八条学園怪異譚
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第四十四話 学園の魔女その十七
「鬼さん達のお酒が赤ワインなのは何か理由があるんですか?」
「葡萄が好きだからな」
「それでだ」
赤鬼と青鬼はこう二人に答える。
「それでだ」
「だから蒲萄から酒を作るのだ」
「まあ我等が他の国から来たからではないかとも言われているが」
「この辺りは諸説あるな」
「はっきりとは言えないところがあるんですね」
「わし等にしてもな」
「その辺りはな」
当の鬼達もこれだとは断言出来ないというのだ。
「こうだとは言えぬ」
「鬼の起源も色々言われておるのは知っているだろう、嬢ちゃんも」
「はい、ロシア辺りからの渡来人ともですね」
「酒呑童子にもそんな話がある」
「あの鬼もロシア人だと言われていたりする」
「とはいっても当時シベリアに今のロシア人はおらぬがな」
「アジア系がいたが」
ロシア人、今の彼等がシベリアに来たのはロマノフ朝の進出からだ。イェルマークという人物の活躍によるところが大きい。
「若しかすると西域から中国を経て日本に来たのかもな」
「それが我等かも知れぬ」
「そもそも鬼の姿って白人よね」
茉莉也もその赤ワインを飲みながら言う。
「身体が大きくて縮れ毛で毛深くてね」
「その通りだ、我等の姿は日本人のものではない」
「アジア系のものではな」
鬼達はこのことも認めた。
「むしろコーカロイドだな」
「そちらの姿だ」
「そうよね、やっぱり」
「当時の白人を見て日本人が妖怪と思ったか」
「そうした話もあるな」
「ああ、昔赤鬼って言われた助っ人がいましたね」
七生子がここでこのことを思い出した。
「確かヤクルトや近鉄にいた人で」
「あっ、マニエルですね」
茉莉也は七生子にすぐに答えた。
「凄い打ったんですよね」
「そうらしいですね」
「ヘルメットにアメフトのフェイスガード付けてた」
「青木さん詳しいですね」
「お兄ちゃんがそうした本結構持ってまして」
野球の本をだというのだ、野球マニアにとってはこうした本は実に面白いのだ。
それで茉莉也もそうした本を読んでマニエルについて知っているというのだ。
「私も」
「だからですか」
「守備はよくなかったらしいですけれど」
その為ヤクルト日本一に貢献しながらも放出された、指名打者のあるパ・リーグに移ったのである。それで近鉄に入ったのだ。
「打つ方が凄くて」
「それで活躍したんですか」
「打つことで」
「MVPも獲得しました」
七十九年である、デッドボールも浴びたがそれに相応しい活躍をし近鉄の初優勝に貢献したことで知られている。
「凄い選手だったんですよ」
「それが赤鬼マニエルですか」
「その人も白人だったんですね」
「はい、そうでした」
大柄な白人だった、怒ると顔が赤くなりまさに赤鬼だったのだ。
「そのマニエルおじさんから考えてもです」
「白人は鬼のモデルですか」
「そう考えられているんですね」
「アイヌ系の人がそうだって説もあるわよ」
茉莉也は古代のことも話した。
「ほら、蝦夷ね」
「教科書に出て来る人達ですよね」
「平安時代とかの」
「昔はアイヌ系の人達は東北の方にもいたらしくてね」
こうした説がある、そしてそれはかなり有力だ。
「縄文系の人って言われてるわね」
「あっ、縄文系ならですよね」
「毛深いっていいますね」
「そう、弥生系の場合は毛が薄いのよ」
この辺りは民族的な違いであろうか。今の日本人はこの縄文系と弥生系の混血であるとされている。それが大和民族だというのだ。
「毛深くて筋肉質だったそうね」
「ああ、鬼さんですね」
「本当にそれですね」
二人は茉莉也の話にも気付いた。
「それで髪の毛もですか」
「縮れていたんですか」
「みたいね。あとまつろわぬ民とかが入って」
古事記や日本書紀の話にもなる、流石は神社の娘だ。
「鬼になったらしいのよ」
「成程、鬼の歴史も複雑ですね」
「色々とあるんですね」
「まあわし等はそこまで考えておらんがな」
「自分達のルーツのことはわかっているつもりだが」
赤鬼と青鬼はこう二人に言う。
「まあ鬼は鬼ということでな」
「そう割り切っておる」
「そうなのね、まあ鬼っていうと悪いイメージの方が強いけれど」
「あんた達みたいな鬼もいるのね」
「そういうことだ、ではな」
「飲もうぞ」
こう話してそうしてであった。
二人は今回も泉に辿り着くことは出来なかったが楽しい時を過ごせた。そしてまた新たな出会いを迎えることも出来たのだった。
第四十四話 完
2013・7・22
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