ソードアート・オンライン~ニ人目の双剣使い~
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訪問と再会
菊岡との交渉から数日後
俺は菊岡に前回と同じファミレスに呼び出された
「お一人ですか?」
「いや、人を待たせているはずなんだが……」
店に入ると実用性皆無のフリフリのレース付きエプロンを付けたウェイトレスが寄ってくるが、スルーし店内を見渡す
「おーい、こっちこっち!」
全力で手を振っている見覚えのある眼鏡を見かけたので嘆息する
「……アレの連れです」
「そ、そうですか。ごゆっくり」
可哀相に。ウェイトレスの社交辞令的笑顔にヒビが入っている
「やあやあ、よく来たね」
「ガキか、おまえは」
ウェイトレスが持ってきた水を一口飲み、おしぼりで手を拭く
「嫌だなぁ。子供心を忘れないように心掛けているだけだよ」
「別に否定はしないが、時と場所を選べ」
公共の場でいい大人がやるようなことではないだろう
何人かが、こちらを見てヒソヒソ話をしているし、今日は厄日か
「さてと、本題に入ろうか」
ふざけた顔を引き締め、眼鏡をかけ直した菊岡がテーブルに肘をついて、顔の前で手を組む
「結論から言うと上に掛け合ってみたところ、許可は出たよ」
「そうか」
思わず、詰めていた息を吐いた。何はともあれ第二関門は突破である
「しかし、上はそれに条件を付けてきたよ」
「条件?」
「君のご両親。つまり、鈴木家からの援助を取り付ける手伝いを君がすること。これが条件だ」
かなり苦い顔で菊岡がそう言い放った時、俺は思わず水を飲もうとしていた手を止めていた
「……バカなのか?」
「君の言いたいことはよくわかるよ。君がキリト君の家にいることから容易に推測できるしね。でも、書類上は親子関係は続いている」
「どういうことだ?」
確かにあの時、俺は父親に勘当を言い付けられた。あの父親が勘当の手続きを忘れるはずがない。ならばなんのために……
「人の心は僕には読めないけど……ご両親ともう少し話し合ったらどうかな?」
「……考えておこう」
「話を続けるよ。現場のことを考えない、書類だけしか見ないロボットみたいな上のために、リン君にも交渉に同席して欲しいんだ。……そもそも拒否権はないんだけれど」
上司に恨みでもあるのだろうか?
だが、国とかの行政はいつも現場を見ていないのはもはや必然
「わかった。それで、それはいつなんだ?」
「また、決まったら連絡するよ」
ウェイトレスにコーヒーを頼んで溜息をつく
その溜息を聞いて嬉しそうにケーキを頬張っていた菊岡がこちらを見た
「どうしたんだい?」
「いや、なんでもない」
†††
それから一週間が過ぎた
「さて、じゃあリン君、行こうか」
「ああ……」
菊岡がアポイントを取り付け、俺と菊岡は鈴木家の家の前にいる
俺の名前は出さず、同行者が一人だけいるということだけ伝えているらしい
俺は門前払いされても困るので、スーツに鍔の広い帽子を被り、顔を隠している
「どちら様でしょうか?」
「アポイントを取っていた菊岡という者です。こちらは私のアシスタントとして同行してくれた桐ケ谷君です」
鈴木を出すのはマズイと思うが、よりによって桐ケ谷かよ……と言葉には出さないものの、帽子の影で顔をしかめていると俺達の応対をしていたお手伝いが、確認を取って戻ってきた
「確認が取れました。どうぞ、こちらへ」
「どうも」
お手伝いの先導で応接間まで通される
元々住んでいた家だけになんだか不思議な心持ちになりつつも、前を歩く菊岡の後ろをついていく
「……来たか、政府の狗め」
「お初にお目にかかります。仮想課の菊岡誠次郎といいます」
高圧的に放たれた暴言を表情一つ変えずに名刺を差し出す菊岡の姿は場慣れを感じさせた
その姿にうちの父親は鼻をフンと鳴らすとソファーをすすめる
「それで、何の用だ?出資の話なら断ったはすだぞ」
「らしいですね。まあ、それは上の思惑であって、私たちが来た理由ではありません」
「煩わしい。単刀直入に言いたまえ」
菊岡がこちらに目配せをしてきたので、帽子を脱ぎ捨て、素顔を晒した
「……り……なにしにきた?」
一瞬驚きの顔になり、俺の名前を呼ぼうとしたが、すぐに不機嫌な顔に戻りぶっきらぼうに言い放った
「強いていうなら、ここに来ることが目的だ」
「どういう意味だ?」
「別に言う必要はないだろ」
なにやら好奇心をくすぐられたらしく、不機嫌な態度を変えてはいないが、こちらの言を聞く体勢に入っていたが、言う必要はない。そう思っていたのだが
「とある少女の命を救うためですよ」
「余計なことを……」
「相変わらず貴様というやつは……」
相変わらず俺の父親は悪い意味で変わりがない
「まあまあ、彼がお節介焼きなのは今に始まったことではないでしょう。ここは一つ、仲直りしてみては?」
「これは私たち親子の問題だ。政府の狗が口を挟むな!」
「あ、そうそう、親子で思い出しましたが戸籍上の親子関係はなぜ切られてないんですか?」
「ぐっ、それはだな……」
言葉につまる。菊岡もわざと忘れた振りをして、人が悪い
しかも揚げ足を取って答えざるを得ない状況に持って行った
「……菊岡さん。少し席を外してくれ」
「扉の前で立っていればいいのかな?」
ため息混じりの俺の言葉に菊岡は素直に従うと扉を開けて廊下に出ていった
「……壮健そうで何よりだ。燐」
「苦労も多いが、偽りの仮面を被る必要もなく、なかなかに充実した毎日だったからな」
「そうか……」
ソファーに深く腰掛け、長く息をはいた父親は前に見たよりずっと老けて見えた
「なぜ、家の戸籍から俺を消さなかったんだ?」
「私はお前に私の様な苦労を背負わせたくなかった。だから、レールをしき、間違いなく私の跡取りとして幸せな人生を歩ませてやりたかった。しかし、その束縛をお前には合わなかったようで結果的にすべてが裏目に出てしまった……。あの後、そのことに気づいてしまったのだよ」
結局、親としての愛情がすれ違いを起こしていたというだけの話だった
それに加え、親子として当たり前の喧嘩をしてこなかったのも原因の一つだろう
従うのが当たり前、そんな非常識が常識として定着していたため、その常識を破った俺に激怒した
理不尽と思うかもしれないが、大小は多々あれ、これは日常的どの家庭でも存在している
最初は自発的に好意で親のためにやっていたお手伝い。それが常識となり、感謝されることもなく自発的に好意でやっていたお手伝いを強要されるなんてことはないだろうか?
習慣だから。当たり前だから。義務だから
最初はそんなつもりはない。でもいつの間にか常識としてガチガチに固定化されてしまっているということ。心当たりはないですか?
今回もそういうこと。他人から見れば、子供が親の言うことに逆らうのは常識である、でも、鈴木家ではそれは非常識になってしまっていたのだ
「……それで、まだ戸籍上での繋がりを残した理由を聞いていないが?」
「決まっている。家にまたお前を戻そうとか思っているわけではない。私はお前と、燐と和解したかったのだ。なぜ戸籍を残していたのかというとだな……そのきっかけにしたかったのだ」
戸籍上の関係まで消すと、確かに赤の他人だしな。そうなると和解はおろか、会うことすら難しくなる
今回の俺の訪問も戸籍上の繋がりがあったが故のものだし
「……わかった。だが、一つ条件がある」
「なんだ?」
「詩乃に、朝田詩乃に謝れ。それが俺から出す条件だ」
「朝田詩乃……あの時、お前の病室にいた娘だな。わかった。予定を空けておこう」
話もついたので、扉の前にいる菊岡を呼んで建前の話を少しする
結局、投資は受けられなかったのだが
そして、帰り際に俺は父親に呼び止められた
「いつでも帰ってくるといい。ここはお前の家だからな」
そう言うとすぐに扉を閉めてしまった
その様子を見ていた使用人がクスクス笑いながら話し掛けてくる
「お久しぶりですね、御子息。いえ、今は燐様とお呼びした方がよろしかったですか?」
「……好きに呼んでくれ。で、何か用か?」
「いえ、あんなに嬉しそうな旦那様を見たのは本当に久しぶりで……わたしからもお礼が言いたかったのです。ありがとうございました」
深々と頭を下げた使用人の顔を上げさせる
これもまた懐かしいやり取りだった
後書き
ツンデレ親父……そして名前が出てないっていう
蕾姫です
父親とは単純なすれ違いです。親子の縁ってそうそう切れるとは思わないんですよ
前に出したときは詩乃への想いを際立たせるためにわざとゲスにしましたが……
急展開過ぎてついて行けなかった人はすみませんでした。仲直りさせたかったんです
菊岡「計画通り(ニヤリ」
もうちょい引っ張りたかったんですが……ごめんなさい、文才が足りませんでした
もうユウキ生存計画は終了したし?親とも仲直りしたし?マザーズロザリオ編のプロットなんて全く厚みがないし?
もう……ゴールしてもいいよね……←早い
あと数話で終わりそうです
だって、うちの主人公が参入できるところなんて……全くないじゃないですか、ヤダー
マザーズロザリオ編は原作でお楽しみください(土下座
ではまた次回
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