蘇生してチート手に入れたのに執事になりました
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人工物
ここはこうやればいいんですけど・・・・・って宏助君?大丈夫ですか?」
「う、う~ん。分からん・・・・・・。」
「宏助さん、ここはこうやるんですよ。例えばこの場合は・・・・・」
俺がこの屋敷に来てから約二週間が経った。大分、この屋敷の生活や仕事にも慣れたし、SP達との訓練も日々欠かさずはげんでいる。
どうやら俺の力にはまだのび白があるらしく、鍛えればもっと強くなれるらしい、と麗から先日言われたばかりだ。
その麗が最近言い出してきたのが、勉強だ。
もともと麗は塾の講師のアルバイトをやっていたため(このとき俺は麗のキャリアの凄さを知った)自分の能力によって引き篭もりがちな明に高校生の授業要領以上の教育を施していたらしい。
当然宏助も麗に無理やり参加させられたのだが、これがなかなか難しい。
宏助はやっといた方がいいかな~と思い、通信教育などで一応学校でやるべきはずのことはやっていた。だから、土台はある。
しかし、所詮は自習。必要最低限の土台があるだけで昔にやったことなど覚えていないし、この異常な力も頭脳にはたらきはするのだが、それは異常な記憶力などでやはり知らないことが湧いて出てくるようなことはない。
そんな訳で、麗と明に手取り足取り教えてもらいながら宏助はもう何回目かになる勉強会に望んでいた。
既に数時間が経過、そろそろ勉強会も終了の気配が漂ってきた頃・・・・・、それは突然訪れる。
「麗さん!この屋敷に男性の訪問者です!何故かこの屋敷のことを知っていて、壁に向かって叫んでいます!」
わざわざ作られている勉強部屋にSPである一人の声が響き渡る。一見、スピーカーなどないように見えるが、実は外観を崩さないために、壁の下に埋め込んである仕掛けだ。麗が常に所持しているトランシーバーをメイド服のひとつのポケットから取り出し、連絡をはじめる。
「誰か分かりませんが、この屋敷の存在を知っているならば、このまま帰す訳にはいきませんけど・・・・・」
麗の目が途端に鋭くなる。しかし、そのトランシーバーから聞こえてきたのは意外な言葉だった。
「・・・・それが・・・神条総帥の署名を持っていて、神条明に用がある、と言っています!」
「・・・・?!」
神条総帥の署名。これは何より総帥が此処にその男をよこした、ということに他ならない。
麗は数秒の沈黙の後、
「・・・・わかりました。その署名の筆跡を確認した後、一通りのチェックをして問題なしならば、通しなさい。こちらもすぐに明様と用意します。」
重々しく、しかし素早くトランシーバー越しに指示を出す。
「聞いていましたね?明様に、宏助君。明様はすぐに来客用の服にお着替えを、宏助君は明様の自室の外で待機。その後、応接間に明様ときてください。私は来客の準備をします。なるべくお急ぎになって。十分程度で。」
更に宏助達に手早く指示を出す。人の家への訪問はアポしてからが基本でしょうが・・・、と呟くのは忘れなかったが。
そして十分後。
「待たせてすいません。行きましょう。」
自室から出てきたのは一分の隙もないご令嬢。
黒いドレスに身を包み、品の良いお嬢様を演出している。
冬なので生地は厚いが、何故か胸元が大きく開き、下着をしているはずなのに、こぼれている。そう、こぼれている。
その純白の肌と黒いドレス。銀のハイヒールなどをいやらしいと思えないほどのスピードで眺め回し、すぐに視線を前に戻す。
そのまま玄関へと続く中央階段を通り抜け、応接間へと向かう。
応接間に入るとほぼ同時に、品の良さそうな男性が、ソファーに座っていた腰を上げて、頭を下げる。相手は柔らかそうな微笑を顔に浮かべていたが、何故か宏助は男性が頭を下げたときに男性から機械音のようなものを聞いた。
明も会釈し、そのままソファーに座る。宏助は勿論後ろで待機だ。麗は机の横にいて、明は男性と机を挟んで向かい合う形だ。
そのままごく自然な流れで、男性が自己紹介、というか名刺を明に手渡す。そのときも微笑のまま、やはりなにかの機械音。
「私、こういうものでして。」
名刺を渡すときの常套句を言って、それを差し出す。何故かそのときも機械音。そっとその名刺を覗きこむと、宏助の知らない会社名・・・・・IC企業と下に書いてある・・・・と、嶺方楼(みねかた ろう)という名前が記されている。
明も自分の名刺・・・・なんとドレスの胸ポケットに入っていた・・・・を差し出し、名刺交換。
そして、そこで麗が楼に質問をする。
「あの、つかぬことをお聞きしますが、本日は有名なIC企業の社長である貴方が一体どのようなご用件でここに?」
言葉遣いは柔らかいが、目には警戒の色が宿っている。やはり神条総帥の署名を持っていても、警戒すべき相手であるのは違いない。
しかし、そんな麗の様子に気づいているのかいないのか、楼の表情は先程から同じ微笑だ。そして告げる。
「そんな、そんな。社長といっても神条総帥が仕切る神条財閥の傘下である企業のひとつでしかありません。あ、今日来た目的でしたね・・・それは、」
そこで一度言葉をきり、何でもないようにそれを告げる。さっきから感じる謎の機械音とともに、
「そこにいる神条総帥の一人娘の身柄をこちらに渡してもらうためです。」
「・・・・・・!」
刹那、相手は懐から銃を取り出すが、楼が言葉を告げていた時点で動いていた宏助がその銃を叩き落し、テーブルを貫通させる。数瞬遅れて、麗がやはりメイド服の懐から取り出した拳銃を出し、楼に突きつける。明はそれを呆然と眺めている。
そして、楼。やはり先程から言葉を発するたび、動くたびに謎の機械音。
「さすがに、今すぐにとは無理でしたか・・・・。しかし、私は今、貴方たちの屋敷の周りに居住するSP達を人質に取っています。」
『・・・・・・!』
三人とも驚く様子を見せる。それは、その言葉と同時に、楼が取り出した、小型タブレットに映る光景。あの屈強なSP達が全員地面に倒れ伏し、縄で縛られていて、それぞれの頭に銃を突きつけているSP達のように屈強な、兵士の姿をした男たちの映像。
そしてもうひとつは・・・・・、三人とも驚いてそれを見ているのと同時に別のものが視界に入ったからだ。
楼は平然としていたが、宏助達にはそれは驚きでしかなかった。
宏助が先程叩き落した拳銃。そのときにどうやら指に宏助の攻撃の風圧が当たったらしい。指の皮が剥け、まるで作り物のようにたれている。
それは良く見るとゴムに似ていた。そしてその皮膚の下から覗いているのは、銀色をした細い何本ものコード。
その何本かは焼ききれ、だらんと皮膚と一緒に垂れている。そして当然のように血は出ていない。
「そして、もう一つ付け足すと、私を人質に取っても無駄です。私は精密に作られたいわばロボット。社長の姿形を取っていても中身は人間ではありませんよ。更に貴方方のセキュリティシステムは、ハッキングしてあります。まぁ、そうでなければ、神条総帥の一人娘の豪邸に人間でない私と、多くの精鋭部隊が奇襲など不可能ですからね。」
楼、と名乗るその不思議な機械は、表情を微笑のままそんなことを言う。
再度の機械音。先程から聞こえていたこの機械音はこいつがロボットだからだったから聞こえたのだ。
宏助はそれに驚きを隠せないが、麗はそんな楼を見ていない。
彼女の視線はさっきからずっと楼が取り出したタブレットに映る映像に吸い寄せられている。
その表情は驚きと恐怖が入り混じった表情だった。
そしてこの場で、たったひとりだけ、動じた様子を見せない人物がいた。
明だ。彼女も驚いてはいたが、それでも自分が迷ってはいけないと、強い表情を見せている。
「あなたの目的はなんですか?」
毅然とした口調でロボットである相手に語りかける。
その相手は質問を聞いたのか聞いていないのか分からないが、質問に答えたようにタイミングよく答える。
「私の貴方方のSP三十名弱という人質で要求する案件は二つです。」
そういってロボットは二つの指をぎこちない動作で前に出す。
「ひとつは、神条明の身柄をこちらに引き渡すこと。」
当然だろうな、という感じで明は頷くが、宏助達はそうはいかない。
今までタブレットを見て呆然としていた麗も含め宏助達は、殺気を漂わせる。
しかし、それはロボットには伝わらない。そして、それは、更に宏助達の殺気を深める発言をしてくる。
「もうひとつは伊島宏助、若菜麗。二人のボディーガードに即刻この屋敷から立ち退いていただきたい。」
「なにっ・・・・!」
「なんですか・・・!」
そんな宏助達の様子を気にすることもなくロボットはまた続ける。
「これから二人にはこの発信機をつけていただきたい。そして、二時間、これから指定する場所に動かず、いてほしい。当然、その発信機を取り外したり、壊したり、あまつさえ発信機の着用を拒否することがあれば・・・・この会話の全てを聞いている我らが精鋭部隊が貴方たちを護っているはずのSPどもを殺す。」
表情は微笑なのに、機械の発する声はどこか人間味がなくて悪寒がする。
麗は異常なほどまでに怯えた表情で、ロボットが取り出した二つの小さな機械を眺めていた。
その表情に宏助は多少なりとも違和感を覚える。
確かに、SP達が殺されるのには当然恐怖を覚える。しかし、麗のその怯えようはもっとなにか別のものから来ていた。
瞳は虚ろで相変わらず机に置かれたタブレットの光景を見ている。そして、その様子から感じられるのは・・・・・
罪悪感。なにか自分を責めているような感じがした。いつも冷静な彼女が何故ここまでこうなるのか不思議だったが、
「宏助さん、麗。いますぐ、発信機をつけてください。」
明から指示が出される。麗ははっ、としたように明を見るが、明は強い表情で、その瞳を見返し、小さく頷く。
選択の余地はない。二人は、机に置かれた小型の機械を自分の胸につける。
そうするとロボットはまた懐から何かを取り出す。
今度は何だ、と警戒する宏助だが、そこから出てきたのは二枚の地図だ。
「これからこの二枚の地図に書かれた場所・・・・ファミレスですがね。そこに二時間いてください。動かずに。二時間経ったら屋敷に戻ってきても良いです。そして、明さん、貴方はこれから一時間半。これが貴方のこちらに身柄を委ねるか考える猶予の時間です。貴方の選択肢は二つ。こちらに来るか、SP達と共にあちらへ行くか。」
「・・・・・っツ!」
宏助は動揺し、麗は最早今にも倒れそうだ。そんな中、明だけが、目をロボットである相手から離さない。
死ぬか、拘束されるか。どちらに転んでもいい目は見ない。なのに、彼女はこんなことを言う。
「わかりました。考えさせてください。」
明はそう言って、宏助と麗に意味深に頷いて、地図を手渡してくる。
宏助と麗は、その地図をおずおずと受け取る。
麗はそのときも、明と目を合わせずに、視線は机の上のタブレットの中。
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