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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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ALO
~妖精郷と魔法の歌劇~
  天上天下

「なんであんな物を落としたんだよ?」

そこは、天空の鳥籠。

純金製の棒が天頂から降ろされ、冷徹な大理石の床と繋がっている。

ひんやりとした床から冷気が裸足の足裏を伝って、身体の内部に這い回ってきている。

そんな冷たい檻の中央には、一つのテーブルを囲む二つの人影があった。

真っ白な髪を持つ幼女と────栗色の髪を持つ少女。

しかし、彼女のはしばみ色の両の瞳は毒々しい黄色に染まっていた。金色ではない、黄色に。

それを真っ向から睨みながら、真っ白な少女は訊く。

それに、触れたら壊れそうなティーカップを傾かせながら少女、否、少女に見えるナニカは素知らぬ顔で口を開いた。

『何って……、ただの暇潰し()()

その声すらも、普段の少女の声とは似ても似つかない、いまだ幼さを残した少年の声だった。しかし、その声にもどこか陰々と金属質めいたエフェクトがかかっている。

ぎり、と幼女は歯を食いしばる。

「それは、さっきの地震と関係あるの?」

「あるとも言えるし、ないとも言える」

のらりくらりとはぐらかしたような言葉に、純白の髪を垂らした幼女は睨む目線にいっそうの力を込めた。

先刻、遥か天空に掛かるこの檻すらも揺らす大気の揺れが起きた。その揺れの原質は、大きな二つの力の塊。一つは《黒の剣士》キリト、もう一人は────

「レン………」

思わず呟くと、ほう、と少女は感心したように呼気を吐き出した。

『その程度のサーチ能力はあるのか。いくら人間に似せて造られたところで電子体には変わりない、か……』

「レン、とっても怒ってた。あれもあなたが仕掛けた事?」

マイは、魂にアクセスすることを目的とする《ブレインバーストシステム》、通称BBシステムの総操作権限を持っている。それはつまり、マイにも少なからず他人の心に潜られると言うことだ。

それだけではない。マイがその気になれば他人の精神を弄繰り回し、乗っ取る事など造作もないことなのだ。

もちろんそれは、重度接触した者だけに限られるが。

《鬼才》小日向相馬が生み出した、人外の存在。

人間より上位の者として顕現させられ、人間を支配することを第一に創り出された存在。

しかし、そのことをマイは知らない。なぜなら────

『さてねぇ。まぁ、僕は退屈していたから、その捌け口が欲しかったから、と言うのが正解かな』

少年のような言葉が、少女の唇の隙間から吐き出される。その光景に、白い髪を持つ幼女は素直に気持ち悪い、と思った。

違和感がある、とか、不気味だ、ではなく。

素直に、絶対的に、気持ちが悪い。

「だったら何でレンを?」

『久しぶりに肉親に会いたくなったから、かな』

「……………?」

幼女は首を傾げた。

今、おそらく自分達のいる座標上にいる少年には、こんな気色悪い兄弟はいなかったはずだ。

彼、小日向蓮の血縁関係上、生存(のこっ)ているのは実の兄である小日向相馬、並びに紺野木綿季だけだったはずだ。双子でも、三つ子でもなかったはず。

怪訝そうなマイに、ククッと少女だったモノは嗤った。

『と言っても、あんなガキのことじゃないよ。彼に憑いてる、僕の兄のことさ』

「憑い……てる…………?」

その単語を、口の中で転がす。

その様子を見るソレは、実に楽しそうで、そして実に不愉快そうだった。

『君も何度か彼の中に《潜った》なら、《見た》ならば、感じたことがあるはずだ。なにせ存在力が途轍もなく強いからねぇ』

ピクリ、とマイは眉が動くのを止める事ができなかった。

覚えがある、どころではない。毎回、彼に言われてBBシステムを使い、彼の魂と同期するたびに感じた違和感。いや、違和感と言うより、存在感か。

正ではなく、途轍もない負の意思。

プラスではなく、マイナスの因子。

それはまさしく、彼の魂を取り囲むように《憑いて》いた。

「あれが………あなたのお兄さん……」

なの?と言葉を連ねようとする前に、立て続けに事は起きた。

ゴッ!!という音とともにテーブルと椅子が爆発し、そこから鋭い瘴気を纏った貫き手が幼女の顔目掛けて繰り出された。しかし、その手はマイの白い肌に傷一つつける事は叶わなかった。

なぜなら、マイの皮膚上数センチといった所で純白の閃光が空間に走り、日本刀のごとき一閃を真正面から受け止めたのだ。それを忌々しそうに見、アスナの姿をしたモノは憎々しげに言う。

『やはり破れない、か』

「無駄なんだよ。マイの肉体と精神は数千のシステム的プロテクトでロックされるもん。それを破るには、最低でも秒間80000グラビトンの心意攻撃が必要かも。あなたのはせいぜい30000がいいところ……」

淡々と言う幼女だが、その頬には冷たい汗がダラダラと伝っている。

たとえ護られ、ダメージも痛みも無いにしろ、やはり怖いもんは恐いしビビるものはビビる。たとえフェンスがあっても、ファールボールから反射的に身を引いてしまうようなものだ。

その様子を横目で見ながら、だろうね、とアスナの形をしたモノは言った。

『僕が父様から受け継いだのは《精神感応》だからね。直接的な攻撃力は空っきしだ』

父様、というのは大いに気になるところだったが、マイはとりあえずそちらは放棄し、脳をフル回転させた。

つまり彼らは、彼らという存在は、一つの《父様》なる存在から誕生した個体だという事になる。否、一般的に考えてみれば《母様》なる存在もいるだろうか。そして、そこから誕生したのは最低でも二つの存在。

狂楽(きょうらく)》という名らしい、彼に言わせれば父様から《精神感応》というものを受け継いだ存在。

そして彼の兄であり、父様なる存在から圧倒的な《攻撃力》を受け継いだ個体。

「それが……、レンに《憑い》てるモノ………?」

『まぁねぇ~。言っておくけど、あの人なら君の装甲なんてすぐ壊されると思うけどな』

「…………………………」

かつて、マイの装甲を実に99パーセントまで破壊することに成功したのは、かつての主人、カーディナルの加護を全面に受けていたカグラの刀だった。そしてその刃は、あと一歩のところでマイの首にまで届きかけていた。

文字通り、神の加護を受けた刃で届かなかったこの首に、このモノは言った。

兄なら殺せる、と。

その言葉はどこまでも悪意に満ち満ちていて、それゆえに真実味がたっぷりと帯びた空気の震えだった。

『兄様だって、あんなガキの中にいる事なんて不快に決まってる。僕の《精神感応》の力を使って、無理矢理にでも引きずり出して、お前を殺してやる。父様の名に懸けても』

ゾグ、と背筋に冷たいものが走る。

その言葉が、あまりにも真実味があって。あまりにも、重みがあって。

体が、震えた。

本能で。本能的に。震えてしまった。

「あ、アスナを返して!!」

幾度と言ったかもしれない言葉。

しかし、その言葉さえも語尾がみっともなく乱れてしまった。体が震え、唇が震え、言葉が震える。抑えようとしても、それは収まるところを知らなかった。

呼吸が、乱れる。

『そんなにわめかなくとも、ちゃんと返してあげるよ』

そう言い、にぃっと焼け爛れたような、引き千切れるような笑みを浮かべて、アスナの姿をしたモノは嗤った。

『まぁ、廃人は確定だけどね』

「くっ!」

ギ、とこぶしを握り締める。

そんな、そんな結末、あの黒衣の少年が望むはずもない。いや、誰も望むはずもない。

そして、そんなもの、レンが赦すはずがない。

───レン……………ッッ!!!

マイの言葉にならない叫びに応える者は、誰もいなかった。 
 

 
後書き
なべさん「はい、始まりました。そーどあーとがき☆おんらいん」
レン「うん、まぁブッ飛んだ回だったねという台詞以外出てこないという異常だったね」
なべさん「え、そうかな(照」
レン「誉めてるんじゃねぇ。しかしここに来てまた《災禍の鎧》と逢うとは……。根が深すぎるだろう。どこまで引っ張る気だ」
なべさん「そりゃあいけるとこまでじゃね?」
レン「勘弁しろや」
なべさん「はい、自作キャラ、感想を送ってきてくださいねー」
──To be continued── 
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