万華鏡
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第四十五話 運動会当日その十
「そうだろ」
「それもそうか」
「そうだよ、違うよ」
笑ってこう言うのである。
「こうした場合はお互いにな」
「全力を尽くす」
「そう言うべきだっていうのね」
「それで一位になったらな」
目の前、ゴールラインの向こうに何故かある旗を見る。その旗はというと。
「あれ海軍の旗だよな」
「あっ、旭日旗ね」
「あれね」
「あたしあの旗好きなんだよ」
その旭日旗がというのだ、正式な名前は今は言葉としては出なかったが。
「いい旗だよな」
「確かに。格好いいわよね」
「いい旗よね」
「あの旗持って走る位な」
パフォーマンスとしてそうすればいいというのだ、さながらフローレンス=ジョイナーの様に。
「そうする位の意気込みでさ」
「正々堂々となのね」
「勝負すべきっていうのね」
「あの旗見てると正々堂々ってな」
実際そう思うというのだ。
「だからな」
「そうね、じゃあね」
「一位になったら人があの旗を持って走る」
「それ約束する?お互いに」
「それでいく?」
「ああ、それいいよな」
今度は美優が応える番だった、周りの言葉に。
「あれ勝った時には最高に映えそうだしな」
「海軍の旗だからね」
「だからよね」
「そうそう、だからだよ」
旭日旗といえば帝国海軍の象徴とも言える旗だった、海軍の後継者と言っていい海上自衛隊でもそうである。
「そうしような」
「あの旗に見合う様にね」
「正々堂々と」
「あの旗と阪神の旗はな」
「正々堂々とあるべきよね」
「そうあるべきだからね」
「そうだよ、じゃあやろうな」
こう話してそのうえでだった、全員で。
スタートラインで構える、そしてピストルが鳴ると全員一斉に走りだした。
皆勢いよく前に出て走る、ハードルは次々と跳び越えていく。皆ハードルへの接触は避けつつそうしていた。
その中には当然美優もいる、美優もまたハードルを次々と跳び越えて先に先にと進む。それを続けてだった。
遂にゴールに着いた、そこまでは一瞬だったが。
気付けば終わっていた、その彼女の先に。
もう一人既にいた、僅差だったがそれでもだった。
その娘は満面の笑顔でゴールをしていた、そのうえでゴールにいた係員にこう言うのだった。
「ねえ、よかったらだけれど」
「よかったらって?」
「ほら、あの旗ね」
ゴールに掲げられているその旭日旗を指し示しての言葉だ。
「持ってちょっと走っていい?」
「えっ、そうするの?」
「今から?」
「そうしていい?」
こう係員達に話すのだ。
「今からね」
「いや、それはね」
「あれはゴールの目印だからね」
「ちょっと持って走るのは」
「止めて欲しいけれど」
こう困った顔で言う係員達だった、女の子の競技なので係員達も女の子ばかりだ、その彼女達が困った顔でその娘に応えているのだ。
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