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駄目親父としっかり娘の珍道中

作者:sibugaki
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第45話 人の指は足と手を合わせて20本!

 お登勢と真選組の提案により寺子屋へ通う事となったなのは、はやて、ヴィータの三人。
 同年代の少年少女達と共に学びながら楽しい青春を過ごす楽しい日々が待っているかに見えていた。
 だが……
「う……うぅぅぅぅぅ……」
 その日、なのはは一人唸っていた。彼女の目の前には一枚の用紙と筆が置かれている。用紙には達筆で問題が書かれており、どうやらその問題を前にして悩んでいるようでもあった。
「なんやなのはちゃん、分からへんのかぁ?」
「うん、全然分からない」
 はやてが気遣いを見せつつもなのはが悩んでいる問題を見る。どうやらそれは算数の問題らしく、それもその算数の内容と言うのがこんな形式の計算問題であった。

【120×20=】

 と言う感じの問題、要するに三桁と二桁の掛け算だ。本来小学生中学年程度でならこれ位の問題は簡単に解ける類なのだろうが、生憎常識に関して相当疎いなのはには難問の様で、その証拠に頭を抱えて悩んでいる始末と言うのはお察しの通りだろう。
「う~んとぉ……120だからぁ……右手の指が五本で、左手の指を合わせて十本……両足の指を合わせると……これで120本かなぁ?」
「そないに指があったら化け物やでなのはちゃん。因みに人の指ってのは手足合わせて二十本だけや」
 一体どう言う計算をすれば手足を合わせて指の数が120本になるのか?
 それはなのは自身にしか分からない永遠の謎だったりする。
「う~~~ん、全然分からねぇ」
「って、ヴィータもかいな!」
 ヴィータもまた、目の前の問題用紙を前にして相当悩んでいるようだ。しかも、ヴィータもまたなのはと同じ掛け算問題で詰んでいる様子だ。
 つまり、二人の脳レベルはほぼ同レベルと言うのがお分かりいただけると思う。
「え~っと、つまりぃ……私の手と足の指を合わせると全部で二十本だからぁ……うぅ、全然足りない」
「なのはちゃん、掛け算を指で計算するのは無理があるんやないんかぁ?」
 足し算や引き算ならば出来る類だろうが生憎の事今なのはが悩んでいるのは掛け算だ。流石に掛け算を指で計算するのはかなり無理と言える。
「こ、こうなったら……はやてちゃん、ヴィータちゃん、指を貸して」
「えぇっ! ま、まぁ良いけど……」
「こんな感じか?」
 はやてとヴィータもなのはと同じ様に両手と両足を前に突き出して指を大きく広げる。
 その過程で広げた指を数えて計算しようとしているようなのだが……
「う~ん、三人合わせてぇ……それでもまだ60本かぁ……まだ足りないなぁ~」
 三人の手足の指を合わせてもたったの60本にしかならない。問題の120本に至る為にはまだまだ足りない。
「ねぇ、大五郎君。大五郎君の指も貸して」
「良いよ~」
 足りないのならば足せば良い。そんな感じで今度は隣に座っている大五郎にも同じ姿勢をやらせてみた。だが、それでも全然足りない。
 四人揃ってもその数はざっと80本しかならない。やっぱりまだ足りない。
「なぁなのはちゃん。此処は素直に先生に相談した方が早い気がするんやけど……」
「こうなったら、皆の指を貸して。そうすれば多分足りると思うから」
「ちょっとは話聞いてやなのはちゃん」
 はやての話を無視するかの様に、なのはは部屋内に居る全ての生徒達の手足の指を広げさせる。
 その光栄はとても不気味と見えた。
「どうだい皆、問題は解けたか……」
 時を同じくして、部屋に先生が入って来た。そして、その先生の目には部屋内に居る全生徒達が両手足を目一杯伸ばして指を思いっきり広げて指を数えていると言う奇怪な光景を目の当たりにしてしまった。
「な、何しているんだい君たちは?」
「あぁ、先生! 先生も指を貸して下さい。もう少しで答えが分かりそうなんです」
「な、なのはちゃん……君は何をしているんだい?」
「掛け算の問題が分からないんですけど、もうちょっとで分かりそうなんですよ。だから先生も指を貸して下さい」
「は、はぁ……」
 本来ならそんな阿呆な事をする気はないのだが、子供の純情な気持ちを踏み躙る訳にはいかないと、先生も他の生徒達と同じように両手足を伸ばして指を広げる。
 部屋内では、生徒達全員と教師が皆手足を目一杯伸ばして指を広げると言う奇々怪々で恐ろしい光景が展開されていた。常人がこの光景を目の当たりにすれば忽ち恐れおののいてしまうだろう。
「分かった! 答えは620だ!」
(なのはちゃん、それは私等全員の指の数や。そんでもって答えは全然違っとるでぇ)
 因みに、計算の答えは【2400】だったりする。




     ***




 寺子屋にて、なのはが掛け算相手に四苦八苦している丁度その頃、此処万事屋では大層珍しい客人が訪れていた。
 元々客の出入りの少ない万事屋にとって、客が来るのはとても喜ばしい事なのだが、生憎今回訪れた客人には誰も歓喜の声を挙げる事が出来なかった。
 何故なら、その客と言うのは彼等万事屋御一行にとって、余りにも御馴染みかつはた迷惑な相手だと分かっていたからだ。
 現在、万事屋内にある客間内には、長テーブルを真ん中にして、銀時、新八、神楽の三人が並び立ち、その三人を見つめるように訪れた客は座っていた。
「と、言う訳だ。理解して貰えたか?」
「理解して貰えたか? じゃねぇよ。いきなりやってきてそりゃねぇだろうが! ちったぁ空気を読めよヅラァ」
 銀時が嫌そうにその客の愛称を言い放つ。三人の前に居るのは黒い長髪に鋭い目線をしたイケメン男子が座っている。
 青い着物の上に白い羽織りを羽織り、如何にも日本男児と言いたそうな雰囲気を見せ付けている。
 そして、先の銀時の発言から分かる通り、彼は銀時の古くからの知り合いなのだ。
 知っている人は知っているだろうが知らない人の為に説明すると、彼の名は【桂小太郎】と言う。
 普段彼が何をしているのかと言うと、まぁ要するに警察の敵の類である。
 そして、前の行に置いてイケメンと書いていたが、残念な事に彼のおつむは俗に言うアホの類に分類されている。
 そんなアホの……基、狂乱の貴公子こと桂が何故万事屋に訪れたのかと言うと、それは今、桂が長テーブルの上に置いた一枚の用紙が物語っていた。
「つまりだ銀時。この設計図は江戸を揺るがす恐ろしい何かだと言う事なのだ」
「お前が言いたい事は分かったよ。だがなぁ、一つ聞いても良いか?」
 真剣な面持ちで、銀時は置かれた用紙を手に取り桂を睨んだ。普段の銀時とは違い射殺すような鋭い目線となっている。
 桂が知っている銀時のもう一つの目だ。この目になっている時の銀時は普段とは比べ物にならない位に強くなっていたりなっていなかったりする。
 そんな銀時が真剣な面持ちのまま、桂に向かいこう問い掛けてきた。
「これ、何の設計図だ? 見てもさっぱり分かんねぇんだけどよぉ」
 両隣に居た神楽と新八がシンクロするかの様に華麗にずっこけた。その光景は最早神がかっていると言っても良い。
「何だそんな事か。案ずるな銀時」
 そんな答えを予想していたであろうか。桂がふと笑みを浮かべた。
 その言葉を聞き、銀時は勿論、新八も神楽も桂を凝視する。答えが知りたかったのだ。
 期待に胸が膨らむ中、桂もまた満を持して答えを述べた。
「俺にもそれが何なのかさっぱり分からん。だからお前が分からなくても問題はない。安心しろ銀時」
 そう言い高笑いを挙げる桂。そして一斉にずっこける万事屋トリオの三人。
 今度のもまた三人息がピッタリな位に華麗にずっこけてくれた。文章でしかこの場面を表現出来ないのが口惜しい位に華麗なずっこけっぷりだったと記載しておく。
「てめぇ、それじゃ一体何のために此処に来たってんだよぉ! こちとら最近依頼が全然来なくてイライラしてんだ! 馬鹿な事してる暇があるなら俺達にちったぁ恵んでくれても良いんじゃないのぉ? 友達だろぉ友達ぃぃ!」
 桂の胸倉を掴みあげて結構情けない発言を連呼する銀時。正直言って主人公として恥ずかしい発言でもあった。
 そんな銀時の言い分に後ろで新八と神楽もうんうんと頷きを見せていた。
「ま、待て銀時! 落ち着いて話を聞いてくれ。何せ今回が俺の初登場だったもんでなぁ。俺もちょっとばかり舞い上がってしまっただけなんだ。だから落ち着いて話を聞いて欲しい。話し合えば分かり合える筈だ」
「てめぇと話し合ったって一ミリも分かり合えねぇよ、この脳内異次元野郎! 大体お前は何時も何時も言う事がまどろっこし過ぎるんだよ! 要点を言え要点を! つまり俺等にどうしろってんだぁ?」
 その問いを待ってましたかの如く、桂は軽く咳払いをし、銀時の腕を払い除ける。
 そして乱れた着物を整えて鎮座した後、腕を組みながら淡々と語り始めた。
「その設計図はつい数日前に真選組屯所に忍び込ませていた同士から得た代物のコピーだ。どうやらこれはかなり大掛かりなからくりの設計図だと言うのが見て取れる」
「確かになぁ、こりゃかなりでかいサイズだってのは俺も分かる。だけど、それが一体何なんだ? これがどうやって江戸を揺るがす恐ろしい代物になるってんだよ?」
 銀時が知りたいのはそれであった。これがからくりの設計図だと言うのは分かる。だが、一体何のからくりなのか?
 それが知りたかったのだ。
 だが、あったのは簡単な図面だけでありそれの用途などは生憎の事銀時達では理解出来そうにない。
 もっとからくりに精通した者でなければ分からない代物であろう。
「とりあえず、この図面は後で源外のじじぃんところにでも送るとすっかぁ。そうすりゃぁこのからくりが何なのかすぐに分かるだろうしよ」
「助かる。それともう一つ頼みたい事があるんだ」
「まだあんのかよ」
 うんざりしている銀時を尻目に、桂が懐から二枚の写真を取り出しテーブルの上に置いた。其処に映っていたのは二人の男の写真であった。
 片方か恰幅の良い男であり、もう片方は眼鏡を掛けて出っ歯が目立つ痩せた男だった。
「この二人に見覚えはないか?」
「全然ないなぁ。こいつらがどうかしたのか?」
「この二人は最近業績を伸ばしてきた地上げ屋だ」
 銀時の眉毛が釣りあがる。桂は何を言いたいんだろうか。
 謎のからくりの設計図に地上げ屋。さっぱり接点が見当たらない。
 悩む銀時の前に桂は更に追加でもう一枚写真を取り出した。
 其処に映っていたのはまるでド○クエⅩに出てくるオ○ガ族に良く似た顔立ちで金髪アフロをした悪趣味な外見の天人であった。
「この男はドリフト星出身の大使と名乗って江戸に入国している。が、裏ではどうやらこの地上げ屋達とつるんでいるようだ」
「桂さん、そんな情報何所で手に入れたんですか?」
「ふっ、俺の仲間は至る所に潜んで聞き耳を立てている。良く言うだろ?【壁に目あり障子に耳あり】とな」
「桂さん、それ逆です」
 サラリと新八がツッコミを入れる。とにかく、桂の部下が入手した情報がこれらだと言うようだ。
 銀時はそれらの情報を見つめていた。そして、ふと頭の中でそれらの接点に気付いた。
「おいヅラ。もしかしてこのからくりって……」
「ヅラじゃない、桂だ! そうだ銀時。この設計図のからくりは間違いなくドリフト星の技術が使われている。そして、その大使と地上げ屋達が手を組んだと言う事は、最早答えは一つしかあるまい」
「江戸全域を何かしらで更地にして、それを纏めて地上げしようって魂胆か」
 銀時の答えに桂は静かに頷いて見せた。人間欲が絡むと碌な事をしないとは良く言うが、これは流石に度を超えている。
 まさか、江戸全域を更地にして、それを地上げしようなどと、とても考え付く代物とは思えない。
 だが、もしこれが現実の物となればそれこそ恐ろしい事となる。
「江戸は天人の技術が入り込んだとは言え、全てに行き渡った訳ではない。中には昔ながらの技術で作られた家屋が多くある。それらの家屋は酷く脆い。少しの自身で簡単に倒壊してしまいかねん」
「そんなぼろっちぃ家々を吹き飛ばして、開いた土地を掻っ攫って地上げするたぁ、欲に目の眩んだ奴等のやるこたぁスケールが違うねぇ全く」
 恐ろしいと言わんばかりに銀時はかぶりを振る。だが、そんな中で新八と神楽が冷ややかな目線をぶつけていた。
 欲に目が眩むと言う点ではこの男も接点があるからだ。
「それでヅラァ、これから私達に何を依頼するつもりアルかぁ?」
「うむ、流石に情報を手に入れる為に少々派手に動きすぎてしまってなぁ。向こう側に警戒されてしまったのだ。今では俺の手の者達でも中々奴等の尻尾を掴む事が難しくなってきた。そこで、お前達に奴等の企みを暴き、内々に処理して貰いたいのだ」
「こいつぁでかい仕事だぜ。上手く出来た暁にゃぁ、相当な額の報酬を要求するが、構わねぇか?」
「江戸の一大事だ。金銭の大小に拘る程俺も器は小さくない。成功した暁には、貴様等の望むだけの報酬を用意してやると約束しよう」
 突如として銀時は立ち上がった。目が何時に無くやる気に満ち溢れている。
 覇気が体中から溢れ出ており、如何にも「俺はやれるんだぜ、イエィ!」とでも言いたげな感じに見えていた。
「新八、神楽、お前等はその設計図を源外のジジィん所へ持って行け。俺はその間にこいつらを洗って見る」
「アイアイサー!」
 久しぶりのでかい仕事だ。成功すれば莫大な報酬が待っている。が、その分リスクも大きい。
 失敗すれば江戸全域が瓦礫の山と化してしまうのだから。俄然闘志が沸き立つのだと言える。
「引き受けてくれるか、銀時?」
「任しておけ、ヅラァ。欲に目が眩んだ奴等の企みなんざぁ、俺達の手で粉微塵に打ち砕いてやらぁ。なぁに、数日前のあの戦いに比べりゃ楽勝だよ楽勝」
 銀時が言っていたのは以前海鳴市に行っていた時の戦いの事だ。
 あの時は自分達が弱体化していた上に魔法などと言う摩訶不思議な力に翻弄されてしまっていた為に苦戦しっぱなしと言う苦い結果となっていた。
 だが、今回は違う。
 今度は自分達のフィールドだ。その為に力も万全だし相手は只の地上げ屋と天人だ。
 恐らく腕利きを雇ってはいるだろうが異世界で戦ってきた魔導師に比べれば可愛い相手だと言い切れる。
 正に今の銀時達にとっては楽勝と呼べるに相応しい仕事と言えた。
 例えるなら、鴨がネギを背負って鍋の上に座っている。と言った状態でもある。
 ふと、新八は壁に掛けられている時計を見た。時計の針が午後3時を差している。
「そう言えば銀さん。そろそろなのはちゃんを迎えに行かないと不味くないですか?」
「あ、いけねぇ! 忘れてた。それじゃ俺はこれからなのはを迎えに行って来るから、お前等は手筈どおりに頼むぜ」
「ガッテンダァ!」
 今度は違った合図で叫ぶ二人。かくして、江戸の命運を分けるであろうどでかい仕事が開始された。
 成功報酬は莫大。だが失敗した時のリスクも莫大。
 一回きりの大博打の開始でもあった。




     ***




「はい、それじゃ今日の勉強はこれまで。続きはまた明日で、気をつけて帰るように」
 教本を纏めて先生がそう述べる。寺子屋も終わりの時刻となり、皆は帰り支度を始める。
 なのは達もまた、その日の授業を終えていざ、帰りの支度を始めた。
「あ~あ、結局掛け算の答え出来なかったなぁ」
「まぁ、流石に指で計算するんは足し算と引き算だけやでぇ。明日はちゃんと頑張ろうや」
 結局、あの後答えは間違っていた上に全然出来なかった為になのははすっかり意気消沈してしまっていた。
 そんななのはをはやてが彼女なりに励ましてあげていた。結局あれだけ大勢の生徒達の力を借りたと言うのに答えが間違っていた為に先生には怒られてしまい生徒達からは笑われてしまい、それはもう散々な日なのであった。
「ま、お前は馬鹿なんだししょうがねぇじゃん」
「そう言ってるヴィータだってあの問題出来なくて偉く先生に怒られてたやないか」
「う……」
 どうやらヴィータも同様に出来なかったようだ。流石は同レベルの脳を持つ二人。
 この調子だと二人揃って同じ問題で躓きそうにも思われる。
「さぁてと、はよ帰って晩御飯の支度せにゃぁな。でないとまたトシ兄ちゃん変なご飯作るかも知れへんしなぁ」
「変なご飯? それってもしかしてご飯の上に並々マヨネーズ掛けてるあれの事?」
「そやでぇ。あれ見てるだけで胸焼けしそうになるわ。よぅもまぁあないな気持ち悪いもん食えると思うわぁ」
 青ざめた顔ではやてはそう告げる。大量のマヨネーズをご飯の上に掛けて食べる。これは土方の大好きな食べ方でもあった。
 だが、常人でそれを見せられたらはっきり言って気持ち悪い。下手したらマヨネーズ恐怖症に陥ってしまい向こう10年はマヨネーズを摂取したくなくなってしまいそうになると思われる。
 が、それと似た食べ方をしている者も居る。
 言わずと知れた銀時だ。銀時の食べ方と言えば、ご飯の上に大量の小豆を乗せた奴で、本人曰く「宇治銀時丼」と呼んでいるそうだ。
 本人は大層美味そうに食べているのだが、はっきり言って彼の健康状態が凄く心配に思われる。
 下手すると糖尿病で早死にしそうで怖いのだ。
「お父さんも土方さんも健康面は気をつけて欲しいなぁ」
「全くや。こっちは毎日気が気でならんわ」
 そう言ってお互いに溜息をつく二人。どっちが保護者なのか分からなくなりそうでもあった。
 そんな感じの話をしながら、三人は廊下を歩き、そのまま入り口へと戻る。入り口近辺では、先の生徒達が迎えに来た親の手を取りそのまま帰路へと向い始めている。
 とても仲睦まじい光景に見えた。
「お待たせ、はやてちゃん。ヴィータ」
 そして、はやてとヴィータの迎えに訪れたシャマルが眩しい笑顔を浮かべながら歩いてやって来るのが見えた。そんなシャマルに近づいていくはやてとヴィータ。その光景は正しく母と娘と呼べるような光景でもあった。
 そして、その光景をなのははマジマジと見つめていた。
 何所か羨ましそうな風にも見える。
「大五郎、帰るわよぉ」
「あ、母ちゃん」
 時を同じくして、大五郎の元にも母が迎えに訪れてきた。その二人もまた、仲睦まじく手を繋ぎながら帰って行く。
 そして、その光景もまたなのはは何所か羨ましそうに見つめていた。
 そうしていると、何所からともなく原付バイクの走る音が響く。見ると、沈む夕日の方向から一台の銀色のバイクが走ってくるのが見える。
 それに跨っているのは勿論、ご存知銀時だった。
「おう、迎えに来たぞ」
「あ、うん……」
「……何かあったのか? 何時になく元気がねぇなぁ」
 銀時の目から見ても明らかに分かる位に今のなのはは元気がなく見えた。
 一体どうしたのだろうか?
 そんな銀時の問いに答えないまま、なのはは銀時の後ろに跨りヘルメットを被る。
 そんななのはに首を傾げつつも銀時は帰り道を急ぐ事にした。
 寺子屋から万事屋へと向かい静かにバイクは走っていく。
 時刻が既に夕刻なだけに人通りは余り多くない。そんな道をただひたすらにバイクは走っていく。
「ねぇ、お父さん」
 そんな時、ふとなのはが口を開き、銀時を呼んだ。
「何だ、いきなり」
「私ねぇ……が欲しいの」
「は? 何だって! 聞こえねぇよ」
 肝心な部分が小さかったので良く聞こえなかったのだろう。銀時には届いていなかった。
 その為、なのははもう一度それも少し大きな声で再び銀時に言った。
「私ねぇ、お母さんが欲しい!」
 突然、銀時の運転しているバイクが急停止した。地面ではタイヤの跡がくっきりと残っており、前輪が地面に沈み、車体が前のめりに傾く。
 その後で車体が元通りになった後、汗だくになった顔で銀時がなのはを見た。
「お、おおおお前! いきなり何言い出すんだよバカヤロー! 危うくハンドルミスするところだったじゃねぇか!」
「だって、はやてちゃんや大五郎君にはお母さんが居るんだもん。私もお母さんが欲しいよ」
「そ、そうは言ってもよぉ……そのぉ、あれだよ……それは結構難題っつぅのぉ? 難しいっつぅのぉ? 何て言えば良いかなぁ?」
「どうして? そんなに難しい事なの?」
「難しいっていやぁ~~……う、う~~ん」
 銀時の答えが渋りまくっていて分かり辛くなっている。次第にじれったくなりだしてきたなのはが銀時の服の裾を引っ張り答えを急かす。
「ねぇ、はっきり言ってよぉ。どうなの? どうやればお母さんが出来るのぉ?」
「う~~んあ~~ん☆◎□△×#$ждЯ」
 最終的には何を言っているのか理解出来ない言語を発しだす始末だった。そんな銀時になのはが不満そうな顔を浮かべていた正にその時の事だ。
「あ~ら、そんな事なら簡単よぉ、銀さんに代わって私が教えてあげるわぁ!」
 突然何所からともなく女の声が聞こえてきた。そして、それを聞いた時、銀時の顔が何所と無く面倒臭そうな顔に変貌したのをなのはは見逃さなかった。
「ねぇ、お父さん。あの声の人ってもしかして……」
「はぁ……お前がこんな話題持ってくるから面倒な奴が出てきちまったじゃねぇかよ」
 二人がそう話していた時、二人の目の前に突如として、一人の女が現れた。
 紫色の長髪に眼鏡を掛けた結構な美女だった。
 服装は白い忍者服を思わせる服装に黒のスパッツと言った忍と現代の合作と言える服装だと思ってるのは多分作者だけじゃないと思いたい。
 とにかく、そんな感じの女性が突如二人の目の前に現れたのだ。
「あ、何時かのドM忍者さんだ」
「ふふ、流石は銀さんの娘ね。その弄り方と良い、蔑むような発言と良い、まるで銀さんに罵られている感じだわ。こう、背筋がゾクゾクして溜まらない感じなんか特に……あぁっ、良い!」
 勝手に両手で自分の体を抑えて身震いしだすこの女は【猿飛あやめ】と言い、服装から分かる通り忍者である。
 が、どう言う理由かは理解出来ないが、彼女はとてつもないドMなのだ。なので、罵られれば罵られる程に快感を覚えていく体質らしく、はっきり言って子供の教育に非常に悪い女性と言えるだろう。
「お前よぉ、ちったぁ空気を読めよなぁ。この小説を此処から読む人がこれを18禁の官能小説と間違っちまったらどうすんだよ馬鹿野郎!」
「そうよ、もっと! もっと私を罵って頂戴! 貴方が私を罵って楽しんでるのと同じように、私も楽しんでるの! もっと、もっと私を苛めなさいよ! もっと私を辱めなさいよ! 弄りなさいよ! それが、あなたの快楽へと繋がるんでしょ?」
「繋がんねぇよ」
 いい加減うざったそうになってきた銀時。はっきり言ってこんなドM女など放って置いてさっさと帰りたいと思っているのだが、生憎の事に、その進路上に猿飛が立っているのだ。これでは先へ進む事が出来ない。
 しかも、どうやら先の発言のせいでなのはが彼女に興味を持ってしまったようだ。
「ねぇねぇ猿飛さん。どうやればお母さんが出来るの? それを知ってるの?」
「えぇ、勿論知ってるわ。それもとっても簡単な方法なのよ」
「どうやるの?」
 首を傾げるなのはに対し、猿飛は待ってましたかの如しに眼鏡を掛け直し、目を輝かせて答えを述べる。
「勿論、私と銀さんが【ピーーーー】して【ポーーー】して【ペーーー】すれば忽ち、私は貴方のお母さんになれるのよぉ!」
「おいぃぃぃぃ! お前、まだ10歳にもなってない子供に向って何とんでもない発言してんだゴラァ! 教育上めっちゃ宜しくないだろうが!」
「さぁなのはちゃん! 遠慮せずに私の事をお母さんって言っても言いのよ。いいえ、寧ろ言って頂戴! そうすれば私と銀さんは晴れて夫婦になれるのよ! だから、さぁ! 大きな声で言って御覧なさい! せぇの……」
 両手でアピールしながら自分を母と呼んで欲しそうに目を輝かせている。
 そんな猿飛に向かい、なのはは一言答えた。とても冷ややかな目線のままで。
「ドMなお母さんなんて私はいやだよ」
 ピシリッ!
 なのはの発言に猿飛の掛けていた眼鏡のレンズに亀裂が走る。どうやら求めていた答えと違っていたようだ。すると、それに呼応するかの様に銀時もまた口を開く。
「ついでに納豆臭い嫁もパスだな。部屋中納豆臭くなっちまって堪んねぇからよぉ」
「後職業が忍者とか暗殺者とかってのも怖いからやだ!」
「ついでに眼鏡を掛けた嫁もNGだな。新八とキャラ被るからな」
「それと何でか分からないけど紫色の髪のお母さんも私はやだなぁ」
「後前職がお庭番衆ってのもなぁ。何か堅苦しい職ってのが可愛げねぇから俺は嫌なんだよなぁ」
 と、言う感じに散々ぼろくそに言いまくるなのはと銀時。それだけの罵倒を受け続けた猿飛は哀れ、その場で倒れこみ顔を真っ赤にしてうっとりとしてしまっていた。
 そんな猿飛などアウト・オブ・眼中宜しく銀時はバイクを走らせる。
 夕日が徐々に建物の中へと溶け込んでいく様に見える。そんな夕日に向かい、銀時となのはを乗せたバイクはひたすらに走り続けていく。
 明日はどんな日になるだろうか?
 それは、明日にならなければ分からない。だからこそ、人は皆、明日になる事に期待を持つのだろうと、これを書いていた時の作者はそう思ってしまうのであったりした。




     つづく 
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