ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
二部:絶世傾世イケメン美女青年期
百三話:依頼受諾
「いやー!娘っこみてえな細っこいなりに、きれえな顔して!あだに強えとは、おら驚いただ!人は見かけによらねえとは、このことだなや!」
私の手を握り、ぶんぶんと振り回しながら、興奮したように捲し立てる村人さん。
他のお客さんやお店の方は、遠巻きにこちらの様子を窺っています。
……やはり、やり過ぎただろうか。
ドン引きですか、みなさん。
と、村人さんがふと気付いたように私の手を持ち上げ、撫で擦りながらしみじみと眺めます。
「……この手も。ほんとに、娘っこみてえなのによ。あんなでけえのを、投げ飛ばしちまうんだから。都会には、色んな人がいるだなやー……」
「……あの。私に何か、お話があるのでは?」
女と疑ってるとか赤面するとかは一切無いが、あまりその話を引っ張られると居心地が悪いんで。
若い男性に手を撫でられてるのも落ち着かないし、早く用件を言って欲しい。
私の問いかけにハッとして、村人さんが話を切り出します。
相変わらず、手は握ったままで。
「ああ!んだ、おら、あんたに頼みてえことがあるだ!おら、カールだ!あんたは?」
「……ドーラです」
「ドーラさんだな!名前も、娘っこみてえだな!頼みってのは、他でもねえ。おらたちの村の近くに住み着いた、化け物を退治して欲しいだよ!」
いちいち娘っこみたいとか、本当に男だったら割と失礼だと思うんだが。
全く悪気は無いんだろうし、実際に女なんだから、怒る筋合いでも無いけれども。
ともかく、やっと本題ですね!
「化け物?と、言いますと?」
すっとぼけつつさりげなく手を引こうとしてみますが、逃がすまいとでもしてるのか、ガッチリ掴まれててそんな程度では外れそうもありません。
農作業で鍛えられてるせいかガタイも良くて、結構力が強いみたいだし、この人も割と強いんじゃないだろうか。
一人で村からここまで、行って帰れるくらいなんだし。
少なくとも、さっきのゴロツキよりは強そう。
「畑を荒らす化け物だ。このままではおらたちは飢え死にするしかねえから、村を代表しておらがこの町に強い戦士を探しに来ただ。もちろん、タダとは言わねえ!ここにある三千ゴールドが、礼金だ!」
そう言って、胸にたすき掛けのように括りつけた皮袋を、片手で持ち上げてみせるカールさん。
……ゲーム通りだけど。
三千ゴールドって、大金だよね?
普通に暮らしてる人にとっては。
「強い、戦士、ですか。……ですが、カールさんもそれなりにお強いのでは?旅をしている私ほどでは無くとも、この町まで無事にたどり着けるほどなのですから。さっきの二人を相手にしても、無傷とはいかなくとも、負けはしませんでしたよね?小さな村ではお金を稼ぐのも大変でしょうに、その貴重なお金を使ってでも外の人間を頼るのは、何故ですか?」
ちょっと強いからって、モモに勝てるかどうか知らないけれども。
間違って倒されても困るし、モモに人を傷付けさせたくないから、下手なことされなくて私は良かったけど。
ちょっと気になるので、折角だから聞いてみます。
またさりげなく後ろに下がりつつ手を引いてみますが、あくまで手を離さないカールさんが、私が下がった分また距離を詰めながら口を開きます。
「……おらも、それは考えたども。化け物の正体もわからねえのに無茶して、働き手を死なすわけにはいかねえって。それなら腕の立つ人間を雇って、金でどうにかできるならそうするべって、村長さんが」
若い労働力は、農村では貴重だろうからね。
金と命を、秤にかけた結果か。
依頼を受ける側だってリスクとリターンを考えて受けるか決めるだろうし、まあ正しい判断だね。
しばし俯いてぽつぽつと話していたカールさんがまた顔を上げ、私の手を強く引き寄せて真剣な顔で訴え始めます。
……って、近い近い!
「お願えだ!あんたくらい強くて、信用できる相手はそうは見付からねえ!ばあちゃんも子供らも腹減らしてて、もう限界なんだ!自分らは後ろに引っ込んで、余所者のあんたに命懸けさせるのは、筋が違うとは思うだども!どうか、後生だから!」
「わ、わかりました!受けます!お引き受けしますから!少し、離れてください!ていうか離して!」
熱意のあまりか、もの凄い至近距離に迫られてるんですけど!
顔がくっつきそうなくらいに!
手を掴まれてるから逃げられないし、もうわかったから離せ!
という私の後半の訴えを完全に無視し、了承の答えにカールさんが顔を輝かせます。
「本当だか!?やれえがった、これで村も安泰だ!まずは前金として、金は半分渡すから!きっと、きっと来てけれな!おらたちの村は、ここから南に行った、カボチ村だから!」
「行きます、ちゃんと行きますから!だから離して、離せ!近いから!すごく!」
と、たぶん私の訴えを聞いたわけでは無く、お金を取り出すためにカールさんがやっと手を離してくれます。
ああ、やっと離れられた。
とすかさず少し後ろに下がった私にまた距離を詰め、カールさんがお金の入った袋を押し付けてきます。
……だからいちいち近いんですけど!
カールさんのパーソナルスペースは、狭すぎです!
むしろそんな概念すら無さそう!
「んじゃ、おらは先に村に帰ってるから。ドーラさん、きっと来てくんろよ!」
「え?今から、帰られるんですか?もうすっかり、暗いですけれど」
「いつものことだ。宿代がもったいねえから、どんなに遅くなっても日帰りで村には帰るだ。んじゃな」
事も無げに言い放ち、さっさと宿を出て行くカールさん。
やっぱり、それなりに強そうです。
村人Aにしておくには、惜しい人材だ。
だからこそ間違っても死なせたく無いんでしょうね、村のみなさんは。
……はあ、しかしなんか疲れたわ。
ゴロツキを相手にするよりも、疲れたわ。
無駄に、疲れたわ。
と息を大きく吐いたところで、パタパタと足音が迫ってきます。
ん?と思って、顔を上げると。
「お兄さん!とっても強いのね!びっくりしちゃったわ!」
「アイツら、チップも碌に払わないのにしつこかったのよ!スカッとしたわ!」
「お疲れみたいね、私たちが癒してあげるから!一緒に飲みましょう!」
「ダメよ!疲れてるんなら、ゆっくり休まないと!ね、良かったら私と一緒に」
「ちょっとー!抜け駆けはずるいわよー!お兄さん、休むなら私と一緒にしましょう?」
踊り子さんたちです。
踊り子さんたちに、囲まれました。
遠巻きにされてたのは、話が終わるのを待ってただけか。
ドン引かれてなくて良かった……けど。
……ヘンリーは?
ヘンリーは、どうしたの?
私はまた、さらってしまったの?
全部、持っていってしまったの??
と思って、踊り子さんたちの隙間からヘンリーの様子を覗きみると。
一人の踊り子さんがヘンリーの腕に縋り付き、怯えたようにぷるぷると震えています。
アレか、彼女以外はヘンリーのあまりの愛想の無さに諦めて、ターゲットを変更した感じか。私に。
そして、一人残った彼女ですが。
なんていうか、小動物っぽい。
いかにも、守ってあげたくなるタイプみたいな。
顔立ちは他の踊り子さんたちと比べても地味でどちらかと言うと平凡だし、背は女性としてもかなり低めで、良く言えばスレンダー、悪く言えば貧相な体型だけれども。
踊り子の売れっ子要素としてはマイナスでも、守ってあげたいキャラクターからすれば、むしろプラスに働く要素だろう。
私も演技としてはそんなキャラを作ることはあるが、私と違って、本当にか弱い。
本当に、守りがいのある女性なんだろうね、きっと。
私は、放っとかれても死なないけど。
場合によっては、放っといたら本当に死んでしまいそうな。
ヘンリーの庇護欲を満たすには、適当な相手と言えるかもしれない。
……しかし、こちらに来ようとしているヘンリーを、ガッチリ捕まえて離さないあたり。
やはり、守ってあげたくなるタイプは実は強かの法則に当てはまりそうな。
…………でも、例え演技だとしても、きっちり演じ切れるなら。
その相手から見て、可愛い女性であるには違い無いわけだから。
彼女がきっちり演じ切れて、ヘンリーが彼女を選ぶなら、それはそれで、いいのか。
ああいう相手とくっつくならやっぱりマリアさんにしておいて欲しかったと、思わないでは無いが。
ああいう強引さはマリアさんには無かったものだし、あれくらいじゃないと無理なのかもしれない、ヘンリーを落とすには。
微妙にモヤモヤするけど仕方ない、私の好みでヘンリーの相手を決めるわけにはいかないし。
……ともかく!
あのヘンリーに、あれほど食らい付いてくれる相手と、一対一の状況が作れたわけだから!
だいぶ持ってきてしまったけど、結果、良かったと思おう!!
と、それはそれとして。
綺麗な踊り子さんたちにチヤホヤされるとか嬉しいんですが、明らかに夜のお誘いを受けてしまってる現在、そんな悠長なことも言ってられないわけで。
こっちが女とわかったところで、今さらまたヘンリーのところに戻るとか無いだろうし。
言い包めて誤魔化すには数が多過ぎるし、手っ取り早くバラしてしまいますか。
ページ上へ戻る