とある碧空の暴風族(ストームライダー)
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ニシオリ信乃過去編
Trick-09_ニシオリ、君を試したいと思う
何度目かになる人生の転機が訪れて数ヵ月後。
俺は土木作業の手伝いをさせられていた。
「おいシノ! 早く塗料持ってこい!」
「まだ混ぜ終わっていません! 30秒ください!」
「ったくしゃーねーな!」
と、この土木作業の最高責任者であるマリオさんはため息をついた。
なんでこんな土木作業をしているのかと言うと、ASEの仕事の一環である。
マリオさんは芸術建築家として世界的に有名であり、そしてASEにも所属しているのだ。
今回の仕事は、1週間でとあるお宅の外壁を芸術作品として塗り替えてほしいというものだ。
ちなみにとあるお宅とは、月収が億単位のお金持ち様である。
そこに俺は“マルチエージェント”として派遣された。
“マルチエージェント”
名前を聞く限りでは、何でも出来る優秀な人材に感じるが、実際は違う。
マルチというように幅広く色々出来る事は認めよう。昔から見たものを
真似るのは得意だった。この特技を百舌鳥さんに知られて、マルチに活躍させられていた。
だが、自分的には不満がある。
ASEは人材派遣会社だ。しかも派遣するのは普通の人材じゃない。
超一流を派遣する、つまりはスペシャリストを派遣するのだ。
そんな中で派遣回数が多いが、俺はスペシャルではなくマルチだ。
超一流ではない。程遠い。
超一流を派遣する会社で、実力足らずと思える自分がいるのが悔しかった。
始めこそは嬉しかった。
自分のやりたい事探しが目的でイギリスから旅立った俺は、
超一流の人と関わることで刺激を受けて、何をしたいのかを追及していく。
百舌鳥さんの話は、まさに渡りに船だった。
それに悟さんのバイクテクニックも魅力的だった。
悟さんこと、斑鳩 悟(いかるが さとる)さんのバイクテクニックは
A・Tに通じるものがあった。
A・Tほど何でもありと言う訳ではなかったが、二輪で壁を昇り降りして
自由に動く様子は、感動を覚えた。
自分の中の記録でしか、A・Tの不可能と思える動きを見た事がなかったので、
このバイクテクニックを間近で見て、出来る事なら自分もバイクに乗って
練習すれば、将来のA・Tの動きの糧になると思っていた。
その事を話して百舌鳥さんに悟さんと一緒に訓練を教えてもらったところ、
俺は覚えが良くて中々の錬度らしく、この年齢ながら国際免許の取得が出来た。
だがしかし、何故か成長が急に止まった。
バイクなどの機械操作と並行して、爆弾処理について波戸さんから習っていたが、
こちらもなかなかの錬度らしいが、急に成長の勢いが無くなった。
この2つの事から、俺と百舌鳥さんは一つの仮説が出来上がった。
俺は習得速度は早くて速いが、お手本となった人間の7~9割の段階になると
急に習得が遅くなったり止まったりするのだ。
それを俺は劣化模倣と呼んだ。
確かに心当たりはある。小さいころからスポーツは好きで、かなり上手かったと自負出来るが
絶対に一番になる事は出来なかった。それと同じなのだろう。
そのことに俺はショックを受けた。もし、この劣化模倣が全ての事に当てはまるのなら
俺は様々な事で上達する事が出来ても極める事ができない。超一流にはなれないのだ。
俺はショックを受けたが、百舌鳥さんは違った。
習得するのが速い事自体は武器になる。そして俺は習得出来ない事の方が少ない。
百舌鳥さんから色々な分野に手を出す事を進められた。
身につけた技術は多ければ多いほど、いつか役に立つ。
そして分野を広めれば、いつかは本当に一流になれる分野が見つかるかもしれない、
と言われた。
今のところ、技術を多く身に着けているから1つ目の目的は目論見通りだ。
でも、2つ目の自分のやりたい事は、まだ見つかっていない。
え? A・Tはやりたい事じゃないのかって?
確かにA・Tはやりたい事だ。でも、これは趣味であって、将来の夢や職業ではない。
だから俺の探している、やりたい事ではないのだ。
最近はやりたい事を積極的に探すことは少なくなっている。
正直、心が疲弊しているのだ。
何をやっても『お前はこの道に進むべきじゃない。才能がないんだ』と
極める事が出来ない度に言われている気がする。
今は時の流れに身を任せて、偶然でやりたい事が見つかるのを任せる事にした。
「ふぅ・・・」
今回の仕事は、マリオさんの補助。
通訳なり、資材の運び入れ、その他の雑用などをしていた。
マリオさんの仕事を終えて、俺は河原の近くで飲み物を飲んで休んでいた。
「久しぶりの日本だな・・・
しかも学園都市の近くだ・・・」
視界には学園都市が見えている。
日本で生まれ育った『西折信乃』は飛行機事故で死亡している。
書類上では俺は死んでいるのだ。
ここにいるのは日系イギリス人の『西折信乃』なのだから。
「さて、そろそろ帰りますか・・・・ん?」
川からドンブラコ、ドンブラコと流れてきたのは、なんと不元気な男の人だったとさ。
「ドザエモン・・・って呑気なこと考えている場合じゃないな」
男の人・・・10代後半で体格のいい、背中に蜘蛛の刺青があるな。幻影旅団の一人か?
この川は確か、上流に学園都市があったはず。ってことは学園都市から?
色々考える事があるけど、まずはこの人を病院に連れていかないと。
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「ここは・・・?」
「知らない天井でしょ?」
男の人を病院に連れて行って数日後、俺がお見舞いに来た時間に偶然、彼は目を覚ました。
「ここは、どこだ?」
「○×県の私立病院。学園都市の隣の県ですよ」
それから日をおいて体調が良くなった頃、その人と色々話をした。
彼の名前は“黒妻 綿流”(くろづま わたる)
学園都市のスキルアウトらしい。
スキルアウト同士の争いで爆弾の爆発をくらい、今の怪我を負ったとの事。
「学園都市にいたことがありますけど、スキルアウトとは関わったことがないです。
未成年の不良というイメージを持ってましたけど、意外とバイオレンスですね」
「まあな。実際、レベル0の人間が集まってバカやっていただけだから
未成年の不良ってのも対して間違ってはいない。
ただ学園都市だから、スキルアストでの抗争が派手になっちまうんだ」
「本当に、良く生きていられましたね」
「昔から頑丈なのが取り柄だからさ」
それから黒妻さんから色々と話を聞いた。
爆発事件の詳細や、スキルアウトでの出来事、妹分の美偉との(甘酸っぱい)関係、
自分がいなくなった後のチーム≪ビックスパイダー≫への心配などなど。
黒妻さんとは意気投合し、俺の事を少しだけ話した。
「はぁ? やりたい事探しの為にASEに入った?
お前は真面目か?」
「・・・・上司に肩の力を抜けと何度か言われた事がありますね」
「無駄に真面目なんだな」
「否定できないですね」
と苦笑を浮かべた。
「何か趣味はないのか?」
「趣味、と言えるか分からないですけど、A・Tってものを作っています」
「A・T?」
A・Tについて簡単に説明した。
昔の遊び道具(笑)であること。
設計図はあるが、作成する道具ほか材料など足りないものが多々あること。
A・Tで空を跳びたい事など話した。
「お前、本当にやりたい事がないって思っているのか?
A・Tについて話しているお前の顔、すげー輝いていたぞ?」
「小さいころからの夢ですからね」
「それなら、A・Tを作るのをやりたい事にすれば良いじゃねーかよ」
「いえ、それは趣味ですから。あくまで趣味で、やりたい事とは違いますよ」
「その考えを少し柔らかくしろ。典型的な日本人の考え方だな」
「日本人の考え方?」
「生きる為に仕事をするのは間違っているとは言えない。
でも『生きる』ってのはなんだ? 衣食住を充実させるためか?
間違っていないと思うが、国外じゃ結構違う。
その例としてバカンスってのがある。
お前もヨーロッパ出身だから知っているだろ、バカンス?」
「ええ、まあ」
「バカンスは一言で言えば長期休暇の事だ。旅行に行くとか、趣味に没頭するとか、だな。
バカンスを楽しんでいる人たちの考えは、≪バカンスの為に仕事をしている≫ってことだ」
なんとなくだが、黒妻さんが言いたい事が分かった気がする。
「つまり、生きる為に仕事をするのではなく、趣味の為に仕事をしろってことですか?」
「簡単に言えば、そんなところだ。
より正確に言えば、生きる為に仕事をするってのも
真面目すぎて馬鹿らしいって言いたいんだよ」
「なるほど」
「とりあえず、趣味の為に仕事をしてみたらどうだ?
面白そうじゃないかA・Tの開発」
「黒妻さんもA・Tに興味持ったんですか?」
「ああ。空を跳べるって自由でいいじゃないか。
俺も好きだぜ、空。学園都市にいた時も、暇がありゃ空を見ていた。
アジトでもお気に入りの場所は屋上だったしな、空を見るために、良い風が吹いていてな」
「そうですか・・・」
かなり嬉しかった。俺のA・T製作についてはほとんどの人には話していない。
趣味でモーター付ローラースケートを製作したいなんて、否定されるのが恐かった。
でも黒妻さんは肯定してくれたどころか、自分も使ってみたいと言ってくれた。
・・・完成したら、貸してあげようかな?
そんなことを考えながら、俺は図面でしか作っていないA・Tの本格製作を始める事にした。
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ASEからの新たな仕事が入り、俺は日本を離れる事になった。
黒妻さんは命に別状はないが、色々とリハビリで時間がかかるそうだ。
次の仕事先へ向かう船(まだ飛行機には乗れない)に乗り込み、仕事に関する
報告者を読み始めた。
依頼人は草薙 友と言う大企業のお嬢様。
依頼内容は自分の娘が命を狙われているので守ってほしいとのこと。
依頼人が属する大企業の護衛部隊はあるが、諸事情により3日間ほど
娘さんから離れる事になった。
その3日間を、波戸さんと俺の2人で護衛すると言う。
現地入りしてASE支局の人と待ち合わせ、打ち合わせをした後に
依頼人に会いに行った。
「初めまして。ASEから派遣されたジェームス波戸と言います。
今日は宜しくお願いします」
「同じく、ASEから派遣されました西折信乃です。
護衛するお子さんと年齢が近いという事で、波戸さんの手伝い要員です。
今日は宜しくお願いします」
「よろしくお願いするわ、波戸さん、ニシオリ君」
「!?」
なぜだろうか、草薙さんに呼ばれると背筋が冷たくなった。
あの眼、片方の眉と瞳だけが青色をしている。それ以外は典型的な日本人の黒眼黒髪。
俺を見つめる眼が、まるで品定めをするかのように無機質に見ていた。
「草薙さん、信乃がどないかしましたか?」
「いえ、波戸さん、なんでもありませんわ。
では早速、護衛してもらう私の娘を紹介します。
水、来なさい」
「ふわぁいぃ」
「なんだか眠そうな感じの声やな・・・」
「ですね」
隣の部屋にいる娘さんの声を聞いて、波戸さんと一緒に苦笑した。
声に緊張感がないのは、その子には狙われている事を話してないのかもしれない。
「どうしたのぉ、母様ぁ」
入ってきたのは、まだ10歳にもいっていない幼い少女だ。俺より3歳くらい下か。
少女は青色をしていた。
髪と眼が綺麗な青色をしていたのだ。
ふと数秒前に見た青色を思い出す。そうだ、草薙さんの片目と同じ青色だ。
とても特徴的な青。俺の眼の青が、碧空の『碧』だとするならば、
友さんと水さんの色は蒼海の『蒼』だ。
(ズキンッ!)
ふと、眼が急に熱くなった。
「っ!?」
「ど、どないしたんや、信乃!?」
「いえ・・・ちょっと眼が痛くなっただけです・・・」
何の前触れもなく眼が熱くなった。驚いて眼を抑えてしゃがみ込む。
理由は全く不明だが、なぜだか勘が訴えている。眼は何かに反応しているのだと。
熱さは数秒して、ようやく治まった。
「すみません、もう大丈夫です。ご迷惑をおかけしました」
「本当に大丈夫か?」
「はい」
よかった。両目に黒のカラーコンタクトを入れておいて。
今の異常事態だったら、眼が碧になっていたかもしれない。
自分の眼の異常性は自分が良く知っている。だからバレないように
色々と対策と訓練をしているのだ。
「私の事よりも、依頼の話をしましょう。
草薙さん、そちらのお子さんが護衛対象ですか?」
「ええ。この子、口下手で何を言っているのか分からない事もあるけど、
とりあえず自己紹介しなさい」
そう言われ、本当に口下手なようで、声も小さくて言葉の終わりを伸ばす癖があるのか
最初から草薙 水と言う名前を知っていないと理解できない話し方をする。
苗字なんてクナギサって言っているように聞こえたよ。
その後に俺と波戸さん、ASEの手伝いの人たちで自己紹介をした。
自己紹介が終わった後、友さんの隣にいた黒服サングラスが話しかけた。
「友様、そろそろ・・・」
「分かったわ。それでは3日間、娘を宜しくお願いするわ」
「「了解しました」」
ASEは軍隊ではないから敬礼をしないまでも、綺麗な直立で答えた。
友さんが出て行ったあと、残されたのは俺と波戸さんを含むASEメンバー10名と
娘の水さんだけだ。
「水さん、私達の事は聞いていますよね?
3日間ですがよろしくお願いします」
「・・・(コクリ)」
水さんは頷き、最初にいた部屋に向かった。
役割的には、護衛と言っても波戸さんと他メンバーがメインで行うのを事前の打ち合わせで決まっていた。
俺の仕事は水さんの面倒を見る事。言い方を変えれば勝手にどこかに行かないように見張る事。
歳が近くて選ばれたと思う。
「私も、部屋に入ってもいいですかね?」
「・・・(コクリ)」
口下手と言うよりも、人との関係を持ちたくない人嫌いな子かもしれない。
俺の入室を許可したのも、自分の状況が分かっていて仕方なくと言う感じだ。
「失礼します・・・・これは!?」
部屋に入ると、証明がついておらず薄暗く光るディスプレイが目に入った。
だが1台ではない。壁一面に、ざっと見ただけで10×10の100台があるようだ。
そして部屋の中央には1席だけ。水さんが座る席だけがあり、キーボードらしい
操作盤が4つほど置かれていた。
つまりは彼女一人だけがこの大量のマシンを操作しているのだ。
「水さんがこれの操作をしているんですか?」
「・・・(コクリ)」
「・・邪魔にならないように、部屋の隅に居たいですが、よろしいでしょうか?」
「・・・(コクリ)」
一応、部屋主の許可を得られる事が出来た。
これが不思議系電脳少女、『位置外 水』との、政治力の世界である≪玖渚機関≫のファーストコンタクトだった。
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それから2日が経過した。
ASEエージェントと交代を挟みながら護衛を続けたが、何の問題もなく過ぎていった。
順調に何事もなく。
だからこそASEメンバーの全員は3日目はより気を引き締めた。
相手が油断を狙っているとすれば、狙うのは3日目。つまりは今日。
世界のトップエージェントばかりを集めた組織ASEだが、
所詮は人間だから隙があるものと俺は思う。
だからこそ集中出来る。隙があるから、隙を見せないように一生懸命になる。
人間は不完全な存在だ。だからこそ出来る事やれる事がある。それが凄いと思う。
そんな持論は今はどうでもいいや。
とにかく残り1日を集中して護衛を行う事にした。
「ニシオリ、君を試したいと思う」
「え?」
唐突に水さんが言った。
部屋には俺と水さんだけ。今の発言は水さんからであり、俺に向けての言葉だった。
でも信じられない程ハッキリと覇気を持った話し方をしていた。
それに西折の発音も少しおかしい。
「水さん、ですよね? 急に話し方が変わっていますけど、どうかしましたが?
試すって何を試すんですか?」
分からない事だらけだ。
「お前がニシオリなら、これしきの困難、乗り越えてみせろ」
「さ、さっきから何を言っているんですか?」
俺の問いには答えてもらえず、さらに言葉を重ねられた。
水さんの手が挙がり、そして叩きつけるようにキーボードを押す。
同時に部屋の電源が切れて真っ暗になった。
「停電!?」
外からの攻撃? 違う。水さんの発言とのタイミングが良過ぎる。
この停電の原因は水さんによるものだ!
「こちら西折! 波戸さん聞こえますか!?」
『・・さ・・・なんや・・・・』
妨害電波が効いているのか、先程まで出来た無線も使えなくなっている。
「・・・・水さん、これは貴方の仕業ですか?」
元々、外部との接触は出入口の1箇所にしかない部屋だ。
停電で真っ暗になり、友さんがいるであろう方向を見て話しかけた。
「・・・だとしたら?」
「そうですね。ASEとしては外部からの敵から水さんを守るように言われてます。
ですが水さんが敵と繋がっている場合は内部からの犯行、ということになります。
契約上に問題が発生してしまいますね」
とは言ったものの、契約なんて今はどうでもいい。
自分を冷静にさせるために軽口を叩いただけだ。
ASEの仕事をしていると、裏切られたり罠に嵌められたりするのなんて
日常茶飯事だ。依頼主が急に要求を変えて銃口を突き付けられたことなんて
両手の指では足りない。そんな状態でも依頼を達成しなければならない。
ASE。実はブラック企業だったり・・・報酬が超良いからプラスマイナスでゼロかな?
どうでもいい事を考えて頭をリフレッシュする。
現在状況の確認
・護衛対象である『水』さんが外部の敵と繋がっている可能性がある
・無線が使用不可。仲間との連絡が取れない
・護衛対象が裏切りの可能性があるが、護衛対象には変わらないので任務続行。
暗闇の中で俺は装備を確認する。
眼を閉じて装備の確認を手の感覚だけで行い、終わった後に眼を開く。
停電の暗さに目が慣れて、ぼんやりとだが周りを確認する事が出来る。
水さんは席から動かずにいる。まだ無事のようだ。
部屋の出入口が1つしかないと言う事は、その出入口を制圧されれば
俺達は袋のねずみにされてしまう。
なら、まずは部屋から出る事を考えよう。
部屋から出て、隣の部屋の安全が確認でき次第移動をする。
もちろん、水さんも一緒。彼女に拒否権は無い。
扉に耳を付ける。音は無い。隣の部屋で何か問題は起こっていないようだ。
ドアノブを音をたてないようにゆっくりと回して扉を開く。
10cmほど開き、隣の部屋を覗き見る。
・・・隣も停電して暗いが、夜目は利く方だ。色以外であれば物の輪郭分かる。
そうだ、暗闇で色は見えない筈だった。
でも、この色は分かった。
開きかけた扉に外から手が差し込まれた。
俺が気付いて反応するよりも早く力づくで扉は開かれた。
「みーつけった」
その女は楽しそうに俺を見た。
見えない筈の色が、はっきりと分かった。
女の髪も眼も服も唇も、印象的な“赤色”だった。
後に知るであろう、女の名前は
“赤き征裁”(オーバーキルドレッド) “死色の真紅”(しいろのしんく)
“砂漠の鷹”(デザート・イーグル) “一騎当千”“仙人殺し” “嵐前の暴風雨”
“人類最強の請負人”
“哀川 潤”(あいかわ じゅん)
つづく
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