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万華鏡

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第四十五話 運動会当日その九

「スポーツマンシップを見失うからってね」
「それそっちの顧問の先生の話だよな」
「そうよ、うちの岡本先生も小松先生もまずスポーツマンシップなのよ」
 それに五月蝿いというのだ。
「そこからだからね」
「いい先生だな、そりゃ」
「他の先生達もスポーツマンシップに反することに怒るのよ」
「勝敗じゃなくてか」
「勝敗も確かに大事だって言ってるわ」
 このことは忘れていない、だがそれでも第一はというのだ。
「それ以上にね」
「負けるよりもなんだな」
「スポーツマンシップを忘れたスポーツはスポーツじゃない」
 勝利にだけこだわって、というのだ。
「いつもそう言われてるからね」
「だよな、その通りだよな」
「私もそう思うし」
 彼女にしてもだというのだ。
「スポーツマンシップを守ってベストを尽くす」
「怪我しないで楽しむんだな」
「勝敗はその後でついてくるものよ」
 言うならば副次的なものだというのだ。
「ほら、一回戦負けだと全員丸坊主とか言う先生いるみたいじゃない」
「そういう奴本当にいるらしいな」
「そういう人は私もよくないと思うから」
「だよな、そんなこと言ったら勝ち負けばかりになるよな」
「しかもそういうことを言う人って生徒にはそれを言うけれどね」
 生徒には厳しい、だがというのだ。
「自分はしないから」
「まず自分がすべきだろ」
「そこにまで考えが至らないのよ」 
 この時点で教師失格と言えるだろう、しかしこうした教師が大手を振って堂々と歩けるのが日本の教師の世界なのだ。
「自分がどう思われるかもね」
「そんな奴普通の職場じゃやっていけないよな」
「人がついてこないからね」
「若しそんなの部活の先輩がしたらな」
「それでわかるわよね」
「ああ、その先輩には誰もついてこないよ」
 こんなこともわからない教師が存在出来る社会なぞ戦後日本だけであろう、まさに昼間の大通りでゾンビが集団で行進する様な不思議現象である。 
「絶対にな」
「そういうのは本当によくないから」
「勝ち負けにこだわるなってか」
「まして勝ち負けにこだわって怪我なんかしたら
「論外だよな」
「そう、だからね」
 美優に確かな声で言うのだった。
「くれぐれも怪我しないでね」
「それで流れもおかしくなるよな」
「そう、人が怪我をするのを見たらね」
 それだけでだというのだ。
「皆意気消沈するから」
「しかもそれが競技の最初だとな」
「それは気をつけてね」
「わかったよ、本当にな」
 こうクラスメイト達と話してだった、そうして。
 美優は一緒に競技に出るクラスメイト達と共にグラウンドに出た、そしてグラウンドに入ってだった。
 スタートラインに立つ、そして周りにこう言われるのだった。
「お手柔らかにね」
「美優ちゃん中学で陸上部よね」
「やっぱり足速いわよね」
「優しく相手してね」
「おいおい、確かにあたし陸上部だったけれどさ」
 その彼女達にだ、美優は笑ってこう返した。
「格闘技やってないからさ」
「だからお手柔らかにはっていうのは違うっていうのね」
「そうなのね」
「そうだよ、また別だろ」
 別の競技で言うものではないかというのだ。 
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