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もしもこんなチート能力を手に入れたら・・・多分後悔するんじゃね?

作者:海戦型
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パオペエイレブン

最近自分の家とはやての家、どっちが自分のいるべき場所か見失うことがある。はやての足はすっかり良くなったのでそろそろ家に戻ろうと思っているのだが、いざそのことを話そうとすると邪魔が入る。というかたった今入っている。

「この!この!フリジットダガー!!」
「あー・・・穿て、ブラッディーダガー」

氷の短剣と赤黒い短剣が正面からぶつかり合い、激しい魔力光がはやて家を包み込んだ。激突する音や光、衝撃はザフィーラちゃんが結界を張っているため外には洩れない。
学校から帰ったら庭で弾幕戦が起きてたでござるの巻。

「そんで、あっちの妖精サイズの水色少女は誰なの?」
「それが分からないんです。本人はさっきからあんな調子でして、夜天の書のミニチュアみたいなデバイスを持っているのでそれ関連だとは思うんですが・・・」

困った顔で頬に手を当てるシャマルちゃん。とにかく敵意全壊でリインちゃんに魔法を撃ちまくっている水色ちゃんだが、地力が違う所為か明らかにリインちゃんに手加減されている。相手をしているリインちゃんも手加減して戦うのは慣れないのか困り顔だ。
ちなみにリインは万が一の時のために分身苗のリンカーコアを蒐集しているので割と魔力に余裕がある。蒐集分を破棄して新たに分身からより成長したコアを取り込むことも出来るので、そこはかとなく無限補給可能な予感である。

「なんや怒らせるよーなことしたんとちゃうん?」
「あんな目立つ子に会ったら嫌でも忘れられませんよ・・・」
「だが少なくとも本人・・・いや融合騎なのか?とにかくあの少女に明確な戦闘意志があるのは明確でしょう。先ほどから明らかに殺傷設定で戦闘を行っています」
「・・・殺傷設定であの戦力差?」
「・・・言ってはいけません。本人は勝負になっていると思っているのですからそっとしておきましょう」

なんだろう、全然事情が分かんないけど水色ちゃんが急に居た堪れなくなってきた。肝心の水色ちゃんは魔力を使い果たしたのか肩で息をしながらリインちゃんに接近戦を敢行している。

「えい!えい!この!この!」

ぽすっ、ぽかっ、ぺしっ・・・

「・・・ふんっ!」
「むぎゅぅ!?」

体格差がありすぎて全く効いていなかった。挙句、虫のように両手で挟まれあっさり捕縛完了。じたばたもがかれて掌がくすぐったいのかリインちゃんは助けを求める様にはやてへ目線を贈った。

「むにゅう~!離せ!離すですぅ~!!」
「まぁまぁそんなに暴れんでもええやろ。取り敢えずおやつたべよーや」
「え!?おやつですか!?食べます!!」
((((結局何しに来たんだこの子・・・))))

今日もはやて家は平和です。・・・で終わればよかったのだが、そうは問屋がオロシャのイワンである。



 = = =



それは、おやつを食べ始めてすぐの事だった。

「主はやて、市街地で結界の展開を確認しました」
「・・・なんやて?」

魔法文化の無いこの世界で、しかもヴォルケンリッター全員が家にいる状態で結界が張られるということは、十中八九管理局が何かしているという事になる。困惑を隠せない皆の表情を尻目におやつの紫芋パイを頬張る水色少女(小人形態からようじょ形態にランックアップしている。どういう原理だろうか)の目がキラリと光る。

「みんな始めたみたいですね!・・・それぞれの復讐を」
「いもパイ食ってるやつが何か言ってるぞ」
「餌につられた幼女がなんか言ってますね」
「自分の家みたいに寛いでる水色がなんか言ってるね」
「う、煩いです!これはそう、体力回復のための作戦であって皆と慣れあう気はないんですからねっ!」

ぶんぶんと両手を振り回して否定する水色少女。なのはちゃんみたいだね。
と、そこに至って遂にシグナムちゃんが本題をズバッと突っ込んだ。

「・・・聞きそびれていたのだが、結局お前は何者なのだ?気配がリインフォースに似ているし、手に持ったデバイスも夜天の書に似すぎている。おまけに融合型デバイス・・・魔法陣からしてもベルカに(ゆかり)のある者であるのは間違いなさそうだが・・・」
「・・・・・・」

そんなシグナムに一瞬、ほんの一瞬だけ・・・悲しく寂しそうな眼をした水色少女は直ぐに挑発的な顔で椅子から立ち上がった。

「やあやあ遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ!私こそは夜天の書の融合騎(ユニゾンデバイス)”となるはずだった”復讐の騎士!『リインフォース・ツヴァイ』なのですー!!」

バァ―z_ン!!

「・・・”なるはずだった”とは?」
「本来なら!」

どん!とテーブルに手を叩きつけた仮称ツヴァイちゃんは思った以上にぶつけた手が痛かったのか悶絶している。明らかに雰囲気で慣れない事をした結果なのは明確だ。真面目に聞こうとしていたザフィーラちゃんとシグナムちゃんが居た堪れない目で見守っているのが印象的だ。

「・・・本来なら!」
(あ、立ち直った)

「本来ならば、夜天の書は闇の書の状態から抜け出せず、この町で暴走を起こすはずだったんです!そしてそれをなのはちゃん達やはやてちゃ・・・マイスター達が協力して暴走した防衛プログラムを破壊!初代リインフォースは自身が再びバグで汚染された防衛プログラムを構築してしまうことを防ぐために消滅して・・・融合騎としての力を受け継いだ私が誕生するはずだったんです・・・!!」

一気にまくしたてたツヴァイちゃんはそのまま俯いいてしまい、その表情は伺えない。発言の内容もよく理解できないが、そんな中リインちゃんだけは何所か納得した顔をしていた。

「・・・そうだな。恐らく防衛プログラムそのものが自己再生システムごと消滅しなければ、そのような未来・・・若しくはもっと酷い未来を辿ったのだろう。今ここに私が過ごしているのは奇跡に他ならない」

皆が驚いた顔をしている。夜天の書についての問題がどの程度深刻だったのかは皆あんまり知らないのだ。正気に戻ったリインから簡単な説明は受けたが、まさか存在の存亡にかかわるほどの大事だったとは私自身も知らなかった。

「だのに、奇跡は起きてしまいました・・・もう未来に『2代目リインフォース』は存在しません。仮に似た存在が生まれたとしても、それは決して私ではないのです・・・」

段々と話が見えてきた。つまりツヴァイは・・・過去を改変しに来た未来人だ!

「違います」
「あるぇー?」

絶対に合ってると思ったのだが全然違ったらしい。既にリインは自分の世界に突入しているようで私の意見など眼中にないツヴァイちゃんは虚ろな目でこちらを見つめる。彼女の眼には正しく希望の光が見えなかった。

「今の私は憑代がいないとカタチすら保てない、世界から”こぼれた”存在。存在することすら許されずに消された存在。殺された未来。私は変えられた未来から、生い立ちも繋がりも家族も、存在さえも奪われたのです!」
「ならばお前は未来で生まれたというリインフォース・ツヴァイそのものだというのか?」
「その・・・残り滓です。真っ当な存在ですらない、悪霊のような存在です・・・」

話を統括するとこうだ。本来の歴史ではリインちゃんが死に、そしてその役割を受け継いだツヴァイちゃんがはやて一家の仲間入りするはずだった。しかし誰かさんのお節介のせいでリインちゃんが普通に生存したおかげでツヴァイちゃんが生まれるきっかけが消滅してしまった。その所為で存在が抹消されてしまったツヴァイちゃんはその意識を除いてすべてが消滅した。そしてどういう経緯を辿ってか、今現在”憑代”の存在によって現世に体を保っている、とのこと。

・・・ん?あれ?お節介焼いた誰かさんって私じゃない?ってことは、あれ?あれ?

―――ツヴァイの居場所がなくなったのって、全部私のせい?

「もう私はヴォルケンリッターではないんです。皆からちっちゃい上司なんてからかわれることも一緒に遊ぶことも、はやてちゃ・・・マイスターと一緒に空を飛ぶことも無くなったんです・・・そんな私の気持ちが分かりますか!?皆が幸せそうにしてるから、私はいなくなったんです!私は皆の幸せに・・・家族の幸せに殺されたんですよっ!!うっ・・・うぇえ・・・ぐずっ、うえぇぇぇ・・・!!」

とめどなくあふれる涙は本人の意思に関係なく瞳を曇らせ、漏らすまいと必死になればなるほど抑制が効かなくなる。

多分彼女はヴォルケンリッターとはやて・・・家族に会いたかったんだろう。でもそこに彼女の居場所も無ければ彼女を知っている人もいない。シグナムにお前は誰だと聞かれたときはさぞ悲しかったろう。「お前の居場所はない」と暗に現実を突き付けられたようなものだから。
でも会いたかった。それは寂しさも有ったろうし、自分だけ仲間はずれになっている現状が気に入らないというのもあったのだろう。だからヤケクソ気味に復讐という知りもしない感情を抱いているふりをして襲撃を仕掛けた。

自分が復讐を遂げるならば家族を全員殺せばいい。だが彼女は明らかに情を捨てきれていない。そもそも誰が家族を本気で殺すことなど出来ようか。殺傷設定だって初代リインフォースに通じないと分かっていたから使えたのだ。では家族と共に過ごすか?いや、ツヴァイには出来まい。家族は皆自分を知らないのだ。本当に彼女が求める家族はそこにいない。未来永劫、いない。

それでも割り切れないから、彼女は体を得ても何も出来ないのだ。ただただ自分の居場所が無いという現実を自身の居場所にするしかない。


―――その原因を作ったのは?この子を不幸のどん底どころか因果地平の彼方にまで送り込もうとしたのは?

「・・・ちがう」
「苗?」

―――自分で怖いだの何だの言いながら、軽はずみに剣を振るった愚か者は誰だ?

「ちがう・・・!」
「お、おいナエ?どうしたんだよ!」

―――いつか取り返しのつかない事になるかもしれないって考えてたくせに自分の都合でそれを使ったのは?

「ちがうちがう!違うっ!!」
「苗殿!?」
「なーう!」

―――本当にこの子の運命を、サイコロを転がすように決めたのは誰だ?


「違う!私の所為じゃない・・・私知らないっ!!」


そんなつもりじゃなかったの。

そんな―――人殺しなんて、するつもりは無かったのに。

彼女は一度消滅した。解釈を変えれば死んだ。何故死んだ?―――私がはやてちゃんの足を治したから?そうじゃないと考えたかったけど、その時に何か起きたとしか考えられない。違うんだと否定材料や言い訳を探すことは出来るけど、それを補って余りある責任の津波が、私の平常心を全て崩してしまったのだ。

銃爪を引いたんだ。蝶の羽を羽ばたかせたんだ。ドミノ倒しのパネルを押したのだ。
それをやったのは、間違いなく―――私なんだ。

それ以外は考えられなかった。私はそのまま、皆の呼び止める声を振り切って家の外へ飛び出した。 
 

 
後書き
苗っちが歪みない?何を言っているんです?
苗っちは自分に責任が伴わない時はとっても強気です。それが正しいと思った時も考えなしに行動します。
でも、それって裏を返せば自分の責任を感じてしまうと、何も出来なくなるって事でしょ?

だから、本当は誰よりも心の弱い子なんです、彼女は。 
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