」
「それに、我らには助ける責任がある。」

白夜の提案は、二人によって却下された。

「ならば、少しばかり急ぐとしようか。多少は痛い目を見なければ、反省はしないだろう。」
「他にも反省させる手段はあると思うのだが・・・」
「まあ、少ししたらすぐに助けるのであれば、よい経験で済むだろう!」

三人は方針を決め、バカ者二人の元へ向かうのだった。



         ==============



「ふむ、久方ぶりの顕現だが・・・やけに多い妖怪の気配を感じるな。それに、我のほかにも二体、霊獣がおる・・・」

顕現したそれは、目の前に陰陽師が二人いることに気付かないままそう呟く。

「お、亮。確かにオマエの計算どおりだったな。」
「当然。僕の計算が狂うはずがありません。」
「じゃあ、始めるか。」
「ええ、智也君。半端物を引き摺り下ろすために!」

二人はそういって、同時に自分達の武器を取り出す。
亮は小さな、掌に五個は乗るような人形を取り出し、呪力を込める。
智也は巻物二つを開き、そこに自分の血をたらし、開放する。

「来い、人形軍。“黄泉軍”。」
「開放。傀儡、“珠風”“玉露”。」

そうして、五体の人形は人間大のミイラになり、巻物からは刀を持った女性のような傀儡に何も持っていない男性のような傀儡が現れた。

「それに、我らが主も、顕現しようとしておる・・・む?霊獣殺しまでおるのか・・・」

が、霊獣は見向きもせずに独り言を続ける。

「余裕綽々だな・・・すぐにその余裕、崩してやる。」
「ええ。やりましょう。」

二人はそう言って、自分達の人形、傀儡を一体ずつそれに向かわせる。
そして、それにぶつかった瞬間に、両方とも砕け散った。

「「・・・は!?」」
「ん?なんだ、貴様らは陰陽師だったのか。あまりにも脆弱すぎて、気付かなかった。」

そして、ようやくそれは二人を認識した。

「だが、我の予想は当たっていたようだ。今のが攻撃のつもりなら、とくいね。今ならば、その命を見逃してやろう。」

そして、そう宣告する。
去らなければ、その命をとる、と。

「・・・いや、まだだ。卵ごときに霊獣が殺せて、僕たちに殺せない理由はない!」
「ああ。俺達は陰陽師、正しく奥義を継承している!」

だが、二人は慢心からその宣告を聞き入れず、さらに自分達の獲物を呼び出し、一気に決めようとする。

「「人形劇、悲劇!“黄泉祈念”」」

そして、二人が出せる最大の一撃を繰り出す。

「ははは・・・これでいけただろ。」
「ええ・・・土蜘蛛を屠った一撃、やれないはずがありません。」

二人はヘロヘロになりながらも勝利を確信する。
そして、衝撃によって起こった土煙が晴れると・・・そこには、無傷の霊獣と粉々になった人形と傀儡の山ができていた。

「そ、そんな・・・」
「逆に、俺達の人形が・・・」
「ふむ、それが最大の一撃か。」

霊獣はそう言って、足元の山を蹴り飛ばす。

「なんとも脆弱な、脆い一撃であった。そして、我が与えた機会を捨てたな。」

そして、力が抜けて地面にへたり込んでいる二人へと歩みを進める。

「我に歯向かった度胸だけは認めて、その命を絶ってやろう。」
「いや、悪いがそう言うわけにも行かない。」
「うむ、救える命は救わねばな。」

が、その前に出てきた二人の人間によってその歩みは止められた。
一人は両の拳に雷をまとい、一人はその手に刀を持っていた。

そして、二人より送れて出てきた女性が、バカ二人の前に出てくる。

「そこの二人、これで懲りたか?」
「あ、あんたらは・・・?」
「ほう・・・貴様たち三人は中々に出来るようだな。それに、一人は霊獣殺しのようだ。」

智也の台詞は霊獣によって遮られ、その霊獣の言葉で、亮は自分達の目の前にいる三人の素性を知る。

「ま、まさか・・・あなたたちは“席組み”の・・・?」
「ああ、そうだ。私は第八席、『式神使い』。そして、あちらの雷を使っているのが、」
「第十席、『雷撃』!」
「そして、俺が第一席、『降神師』だ。」

三人は、霊獣への挨拶もかねてそう言う。

「君達は命令違反をしている身だ、ということは理解しているかね?」
「・・・ああ。もちろんだ。」
「ですが、これも半端物を引き摺り下ろすためで・・・あなたたちも、あの半端者をよくは思っていないでしょう!?」

鈴女は冷静に説得しようとするが、二人は聞く耳を持たない。

「卵が栄誉ある“席組み”にいるなんて・・・」
「ああ、やはりそう言うことか。うん、そう思うのも無理はない。何せ、私達の中にも最初はそう言うものが多かったからな。」
「だったら、何故追い出そうとしない!そして、貴方達が行動を起こさないから僕たちがこうしているんです!」

まあ、二人がやりたかったことは、自分達でも霊獣が殺せることを証明し、ただ霊獣を殺しただけで“席組み”にいる一輝を引き摺り下ろそう、ということだ。
日本において、“席組み”にはいるということはそれだけ、陰陽師があこがれていることなのだ。

「まあ、それは追い出せる人がいなかったから、だよ。彼は“席組み”にいるに足る存在だ。」
「そんなこと・・・」
「信じられないのなら、自ら確認すればよい。一輝殿からの伝言だが、『一度俺のところに来い。実力の差を思い知らせてやる。』だそうだ。」

鈴女は一輝の口調を真似てそう伝え、立ち上がって霊獣たちのほうを見る。

「これで私の役目は終わりかな、白夜殿?」
「ああ、助かった。俺や拳ではそう言ったことは出来ないからな。」
「では、第一席はあの二人を!ここはおれたちで十分!」
「無論、そのつもりだ。」

白夜はそう言うと、バカ二人の襟足をつかみ、その場を去った。

「二人だけでよいのか?」
「ええ。彼には、もっと大きな存在を相手してもらいますので。」
「ところで、いい加減名を聞かせてはくれんか?こちらはもう名乗った、名乗るのが礼儀であろう!」

拳がそう言い放つと、霊獣は「確かに、礼儀に欠いておったな。」といい、名乗りを上げた。

「我が名は“ヤタガラス”!日ノ本の先触れが一人よ!」

そして、三つ目の戦いが始まった。
 
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