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戦国異伝

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第百四十四話 久政の顔その六

「あの顔はまさしく」
「そうであるな。雪斎よ」
「はい」
 雪斎も強張った顔で応える。
「久政殿から出ております」
「妖気がじゃな」
「はい、しかし」
「しかしか」
「それ以外にもです」
 あるというのだ、危惧が。
「あの部屋の中から感じます」
「では何処じゃ」
「それは・・・・・・!?」
 ここでだ、雪斎は部屋の中にあるものを見つけた。それは一見するとただ置かれている置物だ、だがよく見ると。
「あれは一体」
「な、何じゃあれは!」
「あれは何なのじゃ!」
 織田家の歴戦の者達もだ、それを見て目を見張った、それはこれまで多くのものを見てきた彼等をもってしても目を剥くものだった。 
 そしてだ、さらにだった。
 雪斎は周囲に気配を感じた、そのうえでこう言った。
「横です」
「横!?」
「横か」
「左右から一つずつ尋常でない妖気が」
「そこか!」
 すぐにだった、島が右を向きながらその右に小刀を投げた、するとそこに。
 漆黒の法衣と袈裟の僧侶がいた、そして左手は高山が島と同じ様にした。するとそこにもやはり漆黒の僧侶がいた。
 彼等を見てだ、前田玄以が言った。
「この者達、尋常な者達ではないな」
「如何にも」
「我等は妖術も身に着けている」
「杉谷善住坊」
「無明」
 右の僧も左の僧もそれぞれ名乗った。
「以後覚えておいてもらおう」
「この名をな」
「御主達も戦うつもりか」
 信長は彼等を目だけで見回した、そのうえで問うた言葉だ。
「ならば容赦はしないが」
「ふふふ、貴殿等の数とそれぞれの武勇ではな」
「我等二人だけでは相手にならぬ」
「ここは挨拶だけで去らせてもらおう」
「ここでな」
「左様か。では一つ聞いておこう」
 去ると言った彼等にだ、信長は落ち着いたまま問うた。その間も信長は前にいる久政から目を離してはいない。
「御主達が久政殿を操っておるな」
「如何にも」
「そうさせてもらっていた」
 その通りだとだ、二人も答える。
「我等の力でな」
「これまではな」
「成程な、では御主達がいなくなればか」
「久政殿は元に戻られる」
「本来な無害な御仁にな」
「わかったわ、ではじゃ」
 信長は己の周りにいる家臣達に対して確かな声で告げた。
「斬れ、生かしておくな」
「おっと、そうはいかぬ」
「去らせてもらうと言った筈」
 こう言ってだ、そしてだった。
 二人の僧は織田家の者達が動くより速くその場から消え去った。その姿を煙が消える様に薄めさせそのうえでだった。
 彼等は消えた、そして後の残った久政は。
「わしは一体・・・・・・」
 まずは呆けた様にその場に立ちそしてだった。
 すぐに己がしたことを思い出してだ、愕然とした顔でその場にへなへなと座り込んでからこう言ったのだった。 
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