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戦国異伝

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第百四十四話 久政の顔その四

 信長は大音声でこう告げた。
「武器を捨てよ!」
「ぶ、武器を!?」
「そうせよと」
「そうだ、捨てよ」
 こう告げるのだった。
「さすれば命は取らぬわ」
「ま、まことか!?」
「武器をを捨てれば命は取られぬのか?」
「最早雪崩れ込まれておるしのう」
「数が違い過ぎるわ」
 既に京極丸は突破しそのうえで浅井の兵達は完全に取り囲んでしまっている。勝敗は最早明らかであった。
 そうなっては相当な者しか戦おうとはしない、それでだった。
 殆どの者が信長の言葉に揺れた、そして最初に。
 どちらにしてもこのままでは死ぬだけだと思った足軽が武器と陣笠を捨てて前に出た、すると。
 織田の兵達は彼を黙って行かせるだけだった、そうして。
 それを見た浅井の兵達は次々と武器を捨てていった、長政の下にいる者達はともかく久政の下にいる者達は違った。
「今の大殿ではな」
「うむ、どうもな」
「あまりにも怪しい」
「近くに近寄れぬ」
「ではな」
 彼等はそれぞれ顔を見合わせて次々と降っていった、そしてそれを見て。
 戦おうと思っていた兵達も次々と武器を捨てていった、信長は彼等をひとまずは一まとめにしてそのうえでだった。
 今は武器を持たせていないが青い陣笠をかぶせていった、秀長が彼等に言うのだった。
「具足は青く染めるまで待ってもらおう」
「青い陣笠とは」
「では我等は、ですか」
「これからは織田家の兵ですか」
「そうなりますか」
「うむ、ただしじゃ」
 秀長は笑みを浮かべてこう言うのだった。
「長政殿が織田家に来て頂くのなら御主達の色はこのままじゃ」
「紺色ですか」
「そのままでよいのですか」
「そうなる、少なくとも御主達に剣を向けることはせぬ」
 それは決してだというのだ。
「ではよいな」
「はい、わかりました」
「それでは」
 こう話してそしてであった、浅井の兵達は命を奪われることはなかった。信長にしてみればやがて己の兵となる彼等の命を奪う筈もなかった。
 それで彼等を戦わずして去らせてからだ、そうしてだった。
 久政のいる京極丸の中の館をち取り囲みそのうえでだった。
 信長は自ら足を踏み入れた、それからだった。
 中に進んでいく、その時彼は今も傍らにいる信行にこう言った。
「では今からじゃ」
「久政殿のところにですか」
「行くぞ、しかしな」
「しかしですか」
「この館にもどういった仕掛けがあるかわかわぬ」
 それは警戒していた、信長の周りで部屋の一つ一つた丹念に探られている。それは廊下もである。
 そうした慎重な進みの中でだ、こう言うのだった。
「こうして少しずつ進みじゃ」
「そして、ですか」
「館を完全に包む。本来なら焼き払うが」
「今は久政殿にお会いする為に」
「こうして進んでおる」
 その通りだというのだ。
「確かにな、ではじゃ」
「館の一番奥まで行って」
「そしてじゃ」
 そうしてだというのだ。
「お会いしようぞ」
「それでは」
 こう話してそのうえでだった、信長は信行と共に館を進んでいった。そして遂に。 
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