久遠の神話
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第五十六話 中華街その五
「それはそうとしてね」
「中華料理は何でも作るか」
「海や川にあるものは船以外食べる」
王は確かな笑顔で話をはじめた。
「空のものは飛行機以外」
「四本足ならば机や椅子以外ですね」
スペンサーは八宝菜を食べながら応じた。
「そして二本足は」
「人間以外になるよ」
「そうですね。まあそれ以上言えば」
「中国だけじゃないんじゃないかな」
スペンサーを見て言う王だった。
「お互い言わない方がいいね」
「飢饉の時にですね」
「内乱やそして」
「ええ、ネイティブアメリカンとのことですか」
「日本にもない話ではないしね」
王は加藤も言う、加藤は王のその視線にはしれっとして食べ続けている。
「まあ二本足はね」
「そういうことにしておきましょう」
「そして野菜や果物は」
「毒がなければですか」
「何でも食材にするよ」
「それが中華料理ですね」
「だから私も何でも作られるんだ」
王は誇らしげな笑みを今も見せて言う。
「楽しみに待っていてくれるかな」
「是非な。そういえば毒と出たが」
「食中毒には細心の注意を払っているよ」
「そういうことか」
「そうだよ」
「食中毒は出さないか」
「故意にならば余計にね」
笑って言う王に加藤はこう返した。
「毒は人を倒せる最も効果的なものだがな」
「人を倒すのは剣士としてだけだからね、私は」
「料理人の時は違うか」
「そういうことだよ。安心していいよ」
「わかったな、それならな」
「料理は楽しみ身体を養うものだからね」
医食同源だった。中国においては食べることはただそれだけではなく滋養をも主な目的としたものなのだ。
それで王も言うのだ。
「デザートもね」
「食べさせてもらう」
「そうさせてもらいますね」
「そうするといいよ。それではね」
こう話してだった、彼等は。
今は食事を楽しんだ、王は全てを食べ終えた二人を店の外まで見送って言った。
「また来てくれるかな」
「客としてな」
「そうさせてもらいます」
こう答える二人だった。
「この味は気に入った」
「これだけの味は滅多にないでしょう」
「私の料理の右に出る人間はいないよ」
王の今の笑みは剣士の時以に自信に満ちたものだった。
その自信に満ちた笑みでそして言ったのだった。
「世界一の料理人にもなるよ」
「言うものだな」
「自分がわかっているんだよ」
やはり自信はそのままだった。
「それは君もわかったと思うけれどね」
「確かにな」
「料理人になり。そして」
「金もか」
「この世に生まれたからには富を得ないとね」
こうした考えを持つ人間は多いが王もまたそうだった、それで戦いを選び今も加藤とスペンサーに言うのだった。
ページ上へ戻る