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弱者の足掻き

作者:七織
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九話 「小さな一歩」

 木々の間から溢れる日光が暖かく辺りを照らす。
 そんな森の中。いつもより奥に入って俺は図鑑を片手に立っていた。
 もう一度図鑑と目の前の木を見比べる。

「夾竹桃か。あれだな、探せばあるんだな有難い」

 いやまあ、あっても困るが。
 そんなことを思いつつ木に登り葉の付いた枝を落としていく。
 バキッ、という音と共に落ちたそれを手袋越しに拾い袋の一つに入れる。
 いくつか拾い十分だと思い、別の場所へ向かう。
 木々が減り、草が多く生えているところで立ち止まりしゃがむ。
 左右対称で幾つにも分かれている葉。細く伸びる茎のような所についた小さな実のようなもの。
 どこにでもありそうな植物。熊葛というそれを毟ってさっきのとは別の袋に適当に詰めていく。
 
「これくらいでいいか」

 そこそこの量毟ったところで止める。まあ、別に珍しいものでもないし。
 俺は立ち上がり軽く背中を伸ばしコリを解す様に肩を動かす。若い体だから別に大丈夫だか、何となくの気分だ。
 既にそこそこの量は採集した。今回はこれで終わりでもいいだろう。
 そう思いながら決めておいた場所に戻ろうかと体の向きを変える。
 
「イツキさーん!」
 
視界の向こうから白が向かってくる。
いつもより若干だがテンションが高い。大自然の中での採集が楽しかったのだろう。ワンコのような笑顔である。
何とも微笑ましい絵だ。
だが白の手にあるものに若干顔がひきつる。

「おい、それ何だか調べたか白」
「いえ、さっき見つけたところです。ですからこれから調べます」

 真っ赤な棒の様な体。ほんの五六センチ程度のそれを握った白が言う。
 図鑑を出そうとする白を俺は静止する。

「ああ、調べなくてもいいぞ。ちょっとそれ貸せ」
「? イツキさん何だか分かるんですか?」
「ああ。だから取り敢えず貸してみろ」

 そう言い白からそれを受け取る。
 俺はそれを俺の右手に握り、

「ウラッシャー!!」

 全力で遠投した。








「カエンダケとかねーよ。マジ何でこんなところに生えてんだアレ」

 いつもの場所に戻りながら俺は呟く。
 
「あれそんなにまずかったんですか?」
「ああ。アレは汁が触れただけでも影響が出るキノコなんだ。普通のは食ったりしない限り大丈夫なんだけどな」

 そこそこ有名な物だから知っていた。昔新聞でも見た記憶がある。
 
「もう少し扱いに慣れてからならいいが、流石にまだ早い」
「分かりました」

 適当に話している内にいつもの場所に着く。
 荷物を下ろし、履くと俺が集めたものをそれぞれの袋ごとに別ける。

「準備できました」
「ありがとう」

 白が用意した低濃度の食塩水が入った容器の中にその内のいくつかをブチまける。
 残った袋はそれぞれ一つずつ別の容器の中にいれ水に浸す。
 キノコやら葉っぱやらが水に浸される。

「こっちは混ぜないほうがいい気がするしこれでいいか」

大丈夫だとは思うが念を入れてだ。
それとは別のいくつも入れたほうを白が指さす

「こっちの方はどれくらい晒すんですか?」
「そっちは三、四十分くらいだな。アク抜いたほうがいい気がする」

抜く必要があるかどうかは知らないがまあいいだろう。そもそも色々試すためだし。
虫とかを追い出す理由もあるしな。

さて、これでもう今することはもう無い。三十分ほど暇になってしまった。
だが、何もしないのもあれだ。なので白を組手に誘う。

「良いですよ。いつも通りですか?」
「時間つぶしだから軽くでいい。チャクラとか最低限で余り離れず技術面重視して組手するぞ」

 まあつまり、普通の組手だ。他を知らんから普通かわからんが。
 軽く準備運動をして互いに向かい合い組手を始める。

「今日、っ集めた物は何に使うんですか?」

 蹴りを放ちながら白が問う。

「想像できてるんじゃないのか?」

 俺は円を描くように腕を回す。払うと同時に蹴り足を掴もうとするが白は膝を折り曲げその手を抜ける。
白はそのまま軸足を軽く旋回し地を踏み込む。地を蹴って浮いたままの蹴り足が俺の腹部へ突き刺さる。

「…っく」

 何とか間に腕を挟み受ける。うむ、もう普通に負けるな。

「想像なら出来ますが、確証は……」
「多分、それであってるよ。そもそもそれ以外のためにあんなもん集めない」

 本を見ながら集めたんだ。どんな物を自分が集めたのか十分に理解しているだろう。
 それをどんなふうに使うのかも、まあ、予想はできるだろう。集めたものの処理の仕方は先に言っておいたし。
 
 俺は踏み込みながら白に殴りかかる。
 白はそれを手で包むように受けながら体を前に潜り込ませる。それを迎えるように俺は膝を突き出す。が、白はそれを分かっていたように体を少し捻り避け、出された膝の内側に腕をすべり込ませる。
 
(やべっ)

 振り払おうとするが遅い。
 白はそのまま膝を持ち上げる様に体重を前にかけながら同時に俺の軸足を刈る。
 不安定になった体を支えきれず俺は背中から倒れる。
 その衝撃に一瞬息が止まる。が、すぐさま一緒に倒れた白に殴りかかる。だが白は一拍早くするりと抜け出し、ついでとばかりに俺の腕を蹴って下がる。
 腕の衝撃を感じながら俺は立ち上がる。
 あー、痛いなもう。
 
「まあ、まだ使うのは先だから気にするな。ちゃんとその時になれば教える。相手もそこまで気にする相手じゃない」
「イツキさんがそう言うのでしたら従います」
「それでいい。ただ、疑問があれば訊くのは良い事だ。思考の放棄は成長性の放棄でもある」

 命令通りに動くだけ、ではいざと言うとき困る事がある。白の方が頭の回転とか良い可能性が凄く高い。ならその発想やらなんやらは潰れてしまっては困る。
 常に考える。それは大事な要素だ。
 まあ、勿論俺の言うこと最優先にさせるが。発想の自由さは持たせてもその身の自由さまで持たれては困る。適度に思考を抑制させないと。

「それと、前言ったとおり手加減しなくていい。というより、詰めの甘さ無くせ。今のとか俺の腕決められただろ多分」

 組手はそこまで大きな怪我をしないようにしている。だが、それではダメな部分もある。
 腕を決めて骨を折ったり関節外したり、いざという時その選択肢を選ぼうとして躊躇しても困る。一回くらい慣れておいて欲しいのだ。前線張らせるつもりの白には特に。
 だから出来そうならそこまでして良いと言ったのだが、どうもまだ躊躇しているらしい。無為にこの体を傷つけるのは拒否するが、必要なことなら遠慮なく折ってくれて構わない。
 今のも腕を蹴るのではなくそのまま決められた気が……決められたよな多分。良く分からんが。

「酷く折らなければ後々まで残ったりしない。必要なとき躊躇わないで出来るよう、一回は俺で経験しとけ。命令だ、やれ白。そっちの方がお前は使える」
「分かりました」

 平坦だけれど、少し嬉しそうな表情で白が直ぐさま頷く。うむ、それでいい。だからといって痛いのは嫌だから無抵抗で折られる気はないけど。
 記憶にある中じゃ白はもっと何言われてもにこやかだった気がするけど、まあ、まだ幼いからか。少しずつ変わってくだろ。

 そんな会話をしつつ適当に組手を続ける。攻め手になってもどうせ勝てないのだ、基本守り重視で続ける。
 だが、守り重視では自分の技術向上もそつが出るだろう。白ばかり上げるのでは自分もある程度は上げないと。
 
(受け手と攻め手で役割決めた組手も後でやるか)

 そんなことを思いつつ左手で白に向け牽制目的のフックを放つ。
 白は俺の腕の内側を払い、滑らせるように右手で受け俺の拳を覆うように掴む。
 そして拳の外側に出ている俺の親指、白はそれを優しく掴み、
 
全力でひねり上げる。

「――~~~ッ!!?」
 
ポキッ。
そんな音が聞こえた気がした。
あ、これヤバイ。白実行早いな。
何故かそんな冷静な言葉が思い浮かべつつ俺は声にならない悲鳴を上げた。








「あの、大丈夫ですか?」
「大丈夫だから気にするな。お前はよくやった。あれでいい」

 心配気にいう白に左手を軽く振ってみせる。結構痛いが耐えられないほどではない。

「元に戻すのは知識だけだったんですか、問題ありませんか?」
「ああ。上手く嵌ったと思うぞ」

 ひねられた親指は恐らく脱臼だろうと予想がついた。その為白に指を嵌めさせたのだ。
 脱臼の治療は早めに元の位置に戻すのが大事。素人が下手にやるとマズイが、鍼灸やらなんやらさせた白には簡単な治療方等の知識はある。実践大事ということでさせた。
 変な方向いていた指も元に戻っている。一応湿布などもしてある。念のため帰ったら医者に見せるが大丈夫だろう。

 既に時間もたっているので白が容器の水を切っていく。
 持ってきた蓙をしく。

「並べますね」
「ああ。簡単にタオルで水気とって物ごとに別けろ。それとデカイやつはちぎって並べろ」

 いいながら俺も大きいものは適当に千切り並べていく。キノコとか適当に裂いていく。
 うむ、動かさないようにしているが左親指地味に痛いな。ジクジクする。
 そんな事を思いながら一通り並べきる。
 後は放置だ。

「乾くまで結構かかるな」
「置いていくんですか?」
「いや、持って帰る。そう簡単に乾くものでもないし。放置するのも危ないからな」

 まあ、自室の窓から吊るしたり屋根の上に並べれば大丈夫だろう。乾燥の仕方も確か色々有ったはず。
 とりあえずこれで終了だ。

「それじゃ後はいつも通り。体動かしたり水回したり、好きにしててくれ。組手は手の様子見てからだ」
「分かりました」

 そう言って白は持ってきたカバンから水風船を取り出す。
 それを見て、そういえば、と俺は白に言う。

「その風船の中の水、捨てるな」
「水、ですか?」
「ゴムが劣化したりしても捨てるな。使えさそうなら水筒でもなんでもいいから使った水は取っておけ」

 ふと思い浮かんだ事を試すのに必要なのだ。実際、俺もここ暫く修行で水を捨てていない。

「分かりました」

 了解して白が風船握って座る。
 白は少し前、二段階目を初めてクリアした。感情が揺れたからなのかは分からない。だがそれ以来調子のいい日だけだが二段階目はクリアできるようになった。
 そのため三段階目のことを伝えた。だが常時二段階目がクリアできていない以上三段階目をやるかどうかは自分で判断しろと言ってある。
まあ今は単純にコントロールを上げるために水風船を使うのかもしれないけれど。

 それを横目で見ながら俺はゴム球を……無視し水風船を手に取る。
 今は属性変化の方を頑張りたいのだ。
 水風船を手に取りチャクラを込める。意思を込め水の形を少しずつ平べったくしていく。
 
(そう言えば土とかでもできたな……)

 水の属性変化が形態の自由さというのなら水以外でもできるのではないか。そう思って土にも手を出してチャクラをこれでもかと込めてみた。
 結果、ほんの少しだけだが土の形が変わった。変わったは変わったのだが、明らかに水の方が効率が良かった。固形と流体で差があるのは当然だろうが、それならある程度のレベルに行くまでは水で十分だろう。そもそも水の方が利用性は高い。
 
 平べったくなった風船の中で少し水が回る。コントロールしきれてないのだ。
 最終的には回ってもいいのだが、それはあくまでも最終的にの話。回して力を得ずとも形を変えられるようになりたい。ただ意思だけで平らにできるのはやはりまだ遠いようだ。

 風船を見ればある程度平べったくはなっている。だがまだまだラグビー系のようなものだ。
 ふと上下から手で挟みより平っべたくする。そして渾身の力でチャクラを加え、この状態を維持できるように念じながら上の手を離していく。
 
「ぐぬぬぬぅおおおおッ」

 唸りながら力を込める。
 最初はその形を保っていた風船だが時間とともに少しずつ厚みを増していき、結局元に戻る。
 うむ、先は長い。だがこっちの方が効率いいな。
 そう思いもう一つの方を頑張る。両手で風船を多い、外側から押し込めるイメージで全力を注ぐ。
 だがこちらはあまり芳しくない。まあ、これは気長にやるしかないだろう。
 
 しばらくそんなことをしている白がそばにいないことに気づく。見れば少し離れたところで苦無を投げている。 
 投げる苦無はほぼ百発百中。離れた位置にある的に規則的にあたっている。

「早いなぁ」

 体全体で、時には腕だけで投げその全てが当たっている。もしかしたら見ないところでも頑張っているのかもしれない。
その成長の速さに俺は呟きながら手の中の風船をいじり続けた。



その後時間になったので修行をやめ、広げてあったものも回収し俺たちは家路についた。











「こないださー」

何でもない午後。暇人どうし広場に集まった子供の中でどこか怒ったようにカジ少年が言う。

「腹減ったから家に置いてあった団子食べたんだよ。袋破いて食ってたら親父に怒られてさ。たくさんあったんだし少しくらいよくね?」
「ちょっとくらい良いよな。ケチくせー」
「カジくんのとこのお団子美味しいよね」
(いや、それ売り物だろ)

 周りが色々言う中俺は心の中で突っ込む。
 自宅で作っていると家のものだと思ってしまうのかね。まあ、身近にあれば食ってしまうのはわかる。
 
「でさ、殴られそうだから逃げたんだよ。追ってくるから団子片手に適当に走ってたら池ジジイにぶつかってさ。服に団子ぶつけちゃったんだよ」

 池ジジイというのは少し離れたところに住んでいる男のことだ。実際はジジイというほど歳は取っていないと思う。
 家に庭がありそこに小さな池と鯉を飼っているのだ。そこから池ジジイ。名前を知らない故の安直さだ。
 ついでに、少し気になったので聞いてみる。

「何団子だ?」
「みたらしだけど」

 ああ、多分そりゃキレる。あのジジイ頑固というかキレっぽいし。

「ジジイキレるから「ゴメン」って言ったんだけどさ、一発叩きやがったあいつ。マジわけわかんね」

 ああ、だからカジ少年は怒っているのか。服の弁償しないだけ良かったんじゃない? 
 そんなこと思うがこの年の子供には分からないだろう。思い返せば感情で突っ走っているような年代だ。誠意などこれっぽちも無かっただろうが一回謝った所でカジ少年の中では終わったはずだったのだろう。
 
「パン!だよ、パン! 赤くなって親父に爆笑されたしさ。何か仕返ししたいんだよ。ジジイになんかやり返そうぜ」

 逆恨みか。まあいいけど。どうせイタズラレベルだろ。
 
「ハリマ、何がいいと思う?」
「鯉いるじゃん? 小銭とか小石投げ込もうぜ」
「いや、それは止めとけ」

 つい止める。鯉が間違えて飲み込んだらどうするんだ。いやまあ、前の世界で小さな頃やったことあるけどさ。大きくなると罪悪感湧いてくるんだぞあれ。
 そう言えば鯉の口って潰す力物凄いって聞いたことあるけどホントなのだろうか。

「じゃあお前は何かあるのかよイツキ」

 カジに言われる。ふむ、仕返しか……

「扉とかの下の滑らせるとこ。あそこに砂利敷き詰めるとかどうだ。開かなくなるぞ」
「うわぁ……そんなこと思いつくとか」
「地味……」

 引くなよお前ら。

「おい、お前は何かあるか?」
「え、私?」

 カジの問いに少女が驚きの声を返す。
 たまにこの集団に参加している大人しげ、というかたまに会話に参加するだけで基本はニコニコと話を聞いている少女。
 さっきの「団子美味しい」の発言主でもある。名前はなんだったか……

「何って、えーと、何?」

 聞いていなかったのだろうかこの少女は。

「だから、何かしたいことあるかって聞いてんだよ」
「ならお絵かきしたいかな」

 和やかに少女が言う。実に微笑ましい内容だ。自分に意見を求められたのが嬉しいかもしれない。
だが、今のそれでは確実に違う流れになるぞ少女よ。

「おっし、じゃあジジイの家の壁に落書きしに行こうぜ」

 そうなるよね。

「え? え?」

 少女が困惑する。
 だがそれを無視するように他の奴らはさっさと動き出す。

「ペンキあったっけ?」
「知らね。絵の具でよくね?」
「マジックとかも用意しようぜー」
「でっかくハゲの絵と良いよな」

 カジ少年たちが思い思いに話しながら歩いていく。

「行くか」
「え? あ、うんそうだね」

 「いいのかな……」などと呟く少女とともにカジ達の後をついていく。勿論白もいる。
 そう言えばカジ少年は白に聞かなかったな。何か遠慮でもしたのかね。
 


 池ジジイの家に付いて軽く伸びをする。
 家、と言っても家屋ではない。庭を区切る塀の前にいる。

「ふむ」

軽く触る。うむ、良い壁だ。デコボコが少なくて落書きしやすそうな壁である。
 
「○×ゲームしようぜ!」
「……」
「にひひひひひ」

 壁で○×ゲームする奴。無心でハゲ頭描く奴。手に色つけてひたすら手形押していくやつ。
 カジ少年たちは見事なまでに好き勝手にしている。どうでも良くはないが、反対側の壁にまで描きだしそうだなこいつら。

 そんな奴らを横目に見つつ俺も筆を出す。筆につけるのはかなり水で薄めた墨。いざとなれば自分のだけ水で洗い流して証拠隠滅して逃げよう責任フッかぶせてやる、と思いつつ筆を持つ。
 だが、何も思い浮かばない。
 白は俺と同じく薄めた墨をつけた筆を持っている。だが、持っているだけで何も描こうとしていない。まあ、こいつは元々そういう奴だ。

「……そっちは何も描かないのか?」

 どうしても手が動かずつい近くの少女に声をかける。彼女も佇むだけで何もしていない。

「私?」
「ああ。何もしてないだろ」
「それはイツキくんも同じだよ」

 まあ、それはそうだ。
 バツの悪そうな俺を見て、ふふ、と少女は楽しそうに笑う。
 そもそも思い返せば俺は余りこの少女と話したこと記憶がない。集まってともに遊ぶことはあったがこうして直に話したことなどあっただろうか。

「そもそも何で参加したんだ? こんなイタズラ好きじゃないんだろ」

 落描きをする、と決まった時の反応からすればそうのはずだ。
 その問いに少女は少し困ったような顔を浮かべる。

「イタズラは好きじゃないけど、こういったことは好き、かな」
「こういったこと。って、イタズラだろうに」
「やっぱり変かな?」

 少女が困ったように笑う。だが、どこかその顔は楽しげだ。

「こんな風にさ、みんなで何かするってことが好きなんだ。見てるのが、かもしれないけど」
「……」

 筆も相変わらず動かないので黙って先を促す。

「誰かに引っ張られて、その勢いのまま一緒に何かやったり、どこか行ったり。そんな中に自分がいるのが好きなんだ。私はさ、みんなを引っ張ることなんて怖くて出来ないから」
「皆でバカやるのが好きってことか?」
「バカって……ヒドいなもう。まあ、合ってるんだけどさ。誰かを引っ張る人だったり、みんなが慌てる中で前に立てる人だったり。そんな人が憧れなの。その“誰か”の中になりたいし、“みんな”に入れて引っ張って欲しい、かな」
「なら、前に立とうと思わないのか」
「「いけー!」って叫んでみんなを連れて動きたい時はあるよ。でも、思い浮かべてすぐ自分で笑っちゃう。一回死んじゃうくらいにならないと治んないんじゃないかな」

 死んじゃうくらい、か。バカは死んでも治らないっていうけどどんなもんなんだろうな。

「だからイタズラはちょっとやだけど、みんなで「バカやる」その中にいてウキウキして、そのみんなを見るのが楽しい」
「そうか」

 まあ、人間色々あるわな。
 正しく「バカ」やってるカジ少年たちを見て楽しそうに少女は笑う。

「でさ、何も描かないのイツキくん? カジくんやハリマくんたちいろいろ描いてるよ」

 改めて少女が聞いてくる。楽しげだ。
 ……俺が落描きする、ってのも「バカやる」ってことなのかね。後、カジ少年たちと比べないで欲しい。
 だが、やはり手は動かない。自分から描くなんて荷が重い。
 
「……何か描いて欲しいものあるか」
「何でもいいの?」
「描けるものならな」

 少女が考え込む。

「なら一番得意なの描いてよ。よく描いたものとか」
「……分かったよ」

 少し、躊躇う。
だがさきほど話を聞いた手前こっちだけ無視するのも虫が悪い。絵のリクエストをしたのもこっちだ。
筆を付ける瞬間、一瞬止まる。けれど躊躇いがちに筆を走らせていく。

「……」
 
 何かを言う気にもなれず心を抑える様に黙って筆を走らせる。
 ためらいがちだった筆は見えない何かに追われるように戸惑いをなくしていく。

「山? これって、風景?」
「ああ」

 並ぶ山々。覆う緑。浮かぶ雲。漂う霧。足元の土。並ぶ家。
 黒一色で輪郭をなぞるように描いていく。

「上手いね。絵、得意なの? これ何処?」
「家から見えた風景。昔、よく描いた」
「好きなんだ。ずっと描いてるの?」
「いや、父親が絵を描くのが好きだった。家の中で小さな画集を見つけてさ。昔描いたっていう絵があった。職業柄だったのかもな。真似して描くと嬉しそうでさ、何度も描いたよ」

 そう。何度も、何度も。狂うほどに。
 そしたらいつの間にか多少は絵が見れるものになった。繰り返したこの風景は見なくとも描けるようになった。

「お父さんの真似したんだね。親子だからかな。家もだけど、昔やったこととか、そういう事すると喜んでくれるよね」
(――――ッ)

 その言葉に少し、頭痛が走る。
 だが絵を見てこっちに視線を向けていない少女にバレないように腕を動かし続ける。

「まあ、そうなんだろうな」

 気取られないように無難に返す。

「イツキくんのお父さんって、確か仕入れとかのお仕事してるんだよね。あと、こんな風景あったっけ?」
「それは違う。俺の父親は死んでるよ。見たのは一緒に住んでる親戚のおっさんで、俺の生まれは水の国だ」
「そうなんだ……ゴメン」
「別にいい」

 そう言うと同時に筆が止まり、絵が描き終わる。
 ふう、と一息つく。
 そういや、ここんとこ飯時以外であんましおっさんと会わなくなったな。ふとそう思う。

「白はまあ、結構近い景色見たことあるだろ」
「そうですね。ただ、霧というよりは雪のイメージ強いです」
「白ちゃんも水の国なの?」
「はい。イツキさんとは違う場所ですが」

 そこまで大きな大仰なものではない。色の塗り分けもなし。数分程度で描き終わるモノでしかない。
 絵を描いたせいだろう。頭痛は穏やかになりながらも消えていかず泥となり未だ残っている。
ああ、頭が重い。

「水の国にはこんな風景があるんだ。一回見てみたいな」
「……見たいと思うならここ数年のうちに実行したほうがいい」
「何で?」
「まあ、あれだ。思い立ったらすぐ動いたほうがいいからだ」

 濁していう俺の言葉に「ふうん」と少女は軽く流す。
 「貸して」と言われ少女に筆を渡す。
 さらさら、と少女は絵を描く。

「花か」
「どことなく味がありますね。上手です」
「ありがと。けど難しいね」

 筆だからな。普通とは扱いが違う。だが絵を描きたいと最初に言い出しただけはあり中々に形になっている。
 そんな事を思っていると、つんつん、と背中を叩かれる。白だ。

「白、何か――――」
「こぅら! 何しとるかガキども!!」

 巻き舌の怒号が飛ぶ。池ジジイである。いつの間に来ていやがった。
 ふと見ればカジ少年たちは消えている。あのクソ野郎どもが。
 水ぶっかけて証拠隠滅の時間も惜しい。そもそもクソ野郎どもの分が残っている。
奴らへの仕返しを考えつつ俺たちは向かってくるジジイから走って逃げ出した。












「あの、手伝いましょうか」
「いや、いい」

 そう言って白に軽く手を振る。
 夕暮れ時の自宅。当番制により夕食の準備をしているところだ。
 白の言葉は未だ完治していない左親指のことだろう。
 医者に見せた結果全治二週間ほどと言われた脱臼。損傷部位にチャクラを集中し治癒速度を上げているからそれよりはずっと早くなるだろう。あれから日にちも経っているし後二日もあれば治るはず。だけどまあ、不便なことには変わりない。
 だが料理くらいは一人で出来る。

 適当に肉を刻んで野菜ブチ込んでバター落として炒めて醤油垂らす。
 魚の骨が入った煮立ったお湯に粉末椎茸ドーン。ワカメ突っ込んで豆腐突っ込んで味噌といて火を落とす。
 魚は内蔵取って塩揉みこんで炎に翳して放置。
 コメは炊いている。
 牛乳ドン。
 終わり。

「こんなんでいいだろ」

 出来るだけ右手を使ったがやはり左手がジンジンと痛む。医者に親指固定されたから使い辛い。
 洗い物の桶に手を突っ込み修行の要領で水を回す。意思に応じ水は回転し出し渦を巻くが全然綺麗にならない。うむ、いつもやっていることだが水の勢いがやはり足りない。
 しょうがないので洗剤の入った水の中に手を入れる。右手で洗い物を持ち、左手はそれを覆う様に構える。左掌に意識を集中、その手のひら内側の水の勢いを強め局所的な渦を作り洗っていく。

(掌の近くだけ、とかなら強くできるんだよな。広範囲は力が足りん。頑張らんと)

 ジャブジャブ洗っていく。洗い逃しがあれば使うけどスポンジいらねー。
 さて、おっさん呼ぶか。
 


  
 夕飯のさなかおっさんの箸が突きつけられる。

「お前、橋田のジジイんトコの壁に落描きしたろ」

 箸で人指すなよおっさん。
 おっさんが言うのは恐らく池ジジイの事だろう。あいつ橋田って名前だったのか。
 
「そうですけど、よく分かりましたね」
「見に行ったからな。一つだけ墨で描かれた妙に描き慣れた様な絵があったぜ。昔、テメェの家で見たことがあるのに似てたよありゃ。親子ってのは似るもんだなオイ」

 その言い方はヤめて欲しい。頭が痛くなる。

「花もあったが、ありゃ白か?」
「いえ、違います。そう言えば白、お前は何か描いたのか?」

 気になり白に聞く。

「下の方に小さく子犬を」
「ああ、あったあった。あれが白のか」

 おっさんが言う。そうか、白も描いてたのか。犬ってピッタシだなおい。

「で、何かおっさんからお咎めでもあるんですか」

 突然言いだしたのはそれだろうか。

「ねぇよ。寧ろ落描き見て心の中で爆笑したぜ俺は」
「何でまた……」
「あそこのジジイには前に嫌味言われたからな。余所者ってのは辛いねぇ。もっとやれガキ。もっと好きに楽しめ」

 魚齧りながら楽しそうにおっさんは言う。こいつホントにいい大人か。

「じゃ、庇ってくださいよ」
「ああ? 見つかったら「どうぞ」ってお前差し出すに決まってんだろ。何言ってんだ?」

 そこでバカ見るような顔すんなテメ。箸で豚肉突きつけんな。

「することは自己責任だろ。自分の為に、自分の好きなことするんだよ。人を理由にするなよ全く」

 ヤレヤレ、とおっさんは溜息をつく。殴りたい。
 
「ガキなんだから好きに動きゃいいんだよ。周りなんて無視しろ無視。頭一つ下げれば大抵お咎めなしだ。いいねぇ、そんな気楽に生きたいね全く。だから全力でバカやれ」

 おっさん、あんた……少しは良い事言って、

「お前が頭下げるの見て俺は笑うからよ」

 ああ、うん。台無しだ。









「ちょっと出かけてくる」

 白に向け俺は告げる。
 夕飯を終えて部屋に戻ってからのこと。時間は既に遅く、窓から見える外は闇に閉ざされ人家の明かりがその中に仄かに浮かぶ。
 動かしていた手を止める。いつも持っているのとは違うカバンを引っ張り出し中身を確認して立ち上がる。

「ああ、お前はいい」
 
 一緒に立ち上がろうとした白を制する。

「ちょっと人と会ってくる。向こうには一人って言ってあるから、白はここで待ってろ。その間に一通りの作業をしといてくれ」

 部屋には様々な乾燥した植物、キノコが置いてある。
 数日前に採集し外に干していたものが乾燥したのでそれを取り入れたのだ。後は乾燥しパリパリになったそれらを砕き、ある程度の大きさにまですればいい。

「他の物と混ざらないよう砕いたものは種類毎、部位毎に分けておけ」
「分かりました。お気を付けて」
「ああ」

 部屋の窓を開け、そこから外に出て地面に降りる。おっさんに見つかるのも厄介だ。
 少し行ったところで陰に隠れる。
 変化の術を使い姿を変える。何度となくなった青年の姿に変わった後、街へと向かう。



 この街には東西南北へ走る大きな道がある。その四辻を中心に大小様々な道が街の中を走り店や家が立ち並ぶ作りになっている。
 大きな道を北へ行けばいずれ街の外へ出て波止場につき、火の国へと向かえる。東も似たようなものでずっと歩き続ければ小さな街を経て水の国への、俺がかつて通ってきたルートに近い道に出る。南、西はまた別の街へ。無論、どれも先を進めばいずれ水が道を塞ぐ。
ここはそんな道の内の一つ。繁華街から少し離れた人気の少ない道。歩き続ければ街の外へ出、隣の町への街道へと続いている道の、一つ隣の通りだ。

 それの途中、街が終わらない途中にある一件の店の前へ行く。
 寂れた文字で“茶”と書かれた錦。前に白に髪飾りを買ってやった偏屈ジジイの店だ。
 既に明かりは落とされている。木製の雨戸を開け閉ざされている戸を鍵で開ける。店の中に入り後ろ手に鍵を閉める。

「おお、来たか」

 店の中にいる二人のうちの一人であるジジイ、葛西が初老を思わせる低い声で言う。
 店の中は壁際に電気がついておりそこそこに明るい。その明かりが外にもれないよう戸とは別に雨戸はあるのだろう。
 店の中は手前と奥半分で高さが違う。奥は段差があり畳敷きになっている。爺は畳の上に胡座をかいて座っている。
 俺が中に入っていくと二人の内のもう一人、段に腰掛けている男がこちらを向く。
 思ったよりも若い、猫を思わせるような細い目をした男だ。

「あんたが、真代はんどすか?」
(何で京都弁何だよおい)

 つい心の中で突っ込んでしまう。
 真代、というのは偽名だ。天白から頭文字をとってマシロ。あいにく変化のこの姿で同じ名前を使うのもあれなのでこうしている。

「そうです。では、あなたが」
「お初に。火の車と書いて、かしゃ、言いはります。うちの家計言い表しておりますわほんま」

 そう言い男、火車がケラケラと笑う。
 エセ京都弁のこの男、その正体は商人である。それも忍具などを扱う男だ。真代の姿で街を巡り話す相手を作り噂を聞き色々と探した結果葛西のジジイにたどり着いて今日落ち合う事が出来た。

 葛西が関係していると知ったときは色々と疲れた気がしてならなかった。何せ最初から会っていたのだから。だが、今思い返せば符号はある。交易品を主に置いてあるくせに街の中近くに店を構えるでもなく、火や水の国近くの道に店を置くでもない。まあ、他にも色々と思えば不自然だったところはある。だがまあ、今更だ。
 探すと決めて手探り状態で色々やって二年ちょっと。少し感無量である。

「シズはんからの話で来ましたけどおたく、うちに何の用があるん?」

 独特なゆったりとした言葉で火車が言う。
シズ、というのは葛西の下の名だ。シズマだかその辺だったはず。歳は離れているが二人には長い付き合いがあるらしい。

「色々と欲しいモノがありますので、買えたらと思いまして」
「へぇ」
「それと、コネを」

 火車の目がじっと俺を見る。

「コネ、ですかいボクの」
「ええ。火の国や水の国などで同業者の方がいたら紹介して貰えないかと」
「そらまた、どうして」
「将来そっちの方に行く可能性がありまして。こんな風に買うくらいなものですから、色々と訳ありなんですよ」

 じっと火車の目が見据えてくる。常に笑ったようなその顔と目からは何を考えているのかがよく読み取れない。

「……そやなあ、うちが信頼できる思えたらええですよ。流石に一見さん紹介するほどボク甘くありませんわ」
「ありがとうございます」

 最初から紹介してもらえるとは思っていない。いづれの芽が出ただけでも有難い。コネがあれば探す手間なく、同時に信頼も相手から持ってもらえるから是非紹介されたいものだ。
 そういう分には一族でずっと懇意にしてる、とかそんな家の奴らは羨ましい。信頼を積み立てる必要がゼロだ。

「欲しいもの言うとりましたが、今日は顔合わせ。どんなお人か見よ思ったさかい。シズはんから聞やした品は持ってきたが、大層な売り物は持ってきてへん。すまへんなあ」
「別に構いません。それと私は目に適いましたか?」
「もう少し見て決めますわ」

 まあ良いか。そりゃ、あったばかりの相手にそんな簡単に危険なもの売れないわな。

「おい、用意できたぞ」

 葛西の声がする。
 見れば敷いてあった畳が何枚もどけてあり、その下には鍵付きの板が。それもどければ下に広がった空間には色々とした忍具などが置いてある。まあ、何度か買いに来た時見た光景だ。
 火車が言う。

「苦無程度なら探せば買える。けど、それからもう一歩踏み込んだ物は探しても置いてへん。なんせここの国に忍者はおらんさかい。その一歩二歩分痒いところまで手を届かせる。それがうちの商売。あんたが期待してたらすまんが、そこまで大層な物はこしらえできへんで」
「大層って、どのくらいですか」
「まあ、よっぽど期待せな大丈夫や。入手困難な巻物とかはちいと無理や。浅く、広く。まあ、忍具屋、いうよりは何でも屋ちゅう方がにき。店持たん分色々なとこ回っとるからなぁ。波の国は需要がすけないさかいしょうがないんよ」

 まあ、国の中では珍しく忍がいない国だ。そう言った物の需要が低いのはしょうがないだろう。需要がなければ供給も減る。質が下がるのもしょうがない……のだろうか。まあ、今はそこまで大層なものが欲しいわけじゃないから別にいいか。

「まあ、おなごに飲ませる酔い薬、くらいやったらいくらでも仕入れたるで」

 いるか馬鹿。

「遊び心も大事やで」

 まだ結構です。
 そんな事を思いながら引っペがした畳の下の品や火車に持ってきてもらった品を買う。

「苦無、チャクラ感応紙、チャクラ刀、毒草等に関する巻物……」

 他にも色々とカバンに詰め込んでいく。そこまでの猛毒の作り方はなくとも野生の毒草の知識が増えるだけでもありがたい。調合とか全然分からんし。

「ほい、代金」
「まいど」

 一通り詰め込み代金を支払う。結構するなぁ。
 そういや代金の内訳どうなってるんだろ。火車が仕入れて葛西のジジイが場所の提供とかだろうから火車の取り分の方がでかいのだろうか。

「何でも屋って言うなら、いくつか頼みたいものあるんですあg」
「何です?」
「ダイヤ……はほんの少しだけどあるからいいか。サファイアかルビーを」
「値が貼るんやよ? それにそんなら普通の店やて……」
「普通の店のは綺麗で値が張りますし安いのは不純物が怖いです。色の悪い粗悪品でいいんである程度の量が欲しいんです。後、調べて欲しいことが。それと起爆札といくつか毒もお願いします」
 
 調べてほしいことを話す。
 火車が少し悩む。

「宝石と調べの方は了解したんや。せやけど毒とかは……」
(―――っ)

 ぬらり。
 不意に火車が体を乗り出し俺の顔を覗き込む。
 感情の読めない目が間近でこちらを見据える。

「ん~……」

心の中まで覗かれている様で余り気持ちのいいものではない。

 少しして火車が身を戻す。

「まあ、シズはんの紹介やからええか。考えときますわ」
「……ありがとうございます」
(火車、か。死者を運ぶ妖怪でそんな名前のがいたな確か)

 だが、受けてもらえてありがたい。
 一通り話も終わったので気になっていたことを一つ。

「火車さんのその喋り方って余り聞いたことありませんけど、どこの人なんですか?」
「ああ、これは別に生まれやない。知り合いにこない喋りする人いてな、面白おもて真似してるんよ」

 ああ、だからちょいちょい間違えるエセ弁なのか。

「後、口調とかもっと気安話してくれた方がボク嬉しいわ」
「分かりました」

 気安く、か。調子に乗れば見限るのだろうどうせ。
ある程度下手に出つつ要求を言う、くらいがいいな。言葉通りに捉えるのもあれだ。

 帰ろうとしてふと気づく。
ああそれと後、そうだそうだ一つまだあった。

「すみませんがさっきのに追加で、痺れ薬とかあったら売って貰えますか」

 火車がにやっと笑う。

「よっしゃ、一級品用意したる。やっぱりあんたも好きもんやなあ」

 ちげぇよ馬鹿。













 森の中でじっと息を潜め対象を見る。そして腕を払い苦無を放つ。
 静かに飛んだ苦無は一直線に対象に向かいその身を僅かに傷付ける。
 対象は突然のそれに驚き一目散に逃げていった。

 暫くして対象が逃げた先に向かうとそこでは白が待っていた。
 その足元には対象である大きなうさぎが転がっている。先ほど付けた傷は小さく、倒れているのはそれが理由ではない。

「白、何分くらいだ」
「大体十分ほどです」

 そうか、と俺は頷きうさぎに近づく。
 ピクピクと痙攣しているそれを見て成果を確認する。そしてついさっき投げた苦無を見る。
 黒いその身をよく見ればドロッとした塊がついているのがわかる。
 毒だ。

 前に採取し、乾燥させ粉末状にした毒の試しをしているのだ。作ったはいいがどれくらい効くのか実際に試さなければ分からない。それを今している。

「十分って結構早く回ったな。体が小さいせいか?」

 うさぎを持ち上げながら俺は言う。これは回るまで三十分ほどかかるはずだと思ったのだが。

「回る速度や致死量にも差が出ます。その分早かったのでは?」
「かね。後でもうちょいデカイ獲物でも試さないとな」

 もう少し奥に行けば猪とかいるだろ多分。
 そう思いながら俺はうさぎに苦無を向けて振り下ろした。



 干し肉を齧る。塩味が効いていて上手い。ただ口の中がしょっぱくなるのが悪いところだ。
 モグモグと食みながら俺は白の拳を避ける。

「猪とか鹿って奥に行けばいると思うか?」

 積極的に攻勢には出ず、チャンスが来るのを待ちながら聞く。
 作った毒はまだまだたくさんある。色々試さねば。

「いると思いますよ。うり坊の話を前に聞いたことがあります」

 白が拳に足にと連撃を放ちながら答える。
 組手中なのに中々にほのぼのとしているな。まあ狙いは互いに急所狙いが多いから真面目だが。
 それにしてもうり坊か。なら猪いるな。後で調べるか。猪肉も食ってみたいものだ。
 うさぎの肉を齧りながらそう思う。

 ちなみにこの肉さっきのうさぎではない。前にとったうさぎである。苦無の的扱い等で何回か捕まえているのだ。繰り返したおかげで肉の処理も結構慣れたものになった。
 さっき取ったやつは血抜きはして今は塩水に付けてある。熱処理すれば今回使った毒は基本消えるのでそれまではお預けである。

 そんな事を思いつつ白のケリを交差した手で受け大きく下がる。そして地面の土と石を右手で握る。
 手の内で握って土を細かく砕きながら白に向け突撃。握った手を突き出す。その手から土と石が勢いよく前に向け飛ばされる。
 螺旋丸のチャクラの劣化汎用だ。チャクラの渦を作って撒き散らしたのである。微弱ながら水の性質変化の恩恵もあり指向性を持って白へと撒き散らされる。

(こっちも、ついでだっ!)

 左手でもチャクラの渦を作る。そしてそれを土砂を避けるように姿勢を低くして潜り込んできた白に向け抉り込むように放つ。
 収束できてないから大した力はないが、それでも渦を当てれば白の姿勢を崩させるくらいは出来る。それも避けようものなら足元のチャクラを爆発させ全力で蹴り飛ばしてやる。近づいてきたのは失策だぞ白よ。ふはは、たまには勝つぞ俺も。
 そう思っていると白は、くるり、と体を回した。
 そして「タンッ」と地を蹴った白の足が俺の左手首を踏み抜き、前に出ていた俺の膝にまで押し付ける。
 そしてそのまま白は俺の膝を足場にして宙に浮く。

(……あ、やべ)

 思ってももう遅い。
 避けるまもなく迫った白の蹴りに俺は頭を蹴り飛ばされる。
 あまりの衝撃に目の前が一瞬ブラックアウトする。
 俺はゴロゴロと地面を転がり、何回転かして止まる。
 地面に仰向けになり、揺れる世界を見ながら俺は息をつく。

(たまには勝っても良いと思うんだけどな俺)

 ああ、空が青いなちくしょう。そう心の中で呟いた。







 数秒後、前に言った通り全力で腕の骨を折らんと覆い被さりに来た白を何とか投げ飛ばし、再度強くそう思った。
 
 

 
後書き
「水を平に、ですか? 出来ますよ。……他、ですか? ええと、はい。余り複雑でなければ他の形状にも出来ます。イツキさんに言われたように日頃からやっていますので」
(……ああ、うん。才能って凄いよね)

 白はもうこんくらい出来る。水とは相性がかなりよくって先天的に成長がかなり早いイメージ。

 
 こっちも書きたいことはつぶやきの方に載せます。時間があれそちらもどうぞ。

  
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